11.(1)
同性に恋愛感情をもつ方ではないとは思うんだけど、遠目から見る彼の姿に、僕の顔は赤くなった。
「これは……反則でしょ」
そりゃベタ惚れるわ。
僕よりも若い女の子が、この顔に助けられて可愛がられていたら、よっぽど屈強な男性が好みでない限りは惚れちゃうだろうな。
二人の関係が、単にそれだけではないのは知ってるけど。
先ほどまで、アリアと二人でもじもじしていたんだけど、それすら吹っ飛んだ僕は彼女に言った。僕の横にいる美少女もちょっと考えられない位にとても可愛いんだけど、ずっと一緒で見慣れているのと、結局は本当の姿ではないと言うことで、その辺は冷静に見ることができる。
アリアもこくりと頷く。
「眼福至極ではあるよね。今はなきナセル族の純血は、神が与え給うた美しさって感じ」
ははは。とアリアは軽く笑った。
「本当にしゃれにならない……。確かに伝説の民の勇者だよ。周りもこんなだったってどんな故郷だよ」
「確かにトリオさんは故郷じゃ見かけもその他能力も並みではあったかな。年の離れた優等生の兄としっかりものの姉の背中に隠れてる、控えめでおっとりした末っ子だった。同い年の友達のが色々できて優秀だったし」
「……なるほど。理解した」
彼が妙に自分は大したことないと言い張るのは、何でも出来るお兄さんとお姉さんと友達がいたからか。子供の頃の性格は変わらないものなんだね。
「今はすっかり面倒臭い性格だけど、小さい頃はおっとりにこにこしてめちゃくちゃ可愛かったよ」
「今も喋り方はおっとりしてるし、顔はいいじゃん」
はあ、と僕は息を一つ吐いた。
ここ数週間、僕の肩にとまり続けていた赤いちょんまげを持った黄緑色の鳥の正体は、金髪緑目の中性的で甘い顔立ちの美青年だった。
幸いなことに、服は着ている。が、時代が違うと言うことを踏まえても、かなり緩いと思われる格好をしている。薄手のくったりした生地のシャツとズボンだ。
多分これ部屋着だ。ニルレンはトリオが部屋でくつろいでいるときに鳥にしたのか。
首には僕が持ってるお守り袋と似たようなものが揺れていた。
「タマ! ベン!」
マチルダさんと繋いだ手を離し、しゃがんだまま、トリオが真っ先に飛びついたのは、姿を戻してくれた恋人でもなく、三毛猫と猿だった。
これがタマとベンね。見た感じ年老いた猫と猿だ。
ベンはトリオに抱きついたが、タマの方はするりと逃げた。ベンを抱きしめたまま、トリオが抗議する。
「タマ、感動の再会じゃろうが!」
「何言ってるのよ。いつもあんたが抱きつこうとすると逃げるじゃない。自由にさせてあげなさいよ」
タマを抱き上げたマチルダさんはそのまま立ち上がり、しゃがみこんだトリオを見下ろす。彼は拗ねたように、マチルダさんを睨んでから立ち上がった。ベンのことは変わらず抱きしめて、頬を寄せている。
マチルダさんはすぐにタマを下ろし、立ち上がったトリオに顔を近づけた。トリオは軽く口を開け、こちらをちらりと見た後にマチルダさんの手を軽く握った。
少し呆けた顔をしても絵になるな……。
そこに、アルバートさんも歩いてきた。
立ち上がったマチルダさんとトリオの背丈を比べると、トリオの方が少し高いくらいのようだ。一般男性として普通ではある。でも、騎士としては低い方だろうし、高身長のアルバートさんに比べるととても小さく見える。
とはいえ、そんなことが気にならない程度に見かけが綺麗だし、身体つきはしっかりしている。
確かに騎士なんだろうな。
寄ってきたタマを見て、アリアはしゃがんだ。
「タマ、お疲れ様。私のこと分かる?」
アリアが笑顔で聞くと、タマは「ニャア」と鳴き、身体をすり寄せてきた。
猫、可愛いな。後ろでトリオの抗議の声が聞こえる気がするけど。気にせず、僕もしゃがんでタマの視線にできるだけ合わせる。タマはこちらをじっと見た。アリアが説明する。
「タマ、本当に色々ありがとう。で、こっちは、トリオさんの友達のユウ」
「ともだち……友達か」
数週間当たり前のように一緒にいて話していたけど、果たしてこれは友達なのだろうか。相手は大人だ。
二百年引いたとしても、十歳位離れている。
旅の仲間ってなんなんだろう。
とはいえ。
「うん。トリオと仲は良いよ。よろしく、タマ」
友達がいないと悲しんでいたトリオを思い出し、僕は頷いた。彼が嫌がらないのであれば、僕は今後もトリオと関わっていきたい。
タマは再びひと鳴きして、マチルダさんの方へ寄っていった。これが、どういう状況なのか、猫が身近にいた経験のない僕には分からない。
「嫌われてはいないよ。トリオさんに友達ができてよかったってさ」
首を捻る僕に、アリアが解説してくれる。
「あ、そうなんだ?」
「彼女は初対面の人間に、特に男性にやすやす気を許す存在ではないんだよ。嫌われていたら、一瞥もせず、鳴きもしないだろうね」
初対面ではないのに逃げられた存在を一人思い出した。
「……トリオは?」
「本当に嫌いだったら、マチルダの計画に手を貸さないさ。彼女にも選択権はあったからね。甘えているだけだよ」
猫の気持ちは分からない。
「これは……反則でしょ」
そりゃベタ惚れるわ。
僕よりも若い女の子が、この顔に助けられて可愛がられていたら、よっぽど屈強な男性が好みでない限りは惚れちゃうだろうな。
二人の関係が、単にそれだけではないのは知ってるけど。
先ほどまで、アリアと二人でもじもじしていたんだけど、それすら吹っ飛んだ僕は彼女に言った。僕の横にいる美少女もちょっと考えられない位にとても可愛いんだけど、ずっと一緒で見慣れているのと、結局は本当の姿ではないと言うことで、その辺は冷静に見ることができる。
アリアもこくりと頷く。
「眼福至極ではあるよね。今はなきナセル族の純血は、神が与え給うた美しさって感じ」
ははは。とアリアは軽く笑った。
「本当にしゃれにならない……。確かに伝説の民の勇者だよ。周りもこんなだったってどんな故郷だよ」
「確かにトリオさんは故郷じゃ見かけもその他能力も並みではあったかな。年の離れた優等生の兄としっかりものの姉の背中に隠れてる、控えめでおっとりした末っ子だった。同い年の友達のが色々できて優秀だったし」
「……なるほど。理解した」
彼が妙に自分は大したことないと言い張るのは、何でも出来るお兄さんとお姉さんと友達がいたからか。子供の頃の性格は変わらないものなんだね。
「今はすっかり面倒臭い性格だけど、小さい頃はおっとりにこにこしてめちゃくちゃ可愛かったよ」
「今も喋り方はおっとりしてるし、顔はいいじゃん」
はあ、と僕は息を一つ吐いた。
ここ数週間、僕の肩にとまり続けていた赤いちょんまげを持った黄緑色の鳥の正体は、金髪緑目の中性的で甘い顔立ちの美青年だった。
幸いなことに、服は着ている。が、時代が違うと言うことを踏まえても、かなり緩いと思われる格好をしている。薄手のくったりした生地のシャツとズボンだ。
多分これ部屋着だ。ニルレンはトリオが部屋でくつろいでいるときに鳥にしたのか。
首には僕が持ってるお守り袋と似たようなものが揺れていた。
「タマ! ベン!」
マチルダさんと繋いだ手を離し、しゃがんだまま、トリオが真っ先に飛びついたのは、姿を戻してくれた恋人でもなく、三毛猫と猿だった。
これがタマとベンね。見た感じ年老いた猫と猿だ。
ベンはトリオに抱きついたが、タマの方はするりと逃げた。ベンを抱きしめたまま、トリオが抗議する。
「タマ、感動の再会じゃろうが!」
「何言ってるのよ。いつもあんたが抱きつこうとすると逃げるじゃない。自由にさせてあげなさいよ」
タマを抱き上げたマチルダさんはそのまま立ち上がり、しゃがみこんだトリオを見下ろす。彼は拗ねたように、マチルダさんを睨んでから立ち上がった。ベンのことは変わらず抱きしめて、頬を寄せている。
マチルダさんはすぐにタマを下ろし、立ち上がったトリオに顔を近づけた。トリオは軽く口を開け、こちらをちらりと見た後にマチルダさんの手を軽く握った。
少し呆けた顔をしても絵になるな……。
そこに、アルバートさんも歩いてきた。
立ち上がったマチルダさんとトリオの背丈を比べると、トリオの方が少し高いくらいのようだ。一般男性として普通ではある。でも、騎士としては低い方だろうし、高身長のアルバートさんに比べるととても小さく見える。
とはいえ、そんなことが気にならない程度に見かけが綺麗だし、身体つきはしっかりしている。
確かに騎士なんだろうな。
寄ってきたタマを見て、アリアはしゃがんだ。
「タマ、お疲れ様。私のこと分かる?」
アリアが笑顔で聞くと、タマは「ニャア」と鳴き、身体をすり寄せてきた。
猫、可愛いな。後ろでトリオの抗議の声が聞こえる気がするけど。気にせず、僕もしゃがんでタマの視線にできるだけ合わせる。タマはこちらをじっと見た。アリアが説明する。
「タマ、本当に色々ありがとう。で、こっちは、トリオさんの友達のユウ」
「ともだち……友達か」
数週間当たり前のように一緒にいて話していたけど、果たしてこれは友達なのだろうか。相手は大人だ。
二百年引いたとしても、十歳位離れている。
旅の仲間ってなんなんだろう。
とはいえ。
「うん。トリオと仲は良いよ。よろしく、タマ」
友達がいないと悲しんでいたトリオを思い出し、僕は頷いた。彼が嫌がらないのであれば、僕は今後もトリオと関わっていきたい。
タマは再びひと鳴きして、マチルダさんの方へ寄っていった。これが、どういう状況なのか、猫が身近にいた経験のない僕には分からない。
「嫌われてはいないよ。トリオさんに友達ができてよかったってさ」
首を捻る僕に、アリアが解説してくれる。
「あ、そうなんだ?」
「彼女は初対面の人間に、特に男性にやすやす気を許す存在ではないんだよ。嫌われていたら、一瞥もせず、鳴きもしないだろうね」
初対面ではないのに逃げられた存在を一人思い出した。
「……トリオは?」
「本当に嫌いだったら、マチルダの計画に手を貸さないさ。彼女にも選択権はあったからね。甘えているだけだよ」
猫の気持ちは分からない。