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作者: 唯響-Ion
第四二話 人誑しの女の子
 大宰府分校へ転校して、少しづつ馴染んできた弥勒。しかし、太宰府一の美女と名高いクラスメートの五条衣世梨に対し、弥勒は苦手意識を抱いていた。
 転校から数日が経ち、弥勒は少しづつクラスに馴染みつつあった。
 弥勒は太宰府に来てから感じることがあった。それは、美男美女が多いということだ。目が大きく顔が小さい、今どきの美形がとにかく多かった。クラスの中で普通とされている顔面偏差値は、他方ではクラスのマドンナになりうる程の美形であった。そして弥勒のクラスには、そんな美男美女の中でも一際目を見張る美人が居た。
「弥勒君ってさ、仏の名前と同じだよね」
 そういって弥勒に話しかけてきたその女性こそ、太宰府一の美女と名高い五条衣世梨(ごじょういより)であった。
「あっうん……そうだね」
 五条は、物理的にも精神的にも、距離が近い人だった。これだけの美人ならば、そういう距離の詰め方をしても人に嫌がられることもなかっただろうし、寧ろ喜ばれて、仲良くしやすくなるのだろうと、弥勒は思った。
 五条は、困惑する弥勒を大きな瞳でジッと見つめながら、屈託のない笑顔を見せた。
 ただでさえ白くシミの一つもない肌よりも更に白い歯はまるでホワイトニングのサンプルの様で、弥勒は、この五条という人間が実は人間ではなく、5G搭載型アンドロイドなのではないかと疑ってしまった。
「口下手なん? 話したくないことやったらごめんね」
「ううん大丈夫だよ。お気遣いありがとう」
 弥勒は「この女、あざとい」と思った。声は可愛らしい声だったが、鼻にかけた話し方やアヒルの様に尖らせた唇、隣の空席に腰掛けてからのさりげない上目遣い。それらから察するに、彼女が猫を被っているのは自明だった。
 弥勒は神通力のコントロール力が上がっており、もはや内心は完全に漏れない様に出来ていた。だからそれが五条に伝わることは無かった。だが五条の内心も、波長として出て来なかった。初めは五条が無心なのだろうかと思ったが、そうではないと、弥勒は気づいた。
 五条という名前を、弥勒は知っていた。それは、太宰府への転校が決まった後に同地の歴史を学んだ折り、目にしたからだった。
「五条さんって、もしかして菅原道真(すがわらのみちざね)の遠縁の方?」
「そうだよ! なんで知っとーと?」
「この辺で五条さんといえば、菅原家高辻庶流五条家かなって思ったんだ。最近勉強したばっかりだったから、すぐに気づいたよ」
「へぇ〜やるやん。私は分家やけんあんまり家の行事とか関わらんし、私はあんまり知らんっちゃけどね」
 そう自虐した五条は、大きな目を細くして、引き笑いをした。元気であざとい女の子から一変、弱みを晒す様に人間らしい一面を見せた彼女を、弥勒は冷めた目で見ていた。多くの人は、そのギャップに負けてしまい、ファンになってしまうのだ。そういう人たらしは父正仁の政治家関連の知り合いに多く居たし、彼らに心を掴まれれば振り回されてしまうということを、弥勒は既に知っていた。
 そして、そういう人の対処法も、弥勒は知っていた。だから弥勒は「ええ、意外だ〜」といいながら微笑み、和やかさを演出してやった。
菅原道真(生:845年8月1日〜没:延903年3月26日)〜日平安時代の貴族。日本三大怨霊の一人に数えられる。藤原時平の讒言により地方行政機関だある大宰府へ左遷された。
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