残酷な描写あり
R-15
063 提案
「何があったのかな?」
船員が単刀直入に聞いてきた。
「リューナが、あ、彼女の名前です。攫われそうになったんです!」
ヨマリーが答えた。
「攫われそうに?」
「なんかよくわかんないけど、これまでも誘拐されかけたことがあるんだそうです」
ヨマリーは勝手に答えている。
「本当かい?」
「はい……」
「原因はわかんないの?」
「全然わかりません……」
リューナは困ったように答える。
「拐おうとしたほうに聞いてくださいよ。彼女まだ怯えてるでしょ」
ユヴィラが助け船を出してくれた。
「勿論向こうにも聞くよ。ただ、気を失ってるから今は聞けないんだよ」
「あ、そっか」
ヨマリー達は納得した。
「さっき光ったって聞いてるんだけど、何があったの?」
「あ、俺があげた神の石です。守護石っていう」
「……あの人が私を掴んだ時に、その石にというか神様に『助けて』って祈ったら光って、あの人が飛ばされたんです」
それを聞いた船員の一人が口を開いた。
「俺、その石知ってます。悪意がある奴から守ってくれる石ですよ」
「じゃあやっぱりあの落ちた男のほうに問題があるんだろうな」
船員たちは納得してくれたようだ。
「じゃあもういいですか? リューナは怖い目にあったんだから休ませてあげたいんだけど」
ヨマリーは遠慮無く言いたいことを言う。フォスターとしては頼もしかったが自分は全く話していない。これでいいのだろうか。
「じゃあ君の番」
「あ、俺ですか……」
やはりフォスターからも話をしないといけないようだ。
「なんで助けに行ったの?」
「死なれると寝覚めが悪いからです」
「あのね、そういうのは船員の仕事だから。危ないじゃないか」
お説教が始まってしまった。
「しかも向こうが溺れてて必死にしがみつかれただろう? ああいうやつの対処は素人がやっちゃダメなんだよ」
向こうに襲われ水の中に落ちたことをそう解釈していたらしい。
「はい、すみません」
無難に終わらそうと思い口だけ謝っておいた。そこへ別の船員がやって来た。
「乗客の確認終わりました。全員います」
「わかった。船長にも報告してくれ」
どうも他に落ちた者がいないか確認をしていたようだ。一度畳まれた帆が広げられていく。
「じゃあ運航再開だ。みんな持ち場へつけ!」
指示役の船員が皆を移動させた。どうも副船長か何かのようだ。どうしようかと思っているとこちらへ向き直してこう言われた。
「あ、まだいたのか。もういいよ、あとはあっちの人に聞くから」
「はあ」
そっちが説教を始めたからじゃないか、と思ったが余計なことは言わずにリューナを連れて皆で部屋へと戻った。
「リューナ、大丈夫か?」
「お兄さん、そういうときは『大丈夫』って聞かないほうがいいんだって。大丈夫じゃなくても『大丈夫』って言っちゃうから」
ヨマリーがそう忠告した。
「そ、そうなのか。じゃあどうすればいい?」
フォスターは困惑してヨマリーに聞いた。
「うーん……リューナ、どうしてほしい?」
「え……」
リューナも困惑した。色々考えているようだ。
「部屋でみんなと一緒にいたい、かな……」
悩んだあげく、そう言った。
「うん、わかった。怖かったもんね。一緒にいよう」
ヨマリーの声からはとても優しい気遣いが感じられた。見た目は幼いが精神年齢はリューナより上のような気がする。ヨマリーもショックだったのではないかと思うが、それは隠しているようだった。
「じゃあ、お兄さんのベッドに座りなよ。お兄さんは横にいてあげて」
そう言いながらヨマリーはユヴィラのベッドへ腰掛ける。
「俺、外出ててもいい? やっぱりまだ具合悪いんだ」
「あ、まだ気持ち悪いの? いいよー」
ユヴィラはまだ船酔いが治っていなかった。騒動で気が紛れていたが落ち着いたので気持ち悪さを思い出したようだ。フォスターが一緒に行ってやろうとしたがヨマリーとユヴィラに止められた。
「お兄さんはリューナの隣にいてあげてよ」
「そうそう。お兄ちゃんだろ?」
そう言って弱く笑いながらユヴィラは出て行った。
「思ったんだけどさ、あんな風に訳わかんない奴に狙われてるならさ、変装とかしたほうがいいんじゃない?」
ヨマリーが急にそう提案した。
「変装?」
「うん。帽子かぶって眼鏡かけたりとか、髪の色を変えるとか。面識無いのに狙われてるなら姿を変えれば誤魔化せそうじゃない?」
「まあ帽子ならすぐにできそうだけど……髪の色を変えるってどうやって?」
リューナはまだ元気がないのでフォスターが質問した。
「かつらでいいんじゃない?」
「そんなのその辺で売ってるのか?」
「うーん……女性神の町なら服飾系は充実してるんじゃないかなあ」
「女性神の町ってどこだ?」
「泳神の町と水の都の間にあるよ。水の都に行くなら通るでしょ」
泳神の町から先の地理は砂漠がある、ということぐらいしか知らなかった。
「そうなのか。男は肩身が狭そうな町だな……」
「まあ、そうかもね。私も行ったことないからよく知らないんだけど」
「どんな町なのかわかる?」
リューナが少し興味を持ったようで会話に入ってきた。
「他の町より女性の神衛や神官が多いって聞いてるよ。相談に乗ることが多いみたいだし。女性神の石は女にとって生活必需品だから町の経営は潤ってるみたいだよ」
「……」
それを聞いてフォスターはこの場から逃げ出したくなった。
「俺、この場にいないほうが……」
「ダメだよ、リューナのそばにいてあげないと。私が知ってるのってそれくらいだし」
もうこの話題は終わりらしい。ほっとした。
「とりあえず町についたら帽子買ってかぶっておくか」
「髪の毛を帽子に隠せばいいのかな?」
「そうだね。リューナの髪、ふわふわで可愛いから隠すのもったいないけどね」
「そうだな」
ヨマリーに可愛いと褒められ、それをフォスターに肯定されてリューナは顔を赤くした。ヨマリーはフォスターに「そういうとこだぞ」と思いながら話を続ける。
「眼力石使ってないただのガラス入りの眼鏡もかければ印象変わるよ」
「そんなのどこで売ってるんだよ」
「うーん……雑貨屋さんとか? 私のお古じゃ度があるからダメだよねえ」
「私、見えないから関係ないよ?」
「あ」
全く見えないのだから眼鏡の度数などあってもなくても関係ないのであった。
「じゃあ、ヨマリーのもらってもいい?」
「いいよ。もう完璧なのがあるからこっちは使わないもん。ちょっと待ってね」
そう言って自分の荷物をごそごそと漁った。
「はい、これ。かけてみて!」
出してきた眼鏡をリューナに渡し、早速かけさせた。
「……どう?」
眼鏡をかけたリューナはいつも顔を見慣れているフォスターにとっても新鮮だった。それだけで何か頭が良い感じに見えるのは何故だろうか。
「うん、可愛いよ!」
「へえ、確かに結構変わるな。可愛いよ」
「えへへ……」
またリューナの顔が赤くなる。ヨマリーは半笑いでフォスターを見ていた。
「リューナ、少しは元気出た?」
「……うん。ありがとう」
リューナは気に入ったのかそのまま眼鏡をつけていた。
『でもお前の格好が変わらないと駄目なんじゃねえか?』
「……俺も何かしたほうがいいのかな」
ビスタークに言われて確かにそうかもと思い聞いてみた。
「うーん……鎧は外せないんだろうし、上から大きめのマントを羽織るしかないんじゃない? フード付きの」
「確かにそれくらいか」
『砂漠があるし、マントは必要だな。買っておけ』
フォスターの格好に関してはそれでまとまった。
「盾も仕舞えないから持って歩かなきゃならないしな……」
「そう言えば盾! 何あれ!」
「あ、そうか。初めて見たのか」
その場で組み立ててヨマリーを乗せてやった。
「わっわっ、面白ーい! 走ってみたい!」
「上陸したら乗せてあげるよ。一緒に乗ろう」
リューナが勝手に約束したが眼鏡ももらったしまあいいか、盾に乗せると皆同じような反応をするな、と思った。
「これどうしたの? 売ってるの?」
「いや、友達が作った。勝手に人の盾を改造して。この金属が手に入らないからこれだけしかないよ」
「そっかあ、残念。量産できたら絶対高くても売れるよ!」
「ふふっ、今度そう伝えとくね」
その後、船の中での最後の昼食を食べ、リューナはある程度調子を取り戻した。
船員が単刀直入に聞いてきた。
「リューナが、あ、彼女の名前です。攫われそうになったんです!」
ヨマリーが答えた。
「攫われそうに?」
「なんかよくわかんないけど、これまでも誘拐されかけたことがあるんだそうです」
ヨマリーは勝手に答えている。
「本当かい?」
「はい……」
「原因はわかんないの?」
「全然わかりません……」
リューナは困ったように答える。
「拐おうとしたほうに聞いてくださいよ。彼女まだ怯えてるでしょ」
ユヴィラが助け船を出してくれた。
「勿論向こうにも聞くよ。ただ、気を失ってるから今は聞けないんだよ」
「あ、そっか」
ヨマリー達は納得した。
「さっき光ったって聞いてるんだけど、何があったの?」
「あ、俺があげた神の石です。守護石っていう」
「……あの人が私を掴んだ時に、その石にというか神様に『助けて』って祈ったら光って、あの人が飛ばされたんです」
それを聞いた船員の一人が口を開いた。
「俺、その石知ってます。悪意がある奴から守ってくれる石ですよ」
「じゃあやっぱりあの落ちた男のほうに問題があるんだろうな」
船員たちは納得してくれたようだ。
「じゃあもういいですか? リューナは怖い目にあったんだから休ませてあげたいんだけど」
ヨマリーは遠慮無く言いたいことを言う。フォスターとしては頼もしかったが自分は全く話していない。これでいいのだろうか。
「じゃあ君の番」
「あ、俺ですか……」
やはりフォスターからも話をしないといけないようだ。
「なんで助けに行ったの?」
「死なれると寝覚めが悪いからです」
「あのね、そういうのは船員の仕事だから。危ないじゃないか」
お説教が始まってしまった。
「しかも向こうが溺れてて必死にしがみつかれただろう? ああいうやつの対処は素人がやっちゃダメなんだよ」
向こうに襲われ水の中に落ちたことをそう解釈していたらしい。
「はい、すみません」
無難に終わらそうと思い口だけ謝っておいた。そこへ別の船員がやって来た。
「乗客の確認終わりました。全員います」
「わかった。船長にも報告してくれ」
どうも他に落ちた者がいないか確認をしていたようだ。一度畳まれた帆が広げられていく。
「じゃあ運航再開だ。みんな持ち場へつけ!」
指示役の船員が皆を移動させた。どうも副船長か何かのようだ。どうしようかと思っているとこちらへ向き直してこう言われた。
「あ、まだいたのか。もういいよ、あとはあっちの人に聞くから」
「はあ」
そっちが説教を始めたからじゃないか、と思ったが余計なことは言わずにリューナを連れて皆で部屋へと戻った。
「リューナ、大丈夫か?」
「お兄さん、そういうときは『大丈夫』って聞かないほうがいいんだって。大丈夫じゃなくても『大丈夫』って言っちゃうから」
ヨマリーがそう忠告した。
「そ、そうなのか。じゃあどうすればいい?」
フォスターは困惑してヨマリーに聞いた。
「うーん……リューナ、どうしてほしい?」
「え……」
リューナも困惑した。色々考えているようだ。
「部屋でみんなと一緒にいたい、かな……」
悩んだあげく、そう言った。
「うん、わかった。怖かったもんね。一緒にいよう」
ヨマリーの声からはとても優しい気遣いが感じられた。見た目は幼いが精神年齢はリューナより上のような気がする。ヨマリーもショックだったのではないかと思うが、それは隠しているようだった。
「じゃあ、お兄さんのベッドに座りなよ。お兄さんは横にいてあげて」
そう言いながらヨマリーはユヴィラのベッドへ腰掛ける。
「俺、外出ててもいい? やっぱりまだ具合悪いんだ」
「あ、まだ気持ち悪いの? いいよー」
ユヴィラはまだ船酔いが治っていなかった。騒動で気が紛れていたが落ち着いたので気持ち悪さを思い出したようだ。フォスターが一緒に行ってやろうとしたがヨマリーとユヴィラに止められた。
「お兄さんはリューナの隣にいてあげてよ」
「そうそう。お兄ちゃんだろ?」
そう言って弱く笑いながらユヴィラは出て行った。
「思ったんだけどさ、あんな風に訳わかんない奴に狙われてるならさ、変装とかしたほうがいいんじゃない?」
ヨマリーが急にそう提案した。
「変装?」
「うん。帽子かぶって眼鏡かけたりとか、髪の色を変えるとか。面識無いのに狙われてるなら姿を変えれば誤魔化せそうじゃない?」
「まあ帽子ならすぐにできそうだけど……髪の色を変えるってどうやって?」
リューナはまだ元気がないのでフォスターが質問した。
「かつらでいいんじゃない?」
「そんなのその辺で売ってるのか?」
「うーん……女性神の町なら服飾系は充実してるんじゃないかなあ」
「女性神の町ってどこだ?」
「泳神の町と水の都の間にあるよ。水の都に行くなら通るでしょ」
泳神の町から先の地理は砂漠がある、ということぐらいしか知らなかった。
「そうなのか。男は肩身が狭そうな町だな……」
「まあ、そうかもね。私も行ったことないからよく知らないんだけど」
「どんな町なのかわかる?」
リューナが少し興味を持ったようで会話に入ってきた。
「他の町より女性の神衛や神官が多いって聞いてるよ。相談に乗ることが多いみたいだし。女性神の石は女にとって生活必需品だから町の経営は潤ってるみたいだよ」
「……」
それを聞いてフォスターはこの場から逃げ出したくなった。
「俺、この場にいないほうが……」
「ダメだよ、リューナのそばにいてあげないと。私が知ってるのってそれくらいだし」
もうこの話題は終わりらしい。ほっとした。
「とりあえず町についたら帽子買ってかぶっておくか」
「髪の毛を帽子に隠せばいいのかな?」
「そうだね。リューナの髪、ふわふわで可愛いから隠すのもったいないけどね」
「そうだな」
ヨマリーに可愛いと褒められ、それをフォスターに肯定されてリューナは顔を赤くした。ヨマリーはフォスターに「そういうとこだぞ」と思いながら話を続ける。
「眼力石使ってないただのガラス入りの眼鏡もかければ印象変わるよ」
「そんなのどこで売ってるんだよ」
「うーん……雑貨屋さんとか? 私のお古じゃ度があるからダメだよねえ」
「私、見えないから関係ないよ?」
「あ」
全く見えないのだから眼鏡の度数などあってもなくても関係ないのであった。
「じゃあ、ヨマリーのもらってもいい?」
「いいよ。もう完璧なのがあるからこっちは使わないもん。ちょっと待ってね」
そう言って自分の荷物をごそごそと漁った。
「はい、これ。かけてみて!」
出してきた眼鏡をリューナに渡し、早速かけさせた。
「……どう?」
眼鏡をかけたリューナはいつも顔を見慣れているフォスターにとっても新鮮だった。それだけで何か頭が良い感じに見えるのは何故だろうか。
「うん、可愛いよ!」
「へえ、確かに結構変わるな。可愛いよ」
「えへへ……」
またリューナの顔が赤くなる。ヨマリーは半笑いでフォスターを見ていた。
「リューナ、少しは元気出た?」
「……うん。ありがとう」
リューナは気に入ったのかそのまま眼鏡をつけていた。
『でもお前の格好が変わらないと駄目なんじゃねえか?』
「……俺も何かしたほうがいいのかな」
ビスタークに言われて確かにそうかもと思い聞いてみた。
「うーん……鎧は外せないんだろうし、上から大きめのマントを羽織るしかないんじゃない? フード付きの」
「確かにそれくらいか」
『砂漠があるし、マントは必要だな。買っておけ』
フォスターの格好に関してはそれでまとまった。
「盾も仕舞えないから持って歩かなきゃならないしな……」
「そう言えば盾! 何あれ!」
「あ、そうか。初めて見たのか」
その場で組み立ててヨマリーを乗せてやった。
「わっわっ、面白ーい! 走ってみたい!」
「上陸したら乗せてあげるよ。一緒に乗ろう」
リューナが勝手に約束したが眼鏡ももらったしまあいいか、盾に乗せると皆同じような反応をするな、と思った。
「これどうしたの? 売ってるの?」
「いや、友達が作った。勝手に人の盾を改造して。この金属が手に入らないからこれだけしかないよ」
「そっかあ、残念。量産できたら絶対高くても売れるよ!」
「ふふっ、今度そう伝えとくね」
その後、船の中での最後の昼食を食べ、リューナはある程度調子を取り戻した。