11.(8)
マチルダさん曰く。
僕の世界と、アリアや創造神がいる世界の繋がりを切断するためには、アリアの他に強い力を扱える存在が必要らしい。
それを行うためトリオはアリアに呼ばれたし、それを防ぐためにトリオはマチルダさんに呼ばれた。
魔王を倒す勇者という特別な一族であることから、ナセル族は単に力が強いだけでなく少し特殊らしい。よく分からないけど、この世界の操作の権限が少しだけ与えられているとのこと。
「何があっても魔王を倒せるように、ナセル族は力が強いし、特に勇者は緊急措置的に強いらしいわよ」
そういうことで、マチルダさんはこう結論付けた。
世界を操作できる勇者の力と、それを強化できる魔法使いと魔王の力を与えたトリオであれば向こうに干渉できるし、上の世界にいるアリアとやりとりが出来るはずだと。
トリオがやらされたのは、タマがもよおすように取り込ませてた通称傑作をナセル族の力で起動させること。また、唯一あちらに介入できる存在として、アリアにこちらに戻れと伝えることを担当としていたらしい。
ちなみに、傑作の機能は、外の世界からの介入を拒否、及び許可した存在を一回だけ通過させるというものだ。アリアに貼り付けたのは、一回だけ使える許可証を発行する装置だとか何とか。
「まあ、わたしたちがやれることはもうないわ。わたしの設計とアルバートさんの導入作業は問題ないわけだし、トリオを信じて待つしかないのよね」
タマの背中を撫でながら、マチルダさんは言った。ベンは僕にもたれかかって寝ている。
アルバートさんは、少し仕事をしてくると階段を上がっていった。
僕とマチルダさん、タマとベンもさっき交替で休憩を取った。食料は一応あるけど、アルバートさんから頂いたお弁当は美味しかった。
僕はマチルダさんに聞く。
「いつ戻ってくるって算段つかないんですよね」
「まあねえ。こればっかりは試せないし」
うーん、と言いながらマチルダさんは首を傾けた。
「アリアはともかく、トリオはそんなにかからないとは思うんだけど……、うーん、せめて十年以内にはケリつけてくれないかしら」
なかなか壮大なことをマチルダさんは言った。僕は首を大きく振った。
「いや、僕、そこまでは待てないんですけど。学校あるし、一週間くらいかな」
「大丈夫よ! そのときは、アルバートさんとタマとベンに神殿の様子は見てもらって、わたしがユウ君送り届けるし!」
二人でとりとめもない会話をしながら、一日目が終わった。アルバートさんが、神殿の宿坊を貸してくれるとのことで、そこで交替で休んだ。
僕は両親に、トリオの姿が戻ったことと、もう少しハヅに滞在することを書いた手紙を送った。
二日目、「困ったらいつでも管主の部屋に来てくれ」と言い、アルバートさんはお弁当を置いて仕事に出かけた。
相変わらず、僕とマチルダさんとタマとベンは二人を待っている。一緒にいる内に、少しはこの頭の良い猫と猿の生態が分かってきたかもしれない。
マチルダさんと話していたら、僕のところに『たまたま』トリオが来た理由が分かった。
「え、これ、マチルダさんが作ったんですか?」
僕は右手で左側の袖口を掴んだ。マチルダさんは頷く。
「そうそう。研究所の所属の友達と共同研究したのよ。私は公式構成で、公式を布に織り込む実作業の理論は友達よ」
「え、凄い」
「懐かしいわねー。研究所のみんなは……まあ、亡くなってるか」
苦笑いしながら、マチルダさんは僕の服の裾を指差した。そこには母さんが縫い付けているピカピカ光る布がある。
トリオにはいなさそうだったけど、マチルダさんにはそれなりに友達がいたようだ。
まあ、二人の周りにいた人の違いだろうけど。
トリオの周りにいたのは、騎士を代々担うような良い家柄のご家庭出身か、騎士を目指すような血気盛んな体育会系の一般家庭出身だ。後ろ向きでおとなしい、見た目だけはやたらキラキラしているトリオとは相性が悪そうだ。
マチルダさんはトリオと比べてかなり人に気を使わない人だけど、母さんの知り合いを思い出す限り、研究所ならそういう人も多そうだ。変わった人たち同士で上手くやっていたのかもしれない。
そんなマチルダさんが、母さんがひたすら服に縫い続けているピカピカの布の説明をしてくれた。
「これね、新しい勇者の情報を公式化して織り込んでるの。同期には旅で見つけた魔除けと伝えてたけど、まあ間違ってはないわよね。あちらこちらに勇者の力をバラまいて、誤認識させてやろうかと思って、ちょっと作ってみた」
僕は納得した。
「ああ、だから結構効くんですね。この布最近親が服に付け始めたんですけど、確かに前よりも人に気付かれるようになったんですよね」
前は大声を出しても気づかれない時が多かった。今は大声を出したら気づかれてる気がする。
マチルダさんは明るく微笑んだ。
「そうなのね。便利に使ってくれているなら嬉しいわ。量産できたのね」
僕は首を捻る。
「量産はどうなんでしょうね。母親は会社の大掃除で試作品の棚から見つけてきたっていってましたけど」
「……大掃除」
「うちの母、最近は裁縫が好きで、その布は僕の服に縫い付ける他に、父の弁当箱入れと、水筒カバーと、本カバー作ってましたよ。僕はさすがにそんなピカピカした弁当箱入れとか嫌なんで拒否しましたけど」
父さんは物凄く喜んで絶賛して使っているけど、母さんは正直そんなに上手くないんだよね。母さんはポーションの開発は得意だけど、手先は父さんよりも不器用だし。
そんな僕の言葉にマチルダさんは呟く。
「……弁当箱入れと水筒カバーと本カバー」
マチルダさんの顔はやや曇った。ベンがぽんぽんと僕の肩を叩く。
はっと気づき、僕は焦った。
「と、トリオも母親がぬったお守り袋つけてましたよ! トリオにも効果があったはずですよ!」
僕のフォローにマチルダさんは頷いた。
「そうね。そんな具合が良い展開は期待してなかったけど、確かに、勇者の属性をつけるためのダメ押しにはなったかもしれないわね」
機嫌が直ったマチルダさんは再び布の効果の話をし始めた。
「その布には勇者の力と同等の構造の式を大量に組み込んでいるから、トリオも引きつけられたのかもね。もともとトリオはここまで確実に来られるように、新しい勇者に引き合わせようと思ってたし」
「よく布のある倉庫にたどり着かなかったですね」
その理論だと、ワシスの倉庫に行ってもおかしくない。あの時母さんは泊まりで首都の研究所にある本社に出向いていた。
マチルダさんは再び首を捻る。
「うーん。それは……まあ、ウヅキ村だし、お父さんが一番布を身につけていたんじゃないかしらね。沢山持っていたんでしょう?」
「そりゃあ、あの布、どん引くほどもらって帰って、父親も身に着けまくってましたけど」
うわ、うちの父親その瞬間一番勇者だったのか。
僕はマチルダさんと最初にあった頃にみた夢を思い出す。
父さんが選ばれた訳ではないとはいえ、勇者というのは全くの間違いでもなかったんだね。正夢といえば正夢だ。
ウヅキ村に伝わるラブソングを思い出しながら、僕は気になることを聞いた。
「でも、ウヅキ村がどうしたんですか?」
「ああ、わたしとトリオが住み始めたのウヅキ村だもの」
表情を変えず、サラリと言った内容には、驚きの情報が含まれていた。
「てことは、近場のお父さんに引き付けられたのかしらね。ワシスは遠いし。あと、アリアが次の勇者はそこだって言ってた気もするから、それも関係あるのかも……」
続ける僕はマチルダさんを止めた。
「どちらも新しい情報です! トリオ、ウヅキ村に住んでたって、一言もそんなこと言ってなかったですよ!」
「そうなの? まあ、何か思うところあったんじゃないのかしら? 知らないけど」
僕の興奮とは逆に、マチルダさんは結構どうでも良さそうだ。
「どこに、どこに住んでいたんですか!」
聞くと、中心部から少し離れた村はずれのようだ。ワシス寄りに位置する僕の家からは少し離れている。今は住む人が少し増えた気がするけど、閑散とした場所だな。
知り合いがその辺りに住んでいた気もする。
「というか、勇者、誰それ!」
「ユウ君じゃないのは確かだけど、知らないわよ。興味なかったし」
マチルダさんは、これについてもどうでもいいらしい。僕は抗議する。
「えー、何でそこまで興味ないんですか!」
「だって、経緯がどうあれ、わたしが勇者だし!」
マチルダさんは右手の親指で自分を指差した。
「……なるほど」
格好いいな。
「まあ、勇者になれるほどの力を持っているんだから、そのうち台頭してくるんじゃないの? 知らないけど。世界が創造主の影響を受けなくたって、それはそれで世界独自で色々起こるでしょうしね。能力がある人間を世は放っておかないでしょ。知らないけど」
物凄くあやふやな情報をマチルダさんは伝えてくれる。
「そんな前勇者だったはずのトリオは力一杯逃げようとしている気がするんですけど」
僕の言葉にマチルダさんは苦笑いする。
「……まあ、あそこまで極端な性格だと、たまたま生き残っただけで、他の人が勇者だった可能性は否定できないわよね。もしくは生き残った誰か一人を勇者にしようとしたのかもしれないし、単にトリオの性格をうっかりいじりすぎてしまったのかもしれない」
そんな問いの正解は僕たちには分からない。
「まあ、さ、トリオはこっちの都合で動かしまくったから、さすがに少しは本人の望む平凡な生活を提供してあげたいとは思ってるわよ。だから、知らない新しい勇者なんてどうでもいいわ」
心の底から興味のなさそうなマチルダさんの態度に不服な顔を見て、彼女は顔を僕に近づけてきた。僕は一歩下がる。
「そんなことよりも、未来の話よ! 制限もなくなったから、これから色々な技術が進化するわよ! 魔工学はこれから急速に発展を遂げると思うから、ユウ君も一番楽しい時期に勉強できていいと思うわ」
マチルダさんはパンと手を叩いた。
「ほら、最新の技術も知りたいし、参考書と課題持ってきなさい! 勉強よ!」
それは素直に受け入れることにして、圧縮の魔法をかけて一応荷物の奥底に入れていた参考書と課題を取り出した。
教えてもらった結果。
マチルダさんは専門分野については本当に優れていた。
僕の世界と、アリアや創造神がいる世界の繋がりを切断するためには、アリアの他に強い力を扱える存在が必要らしい。
それを行うためトリオはアリアに呼ばれたし、それを防ぐためにトリオはマチルダさんに呼ばれた。
魔王を倒す勇者という特別な一族であることから、ナセル族は単に力が強いだけでなく少し特殊らしい。よく分からないけど、この世界の操作の権限が少しだけ与えられているとのこと。
「何があっても魔王を倒せるように、ナセル族は力が強いし、特に勇者は緊急措置的に強いらしいわよ」
そういうことで、マチルダさんはこう結論付けた。
世界を操作できる勇者の力と、それを強化できる魔法使いと魔王の力を与えたトリオであれば向こうに干渉できるし、上の世界にいるアリアとやりとりが出来るはずだと。
トリオがやらされたのは、タマがもよおすように取り込ませてた通称傑作をナセル族の力で起動させること。また、唯一あちらに介入できる存在として、アリアにこちらに戻れと伝えることを担当としていたらしい。
ちなみに、傑作の機能は、外の世界からの介入を拒否、及び許可した存在を一回だけ通過させるというものだ。アリアに貼り付けたのは、一回だけ使える許可証を発行する装置だとか何とか。
「まあ、わたしたちがやれることはもうないわ。わたしの設計とアルバートさんの導入作業は問題ないわけだし、トリオを信じて待つしかないのよね」
タマの背中を撫でながら、マチルダさんは言った。ベンは僕にもたれかかって寝ている。
アルバートさんは、少し仕事をしてくると階段を上がっていった。
僕とマチルダさん、タマとベンもさっき交替で休憩を取った。食料は一応あるけど、アルバートさんから頂いたお弁当は美味しかった。
僕はマチルダさんに聞く。
「いつ戻ってくるって算段つかないんですよね」
「まあねえ。こればっかりは試せないし」
うーん、と言いながらマチルダさんは首を傾けた。
「アリアはともかく、トリオはそんなにかからないとは思うんだけど……、うーん、せめて十年以内にはケリつけてくれないかしら」
なかなか壮大なことをマチルダさんは言った。僕は首を大きく振った。
「いや、僕、そこまでは待てないんですけど。学校あるし、一週間くらいかな」
「大丈夫よ! そのときは、アルバートさんとタマとベンに神殿の様子は見てもらって、わたしがユウ君送り届けるし!」
二人でとりとめもない会話をしながら、一日目が終わった。アルバートさんが、神殿の宿坊を貸してくれるとのことで、そこで交替で休んだ。
僕は両親に、トリオの姿が戻ったことと、もう少しハヅに滞在することを書いた手紙を送った。
二日目、「困ったらいつでも管主の部屋に来てくれ」と言い、アルバートさんはお弁当を置いて仕事に出かけた。
相変わらず、僕とマチルダさんとタマとベンは二人を待っている。一緒にいる内に、少しはこの頭の良い猫と猿の生態が分かってきたかもしれない。
マチルダさんと話していたら、僕のところに『たまたま』トリオが来た理由が分かった。
「え、これ、マチルダさんが作ったんですか?」
僕は右手で左側の袖口を掴んだ。マチルダさんは頷く。
「そうそう。研究所の所属の友達と共同研究したのよ。私は公式構成で、公式を布に織り込む実作業の理論は友達よ」
「え、凄い」
「懐かしいわねー。研究所のみんなは……まあ、亡くなってるか」
苦笑いしながら、マチルダさんは僕の服の裾を指差した。そこには母さんが縫い付けているピカピカ光る布がある。
トリオにはいなさそうだったけど、マチルダさんにはそれなりに友達がいたようだ。
まあ、二人の周りにいた人の違いだろうけど。
トリオの周りにいたのは、騎士を代々担うような良い家柄のご家庭出身か、騎士を目指すような血気盛んな体育会系の一般家庭出身だ。後ろ向きでおとなしい、見た目だけはやたらキラキラしているトリオとは相性が悪そうだ。
マチルダさんはトリオと比べてかなり人に気を使わない人だけど、母さんの知り合いを思い出す限り、研究所ならそういう人も多そうだ。変わった人たち同士で上手くやっていたのかもしれない。
そんなマチルダさんが、母さんがひたすら服に縫い続けているピカピカの布の説明をしてくれた。
「これね、新しい勇者の情報を公式化して織り込んでるの。同期には旅で見つけた魔除けと伝えてたけど、まあ間違ってはないわよね。あちらこちらに勇者の力をバラまいて、誤認識させてやろうかと思って、ちょっと作ってみた」
僕は納得した。
「ああ、だから結構効くんですね。この布最近親が服に付け始めたんですけど、確かに前よりも人に気付かれるようになったんですよね」
前は大声を出しても気づかれない時が多かった。今は大声を出したら気づかれてる気がする。
マチルダさんは明るく微笑んだ。
「そうなのね。便利に使ってくれているなら嬉しいわ。量産できたのね」
僕は首を捻る。
「量産はどうなんでしょうね。母親は会社の大掃除で試作品の棚から見つけてきたっていってましたけど」
「……大掃除」
「うちの母、最近は裁縫が好きで、その布は僕の服に縫い付ける他に、父の弁当箱入れと、水筒カバーと、本カバー作ってましたよ。僕はさすがにそんなピカピカした弁当箱入れとか嫌なんで拒否しましたけど」
父さんは物凄く喜んで絶賛して使っているけど、母さんは正直そんなに上手くないんだよね。母さんはポーションの開発は得意だけど、手先は父さんよりも不器用だし。
そんな僕の言葉にマチルダさんは呟く。
「……弁当箱入れと水筒カバーと本カバー」
マチルダさんの顔はやや曇った。ベンがぽんぽんと僕の肩を叩く。
はっと気づき、僕は焦った。
「と、トリオも母親がぬったお守り袋つけてましたよ! トリオにも効果があったはずですよ!」
僕のフォローにマチルダさんは頷いた。
「そうね。そんな具合が良い展開は期待してなかったけど、確かに、勇者の属性をつけるためのダメ押しにはなったかもしれないわね」
機嫌が直ったマチルダさんは再び布の効果の話をし始めた。
「その布には勇者の力と同等の構造の式を大量に組み込んでいるから、トリオも引きつけられたのかもね。もともとトリオはここまで確実に来られるように、新しい勇者に引き合わせようと思ってたし」
「よく布のある倉庫にたどり着かなかったですね」
その理論だと、ワシスの倉庫に行ってもおかしくない。あの時母さんは泊まりで首都の研究所にある本社に出向いていた。
マチルダさんは再び首を捻る。
「うーん。それは……まあ、ウヅキ村だし、お父さんが一番布を身につけていたんじゃないかしらね。沢山持っていたんでしょう?」
「そりゃあ、あの布、どん引くほどもらって帰って、父親も身に着けまくってましたけど」
うわ、うちの父親その瞬間一番勇者だったのか。
僕はマチルダさんと最初にあった頃にみた夢を思い出す。
父さんが選ばれた訳ではないとはいえ、勇者というのは全くの間違いでもなかったんだね。正夢といえば正夢だ。
ウヅキ村に伝わるラブソングを思い出しながら、僕は気になることを聞いた。
「でも、ウヅキ村がどうしたんですか?」
「ああ、わたしとトリオが住み始めたのウヅキ村だもの」
表情を変えず、サラリと言った内容には、驚きの情報が含まれていた。
「てことは、近場のお父さんに引き付けられたのかしらね。ワシスは遠いし。あと、アリアが次の勇者はそこだって言ってた気もするから、それも関係あるのかも……」
続ける僕はマチルダさんを止めた。
「どちらも新しい情報です! トリオ、ウヅキ村に住んでたって、一言もそんなこと言ってなかったですよ!」
「そうなの? まあ、何か思うところあったんじゃないのかしら? 知らないけど」
僕の興奮とは逆に、マチルダさんは結構どうでも良さそうだ。
「どこに、どこに住んでいたんですか!」
聞くと、中心部から少し離れた村はずれのようだ。ワシス寄りに位置する僕の家からは少し離れている。今は住む人が少し増えた気がするけど、閑散とした場所だな。
知り合いがその辺りに住んでいた気もする。
「というか、勇者、誰それ!」
「ユウ君じゃないのは確かだけど、知らないわよ。興味なかったし」
マチルダさんは、これについてもどうでもいいらしい。僕は抗議する。
「えー、何でそこまで興味ないんですか!」
「だって、経緯がどうあれ、わたしが勇者だし!」
マチルダさんは右手の親指で自分を指差した。
「……なるほど」
格好いいな。
「まあ、勇者になれるほどの力を持っているんだから、そのうち台頭してくるんじゃないの? 知らないけど。世界が創造主の影響を受けなくたって、それはそれで世界独自で色々起こるでしょうしね。能力がある人間を世は放っておかないでしょ。知らないけど」
物凄くあやふやな情報をマチルダさんは伝えてくれる。
「そんな前勇者だったはずのトリオは力一杯逃げようとしている気がするんですけど」
僕の言葉にマチルダさんは苦笑いする。
「……まあ、あそこまで極端な性格だと、たまたま生き残っただけで、他の人が勇者だった可能性は否定できないわよね。もしくは生き残った誰か一人を勇者にしようとしたのかもしれないし、単にトリオの性格をうっかりいじりすぎてしまったのかもしれない」
そんな問いの正解は僕たちには分からない。
「まあ、さ、トリオはこっちの都合で動かしまくったから、さすがに少しは本人の望む平凡な生活を提供してあげたいとは思ってるわよ。だから、知らない新しい勇者なんてどうでもいいわ」
心の底から興味のなさそうなマチルダさんの態度に不服な顔を見て、彼女は顔を僕に近づけてきた。僕は一歩下がる。
「そんなことよりも、未来の話よ! 制限もなくなったから、これから色々な技術が進化するわよ! 魔工学はこれから急速に発展を遂げると思うから、ユウ君も一番楽しい時期に勉強できていいと思うわ」
マチルダさんはパンと手を叩いた。
「ほら、最新の技術も知りたいし、参考書と課題持ってきなさい! 勉強よ!」
それは素直に受け入れることにして、圧縮の魔法をかけて一応荷物の奥底に入れていた参考書と課題を取り出した。
教えてもらった結果。
マチルダさんは専門分野については本当に優れていた。