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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
185 命都
 長い航海の末、ようやく命の都ライヴェロスの港へ到着した。

 ここの港は高さがあるため、乗り降りに反力石リーペイトは使わず、接岸してから長く太い丈夫な板を陸へ渡し、乗客を降ろしていくようだ。甲板に出て待っていると、ビスタークから指示を受けた。

『降りる前に輝星石ソウライトをリューナに使わせろ』
「あ、そうだった」

 フォスターは石袋をあさり輝星石ソウライトをリューナへ渡す。水の都シーウァテレスで何かを感じると言っていた方向を見極めるためである。

「リューナ、どうだ? どっちの方向だ?」
「うん……あっちかな……」

 リューナの指差した方向は命の都ライヴェロスではなかった。

炎の都フィルバルネスのほうかな……」
「何してんの?」
「大事な星の場所の確認」
「あー、リューナのおじいさん?」
『死んだと決まったわけじゃないけどな』
「えっと、ちょっともう一回やってみてくれる?」

 カイルに言われリューナはもう一度指差した。

「なんか、空の方向じゃない気がするんだけど」

 指は上を向いていなかった。

「あ、うん。そうなんだ」
水の都シーウァテレスからは遠いから上方向を指しててもわかりづらかっただけ、とも思ったんだけどな』

 リューナが悲しそうに訊く。

「おじいさん、亡くなってるってこと?」
「……わからない」
「でも、おじいさんじゃなくて、リューナの亡くなったお母さんかもしれないよ?」
「……」

 何も知らないカイルはそう言ったが、それはあり得ない。神の子に、母親はいない。

「おじいさん、悪霊になっちゃってたら、どうしよう……。それとも、お母さんが悪霊になってるの……?」
「……」
『まあ……俺みたいになってる可能性もあるし、生きてる可能性も無くはない』
「あ、もう降りないと。俺たちが最後かも」

 暗い空気をカイルが強制的に終わらせる。慌てて下船した。


「山?」
「……に見えるけどなあ」

 フォスターがビスタークの過去で見た景色と同じだった。山に見えるが斜めになった高い壁のような造りである。まるで山の斜面だけ残して真ん中の部分をくり抜いたようだった。それが二重になっていて、真上から見たら二重丸になっている形だ。

 その二重部分、斜面と斜面の間の土地は流通拠点になっているらしく、船の貨物は斜面に掘られた洞窟からそこへ運ばれていた。

 その近くに都へ入る手続きをする場所があった。一人ひとり呼ばれ質問される。リューナがフォスターと離れることに不安を口にしたが、女性の係員に丁寧な口調でここへ来た目的などを尋ねられた後、きちんとフォスターのところへ戻る案内をしてもらい安心していた。医療の街なので介助が必要な相手への対応も慣れているようである。

 この都に来た目的、出身地、滞在予定などを聞かれ、格納石ストライトの中まで荷物検査をされると解放される。身体検査まではされなかった。内側の斜面に掘られた二番目の洞窟から命の都ライヴェロスへと入る。出た先は広く、人であふれかえっていた。

「フォスター! カイル! その子はリューナ……だよね? こっちこっち!」
「あれ? この声って……」

 耳の良いリューナがまず気付いた。声のする方向を確かめると見覚えのある女性が手を振っている。

「あ、セレインさん……」
「やっぱりセレインさんの声?」

 フォスターは少し気まずい感じの声を出したがリューナは嬉しそうだった。八歳差のセレインにリューナは年の離れた妹のように可愛がられていたが、フォスターはもっと目の見えない妹を気遣うように、と当たりが厳しかったからだ。

 セレインはニアタと同じ紅茶色の髪を顎のあたりで切り揃え、前髪は髪留めで全て上に上げている。顔がニアタにそっくりなこともあり父親のマフティロが溺愛している。そのマフティロと同じ要素は眼鏡くらいである。他の兄弟とはあまり似ていない。この兄弟はそれぞれ別の親族の見た目を受け継いでいる感じである。

 そのセレインはカフェの屋外の席に座っていた。

「やっぱりリューナだ! お父さんから変装してるとは聞いてたけど、大きくなってたから最初はわからなかったよ!」
「えへへ。セレインさんたちが町を出てから身長が伸びたんです」
「あたしより高い! わー、大人っぽくなったね」
「私たちを待ってたんですか?」
「うん。今日錨神の町エンコルスからの船が着くって聞いてたからね。ちょうど実習が休みの日だったから、勉強しながら待ってたんだ」

 女子二人が再会を喜んだ後、セレインはフォスター達のほうを向いた。

「久しぶり。神衛かのえになる気になったんだね。結構似合ってるよ」
「あ、どうも……」
「カイルは何しに来たの?」
「ひどいなあ。見聞を広めるためですよ」
「冗談よ。あなたたち、お昼は食べたの?」
「まだです」
「じゃあ奢ってあげるから、お昼食べながら色々話しましょ」
「やったー! ありがとうございます!」

 喜んだのはリューナである。

命の都ライヴェロスってどんな料理があるのかなあって昨日話してたところだったんですよ」
「んー、あちこちから人が来るところだから、色々文化が混ざってて、そんなに特徴的な名物料理は無い気がするけど」
「じゃあ、色んなところの料理が食べられるってことですね!」

 おそらくセレインは期待しないで、という意味で言ったのだと思われるが、リューナは逆に期待したようだ。

 セレインの案内で軽食の屋台が集まる一角に用意されたテーブル席へ座った。

「じゃあ色々買って来るからここで待ってて。フォスターは料理運ぶの手伝ってくれる?」
「あ、ちょっと待ってください。カイル、これ持ってて」

 何かあったときのためにビスタークの鉢巻きをカイルが受け取る。二人をおいてフォスターは料理の運び役としてセレインについて行く。

「なんか、面倒なことになってるって聞いたんだけど、全部は教えてもらってないのよね」
「あ……はい」
「リューナには知られたくないみたいだったけど、カイルには?」
「ダメです」

 その話をするためにフォスターだけついてくるように言ったのだと思われた。

「そ。リューナが悪い人に狙われてるっていうのは皆知ってるのよね?」
「はい。リューナのお祖父さんの遺産狙いで、ということになっています」
「町に戻らないと本当のことは教えないって言われたけど、あれお父さんがあたしに会いたいだけじゃないの? フォスターからは教えてもらえないの?」
「まあそれもあると思いますけど……」

 フォスターはマフティロからの手紙と転移石エイライトをセレインへ渡した。

「ある程度はそれに書いてあると思います。俺の口から伝えるには重すぎるので、神殿のみんなから話を聞いたほうがセレインさんにも信じてもらえるかな、と」
「ふーん……。まあ、読んでみる」

 納得していないような怪訝な表情のまま、複数の屋台で色々と料理を注文した。待つ間に色々話す。

転移石エイライトって一瞬でその場所に戻れるのよね?」
「はい。俺の部屋に戻れる石があるので、今渡したのはセレインさんの部屋に戻れるようにすればすぐに行って帰ってこられます」
「それならまあ帰ってもいいけど、今の実習が終わってからにしてほしいな」

 実習の途中で実家に戻ると何をしてたか忘れそうだという。キリの良いときがいいとのことだ。

「あたしも兄さんのお嫁さんにちゃんと会って話がしたいしね」
「トヴィカさんとは話せてないんですか?」
通信石タルカイトでちょっと紹介してもらっただけだから。兄さんのどこが気に入ったのかじっくり聞いてみたいかな」

 何か思い出したようにセレインが切り出す。

「そういえば、結婚式をするって聞いたんだけど。うちの町で」
「あー……、はい」
水の都シーウァテレスでやったんだよね?」
「はい」
「なんで二回もやるの」
「俺に言われても……」

 フォスターが困った顔をするとセレインは軽く返す。

「まあ、それは確かにそうね。お祖父さまが言い出したっていうし」
「急に思い付いた感じだったので。ウォルシフは遠回しにやめるよう言ってたんですけど」
「あたしが帰ったら二回目の式をするんだろうな……とすると、準備とかあるだろうから部屋戻ったら家に連絡するか……。めんどくさいな……」

 今後の予定をぶつぶつ言いながら注文した料理を二人で受け取ると席へ一度置きに行った。
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