残酷な描写あり
第二十五話 手紙
何処から話せばいいんだろう、あの時の記憶は曖昧でよく覚えて居ないんだ。記憶として焼き付いているのはメルの亡骸の前でずっと泣いていた事、それから先生が最下層へ降りてきたときの様子。ギリギリの戦いだったんだと一瞬で分かった、右手が綺麗に切断されている先生の姿を見て僕達は心底驚いた。それほどまでにあの最狂と呼ばれた男は強かったんだと。真っ先に先生がメルの亡骸を見て驚いていたのは覚えてる、どうやってここまで来たのか、そしてなぜ彼女が居たのか。その質問攻めは暫くしてから受けた。あの時の僕は大事な人を亡くした事それだけが頭の中いっぱいだったんだと思う。どうやってあの洞窟から抜けたのかも覚えていないぐらいだ。
アデルが言うには僕がメルを抱きかかえてあの長い階段を上ったのだという、全く持って記憶にない。瑠璃? それは先生が破壊しようと色々と試したけど結果駄目だった。仕方なくもう一度溶岩の中へと放り投げて認識疎外の結界を施してきたらしい、再び人の目に触れぬよう、二度と人前に姿を現さぬようそう願って。
同じようにあの洞窟にも以前より強力な結界を施してきたそうだ、それは僕がやったらしいんだけどさっぱり覚えていない。その後僕の記憶があるのは僕とメルが最初に出会った場所に彼女を埋葬した所から始まる。小さな山でそこから見る街の景色は綺麗だった。そこで僕とメルは出会った、その場所にメルを亡骸を埋めて小さな墓を作って僕達は帰ってきた。アリス姉さんが先生の姿を見て凄く泣いていたのをよく覚えている、それ以上に僕達はアリス姉さんに告げる事に胸を痛めていた。メルが死んだことを告げるとプリムラはその場に泣き崩れていたっけ、僕だって泣きたかった。同じようにして泣きたかったんだ。今この場に居る誰よりも僕がメルの事を思っていたんだ、好きだった。あの子が好きだった。それでも僕は泣くのを我慢した、ここで泣いちゃメルに笑われる気がして。
その日の夜、アリス姉さんが一通の手紙を僕に渡してくれた。それはメルが僕に宛てた手紙だった。その手紙には彼女が何者で、何で僕の前に現れたのか、そしてこれを読んでいるときはきっとメル自身がもうこの世に居ないことを予言するかのように綴られていた。僕は受け止めることが出来なかった、こんなの……まともに受け止めたら狂ってしまう! もうメルの事で泣かないと決めていたはずなのに涙が溢れた、止まらなかった。あふれだす涙を拭っても拭ってもまた目から溢れてくるんだ、その日僕はメルの部屋で泣き続けた。
手紙の内容によるとメルは人間ではないらしい、二千年前のおとぎ話の中で語り継がれなかったカルバレイセスという女性が作り出した人造人間だという。メルは長い時の中世界に漂う幻魔因子を追って彷徨って来たらしい。幻魔因子とは幻魔一族の残留思念の様なもので長い事人前に現れることは無かったのだが近年それを感じ取っていたらしい。もちろん先生にもこの話をした、驚いた様子で幻魔について研究を始めるとの事だった。全てがおとぎ話の中の戦争で終わる話ではないと確信したんだそうだ。僕にはまだ良く分からない、しかしエルビーは言っていた。幻魔の復活がどうと、そしてあれもまたその一族であると。普通に考えればただの世迷言にも聞こえるだろうけど僕達はあの時見たんだ、人間とは異なる異質な存在を。にわかには信じがたい話がその手紙にはそう綴られていた、二千年前に何が起きたのか、幻魔一族がこの星に何をしたのか。そして彼女が見てきた世界の歴史が綴られている。
メルの可愛い字で一つ一つ正確に。所々文字が霞んでいるところがある、きっと彼女の涙だ。これをどんな気持ちで僕に宛てたのか、それは今となっては分からない。できれば彼女自身の口からそれを聞きたかった。最後のほうには僕に宛てたメッセージが書かれている、その時は何が書いてあるのか読めなかった。涙が邪魔をして視界を歪めてしまう。でも書いてあることは伝わってきた気がする。彼女の文字は確かにそれを綴っていた。
あの事件以来、帝国内部で慌ただしい編成があったとか。先生の元に尋ねてくるギルドメンバーからそんな噂話を聞いた。当然と言えば当然かもしれない、あれほどの力を持った兵士が二人も亡くなったのだ。あれ以上の存在がまだ帝国に居るのか分からないけどこれでしばらくは大人しくなるだろうと先生が言っていた。それを聞いて一安心していた僕達は半年ほど先生の元で修業を続けていた。あのお医者さんも中央大陸へと渡ってきて今じゃメリアタウンを拠点に僕達の事を広めているらしい。メンバーも集まってきたので近いうちにこちらへ戻ってきてほしいと連絡が先日あったばかりだ。あのお医者さんと会うのも久しぶりだ。
幻魔に関する情報は予想以上に集まってきた、ギルドから提供されるその内容はどれも信憑性がある物ばかり。流石と言うべきだ。僕達だけじゃ知りえない情報を大量に持ち込んできてくれた、それに加えて先生の家に何名か連絡係を常駐させることにもなっていた。彼らの使う通信器具には本当に驚かされる。遠くに居るメンバーとのコンタクトも一瞬で取れる優れものだ。僕達が先生から譲り受けたあの器具より遥かに便利なものだった。現在分かっていることは古の大戦は本当にあった物、そしてあの瑠璃こそ復活に必要な術具の一つである事。レイヴンが言っていたことを思い出してほしい。
神苑の瑠璃とはきっと僕達人間が付けた勝手な名前で本当の名前は幻魔宝珠と言う。後から分かった話だけど、レイヴンはあのエルビーによって洗脳されていたそうだ。帝国の中にもギルドの工作員が紛れ込んでいる。そこからの情報だった、ある日を境に特殊任務部隊は幻魔宝珠を追う事だけを目標としていたらしい。その境目となる日、それはエルビーとの接触だった。東大陸に遠征に来ていたレイヴンはその日を境に人が変わってしまったのだと。でもこれで終わりじゃないはず、メルの手紙の内容が本当であればまだ何かが起きる。幻魔因子は一つじゃないらしい。少なくとももう一ついることが分かっている、それを追っていたメルだったが気づかれたのか気配が消えてしまったらしい。そこでもう一つの気配を感じ取りエルビーをマークしていた。そう手紙には書いてあった。
一度に大きなことがいくつも起こりすぎて僕達の頭はパンク寸前だった、纏めようにも何から纏めればいいのかが分からない。この研究に関しては先生に丸投げにすることになった。肝心の先生はというと右腕を失ったためか完全に前線からは身を引くこととなる。剣聖の称号は僕が引き継ぐことになった、何故アデルじゃないのか? それは先生の弦の一言だ。修行不足の身で何が剣聖か、剣帝で我慢しなさい。もちろんアデルはその事に腹を立てたがプリムラが冷静になだめてくれたお陰でその場は落ち着いた。それでもあの表情と言ったら、これ以上はアデルの為にも黙っておこう。それからというものアデルは毎日修行に明け暮れるようになった。どうしても剣聖の称号が欲しかったようだ。新しい称号に関してはギルドが授けてくれる。称号を引き継がせるときはその前任者が引き継がせる意思を示しギルドにその旨を伝えることで世界に広まる。正直僕自身が剣聖の称号を引き継ぐと聞いた時は驚いた。剣帝序列最下位の僕が何故と、だが先生は笑顔で答えてくれた。それ相応の資格が僕にはある。そう一言だけ。
それにしてもこの一年間、本当にいろんなことが起きた。ギズーを探しに行けばアデル達と出会い、メルとも再会してFOS軍なんてたいそうなものまで出来上がっていた。そして剣聖結界の存在や幻魔一族との闘い、何より僕にとってはメルの存在それだけが未だに心に引っかかっている。立ち直れるのかも分からないけど、それでも前に進まなくちゃいけない。メルはもうこの世にはいない。けど彼女のエーテルは僕の体の中で生きている。あの時消滅するはずだったエーテルが僕の中に入ってきた事、それは彼女の意志だ。最後に見せてくれた彼女の深層意識、全ては見れなかったけど間違いなくそれはメル自身だった。どんなシーンにも僕の姿があった、走馬燈の様に流れる僕と一緒に過ごしたシーンだけは今でも脳裏に焼き付いている。そして彼女が最後に見せてくれた僕へのメッセージ、子供でもそれはきっと、大人と同じものだろう。僕の深層意識の中で彼女が語った最後の愛の言葉は――
――”ごめんねレイ君、きっとこの手紙を君が見てるってことは私失敗しちゃったんだね。きっと君は悲しむと思う、優しい君の事だから私の事でずっと泣いていると思う。でも泣かないで、私の事思うんだったらもう泣かないで。私も泣きたくなっちゃうから。そして、私の事をどうか忘れてください。それはきっと私の願い、私のわがまま。使命を忘れて君と一緒に居たかった。今も怖いです、失敗しちゃうんじゃないかと思うと手が震えます。でも君を守る為にも私頑張るね、だからどうか、死なないでください。
本当はちゃんと面と向かって話をするべきだったの、でも私はそれが怖かった。全てを君に話すのが怖かったの。私は人間ではありません。二千年前から生き続けている化け物、カルバレイセス様に作られた人造人間。私ね、君に好きだって言ってもらえて本当にうれしかった。私も君の事が好きだよ? でもそれは叶わない恋、叶わない愛。それでもこんな私の事好きでいてくれる? そうだったら、いいな。
私の使命は幻魔一族の監視、あの怪物が再びこの世界で悪い事をしないために監視する事。唐突にこんな事言っても分からないよね? 結論から言うね、まだあの大戦は決着が付いていないの。だから私が作られた、ううん。カルバレイセス様は初めから分かっていたのかも知れない、『サディケル様』達が幻魔を封印しても幻魔因子だけはこの世界に残されるって。幻魔因子ってのはあいつらの残留思念、全てを倒しつくしたと思ったんだけどそうじゃなかった。私達はあの時失敗したの、幻魔を封印して安心しきってしまった。だから私はこの長い時の中で幻魔因子を監視し続けてきた。この時代にレイ君とアデル君がいた事にも驚いたけど、その理由を知るのはまだ早いかな。きっと君達は自分たちで気づいてくれると思うの、だから私からは言わない。
もう一度言います、幻魔は必ず蘇ります。その時レイ君、君達の力が必ず必要になります。だからその時まで生きて、生きて生き抜いてください。こんなこと言われても困っちゃうかな? でも知っておいてほしい、君達はこの世界の希望。カルバレイセス様の願いなのです、今は分からなくても構わない、記憶の片隅に覚えておいてくれればそれでいいです。きっとそのうち分かる時が来るからね。
ねぇレイ君、私は最後に本当の気持ちを伝えることが出来ましたか? それとも伝えられずに死んでしまいましたか? できれば……君がこの手紙を読むことなく、そして、私が君の隣でこれからも仲間として……ううん、彼女として一緒に笑って過ごしていられる日が来ると良いな。
そして、君のいるこの世界に――この世に平穏のあらんことを。
メルリス・ミリアレンスト”――
第二章 神苑の瑠璃編 END
アデルが言うには僕がメルを抱きかかえてあの長い階段を上ったのだという、全く持って記憶にない。瑠璃? それは先生が破壊しようと色々と試したけど結果駄目だった。仕方なくもう一度溶岩の中へと放り投げて認識疎外の結界を施してきたらしい、再び人の目に触れぬよう、二度と人前に姿を現さぬようそう願って。
同じようにあの洞窟にも以前より強力な結界を施してきたそうだ、それは僕がやったらしいんだけどさっぱり覚えていない。その後僕の記憶があるのは僕とメルが最初に出会った場所に彼女を埋葬した所から始まる。小さな山でそこから見る街の景色は綺麗だった。そこで僕とメルは出会った、その場所にメルを亡骸を埋めて小さな墓を作って僕達は帰ってきた。アリス姉さんが先生の姿を見て凄く泣いていたのをよく覚えている、それ以上に僕達はアリス姉さんに告げる事に胸を痛めていた。メルが死んだことを告げるとプリムラはその場に泣き崩れていたっけ、僕だって泣きたかった。同じようにして泣きたかったんだ。今この場に居る誰よりも僕がメルの事を思っていたんだ、好きだった。あの子が好きだった。それでも僕は泣くのを我慢した、ここで泣いちゃメルに笑われる気がして。
その日の夜、アリス姉さんが一通の手紙を僕に渡してくれた。それはメルが僕に宛てた手紙だった。その手紙には彼女が何者で、何で僕の前に現れたのか、そしてこれを読んでいるときはきっとメル自身がもうこの世に居ないことを予言するかのように綴られていた。僕は受け止めることが出来なかった、こんなの……まともに受け止めたら狂ってしまう! もうメルの事で泣かないと決めていたはずなのに涙が溢れた、止まらなかった。あふれだす涙を拭っても拭ってもまた目から溢れてくるんだ、その日僕はメルの部屋で泣き続けた。
手紙の内容によるとメルは人間ではないらしい、二千年前のおとぎ話の中で語り継がれなかったカルバレイセスという女性が作り出した人造人間だという。メルは長い時の中世界に漂う幻魔因子を追って彷徨って来たらしい。幻魔因子とは幻魔一族の残留思念の様なもので長い事人前に現れることは無かったのだが近年それを感じ取っていたらしい。もちろん先生にもこの話をした、驚いた様子で幻魔について研究を始めるとの事だった。全てがおとぎ話の中の戦争で終わる話ではないと確信したんだそうだ。僕にはまだ良く分からない、しかしエルビーは言っていた。幻魔の復活がどうと、そしてあれもまたその一族であると。普通に考えればただの世迷言にも聞こえるだろうけど僕達はあの時見たんだ、人間とは異なる異質な存在を。にわかには信じがたい話がその手紙にはそう綴られていた、二千年前に何が起きたのか、幻魔一族がこの星に何をしたのか。そして彼女が見てきた世界の歴史が綴られている。
メルの可愛い字で一つ一つ正確に。所々文字が霞んでいるところがある、きっと彼女の涙だ。これをどんな気持ちで僕に宛てたのか、それは今となっては分からない。できれば彼女自身の口からそれを聞きたかった。最後のほうには僕に宛てたメッセージが書かれている、その時は何が書いてあるのか読めなかった。涙が邪魔をして視界を歪めてしまう。でも書いてあることは伝わってきた気がする。彼女の文字は確かにそれを綴っていた。
あの事件以来、帝国内部で慌ただしい編成があったとか。先生の元に尋ねてくるギルドメンバーからそんな噂話を聞いた。当然と言えば当然かもしれない、あれほどの力を持った兵士が二人も亡くなったのだ。あれ以上の存在がまだ帝国に居るのか分からないけどこれでしばらくは大人しくなるだろうと先生が言っていた。それを聞いて一安心していた僕達は半年ほど先生の元で修業を続けていた。あのお医者さんも中央大陸へと渡ってきて今じゃメリアタウンを拠点に僕達の事を広めているらしい。メンバーも集まってきたので近いうちにこちらへ戻ってきてほしいと連絡が先日あったばかりだ。あのお医者さんと会うのも久しぶりだ。
幻魔に関する情報は予想以上に集まってきた、ギルドから提供されるその内容はどれも信憑性がある物ばかり。流石と言うべきだ。僕達だけじゃ知りえない情報を大量に持ち込んできてくれた、それに加えて先生の家に何名か連絡係を常駐させることにもなっていた。彼らの使う通信器具には本当に驚かされる。遠くに居るメンバーとのコンタクトも一瞬で取れる優れものだ。僕達が先生から譲り受けたあの器具より遥かに便利なものだった。現在分かっていることは古の大戦は本当にあった物、そしてあの瑠璃こそ復活に必要な術具の一つである事。レイヴンが言っていたことを思い出してほしい。
神苑の瑠璃とはきっと僕達人間が付けた勝手な名前で本当の名前は幻魔宝珠と言う。後から分かった話だけど、レイヴンはあのエルビーによって洗脳されていたそうだ。帝国の中にもギルドの工作員が紛れ込んでいる。そこからの情報だった、ある日を境に特殊任務部隊は幻魔宝珠を追う事だけを目標としていたらしい。その境目となる日、それはエルビーとの接触だった。東大陸に遠征に来ていたレイヴンはその日を境に人が変わってしまったのだと。でもこれで終わりじゃないはず、メルの手紙の内容が本当であればまだ何かが起きる。幻魔因子は一つじゃないらしい。少なくとももう一ついることが分かっている、それを追っていたメルだったが気づかれたのか気配が消えてしまったらしい。そこでもう一つの気配を感じ取りエルビーをマークしていた。そう手紙には書いてあった。
一度に大きなことがいくつも起こりすぎて僕達の頭はパンク寸前だった、纏めようにも何から纏めればいいのかが分からない。この研究に関しては先生に丸投げにすることになった。肝心の先生はというと右腕を失ったためか完全に前線からは身を引くこととなる。剣聖の称号は僕が引き継ぐことになった、何故アデルじゃないのか? それは先生の弦の一言だ。修行不足の身で何が剣聖か、剣帝で我慢しなさい。もちろんアデルはその事に腹を立てたがプリムラが冷静になだめてくれたお陰でその場は落ち着いた。それでもあの表情と言ったら、これ以上はアデルの為にも黙っておこう。それからというものアデルは毎日修行に明け暮れるようになった。どうしても剣聖の称号が欲しかったようだ。新しい称号に関してはギルドが授けてくれる。称号を引き継がせるときはその前任者が引き継がせる意思を示しギルドにその旨を伝えることで世界に広まる。正直僕自身が剣聖の称号を引き継ぐと聞いた時は驚いた。剣帝序列最下位の僕が何故と、だが先生は笑顔で答えてくれた。それ相応の資格が僕にはある。そう一言だけ。
それにしてもこの一年間、本当にいろんなことが起きた。ギズーを探しに行けばアデル達と出会い、メルとも再会してFOS軍なんてたいそうなものまで出来上がっていた。そして剣聖結界の存在や幻魔一族との闘い、何より僕にとってはメルの存在それだけが未だに心に引っかかっている。立ち直れるのかも分からないけど、それでも前に進まなくちゃいけない。メルはもうこの世にはいない。けど彼女のエーテルは僕の体の中で生きている。あの時消滅するはずだったエーテルが僕の中に入ってきた事、それは彼女の意志だ。最後に見せてくれた彼女の深層意識、全ては見れなかったけど間違いなくそれはメル自身だった。どんなシーンにも僕の姿があった、走馬燈の様に流れる僕と一緒に過ごしたシーンだけは今でも脳裏に焼き付いている。そして彼女が最後に見せてくれた僕へのメッセージ、子供でもそれはきっと、大人と同じものだろう。僕の深層意識の中で彼女が語った最後の愛の言葉は――
――”ごめんねレイ君、きっとこの手紙を君が見てるってことは私失敗しちゃったんだね。きっと君は悲しむと思う、優しい君の事だから私の事でずっと泣いていると思う。でも泣かないで、私の事思うんだったらもう泣かないで。私も泣きたくなっちゃうから。そして、私の事をどうか忘れてください。それはきっと私の願い、私のわがまま。使命を忘れて君と一緒に居たかった。今も怖いです、失敗しちゃうんじゃないかと思うと手が震えます。でも君を守る為にも私頑張るね、だからどうか、死なないでください。
本当はちゃんと面と向かって話をするべきだったの、でも私はそれが怖かった。全てを君に話すのが怖かったの。私は人間ではありません。二千年前から生き続けている化け物、カルバレイセス様に作られた人造人間。私ね、君に好きだって言ってもらえて本当にうれしかった。私も君の事が好きだよ? でもそれは叶わない恋、叶わない愛。それでもこんな私の事好きでいてくれる? そうだったら、いいな。
私の使命は幻魔一族の監視、あの怪物が再びこの世界で悪い事をしないために監視する事。唐突にこんな事言っても分からないよね? 結論から言うね、まだあの大戦は決着が付いていないの。だから私が作られた、ううん。カルバレイセス様は初めから分かっていたのかも知れない、『サディケル様』達が幻魔を封印しても幻魔因子だけはこの世界に残されるって。幻魔因子ってのはあいつらの残留思念、全てを倒しつくしたと思ったんだけどそうじゃなかった。私達はあの時失敗したの、幻魔を封印して安心しきってしまった。だから私はこの長い時の中で幻魔因子を監視し続けてきた。この時代にレイ君とアデル君がいた事にも驚いたけど、その理由を知るのはまだ早いかな。きっと君達は自分たちで気づいてくれると思うの、だから私からは言わない。
もう一度言います、幻魔は必ず蘇ります。その時レイ君、君達の力が必ず必要になります。だからその時まで生きて、生きて生き抜いてください。こんなこと言われても困っちゃうかな? でも知っておいてほしい、君達はこの世界の希望。カルバレイセス様の願いなのです、今は分からなくても構わない、記憶の片隅に覚えておいてくれればそれでいいです。きっとそのうち分かる時が来るからね。
ねぇレイ君、私は最後に本当の気持ちを伝えることが出来ましたか? それとも伝えられずに死んでしまいましたか? できれば……君がこの手紙を読むことなく、そして、私が君の隣でこれからも仲間として……ううん、彼女として一緒に笑って過ごしていられる日が来ると良いな。
そして、君のいるこの世界に――この世に平穏のあらんことを。
メルリス・ミリアレンスト”――
第二章 神苑の瑠璃編 END