残酷な描写あり
R-15
159 帰宅準備
翌日、朝食のときリューナに明後日自宅のある飛翔神の町へ帰ることを告げた。
「じゃあ、お土産買わなきゃね!」
「そうだな。明日、俺の訓練が終わったら買い物に行こう。キナノスさんたちにも挨拶しなきゃな」
「うん! 何が良いかなあ。やっぱり食べ物かなあ」
「まあそれが無難だよな」
「氷菓子美味しかったからお父さんとお母さんにも食べて欲しいな」
「うん。買って帰ろう。父さんは酒も喜ぶだろ」
『俺には?』
「なんで親父に土産が必要なんだよ」
『俺が本当の父さんだろうが!』
「誰の身体で飲む気なんだよ」
『……』
酒と聞いてビスタークがねだって来たが軽くあしらった。飲むためには身体が必要なのに何も考えていなかったようである。
「あと神殿と……カイルたちにも何か買ってってやるか」
「神殿のみんなはコーシェルたちからお土産もらったばっかりじゃないの?」
「そうだろうけど、こういうのは気持ちだから。忘却神の町のツケが行ってるはずだし、お詫びの意味もあるから」
「うーん……そっちは何がいいのかな」
「カイルは食べ物より変な物のほうが喜びそうだよな」
「メイシーとテックにはお菓子だよね」
楽しそうに土産を買う話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。お食事は終わりましたか?」
「あ、ティリューダさん。いつもありがとうございます。終わってます」
フォスターはそう言いながら配膳用の台車へ使用済みの食器を乗せていく。
「リューナさん。先ほどの話ですが、もう良いですか?」
「は、はい」
ティリューダは朝食を運んだ際、早速リューナへ輝星石の話をしていた。昼食の高級店へ行く前にリューナの感じた方向の検証をするそうだ。計測石という神の石を利用したり、命の都や炎の都の上空に大事な人の星がある神官の指し示す方向と照らし合わせたり、精度の高い分度器などを駆使して見極めるらしい。
「はい、これ」
フォスターはリューナに輝星石を渡した。
「そんな難しく考えなくて大丈夫ですよ。ただ感じた方向を教えてくだされば良いんです」
「それが終われば良いお店に連れてってもらえるんだろ? 俺は訓練してくるから頑張ってこい」
妹の頭を軽く撫でて送り出そうとする。
「フォスターも一緒に来ればいいのに」
「そんなところで俺までご馳走になるのは申し訳ないし、それにお前を守るためにもっと強くならなきゃ」
それを聞いてリューナは少し顔が赤くなった。
「良い心掛けですね。訓練頑張ってください」
「はい。リューナをよろしくお願いします」
子どもを預ける親のようにリューナをティリューダに任せ、フォスターは一度自室へ戻り鎧を装着し訓練場へ向かった。
訓練場でレグンや顔馴染みとなった神衛兵たちに明後日帰る旨を伝える。
「もしかしたら明日で最後かもしれないから」
「すぐ戻れるんじゃないのか」
「まだわからない」
なんとなくだが、リューナの指し示した方角へ行くことになるのではと思っていた。そしてその予感は当たることになる。
訓練と仕事が終わり部屋へ戻ると食事を共にするためリューナの部屋へ行く。警備をしているダスタムに会釈して中へ入るとリューナはティリューダと一緒に待っていた。
「お帰りなさい、フォスター。今日連れていってもらったお店、とっても美味しかったよー!」
「そうか。良かったなあ」
演技とはいえ縛られるという酷い仕打ちに対する対価である。遠慮なくしっかり食べて来たようだ。満面の笑みで報告されたのだが、次の瞬間表情に影が射した。
「それでね、やっぱり命の都と炎の都の間辺りに何かあるみたいなの。おじいちゃん、なのかなあ……」
「都より手前かもしれませんので、一度そちらへ向かって確かめてみないと何とも言えませんね」
「そうですね……」
それまで黙って聞いていたビスタークが提案した。
『強くなりてえんならついでに命の都の訓練に参加してみたらどうだ』
「命の都の訓練は一番厳しいって話だったよな」
船で出会った綿神の町の神衛兵にそう聞いた。ビスタークの過去でも見ていたがそれを本人に言うわけにはいかないのでそう言っておいた。
「それにあいつの自宅があるなら一応見ておきたい」
『医者か。あっちの都の奴らが調べ終わってるのにか?』
「それでも俺たちならわかることもあるかもしれないし」
ちらりとリューナのほうを見る。
『ああ……神の子にしかわからないこともあるかもしれねえな……』
今はフォスターにしか聞こえない状態のため遠慮なくビスタークは言った。
「ただ、行くまでの道程が少し不安だけどな。かつら被ってれば大丈夫かな」
「各町に警戒するように伝えてありますのでだいぶ良くなったのではないかと思いますよ」
「ありがとうございます。それなら安心かな」
「じゃあ今度は命の都に行くの?」
「そうしようと思ってる。一回帰るならここからより行きやすいし」
リューナが少し不安げに伝える。
「うちの町にまた変な神衛が来たりしてないかな……」
「……どうだろう」
『水の都にいるってわかってたみたいだからそれは無いんじゃねえか』
「確かに。それなら水の都に籠ってると思って他のところは安全かもしれないな」
ティリューダが立ち上がり部屋の外へ向かう。
「それでは夕食をお持ちします。明日のお昼前には滞在費とお仕事の給料を清算してお渡ししますね」
「ありがとうございます」
ティリューダは部屋を出ていく前にフォスターへメモを渡していった。そのメモには例の拠点となっていた家の賃借人の名前と、別の都でもこの名前で家を借りたり買ったりしている者がいないか調べていると書かれていた。フォスターは書かれた名前に聞き覚えがあったが、リューナが知らないことだったため早めに妹とおやすみの挨拶を交わし自室へと戻った。
「アイサ=ノルケティスト。この名前って……」
『キナノスたちに近づいた女がアイサだったな』
「偽名だろうって言ってたからここから何もわかることは無いかもしれないけど……」
『他の都でも同じ名前で借りてるとは限らねえしな。調査の結果を待つしかない』
その夜はリジェンダに呼び出されることもなく、翌日を迎えた。
フォスターは水の都での最後の訓練を終え、清算金を受け取り、土産を見る前に変装したリューナと護衛のダスタムと共にキナノスたちの店へ挨拶をしに行った。ティリューダは仕事があるとのことで来なかった。
「そうか。明日帰るのか」
「はい。いつでもすぐに戻って来れるようになりましたので」
「こっちに来たらまた寄ってね」
「はい」
「……そちらのご両親に俺たちのことで迷惑をかけて申し訳ないと言っていたことを伝えてくれ」
「……はい」
キナノスが重い声で謝罪を伝えて手紙を渡してきた。養父母宛である。謝罪の言葉が書いてあるのだろう。
『そうだ。神官から金払われたか?』
「あの、神殿のほうからお酒のお金の追加分って届きましたか?」
フォスターがビスタークの通訳をする。
「ああ。あの次の日に受け取ったぞ。まだ足りないが」
「残りの分支払います」
「もういい。それより命の都へ行く話を神官から聞いた。親父を見つける捜索代に回してくれ。本当なら俺たちが動かなきゃならないのにすまない」
「本当にお願い。お父さんを見つけて。大変なことを頼んで申し訳ないけど……どんな結果でも受け入れるから」
「……はい」
「がんばります……」
リューナも真面目な表情で頷いた。今日は学校があるとのことで不在だったが、まだ子どもたちが手のかかる年齢では動けないだろう。別に動いてもらおうとは三人とも思っていなかった。挨拶を終えると商店街で土産物を買い込み神殿へ戻った。明日はようやく帰宅だ。今後のことを考えると気の重い部分もあるが、家に帰るのは兄妹どちらも楽しみにしていた。
「じゃあ、お土産買わなきゃね!」
「そうだな。明日、俺の訓練が終わったら買い物に行こう。キナノスさんたちにも挨拶しなきゃな」
「うん! 何が良いかなあ。やっぱり食べ物かなあ」
「まあそれが無難だよな」
「氷菓子美味しかったからお父さんとお母さんにも食べて欲しいな」
「うん。買って帰ろう。父さんは酒も喜ぶだろ」
『俺には?』
「なんで親父に土産が必要なんだよ」
『俺が本当の父さんだろうが!』
「誰の身体で飲む気なんだよ」
『……』
酒と聞いてビスタークがねだって来たが軽くあしらった。飲むためには身体が必要なのに何も考えていなかったようである。
「あと神殿と……カイルたちにも何か買ってってやるか」
「神殿のみんなはコーシェルたちからお土産もらったばっかりじゃないの?」
「そうだろうけど、こういうのは気持ちだから。忘却神の町のツケが行ってるはずだし、お詫びの意味もあるから」
「うーん……そっちは何がいいのかな」
「カイルは食べ物より変な物のほうが喜びそうだよな」
「メイシーとテックにはお菓子だよね」
楽しそうに土産を買う話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。お食事は終わりましたか?」
「あ、ティリューダさん。いつもありがとうございます。終わってます」
フォスターはそう言いながら配膳用の台車へ使用済みの食器を乗せていく。
「リューナさん。先ほどの話ですが、もう良いですか?」
「は、はい」
ティリューダは朝食を運んだ際、早速リューナへ輝星石の話をしていた。昼食の高級店へ行く前にリューナの感じた方向の検証をするそうだ。計測石という神の石を利用したり、命の都や炎の都の上空に大事な人の星がある神官の指し示す方向と照らし合わせたり、精度の高い分度器などを駆使して見極めるらしい。
「はい、これ」
フォスターはリューナに輝星石を渡した。
「そんな難しく考えなくて大丈夫ですよ。ただ感じた方向を教えてくだされば良いんです」
「それが終われば良いお店に連れてってもらえるんだろ? 俺は訓練してくるから頑張ってこい」
妹の頭を軽く撫でて送り出そうとする。
「フォスターも一緒に来ればいいのに」
「そんなところで俺までご馳走になるのは申し訳ないし、それにお前を守るためにもっと強くならなきゃ」
それを聞いてリューナは少し顔が赤くなった。
「良い心掛けですね。訓練頑張ってください」
「はい。リューナをよろしくお願いします」
子どもを預ける親のようにリューナをティリューダに任せ、フォスターは一度自室へ戻り鎧を装着し訓練場へ向かった。
訓練場でレグンや顔馴染みとなった神衛兵たちに明後日帰る旨を伝える。
「もしかしたら明日で最後かもしれないから」
「すぐ戻れるんじゃないのか」
「まだわからない」
なんとなくだが、リューナの指し示した方角へ行くことになるのではと思っていた。そしてその予感は当たることになる。
訓練と仕事が終わり部屋へ戻ると食事を共にするためリューナの部屋へ行く。警備をしているダスタムに会釈して中へ入るとリューナはティリューダと一緒に待っていた。
「お帰りなさい、フォスター。今日連れていってもらったお店、とっても美味しかったよー!」
「そうか。良かったなあ」
演技とはいえ縛られるという酷い仕打ちに対する対価である。遠慮なくしっかり食べて来たようだ。満面の笑みで報告されたのだが、次の瞬間表情に影が射した。
「それでね、やっぱり命の都と炎の都の間辺りに何かあるみたいなの。おじいちゃん、なのかなあ……」
「都より手前かもしれませんので、一度そちらへ向かって確かめてみないと何とも言えませんね」
「そうですね……」
それまで黙って聞いていたビスタークが提案した。
『強くなりてえんならついでに命の都の訓練に参加してみたらどうだ』
「命の都の訓練は一番厳しいって話だったよな」
船で出会った綿神の町の神衛兵にそう聞いた。ビスタークの過去でも見ていたがそれを本人に言うわけにはいかないのでそう言っておいた。
「それにあいつの自宅があるなら一応見ておきたい」
『医者か。あっちの都の奴らが調べ終わってるのにか?』
「それでも俺たちならわかることもあるかもしれないし」
ちらりとリューナのほうを見る。
『ああ……神の子にしかわからないこともあるかもしれねえな……』
今はフォスターにしか聞こえない状態のため遠慮なくビスタークは言った。
「ただ、行くまでの道程が少し不安だけどな。かつら被ってれば大丈夫かな」
「各町に警戒するように伝えてありますのでだいぶ良くなったのではないかと思いますよ」
「ありがとうございます。それなら安心かな」
「じゃあ今度は命の都に行くの?」
「そうしようと思ってる。一回帰るならここからより行きやすいし」
リューナが少し不安げに伝える。
「うちの町にまた変な神衛が来たりしてないかな……」
「……どうだろう」
『水の都にいるってわかってたみたいだからそれは無いんじゃねえか』
「確かに。それなら水の都に籠ってると思って他のところは安全かもしれないな」
ティリューダが立ち上がり部屋の外へ向かう。
「それでは夕食をお持ちします。明日のお昼前には滞在費とお仕事の給料を清算してお渡ししますね」
「ありがとうございます」
ティリューダは部屋を出ていく前にフォスターへメモを渡していった。そのメモには例の拠点となっていた家の賃借人の名前と、別の都でもこの名前で家を借りたり買ったりしている者がいないか調べていると書かれていた。フォスターは書かれた名前に聞き覚えがあったが、リューナが知らないことだったため早めに妹とおやすみの挨拶を交わし自室へと戻った。
「アイサ=ノルケティスト。この名前って……」
『キナノスたちに近づいた女がアイサだったな』
「偽名だろうって言ってたからここから何もわかることは無いかもしれないけど……」
『他の都でも同じ名前で借りてるとは限らねえしな。調査の結果を待つしかない』
その夜はリジェンダに呼び出されることもなく、翌日を迎えた。
フォスターは水の都での最後の訓練を終え、清算金を受け取り、土産を見る前に変装したリューナと護衛のダスタムと共にキナノスたちの店へ挨拶をしに行った。ティリューダは仕事があるとのことで来なかった。
「そうか。明日帰るのか」
「はい。いつでもすぐに戻って来れるようになりましたので」
「こっちに来たらまた寄ってね」
「はい」
「……そちらのご両親に俺たちのことで迷惑をかけて申し訳ないと言っていたことを伝えてくれ」
「……はい」
キナノスが重い声で謝罪を伝えて手紙を渡してきた。養父母宛である。謝罪の言葉が書いてあるのだろう。
『そうだ。神官から金払われたか?』
「あの、神殿のほうからお酒のお金の追加分って届きましたか?」
フォスターがビスタークの通訳をする。
「ああ。あの次の日に受け取ったぞ。まだ足りないが」
「残りの分支払います」
「もういい。それより命の都へ行く話を神官から聞いた。親父を見つける捜索代に回してくれ。本当なら俺たちが動かなきゃならないのにすまない」
「本当にお願い。お父さんを見つけて。大変なことを頼んで申し訳ないけど……どんな結果でも受け入れるから」
「……はい」
「がんばります……」
リューナも真面目な表情で頷いた。今日は学校があるとのことで不在だったが、まだ子どもたちが手のかかる年齢では動けないだろう。別に動いてもらおうとは三人とも思っていなかった。挨拶を終えると商店街で土産物を買い込み神殿へ戻った。明日はようやく帰宅だ。今後のことを考えると気の重い部分もあるが、家に帰るのは兄妹どちらも楽しみにしていた。