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作者: 唯響-Ion
第十三話 神籬
 黄昏時(マジックアワー)に常世へ迷い込む人が生まれない様に、惟神庁によって設置された神籬(ひもろぎ)を、二人は訪れる。
 緒方(おがた)に連れられて神籬(ひもろぎ)へ向かう弥勒。その周囲には、無数の美白さんがいた。いずれも岩や木に体を隠しながら、ひょっこりと顔だけを出して、片目でこちらを覗いてくるという姿勢であった。
 とにかく、不気味で気持ちが悪い。青白い顔の、男とも女とも言えない気持ち悪い学生服の連中が、片目をギョロギョロと動かしてるのだ。
「ねぇ緒方(おがた)くん。あの連中……なんでこっちを見てるの? さっき、彼らに手を出されなくてっていってたけど、どういう意味?」
「そのままの意味だよ。神通力を持たない一般人が黄昏時(マジックアワー)に常夜(とこよ)へ迷い込んでしまったら、徐々に体の感覚を奪われた後、彼らに囲まれ、魂を黄泉(よみ)の国へと連れていかれてしまうのさ。ああいう怪異は、現世(うつしよ)の魂を黄泉(よみ)の国へと連れていく役目を担っているんだ」
「一般人が常夜(とこよ)に入らなくて済むように、惟神学園はなにか策を講じてるの?」
「試みたみたいだけど、それはちょっと難しくてね。唯一できた対策が、これだ」
 緒方(おがた)がそういうと、目の前に丁度、大きな岩が現れた。そこには結ばれた麻縄がくくられており、俗にいう神籬(ひもろぎ)の体を成していた。
 その付近には、目眩がするほどに強力な、神通力を感じた。
「いつでも両方の世界を行き来できる出入口にしているんだ。通常は陰陽師(おんみょうじ)の術で結界を張っているから、怪異らは入って来れない。つまり生者用にしているんだ。だからほら、周りをよく見てみて。怪異が寄ってきていない」
 距離ができても、ギョロギョロと目だけを動かしてこちらを見つめる無数の美白さんには、気持ち悪さを感じてしまう。
「君にはこの神籬(ひもろぎ)を見せたかったんだ。もう東京には、こんなものないだろう。どこもかしこもコンクリートの山だと聞く」
「確かに、道路沿いの並木以外に見た事ないなぁ。でも怪異だって見たことは無い」
「関東や関西は人が多すぎるんだ。それに、八百万への信仰心を持たない外国人が多すぎる。だから怪異が居ても、誰も気が付かないんだ。神通力持ちでも知覚できない程、その存在はあまりに弱々しいものとなっているということさ」
「怪異は広義に於いては八百万(やおよろず)と同一視される……つまり、信じていない神は存在しないってこと?」
「そう。君の中に信仰心が存在していたとしても、その場所に八百万はいないんだ。見えるはずもない。弥勒君……僕は陰陽師を志している。式神(しきがみ)とも呼ばれる八百万を研究し、それらを信じ、生きてきた。僕も初めは、秋月君同様、君のことが嫌いだった。理由は異なれど、関東などという欲望の塊で、清い心を持って八百万(やおよろず)を信じることを忘れてしまった人達が嫌いだったんだ。すまない」
 緒方(おがた)は目を伏せ、罪悪感を覚えていた。その罪悪感と謝意に、偽りはなかった。
「だが君は違った。皇の名は伊達じゃないと思い知った。この常夜(とこよ)で光を放ち、君は殺されずに済んだ。それは、君が八百万を信じ、神通力の求道者たる証拠だ」
「惟神学園の生徒として、惟神庁長官の嫡子として、神通力という神秘を探求する意思は、誰よりも強いと思っているよ」
「惟神の陵王……君はやはり、大器であると感じるな」
神籬(ひもろぎ)……八百万の神々が臨時的に依代(よりしろ)とする為に、岩や木にしめ縄を張ったもの。現世と常夜の境界線を曖昧にし、双方の出入口としての役割を持つ。
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