残酷な描写あり
R-15
150 家族愛
フォスターが作ったチーズソースのかかった鶏肉料理を昼食に食べると、ティリューダはビヨシュを連れて神殿へ戻っていった。青髪の女性が神衛兵に襲われたことを報告するためと、ビヨシュの母親の保護に人手を確保するためである。ダスタムはリューナの警護があるので残った。
ビスタークはビヨシュの足首に巻かれたまま連れていかれた。ティリューダ曰く「便利なので」とのことだった。おそらく文句を言っていると思うが、鉢巻きに触れていないのでフォスターにはわからない。終わったら神殿で返してもらえるそうだ。おそらく夕方以降だろう。ティリューダは今日もうこちらへは戻ってこない。
「私のせいで、あの子のお母さんが……」
「だからリューナのせいじゃないから」
要望通り好物のチーズソースの料理を作ってやったにもかかわらずリューナが落ち込んでいる。いつもより食べる速度が遅かったので食べている間ずっと気にしていたのだろう。それでもしっかり完食はしたのだが。
キナノスの子どもたちは昼食の後友達が遊びの誘いに来たので二人とも出かけていった。シーカフはリューナのことを気にしていたが遊びの誘惑に負けたようだった。
「足の怪我だけで済んだんだからまだ良かったと思おう」
「まあ殺されたり連れていかれたりしなかっただけ良かったよ」
「……」
連れていかれなかった理由はおそらくビヨシュが「母ちゃん!」と呼んで駆け寄ったことと、母親の顔を見たことはないが見た目の年齢ではないかと推測していた。破壊神の子に子どもなどいるはずがないし、操られている神衛兵はザイステルからおおよその年齢は聞いているのではないかと思われるからだ。足を怪我させたのは逃げられないようにだろうか。本当の神の子ならそれほどの時間はかからず回復してしまうはずだが、逃げられないための時間稼ぎにはなるのだろう。
また暗い表情に戻ってしまったリューナを見かねてフォスターが立ち上がった。
「すみません、また台所借りていいですか?」
「いいけど……何作るの?」
「ちょっとおやつを」
フォスターは元気のないリューナを見ながらそう言った。
台所へ行くと先ほど洗って仕舞ったばかりのボウル、フライパン、泡立て器を格納石から出した大袋の中から取り出した。
「神衛の鎧の手首の石から調理道具出すのはきっとあんたくらいだと思う」
エクレシアがツッコミを入れてきた。
「格納石を手に入れたんで、地元に帰ったら別のところに仕舞えるようにしますよ」
「そういえば盾を仕舞いたいって言ってたっけ」
すんなりと地元に帰れるかが問題なのだが、その辺は後でリジェンダに相談しようと思った。
卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に駱駝乳を入れてよく混ぜ、小麦粉をふるってさらに混ぜる。借りた別のボウルで卵白に砂糖を入れて泡立てる。泡立てた卵白が潰れないようにその二つを混ぜ、フライパンで焼く。パンケーキである。
焼けたパンケーキを皿に乗せると、時停石で保存していた容器に入った氷菓子をスプーンですくってさらに上に乗せ、忘却神の町で購入した蜂蜜をかける。
「皆さんの分はリューナに食べさせたら作りますんで」
「ありがとう。早く食べさせてあげな」
「はい」
フォスターはリューナのところへ急いでパンケーキを持っていった。
「はい、リューナ。あーん」
甘い匂いに少し表情が緩んでいたリューナの口に氷菓子と蜂蜜のついたパンケーキを入れてやった。リューナの元気が無いときは食べ物が一番である。更に少し甘やかしてやれば暗い気持ちも無くなるだろう、と考えてのことである。そしてそれは効果覿面であった。
「んー! 美味しーい!」
満面の笑みになってフォスターはほっとした。食べさせてやる様子は恋人同士というより親子、雛鳥の餌付けのような感じであった。二口食べさせてやるとフォスターは他の人の分を作りに台所へと戻っていった。キナノスは甘いものが苦手ということでその分は作らないことになったが。
「フォスターは優しいな」
キナノスが呟いたのを聞いてリューナは更に気を良くした。
「そうなんです。昔からずっと、すごく優しいんです。血が繋がってなかったら、お嫁さんになりたかったんです……けど……」
最初は兄を褒められて嬉しかった様子で声が弾んでいたのだが、だんだん小さく萎んでいった。神の子なのだから兄のフォスターはおろか、人間にリューナと血縁のある者など一人もいない。昨日、フォスターはリューナと半分血の繋がりがあると嘘を伝えたキナノスは少し心が痛んだ。この娘は兄とされているフォスターのことが好きなのだととっくに察していた。しかし神の子である以上その恋が叶うことはないし、封じた力がどうなるかわからないこの状況で本当のことを伝えるわけにはいかなかった。
「良い家族に恵まれたんだな」
少し話を逸らした。
「はい」
リューナにまた笑顔が戻り、育ての両親のことを話し始めた。
「こんなこと言うと失礼かも知れませんが……血の繋がったお父さんやお母さんより、私には今の両親のほうが大事なんです。今の両親が本当のお父さんとお母さんだと思っています。フォスターだけじゃなく、家族みんなとても優しいんです。目が見えないから『いらない子』って思われてもおかしくなかったのに、すごく大切に育ててもらったんです」
キナノスの心の痛みが増した。
「この旅に出るとき、お母さんが泣いてしまって……きっと今、私たちがいなくて寂しい思いをしてるんじゃないかって心配です。一度帰れるといいんですけど」
「そうだな……俺たちも血の繋がらない家族だったから、気持ちはわかる。一度そちらのご両親にも挨拶しておきたいな」
そう言いながら自分たちはこの家族を引き裂こうとしているのだという罪悪感をキナノスは感じていた。この娘は本当に神の子の自覚が無く、フォスターの言っていたように目が見えないだけの普通の娘なのだ。キナノスにも子どもが二人いる。もし、自分の子が実は神の子だと言われて取り上げられ、二度と会えなくなったらどんなにつらいだろうか。表情には出さなかったものの心中穏やかではなかった。育ての両親に会って謝りたい気持ちである。キナノスたち破壊神の神官が悪いわけではなく、リューナを攫おうとしている者たちが元凶なのだが、それでも申し訳なく思う。頭を下げて許されるとは思っていないが、ひとこと謝罪がしたかった。
「お待たせ」
そこへフォスターが別の皿を持って戻ってきた。
「子どもたちの分も作ってもらっちゃった」
「お前の分は?」
「勿論あるよ。後で食べる」
エクレシアは子どもたちが帰ってくるのを待ってから一緒に食べるようだ。
「ダスタムさんも食べますよね?」
「俺もいいの? ありがとう」
パンケーキを目の前に置くとダスタムはとても喜んでいた。実はリューナが食べるのを羨ましく眺めていたのである。身体が大きいので昼食の量が足りなかったのかもしれない。
「ただ、あいつがいないのに俺だけ食べるのはなんか悪い気がするなあ」
そう言いながらも食べている。
「じゃあ作り方教えるから作ってあげたらどうです?」
「あ、それいいかも。きっとティリューダさん喜びますよ」
「そうかなあ。ティーのやつがそんなことで喜ぶとは思えないけど」
婚約者のティリューダのことをダスタムはティーと呼んでいるようだ。
「好きな人が自分のために作ってくれたものを喜ばない人なんていませんよ」
「紙に作り方を細かく書いておきますから。料理はできますか?」
「基本的なことなら」
「じゃあ大丈夫ですよ」
「がんばってください!」
フォスターはダスタムにパンケーキの作り方を書いた紙を渡したが、本当に作ったかどうかは確認しなかった。
ビスタークはビヨシュの足首に巻かれたまま連れていかれた。ティリューダ曰く「便利なので」とのことだった。おそらく文句を言っていると思うが、鉢巻きに触れていないのでフォスターにはわからない。終わったら神殿で返してもらえるそうだ。おそらく夕方以降だろう。ティリューダは今日もうこちらへは戻ってこない。
「私のせいで、あの子のお母さんが……」
「だからリューナのせいじゃないから」
要望通り好物のチーズソースの料理を作ってやったにもかかわらずリューナが落ち込んでいる。いつもより食べる速度が遅かったので食べている間ずっと気にしていたのだろう。それでもしっかり完食はしたのだが。
キナノスの子どもたちは昼食の後友達が遊びの誘いに来たので二人とも出かけていった。シーカフはリューナのことを気にしていたが遊びの誘惑に負けたようだった。
「足の怪我だけで済んだんだからまだ良かったと思おう」
「まあ殺されたり連れていかれたりしなかっただけ良かったよ」
「……」
連れていかれなかった理由はおそらくビヨシュが「母ちゃん!」と呼んで駆け寄ったことと、母親の顔を見たことはないが見た目の年齢ではないかと推測していた。破壊神の子に子どもなどいるはずがないし、操られている神衛兵はザイステルからおおよその年齢は聞いているのではないかと思われるからだ。足を怪我させたのは逃げられないようにだろうか。本当の神の子ならそれほどの時間はかからず回復してしまうはずだが、逃げられないための時間稼ぎにはなるのだろう。
また暗い表情に戻ってしまったリューナを見かねてフォスターが立ち上がった。
「すみません、また台所借りていいですか?」
「いいけど……何作るの?」
「ちょっとおやつを」
フォスターは元気のないリューナを見ながらそう言った。
台所へ行くと先ほど洗って仕舞ったばかりのボウル、フライパン、泡立て器を格納石から出した大袋の中から取り出した。
「神衛の鎧の手首の石から調理道具出すのはきっとあんたくらいだと思う」
エクレシアがツッコミを入れてきた。
「格納石を手に入れたんで、地元に帰ったら別のところに仕舞えるようにしますよ」
「そういえば盾を仕舞いたいって言ってたっけ」
すんなりと地元に帰れるかが問題なのだが、その辺は後でリジェンダに相談しようと思った。
卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に駱駝乳を入れてよく混ぜ、小麦粉をふるってさらに混ぜる。借りた別のボウルで卵白に砂糖を入れて泡立てる。泡立てた卵白が潰れないようにその二つを混ぜ、フライパンで焼く。パンケーキである。
焼けたパンケーキを皿に乗せると、時停石で保存していた容器に入った氷菓子をスプーンですくってさらに上に乗せ、忘却神の町で購入した蜂蜜をかける。
「皆さんの分はリューナに食べさせたら作りますんで」
「ありがとう。早く食べさせてあげな」
「はい」
フォスターはリューナのところへ急いでパンケーキを持っていった。
「はい、リューナ。あーん」
甘い匂いに少し表情が緩んでいたリューナの口に氷菓子と蜂蜜のついたパンケーキを入れてやった。リューナの元気が無いときは食べ物が一番である。更に少し甘やかしてやれば暗い気持ちも無くなるだろう、と考えてのことである。そしてそれは効果覿面であった。
「んー! 美味しーい!」
満面の笑みになってフォスターはほっとした。食べさせてやる様子は恋人同士というより親子、雛鳥の餌付けのような感じであった。二口食べさせてやるとフォスターは他の人の分を作りに台所へと戻っていった。キナノスは甘いものが苦手ということでその分は作らないことになったが。
「フォスターは優しいな」
キナノスが呟いたのを聞いてリューナは更に気を良くした。
「そうなんです。昔からずっと、すごく優しいんです。血が繋がってなかったら、お嫁さんになりたかったんです……けど……」
最初は兄を褒められて嬉しかった様子で声が弾んでいたのだが、だんだん小さく萎んでいった。神の子なのだから兄のフォスターはおろか、人間にリューナと血縁のある者など一人もいない。昨日、フォスターはリューナと半分血の繋がりがあると嘘を伝えたキナノスは少し心が痛んだ。この娘は兄とされているフォスターのことが好きなのだととっくに察していた。しかし神の子である以上その恋が叶うことはないし、封じた力がどうなるかわからないこの状況で本当のことを伝えるわけにはいかなかった。
「良い家族に恵まれたんだな」
少し話を逸らした。
「はい」
リューナにまた笑顔が戻り、育ての両親のことを話し始めた。
「こんなこと言うと失礼かも知れませんが……血の繋がったお父さんやお母さんより、私には今の両親のほうが大事なんです。今の両親が本当のお父さんとお母さんだと思っています。フォスターだけじゃなく、家族みんなとても優しいんです。目が見えないから『いらない子』って思われてもおかしくなかったのに、すごく大切に育ててもらったんです」
キナノスの心の痛みが増した。
「この旅に出るとき、お母さんが泣いてしまって……きっと今、私たちがいなくて寂しい思いをしてるんじゃないかって心配です。一度帰れるといいんですけど」
「そうだな……俺たちも血の繋がらない家族だったから、気持ちはわかる。一度そちらのご両親にも挨拶しておきたいな」
そう言いながら自分たちはこの家族を引き裂こうとしているのだという罪悪感をキナノスは感じていた。この娘は本当に神の子の自覚が無く、フォスターの言っていたように目が見えないだけの普通の娘なのだ。キナノスにも子どもが二人いる。もし、自分の子が実は神の子だと言われて取り上げられ、二度と会えなくなったらどんなにつらいだろうか。表情には出さなかったものの心中穏やかではなかった。育ての両親に会って謝りたい気持ちである。キナノスたち破壊神の神官が悪いわけではなく、リューナを攫おうとしている者たちが元凶なのだが、それでも申し訳なく思う。頭を下げて許されるとは思っていないが、ひとこと謝罪がしたかった。
「お待たせ」
そこへフォスターが別の皿を持って戻ってきた。
「子どもたちの分も作ってもらっちゃった」
「お前の分は?」
「勿論あるよ。後で食べる」
エクレシアは子どもたちが帰ってくるのを待ってから一緒に食べるようだ。
「ダスタムさんも食べますよね?」
「俺もいいの? ありがとう」
パンケーキを目の前に置くとダスタムはとても喜んでいた。実はリューナが食べるのを羨ましく眺めていたのである。身体が大きいので昼食の量が足りなかったのかもしれない。
「ただ、あいつがいないのに俺だけ食べるのはなんか悪い気がするなあ」
そう言いながらも食べている。
「じゃあ作り方教えるから作ってあげたらどうです?」
「あ、それいいかも。きっとティリューダさん喜びますよ」
「そうかなあ。ティーのやつがそんなことで喜ぶとは思えないけど」
婚約者のティリューダのことをダスタムはティーと呼んでいるようだ。
「好きな人が自分のために作ってくれたものを喜ばない人なんていませんよ」
「紙に作り方を細かく書いておきますから。料理はできますか?」
「基本的なことなら」
「じゃあ大丈夫ですよ」
「がんばってください!」
フォスターはダスタムにパンケーキの作り方を書いた紙を渡したが、本当に作ったかどうかは確認しなかった。