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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
194 入院
 神衛兵かのえへいに手枷と足枷、さらには猿轡をつけられたカイルは手配された馬車に乗せられ寝かされた。神衛兵が持っているクッキーの入った瓶を見て呻いている。瓶は二つあるが片方は空だった。

忘却石フォルガイト使えば大人しくなるんじゃ……」
「でもそれだと買った商人のことも忘れちゃうよね。それに中毒症状は治らないよ」
「そうか……」

 フォスターはテレクエルに忘却石フォルガイトの提案をしたが理由を聞いて納得した。「例の薬」の捜査をするためにはカイルから商人のことを聞き出さなくてはならない。フォスターはカイルと目が合った。その目は血走りものすごく睨まれている。呻きながら身体をくねらせてもがき始めた。まるで動物のようだ。

「ごめんな、カイル。あのクッキーには『例の薬』が使われてたんだよ。昔授業で教わっただろ? お前も『怖い』とか『俺は絶対やらない』とか言ってたじゃないか」

 フォスターがそう諭すように言うとカイルの動きが止まった。まだ呻いているが思い出したことで少し正気になってきたようだ。

「カイルは被害者だよ。拘束したのは暴れられると危ないから仕方なくだ」
「『薬』の影響が完全に無くなるまで入院してもらうよ。我慢して」

 テレクエルが横からカイルに今後のことを伝えた。

「頑張れ。『薬』なんかに負けるな! ……リューナが、心配してる」

 フォスターが励ますとカイルは大人しくなり、眉尻を下げて泣きそうな顔で頷いた。

 神殿併設の病院に着くと担架に乗せられカイルは運ばれて行った。それを見送った後、フォスターはリューナたちのことを神衛兵に訊く。セレインが実習のためリューナは部屋へ戻ったそうだ。ファイスールはカイルの入院の手配のため色々動いてくれているらしい。

「リューナには後で連絡するとして、俺はどうすればいいかな……」
「多分、入院長引くと思うから、カイルの借りてる部屋を引き払う手続きをしたほうがいいと思う。荷物もそのまんまだろ? さっきはそんな余裕無かったし」
「そうだな。やってくるよ」
「カイルに面会出来るようになったら教えるよ」
「うん、よろしくな、テレク。……あいつ、大丈夫なんだよな?」
「ここを何処だと思ってるんだ。命の、医療の都だぞ? ……まあ、本人は苦しいだろうけどね」

 テレクエルと別れた後、フォスターは不安がっているリューナへ連絡し、カイルはひとまず大丈夫だと伝えてから手続きを済ませた。

 夕食時、セレインからカイルのことを聞いた。ファイスールとテレクエルの双子は忙しいらしく同席しなかった。

「実習でカイルの様子見に行ったんだよね。早速取り調べが入ってたよ」
「何かわかりそうですか?」
「さあ……。カイルも顔しかわかんないみたいだし、正気じゃないときもあるから」
「そうですか……。今はどんな様子です?」
「手足を広げてベッドの四隅に縛られているような格好でね、苦しそうに呻いてたよ」
「カイル、かわいそう……」

 リューナの表情はずっと曇っている。

「水分とるのと食事をするために拘束したときみたく口は塞いでないんだ。静寂石キューアイトがあれば叫んでも周りに聞こえないし」
「ああ、なるほど」
「だからね……実習で部屋に入ったとたん聞こえてくるから、げんなりするんだ……」
「……大変ですね」

 自分もそうなっていたかもしれないと思うと寒気がした。
 
「もうちょっとしたらお見舞いできるようになると思うから、そしたら行ってあげて。あたしも担当を任されそうだから同席出来ると思う」
「カイルはリューナが行けばきっと喜ぶよ。最初拘束されて暴れてたときも、リューナの名前聞いたら落ち着いたしな」
「うん……。私のせいでカイルがひどい目にあってるんだもんね……」
「リューナのせいじゃないよ」
「リューナのせいじゃない」

 セレインとフォスターは同時に言った。

「……でも、私に出来ることがあるなら力になってあげたいな」
「うん。じゃあ見舞いに行こうな」

 リューナは頷いた。


 見舞いに行けたのはそれから数日経ってからだった。「薬」が抜けてきたから見舞いが可能になったのだが、本人が「食欲が無い」と言ってろくに食べないため、今度は衰弱してきたという。それに回数は減ったものの、発作はまだ少し残っているらしい。よってベッドに拘束されたままであった。

「カイル……」

 フォスターとリューナは同時に呟いた。カイルの顔色は悪く以前より痩せたため兄妹は心配になる。眠っているように見えたカイルはその声で目を開けた。

「悪い。起こしたか?」
「ううん……暇だから考え事してただけ……」

 カイルは弱々しく応えた。何と声をかければいいのかフォスターたちが迷っていると、カイルのほうから喋りかけられた。

「……来てくれて嬉しいよ。ごめん……迷惑かけて……」
「カイルが謝ることない! 私こそ、私が、狙われてるせいで、カイルがこんな目に……」

 リューナは目に涙を浮かべながらそう言った。

「泣かないで……俺の不注意だから……」

 リューナは頷いて涙を拭う。

「私に、何かできること、あるかな……」
「食事の手伝いをすればいいんじゃないか。顔色悪いし、痩せたし……リューナが食べさせてやったら元気出るかも」

 フォスターが提案したとたん、ドアを叩く音がした。

「あ、来てたんだ」

 入ってきたのはセレインだった。

「あたし予想通りここの担当になったんだ。今日からだけど」
「そうなんだ……よろしく……」

 カイルが弱々しく挨拶した。

「うちに連絡しといたから、パージェさんたちにも話がいってると思う」
「ええ……知られちゃったのか……」
「当たり前でしょ。親にこんな一大事知らせなくてどうすんのよ」
「カッコ悪いな……」
「もしかしたら向こうから連絡来るかも。だから安心させるためにもしっかり元気になりなさい!」
「うん……頑張る……」

 そこでビスタークが重い声でフォスターに圧をかけた。

『薬売った商人のことを訊け』

 母レリアの死の遠因になった「例の薬」について知りたいのだろう。フォスターも気になっていることなので素直に従った。

「カイル、そんな状態のときに悪いんだけど、クッキーを売ってきた商人のこと聞かせてくれないか」
「ああ、うん……。ここの神衛にも聞かれたけど……。俺より背が低くて、小太りな感じで……どうも一緒の船に乗ってたらしいんだ。見覚えある?」
「いや、わかんないな……」
『そんな奴たくさんいそうだしな』
「普通に会話出来たのか?」
「うん……。だって、その人に天火用の資材売ってるところ教えてもらったんだよ、うっ……」

 カイルは苦しそうに呻き始めた。中毒症状である。目を見開き、汗を流し、とても苦しそうだった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
「カイル、つらそう……」

 リューナが泣きそうな声で心配している。手探りでカイルの頭を撫でた。

「ありがとう……。リューナのおかげでちょっと落ち着いた……」
「うん……。ごめんね、これくらいしかできなくて……」
「ううん……幸せな気分だよ……。クッキー食べなくても、こんなに幸せな気持ちになれるんなら……もっと早くにこうしてもらえばよかったなあ……」

 カイルはそう言った後、目を閉じて反応が無くなった。

「カイル!?」
「大丈夫よ、眠っただけだから」

 セレインが焦ったフォスターとリューナに安心するよう伝えた。

「カイルの体は今『薬』と戦ってるんだよ」

 兄妹は深刻な表情で頷いて次の言葉を待つ。

「眠ってる間はこっちで出来ることは無いから、また後で……そうだなあ、夕食のときに来て」
「そうだな、そのときにリューナがカイルに食べさせてやるといいんじゃないか」
「いいね。それならカイルも食べるかも。昼もろくに食べなかったから、食べて体力つけてほしいね」
「うん……そうだね……」

 リューナは静かに頷いた。
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