【閑話2】(3)
その後は宿屋に戻り、自由時間だ。
トリオと僕の部屋へ戻ろうとすると、アリアが声をかけてきた。
「ユウって結構器用だよね」
「うん、まあ、どちらかというと」
「これから、魔道具の手入れをしようと思ってる。数が多くて時間がかかりそうだから、もし良かったら手伝ってくれないかな?」
「する」
先ほどの下心を未だ持ち合わせていた僕は、何も考えずに二つ返事をした。
トリオは僕の肩の上で「ユウ、疲れちょらんかったか?」と言ったが、アリアと僕を交互に確認して「串刺し女もおるし、まあ、後は若いモンでご自由に」と魔法で扉をあけ、部屋へ飛んでいった。
いや、この状況で、仮にマチルダさんがいなくても何もするつもりはないし、そもそも今まで何もしたことはない。
あの鳥、たまに物凄く俗物だ。
トリオが閉じた扉を開け、荷物を置いて、女性陣の部屋へ向かうことにした。
僕単体で扉をくぐると、ベッドに座っていたマチルダさんが聞いてきた。
「あら、バカ鳥はいないの?」
「トリオは寝てますよ」
「ふーん。まあ、飛ぶのって疲れそうだし、そもそもいても役に立たないか」
そんなマチルダさんの質問に答えていると、アリアは机に油紙を敷き、買ってきた玉を袋から一部出して並べた。袋にはまだまだあるし、総数は百や二百ではないだろう。
手を洗った後、アリアに指示された。
「この玉、半分に割るから、この札と魔石を入れるんだ。まず、最初にやってほしいことは、札を折って入れること」
「……自作だったんだ。これ」
「一部足すだけだけどね。売ってるのをバラすのって面白いよね」
その気持ちはよく分かる。
親指と人差し指で作った丸くらいの大きさの玉には呪文の式が書かれていた。多分、この表記を無視してはいけない。
「注意点は?」
「札をこういう風に四つ折りにして欲しい」
ゆっくり折り始めたアリア手元を見た後、同じように折った。アリアは目を丸くする。
「ユウ、本当に器用なんだね」
「そ、そうかな」
大したことではないと思うけど、褒められると悪い気はしない。気の合う可愛い女の子なら尚更だ。
「それでは宜しく。私はまず玉を割ろう」
アリアは玉を近づけ、慎重に割っていった。マチルダさんはアリアの手元を覗きこむ。
「わたしは何をやればいいの?」
「マチルダさんは、割った後の玉にユウが折った札と魔石を入れてほしい。見本を一つ作る」
割った玉に、ピンセットで札と魔石をいくつか詰めていく。マチルダさんは頷いて、同じ物を作った。
「オッケー。出来る出来る。並びの規則は分かったわ」
「マチルダさんはこういうの得意だものね」
「そうなのよ。わたし、案外こういうの出来るのよ」
ざっくりした性格のイメージに合わず、妙に計算に強かったり、こういう理論ぽいものの理解が早かったり、手先が器用だったり、意外な人だ。要は調理は完全に彼に任せていたのか。まあ、料理上手そうだものな。
これについて考えることは、声に出さなければいいという実証はとれている。彼女の記憶喪失前の姿を想像しながら、僕は札を折りたたんだ。
マチルダさんはその後、何パターンかの詰め方を仕組みをぱっと理解して手際よく作業していった。
しばらく黙々とやっていたら、空が暗くなった頃に作業は終わった。最後はアリアとマチルダさんで玉を再び閉じていたので、僕は机の掃除を担当した。玉には複雑な呪文の式も書いてあるので、不慣れな僕は手を出さなかったけど、マチルダさんは何回か質問した後、あっさり理解してアリアを手伝っていた。
この人、情緒はおかしいけど、こういうことに関しての多分めちゃくちゃ有能なんじゃないのかな。
やっぱり、かつてもこんな感じだったのかな。
そんな感じに作業が終了して大きく背伸びする僕とマチルダさんに、アリアはお茶を入れてくれた。
「本当にありがとう。早く終わった」
「いーわよー。でも、魔道具って面白いわね。あの魔石は札を玉に繋げるための着火剤みたいなものでしょ?」
マチルダさんの質問に、アリアは答えた。
「そう。魔力がある人なら必要ないんだけど、私は魔力がほとんどないから、魔石で全部やってるんだ」
「ってことは、わたしもそれ使えるの?」
「そうだね。使い方は後で教えるよ」
ぱあっと顔を明るくしたマチルダさんは、機嫌良くお茶を飲み干した。
僕とアリアがお茶を飲み干した頃にトリオがやって来た。さっきは少しあせていた羽根の色艶も少し良くなっている。体力が戻ったようで何よりだ。
「おわったんか?」
「終わったよ。ほら、ぎっしり」
アリアは袋をトリオに見せた。圧縮の魔法のかかったリュックに入れる前のため、なかなか部屋を占領している。
「ああ、魔法玉の威力を強化させちょったんか。魔石でも入れたのか? ようけ作ったのぅ」
「トリオ、知ってるの?」
再び封をした後の玉を見ただけで、ぱっと答えが分かったトリオに、僕は驚いた。
「昔、手伝わされちょったからな。作り方は叩き込まれたし、基本的なもんなら、材料さえあればワシでも作れんことはないな」
「使うの? 魔力高いのに?」
「使う人間の状態に関わらず一定の力が見込める魔法玉は、あればあるで結構便利じゃったし、仲間全員で持ってはおったな。高くも売れるし」
ふと、だったら旅立つ前にこれ作っていけば良かったんじゃないかとは思ったけど、まあ、ウヅキ村には材料がないか。口に出す前に僕は一人で完結した。
トリオの思い出話に対し、アリアは指摘した。
「今は決まりが厳しくなったので、正規ルートでない改造品を売ると犯罪だけどね」
「それは残念じゃな」
「……使うのはいいの?」
「個人の責任の範囲内なら」
アリアはさらっと言った。うん、機械もよく考えたら組み立てて新しい部品足したりするものな。それと一緒か。
その会話を聞いたマチルダさんはからっと笑った。
「まー、平気でしょ。アリアちゃんの今まで暴発したところ見たことないし。わたしもちゃんとやったわよ」
「一応確認したけど、マチルダさんのあの手先と判断力なら問題ないよ」
アリアはにこにことマチルダさんに微笑みかける。それをトリオはいぶかしげに見た。
「……この、編み目が抜けたザルの枠みたいな性格の串刺し女がそんなに信用できるんか?」
ぼそりと言ったトリオ。いや、まあ気持ちは分からなくもないけど。
聞いたマチルダさんは当然トリオに抗議する。
「何よ-、しっつれいね! わたし結構器用だし、あんたが思っているよりも頭いいのよ! この土砂降り後みたいなねちねちぐちぐち陰険バカ鳥が!」
「なんじゃその形状がのうなっちょるようなもん!」
「人間が鳥になってんだから形なんかあって無いようなもんよ!」
今回は一応トリオが悪いけど、喧嘩をかったマチルダさんもマチルダさんだ。
毎度恒例の口げんかをとりあえず無視することにして、僕はアリアを手伝った。魔法玉を圧縮の魔法のかかったリュックに詰める作業だから、入れる側とリュックを持つ側が必要なわけで、二人の方が早い。
「ユウ、ありがとう。おかげさまで助かったよ」
詰め終わった後、口元を曲げずに素直に微笑む美少女の表情は、とても可愛くて、とても魅力的だった。
「うん、どういたしまして」
それでも僕は緊張せずに、お礼の言葉に対し、素直に返すことが出来たのだった。
トリオと僕の部屋へ戻ろうとすると、アリアが声をかけてきた。
「ユウって結構器用だよね」
「うん、まあ、どちらかというと」
「これから、魔道具の手入れをしようと思ってる。数が多くて時間がかかりそうだから、もし良かったら手伝ってくれないかな?」
「する」
先ほどの下心を未だ持ち合わせていた僕は、何も考えずに二つ返事をした。
トリオは僕の肩の上で「ユウ、疲れちょらんかったか?」と言ったが、アリアと僕を交互に確認して「串刺し女もおるし、まあ、後は若いモンでご自由に」と魔法で扉をあけ、部屋へ飛んでいった。
いや、この状況で、仮にマチルダさんがいなくても何もするつもりはないし、そもそも今まで何もしたことはない。
あの鳥、たまに物凄く俗物だ。
トリオが閉じた扉を開け、荷物を置いて、女性陣の部屋へ向かうことにした。
僕単体で扉をくぐると、ベッドに座っていたマチルダさんが聞いてきた。
「あら、バカ鳥はいないの?」
「トリオは寝てますよ」
「ふーん。まあ、飛ぶのって疲れそうだし、そもそもいても役に立たないか」
そんなマチルダさんの質問に答えていると、アリアは机に油紙を敷き、買ってきた玉を袋から一部出して並べた。袋にはまだまだあるし、総数は百や二百ではないだろう。
手を洗った後、アリアに指示された。
「この玉、半分に割るから、この札と魔石を入れるんだ。まず、最初にやってほしいことは、札を折って入れること」
「……自作だったんだ。これ」
「一部足すだけだけどね。売ってるのをバラすのって面白いよね」
その気持ちはよく分かる。
親指と人差し指で作った丸くらいの大きさの玉には呪文の式が書かれていた。多分、この表記を無視してはいけない。
「注意点は?」
「札をこういう風に四つ折りにして欲しい」
ゆっくり折り始めたアリア手元を見た後、同じように折った。アリアは目を丸くする。
「ユウ、本当に器用なんだね」
「そ、そうかな」
大したことではないと思うけど、褒められると悪い気はしない。気の合う可愛い女の子なら尚更だ。
「それでは宜しく。私はまず玉を割ろう」
アリアは玉を近づけ、慎重に割っていった。マチルダさんはアリアの手元を覗きこむ。
「わたしは何をやればいいの?」
「マチルダさんは、割った後の玉にユウが折った札と魔石を入れてほしい。見本を一つ作る」
割った玉に、ピンセットで札と魔石をいくつか詰めていく。マチルダさんは頷いて、同じ物を作った。
「オッケー。出来る出来る。並びの規則は分かったわ」
「マチルダさんはこういうの得意だものね」
「そうなのよ。わたし、案外こういうの出来るのよ」
ざっくりした性格のイメージに合わず、妙に計算に強かったり、こういう理論ぽいものの理解が早かったり、手先が器用だったり、意外な人だ。要は調理は完全に彼に任せていたのか。まあ、料理上手そうだものな。
これについて考えることは、声に出さなければいいという実証はとれている。彼女の記憶喪失前の姿を想像しながら、僕は札を折りたたんだ。
マチルダさんはその後、何パターンかの詰め方を仕組みをぱっと理解して手際よく作業していった。
しばらく黙々とやっていたら、空が暗くなった頃に作業は終わった。最後はアリアとマチルダさんで玉を再び閉じていたので、僕は机の掃除を担当した。玉には複雑な呪文の式も書いてあるので、不慣れな僕は手を出さなかったけど、マチルダさんは何回か質問した後、あっさり理解してアリアを手伝っていた。
この人、情緒はおかしいけど、こういうことに関しての多分めちゃくちゃ有能なんじゃないのかな。
やっぱり、かつてもこんな感じだったのかな。
そんな感じに作業が終了して大きく背伸びする僕とマチルダさんに、アリアはお茶を入れてくれた。
「本当にありがとう。早く終わった」
「いーわよー。でも、魔道具って面白いわね。あの魔石は札を玉に繋げるための着火剤みたいなものでしょ?」
マチルダさんの質問に、アリアは答えた。
「そう。魔力がある人なら必要ないんだけど、私は魔力がほとんどないから、魔石で全部やってるんだ」
「ってことは、わたしもそれ使えるの?」
「そうだね。使い方は後で教えるよ」
ぱあっと顔を明るくしたマチルダさんは、機嫌良くお茶を飲み干した。
僕とアリアがお茶を飲み干した頃にトリオがやって来た。さっきは少しあせていた羽根の色艶も少し良くなっている。体力が戻ったようで何よりだ。
「おわったんか?」
「終わったよ。ほら、ぎっしり」
アリアは袋をトリオに見せた。圧縮の魔法のかかったリュックに入れる前のため、なかなか部屋を占領している。
「ああ、魔法玉の威力を強化させちょったんか。魔石でも入れたのか? ようけ作ったのぅ」
「トリオ、知ってるの?」
再び封をした後の玉を見ただけで、ぱっと答えが分かったトリオに、僕は驚いた。
「昔、手伝わされちょったからな。作り方は叩き込まれたし、基本的なもんなら、材料さえあればワシでも作れんことはないな」
「使うの? 魔力高いのに?」
「使う人間の状態に関わらず一定の力が見込める魔法玉は、あればあるで結構便利じゃったし、仲間全員で持ってはおったな。高くも売れるし」
ふと、だったら旅立つ前にこれ作っていけば良かったんじゃないかとは思ったけど、まあ、ウヅキ村には材料がないか。口に出す前に僕は一人で完結した。
トリオの思い出話に対し、アリアは指摘した。
「今は決まりが厳しくなったので、正規ルートでない改造品を売ると犯罪だけどね」
「それは残念じゃな」
「……使うのはいいの?」
「個人の責任の範囲内なら」
アリアはさらっと言った。うん、機械もよく考えたら組み立てて新しい部品足したりするものな。それと一緒か。
その会話を聞いたマチルダさんはからっと笑った。
「まー、平気でしょ。アリアちゃんの今まで暴発したところ見たことないし。わたしもちゃんとやったわよ」
「一応確認したけど、マチルダさんのあの手先と判断力なら問題ないよ」
アリアはにこにことマチルダさんに微笑みかける。それをトリオはいぶかしげに見た。
「……この、編み目が抜けたザルの枠みたいな性格の串刺し女がそんなに信用できるんか?」
ぼそりと言ったトリオ。いや、まあ気持ちは分からなくもないけど。
聞いたマチルダさんは当然トリオに抗議する。
「何よ-、しっつれいね! わたし結構器用だし、あんたが思っているよりも頭いいのよ! この土砂降り後みたいなねちねちぐちぐち陰険バカ鳥が!」
「なんじゃその形状がのうなっちょるようなもん!」
「人間が鳥になってんだから形なんかあって無いようなもんよ!」
今回は一応トリオが悪いけど、喧嘩をかったマチルダさんもマチルダさんだ。
毎度恒例の口げんかをとりあえず無視することにして、僕はアリアを手伝った。魔法玉を圧縮の魔法のかかったリュックに詰める作業だから、入れる側とリュックを持つ側が必要なわけで、二人の方が早い。
「ユウ、ありがとう。おかげさまで助かったよ」
詰め終わった後、口元を曲げずに素直に微笑む美少女の表情は、とても可愛くて、とても魅力的だった。
「うん、どういたしまして」
それでも僕は緊張せずに、お礼の言葉に対し、素直に返すことが出来たのだった。
ほのぼのとした様子で、閑話2終わりでございます。
次は閑話3です。
次は閑話3です。