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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
146 万引対策
 皆が席についてエクレシアに飲み物を出してもらっているとき、上の階からキナノスが誰かと言い争うような声が聞こえてきた。しかしキナノスの声しか聞こえない。フォスターは大体察したのでおそるおそる聞いてみた。

「あの……親父がご迷惑をおかけしませんでしたか? というか迷惑かけましたよね?」
「あんたのほうが親みたいだね」

 苦笑しながらエクレシアが言った。

「うちの人と喧嘩っぽくしてたし今もしてるけど、昔もそうだったしまあそれで普通だよ」
「……そうだったんでしょうね」

 夢で見た過去でもそうであった。エクレシアがフォスターの様子で察したようで、リューナにばれないようメモ用の紙片に文字を書いて渡してきた。

【見れた?】

 ビスタークの過去を見たかどうかの確認である。フォスターはエクレシアの目を見て頷いた。エクレシアは声を出さずに「後でね」と口を動かした。

 そしてキナノスがビスタークと何やら言い合いながら階段を降りてきたのでフォスターは立ち上がって挨拶した。

「お邪魔します。昨日はうちの親がすみませんでした」
「おー、来てくれたか! 良かった、これ持ってってくれ!」

 キナノスはビスタークの鉢巻きを右手に握ったまま突き出した。しかしエクレシアに夢の報告をしなければならないのでまだ受け取れない。

「……親父は何をやらかしました?」
「俺の身体使って勝手に酒飲んだ。しかも楽しみに開けずに取っておいたやつ!」
『楽しみにしてるとは思ってなかったんだよ』
「弁償しろ! 高かったんだからな、あれ!」
『まだ残ってるじゃねえか。それにあくまでも飲んだのはお前の身体だぞ』
「開封の楽しみってもんがあんだよ! それに覚えてないんだから俺の身体だとかは関係ない!」

 フォスターにビスタークの声は聞こえなかったがキナノスの反応で大体察した。過去を見たことでかなり同情していたので、もう少し優しくしてやろうかなどと考えていたのだが、このやり取りを見てその気持ちも薄れていった。

「……おいくらですか?」
「…………二万レヴリス…………」
「…………分割払いでもいいですか?」

 今はかなり懐具合が厳しいので青ざめつつフォスターはそう提案した。早く地元へ戻って聖堂で祈りを飛翔神になったレアフィールへ捧げ追加の反力石リーペイトを貰いたいと思った。

「いや、お前は悪くない。甥に払わせようとは思ってない。悪いのはこいつだからこいつに払わせる」

 キナノスはそう言いながら鉢巻きを握り締めた。ビスタークは握り締めても痛みは感じないのだが痛め付けてやりたい気持ちはとても良くわかる。

「でもそれ、自分で稼げるような能力ありませんよ?」
『それって言うな』

 ビスタークの声はキナノスにしか聞こえていないが、この場にいる全員がビスタークの存在を知っている。子ども達にも教えてあるらしい。

「まあ、働かせる当てはある」

 キナノスが予想していなかったことを言い出したのでフォスター達は驚いた。

「え? あるんですか?」
『あー? 何させる気だ?』
「万引きの見張りだ」

 皆が目を丸くした。

『俺は動けねえから見てることしか出来ねえぞ』
「それだったら俺が警備に立ちますよ。犯罪の対処は神衛かのえの仕事ですから」

 ビスタークの声が聞こえていないダスタムがそう提案するとキナノスに却下された。

「それじゃ警戒して店に入ってこないだろ。どうも子どもっぽいから現場を押さえて神殿に引き渡したいんだよ」
「子どもですか。それは保護が必要かもしれませんね」

 ティリューダが同意した。リューナは自分とは関係ないとばかりに子ども達と一緒に振る舞われた塩味系の菓子を美味しそうに頬張っている。

「これねー、爆発したとうもろこしなんだって! 面白いねえー、美味しいし」

 呑気にそうフォスターに報告してきた。

「そっか。良かったなあ」
「お母さんが作ってくれたんだよー」

 今日はビスタークの鉢巻きを返して貰いに来ただけである。出来れば過去を見た話と料理がしたいが、前者はリューナとビスタークがいないところで、後者は許可を貰わないと出来ない。今は特にすることが無いので雑談をしているだけである。ケトレンとエクレシアは菓子の説明をリューナにしているがシーカフはリューナをちらちらと見ながら黙って食べている。

「下流地域から来た商人が売っててさ、土の都グローテアスのほうで食べたことがあったから買っちゃった。作り方も教えてくれたんだけど簡単だったし。あ、でもね、普通のとうもろこしとは違う種類だから。普通のじゃ出来ないんだよ」
「そうなんですか。それ教えて欲しいです」

 フォスターも少し食べて気に入ったのでエクレシアに詳しく聞こうとした。

「そうだ、台所貸すのはいつにする? 今日でもいいよ?」
「いいんですか? 是非!」
「でも人数が多いなあ……大丈夫?」
「作るのはいいんですけど、材料費のほうが……」
「……徴収しようか」

 今は子ども中心の日常会話班と大人の万引き対策班に別れて会話している状態だ。エクレシアはティリューダとダスタムの神官神衛兵組から材料費を徴収するつもりのようで二人に許可を得る機会を窺っている。

「で、こいつなら店に置いておけば誰もいないように見えるから油断するだろ」

 エクレシアの様子に全く気づかずキナノスがビスタークの鉢巻きをぶら下げて具体的に説明をしている。勿論ビスタークの声は日常会話班には聞こえていない。

『お前らに知らせるのはどうすんだよ。動けないって言ってんだろ』
「神の石の上に置いておけば邪魔だって掴んで退かそうとするんじゃないかと思ってな。触れたら取り憑けるだろ?」
『意識のあるときに取り憑くのはそいつの精神が危険だぞ。大人ならまだしも子どもだしな』
「相手の身体を動かさないようにするくらいでいいんだが。出来れば声を出してくれると助かる」
「でもそう上手く触ってくれますかね」

 ティリューダが横から口を出した。彼女とダスタムも鉢巻きに触れている。

「それはそうなんだが……」
「私が隠れて端を握ってましょうか?」
「まあ……君くらいの背丈ならカウンターの後ろに隠れられるか……」

 キナノスが思案している間にもティリューダは話を続ける。

「ビスタークさんが現場を確認したら私に合図してください。そうしたらダスタムに捕らえさせますので」
『あー、いいぜ』
「鎧着けてると動きにくいし店の物を傷つけるかもしれないから、この辺に置かせてもらってもいいですかね?」
「鉢巻きの長さが足りるかどうかだな。まずは確認しよう」

 だんだんと話がまとまってきた。

「ちょっとお昼ごはんの話していい?」

 エクレシアが割って入った。材料費を徴収する話をし、ティリューダとダスタムの了承をもらう。八人分なので材料費の八分の一を払ってもらうことになった。フォスターはリューナと二人分なので四分の一となる。ただ、リューナはかなりの量を食べるためフォスターは少し多く払う気でいる。石屋家族の分は二人が子どもなので四人分出してもらうのも申し訳ないからだ。

「じゃあ私たちはお昼ごはんのための買い出し行ってくるね。リューナは狙われてるから悪いけど子ども達と留守番ね。ケトレン、シーカフ、お姉ちゃんのことよろしくね」
「うん!」
「……うん」

 姉のケトレンは元気よく、弟のシーカフは少し恥ずかしそうに返事をした。

 万引き対策班は早速ビスタークの鉢巻きを持って店の売場へ持って行き、売場からカウンターまで届くか確認のため置いてみた。ぎりぎり届く長さだったのでティリューダの案が採用されることになった。

 フォスターとエクレシアはそれを横目に外へ買い出しに出ていった。
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