残酷な描写あり
R-15
059 神衛
部屋から出たフォスターは人影がいた方向を睨み付けていた。
「どうしたんだい? こわい顔して」
ユヴィラが表情を変えたフォスターを見て疑問に思ったらしい。フォスターは大事なことを伏せた上で正直に答えた。
「……実はリューナが狙われてるんです」
「えっ? どういうこと?」
「攫われそうになったことがあるんです。理由はわからないんですが。今もそこに誰かいたみたいで」
「それで警戒してるのか……」
フォスターは人影が見えたところまで行ってみたが既にいなくなっていた。
「扉のところ、盾を借りてドアが開かないようにしたらしいよ。中から声が聞こえた」
「その程度じゃ安心はできないけど……まあ無いよりかはいいかな」
「で、誰かいたの?」
「いえ、もういなくなってました」
去っていく足音は聞こえていた。
「追わなくていいの?」
「……ただ通りかかっただけの人かもしれないので」
本当にそうかもしれないので一般人に不審な目で見られたくはない。
「じゃあ、これからどうしようか?」
『見回りしろ』
「……船の中の見回りをしようと思います」
フォスターはビスタークに対して「了解」の意味で髪の毛を触った。
「じゃあ人がいたほうから歩いてみる?」
「はい」
ユヴィラは困った顔をして言う。
「……敬語使わなくていいからね?」
「そちらのほうが六つも上なので」
「見た目は同じくらいだから落ち着かないよ。それに他の人から見たら俺のほうが下に見えるだろうから変に思われるよ?」
「……」
フォスターが老け見えして自分は若く見えると言っているのだが本人は失礼な発言だとは考えていないようだ。ビスタークは笑っている。歩きながら答えた。
「……努力します」
「固いなー、まあいいけど。ところで、どんな奴に狙われてるの?」
「無表情で人形みたいな感じの神衛ですね。操られていて自由意思が無いような。まあ、必ずそうとは限らないんですが」
「なんでそんなのに狙われてるの……ってわからないんだっけ。じゃあ、神衛の人に片っ端から声をかけたらわかる?」
「え? どうだろ……」
『あーいいかもな。あいつら必要最低限の会話だけで通常の雑談は出来ないんじゃないか?』
「確かに普通の雑談は出来ないかも」
「じゃあ見かけたら話しかけてみよう」
どうもユヴィラは不審者探しに乗り気のようだ。
「犯人を探してるみたいでわくわくするよー。当事者には悪いけどちょっと楽しい」
「はあ……」
階段を上り少し呆れながら会話して甲板へ出た。左側に神衛兵が一人いて海を眺めている。
「早速いたね。俺、話しかけてみるよ!」
「えっ、ちょっと!?」
もし本当に敵だったら危ないかもしれない。慌ててユヴィラを追いかけた。
「こんにちは! 鎧格好いいですね。巡礼ですか?」
「え? ああ、そうだよ」
話しかけられた神衛兵は少し驚いた様子で返事をした。
「自分は眼神の町で眼鏡を作ってきた帰りで。どちらの町からですか?」
「ああ、俺は綿神ノトセスの町だよ。一応眼神の町の隣でもあるんだけどね。まあ神様の名前でわかると思うけど農業主体の田舎だよ」
「じゃあ彼と同じ半島の人だ。やっぱり水の都に?」
「あー、そっちも考えたけどね、砂漠越えが大変そうだから星の都に行こうと思ってるんだ。こんな機会でもなきゃ旅なんてできないから、少し遠めの都にしたんだ」
「じゃあ途中まで一緒だ。俺は図書神の町だから通り道ですよ」
そういえばカイルの家でこの神衛兵の鎧を見たことがあるような気がする。この人は違うな、と思ったが会話は終わらない。
『こいつは違うな。他を当たれ』
ビスタークにそう言われたがユヴィラを置いて自分だけ移動するのも悪い気がする。手に触り否定の合図を送った。
「同じ半島って言ったけど、そっちはどこから?」
こちらへ話を振られたので会話に入らなければならなくなった。
「飛翔神の町です」
「おー、世界の果てかあ。隣町と言えなくもないよね」
「そうですね。山脈に挟まれて道が無いですけど」
綿神の町は友神の町の隣に位置している。忘却神の町の反対側だ。名前の通り綿の栽培をしており、織物の盛んな町である。カイルの母パージェはここから友神の町経由で布を仕入れている。ここの石は綿の栽培に最適な環境を作り出すだけでなく、綿に着いた種やゴミが簡単に取れるという力もあるらしい。
「砂漠越えってそんなに大変なんですか?」
「だって水の大神が用意した試練だって話だよ? いかにも大変そうじゃないか。星の都にはそんなの無いのにさ」
「……行くの嫌になってきた」
「君も星の都に変える?」
「いえ、探している人がそこにいそうなんでそういうわけには」
しかも一番近い町から五日もかかるらしい。一人だけならまだしもリューナもいる。今から道中を考えてうんざりした。
『砂漠を嘗めないほうがいいぞ。俺も一回死にかけたからな』
親父はきっと嘗めてたんだろうな、と思いつつ髪の毛を触った。そして疑問に思ったことを聞いてみた。
「でも、それだったら命の都のほうが近いんじゃ?」
「いや、あっちは世界で一番訓練が厳しいらしいから却下で」
「え、そうなんだ」
「うちみたいに平和な田舎に厳しい訓練は必要無いよー」
「なんで厳しいのかな?」
ユヴィラが疑問に思って聞いた。
「命の大神の長命石は知ってるよね?」
「御守りの石ですよね」
「長生きできますように、っていう気休めの石。流行り病の時に何も役に立たなかったって話の」
二人の返答を聞いてその神衛兵は話を続ける。
「そうそう。でもね、大神の石がそんな効能のはずがないって、死んだ人を生き返らせる力の石があるはずだって大神殿に楯突く人がいるんだってさ」
大神の都の神殿のことを省略して大神殿と呼ぶ人もいる。
「そういう人を黙らせる為に厳しい訓練? 横暴じゃないですか?」
「金持ちが船で攻めてきても?」
「船で?」
意味がよくわからず聞き返す。
「命の都が島なのは知ってるよね?」
「はい」
「都の周りに二重の壁のような岩壁があるらしいんだけど、それを壊すために船から鉄球か何かを投げられたことがあるんだってさ」
「ええー?」
「それに対抗できるような訓練をさせられるらしいよ」
「うわー……嫌だなそれは」
フォスターは命の都の訓練には絶対に参加したくないなと思った。
『もういいだろ。他を見回りに行けよ。部屋のほうも警戒しろ』
確かに部屋が無事かは気になる。ユヴィラの服を少し引っ張り他を当たろうと合図をした。
「ああ、じゃあ俺たちはこれで。またお話ししましょう!」
ユヴィラは相当社交力が高いようだ。終始にこやかに無理なく話を終わらせていた。
「ごめん、ちょっと時間かけすぎちゃったね。彼は違ったよね?」
「違うと思います。ちょっと一度部屋の様子を見てきていいですか」
「うん」
階段を降りて部屋の前を見る。何も起きていないようだ。
「うん、大丈夫そうだな」
「毎日こんな感じなの? 大変だな……」
そう言いながらまた甲板へと戻り、神衛兵らしき鎧を着けた人へユヴィラが話しかけに行った。今回はあまり時間をかけずに軽いやり取りで済ませた。小島の方から来て船を乗り換えた神衛兵らしい。いつもお世話になっている清浄石の元である清浄神の町からだそうだ。便利で愛用していると伝えておいた。
「今の人も違うよね」
「はい」
一人話し終えると部屋の確認に向かい、また甲板へと戻る。
「次話しかけたらお昼かな」
まだ時刻石は風の刻である黄緑色だが、この色になってからだいぶ経っている。そろそろ昼の水の刻になって石が青色になってもおかしくない。
「そうですね」
「とはいえ、他に神衛らしき人いるかな」
視界には鎧を着けているような者はいなかった。
「まあ、自分の部屋に置いてきてる人も多いだろうからね」
「ずっと着けてなきゃいけない決まりなんてありませんしね」
着けたままだと目立つかもしれない。向こうもそう考えて鎧を脱いだかもしれない。そうなると全員疑ってかからないとならない。船に乗っている間は気が抜けないな、と気を引き締めた。
「どうしたんだい? こわい顔して」
ユヴィラが表情を変えたフォスターを見て疑問に思ったらしい。フォスターは大事なことを伏せた上で正直に答えた。
「……実はリューナが狙われてるんです」
「えっ? どういうこと?」
「攫われそうになったことがあるんです。理由はわからないんですが。今もそこに誰かいたみたいで」
「それで警戒してるのか……」
フォスターは人影が見えたところまで行ってみたが既にいなくなっていた。
「扉のところ、盾を借りてドアが開かないようにしたらしいよ。中から声が聞こえた」
「その程度じゃ安心はできないけど……まあ無いよりかはいいかな」
「で、誰かいたの?」
「いえ、もういなくなってました」
去っていく足音は聞こえていた。
「追わなくていいの?」
「……ただ通りかかっただけの人かもしれないので」
本当にそうかもしれないので一般人に不審な目で見られたくはない。
「じゃあ、これからどうしようか?」
『見回りしろ』
「……船の中の見回りをしようと思います」
フォスターはビスタークに対して「了解」の意味で髪の毛を触った。
「じゃあ人がいたほうから歩いてみる?」
「はい」
ユヴィラは困った顔をして言う。
「……敬語使わなくていいからね?」
「そちらのほうが六つも上なので」
「見た目は同じくらいだから落ち着かないよ。それに他の人から見たら俺のほうが下に見えるだろうから変に思われるよ?」
「……」
フォスターが老け見えして自分は若く見えると言っているのだが本人は失礼な発言だとは考えていないようだ。ビスタークは笑っている。歩きながら答えた。
「……努力します」
「固いなー、まあいいけど。ところで、どんな奴に狙われてるの?」
「無表情で人形みたいな感じの神衛ですね。操られていて自由意思が無いような。まあ、必ずそうとは限らないんですが」
「なんでそんなのに狙われてるの……ってわからないんだっけ。じゃあ、神衛の人に片っ端から声をかけたらわかる?」
「え? どうだろ……」
『あーいいかもな。あいつら必要最低限の会話だけで通常の雑談は出来ないんじゃないか?』
「確かに普通の雑談は出来ないかも」
「じゃあ見かけたら話しかけてみよう」
どうもユヴィラは不審者探しに乗り気のようだ。
「犯人を探してるみたいでわくわくするよー。当事者には悪いけどちょっと楽しい」
「はあ……」
階段を上り少し呆れながら会話して甲板へ出た。左側に神衛兵が一人いて海を眺めている。
「早速いたね。俺、話しかけてみるよ!」
「えっ、ちょっと!?」
もし本当に敵だったら危ないかもしれない。慌ててユヴィラを追いかけた。
「こんにちは! 鎧格好いいですね。巡礼ですか?」
「え? ああ、そうだよ」
話しかけられた神衛兵は少し驚いた様子で返事をした。
「自分は眼神の町で眼鏡を作ってきた帰りで。どちらの町からですか?」
「ああ、俺は綿神ノトセスの町だよ。一応眼神の町の隣でもあるんだけどね。まあ神様の名前でわかると思うけど農業主体の田舎だよ」
「じゃあ彼と同じ半島の人だ。やっぱり水の都に?」
「あー、そっちも考えたけどね、砂漠越えが大変そうだから星の都に行こうと思ってるんだ。こんな機会でもなきゃ旅なんてできないから、少し遠めの都にしたんだ」
「じゃあ途中まで一緒だ。俺は図書神の町だから通り道ですよ」
そういえばカイルの家でこの神衛兵の鎧を見たことがあるような気がする。この人は違うな、と思ったが会話は終わらない。
『こいつは違うな。他を当たれ』
ビスタークにそう言われたがユヴィラを置いて自分だけ移動するのも悪い気がする。手に触り否定の合図を送った。
「同じ半島って言ったけど、そっちはどこから?」
こちらへ話を振られたので会話に入らなければならなくなった。
「飛翔神の町です」
「おー、世界の果てかあ。隣町と言えなくもないよね」
「そうですね。山脈に挟まれて道が無いですけど」
綿神の町は友神の町の隣に位置している。忘却神の町の反対側だ。名前の通り綿の栽培をしており、織物の盛んな町である。カイルの母パージェはここから友神の町経由で布を仕入れている。ここの石は綿の栽培に最適な環境を作り出すだけでなく、綿に着いた種やゴミが簡単に取れるという力もあるらしい。
「砂漠越えってそんなに大変なんですか?」
「だって水の大神が用意した試練だって話だよ? いかにも大変そうじゃないか。星の都にはそんなの無いのにさ」
「……行くの嫌になってきた」
「君も星の都に変える?」
「いえ、探している人がそこにいそうなんでそういうわけには」
しかも一番近い町から五日もかかるらしい。一人だけならまだしもリューナもいる。今から道中を考えてうんざりした。
『砂漠を嘗めないほうがいいぞ。俺も一回死にかけたからな』
親父はきっと嘗めてたんだろうな、と思いつつ髪の毛を触った。そして疑問に思ったことを聞いてみた。
「でも、それだったら命の都のほうが近いんじゃ?」
「いや、あっちは世界で一番訓練が厳しいらしいから却下で」
「え、そうなんだ」
「うちみたいに平和な田舎に厳しい訓練は必要無いよー」
「なんで厳しいのかな?」
ユヴィラが疑問に思って聞いた。
「命の大神の長命石は知ってるよね?」
「御守りの石ですよね」
「長生きできますように、っていう気休めの石。流行り病の時に何も役に立たなかったって話の」
二人の返答を聞いてその神衛兵は話を続ける。
「そうそう。でもね、大神の石がそんな効能のはずがないって、死んだ人を生き返らせる力の石があるはずだって大神殿に楯突く人がいるんだってさ」
大神の都の神殿のことを省略して大神殿と呼ぶ人もいる。
「そういう人を黙らせる為に厳しい訓練? 横暴じゃないですか?」
「金持ちが船で攻めてきても?」
「船で?」
意味がよくわからず聞き返す。
「命の都が島なのは知ってるよね?」
「はい」
「都の周りに二重の壁のような岩壁があるらしいんだけど、それを壊すために船から鉄球か何かを投げられたことがあるんだってさ」
「ええー?」
「それに対抗できるような訓練をさせられるらしいよ」
「うわー……嫌だなそれは」
フォスターは命の都の訓練には絶対に参加したくないなと思った。
『もういいだろ。他を見回りに行けよ。部屋のほうも警戒しろ』
確かに部屋が無事かは気になる。ユヴィラの服を少し引っ張り他を当たろうと合図をした。
「ああ、じゃあ俺たちはこれで。またお話ししましょう!」
ユヴィラは相当社交力が高いようだ。終始にこやかに無理なく話を終わらせていた。
「ごめん、ちょっと時間かけすぎちゃったね。彼は違ったよね?」
「違うと思います。ちょっと一度部屋の様子を見てきていいですか」
「うん」
階段を降りて部屋の前を見る。何も起きていないようだ。
「うん、大丈夫そうだな」
「毎日こんな感じなの? 大変だな……」
そう言いながらまた甲板へと戻り、神衛兵らしき鎧を着けた人へユヴィラが話しかけに行った。今回はあまり時間をかけずに軽いやり取りで済ませた。小島の方から来て船を乗り換えた神衛兵らしい。いつもお世話になっている清浄石の元である清浄神の町からだそうだ。便利で愛用していると伝えておいた。
「今の人も違うよね」
「はい」
一人話し終えると部屋の確認に向かい、また甲板へと戻る。
「次話しかけたらお昼かな」
まだ時刻石は風の刻である黄緑色だが、この色になってからだいぶ経っている。そろそろ昼の水の刻になって石が青色になってもおかしくない。
「そうですね」
「とはいえ、他に神衛らしき人いるかな」
視界には鎧を着けているような者はいなかった。
「まあ、自分の部屋に置いてきてる人も多いだろうからね」
「ずっと着けてなきゃいけない決まりなんてありませんしね」
着けたままだと目立つかもしれない。向こうもそう考えて鎧を脱いだかもしれない。そうなると全員疑ってかからないとならない。船に乗っている間は気が抜けないな、と気を引き締めた。