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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 4/22 am 6:15


 
 話が長くなっちゃった。
 とにかく 今朝6時から あたしは 彼女に会うために 桜橋の改札口にいた。

 
 聖心館の制服を着た 栗色のツインテールを探す。
 10分くらい待ったけど 聖心の制服の娘は1人も通らなかった。
 まあ 彼女にしてみれば特に早く来る必要はないんだから これは まあ 予想通りだった。
 
 6時15分になった。
 彼女は 6時23分の列車に乗るはずだから そろそろだ。
 そう思って通路の方を見ると 聖心館の黒い制服が目に飛び込んでくる。
 一瞬 ドキッとする。
 
 ……いや 違う。
 ツインテールじゃないし メガネかけてる…。

 その娘は 元気のない様子で とぼとぼと 改札口へと歩いて行く。
 身長は うちのチームのリベロ 田村先輩より まだ小さい。
 150cm ないかも。
 
 んっ?
 あれ? 
 髪の色は?
 
 なんともいえない あの独特の栗色…っ!

 顔をもう一度 確かめたかったけど 彼女は あたしの前を通り過ぎ 改札機を通り抜けようとしていた。
 慌てて追いかける。
 彼女は いつもとは 別の階段に向かっているようにも見える。
 
 ……別人かも?
 
 そんな考えが頭をよぎる。
 いや あんな髪色の子が そんなにたくさんいるハズない。

 それに…。
 
 昨日の惨めな気持ちは もう嫌だ。
 やるだけやって失敗した方が ずっといい。
 そう 自分に言い聞かせて 彼女に後ろから声をかける。

 
「き 昨日は 本当にありがとうございました!」

 
 彼女が振り向く。
 よかった。
 やっぱり昨日の聖心の女の子だ。
 メガネは かけてるけど ぱっちりとした二重瞼の大きな目を 見間違えるハズない。
 でも 昨日は 優しさと勇気にあふれていた その目は 今は 何かを 怖がってるように見えた…。
 
 何で?

 いや それよりお礼だ。

 
「あたし 藤浜工業2年の 紺野 瞳っていいます。昨日は 本当に困ってるとこ 助けてもらって スゴく嬉しかったです。昨日は あたし 泣いちゃってて ちゃんとお礼が言えてなくて すみませんでした。本当にありがとうございました!」

「えっ…と あの… 困ったときは お互い様だし 気にしないでください」

 
 それだけ言うと彼女は 立ち去ろうとする。
 
 えっ?
 なんで?
 あたし 避けられてる? 
 もしかしてビビられてるのかしら?

 
「待って!」

 
 慌てて彼女の手を掴む。
 彼女の顔に 明らかに怯えの表情が広がった。
 
 えっ?
 えっ?
 なんで?
 なんで?
 理由がわかんないんだけど?
 プチパニックになる。
 
 とりあえず誤解だ。
 誤解を解かなくっちゃ…。

 
「あ あたし 藤工生だけど ヤンキーとかじゃないんです! 確かに パパとママはヤンキーだったけど あたしは そんなんじゃないんです」

 
 あたしが 焦って早口でまくし立てるのを 聞いた彼女は 一瞬 目が点になる…。
 そして 小さく噴き出した。

 
「大丈夫ですよ。そんなこと 不良だなんて ちっとも思ってないです」

 
 彼女は 笑いながら そう言ってくれた。
 彼女が笑顔になると スゴくホッとした…。
 なんで さっきは怯えた顔してたんだろう?

 
「藤工が荒れてたのって ずいぶん昔の話じゃないんですか? うちの兄も 藤工でしたけど そんな話 全然 聞きませんでしたよ?」

 
 そう言うと彼女は 思い出したように もう一度 小さく笑った。
 
 ……そう。
 藤工がヤンキー校だったのは パパやママが通ってたころの話で 今は そんな雰囲気 全然ない…。
 それを あたしは テンパって ペラペラと意味わかんないことを…。
 しかも パパとママの黒歴史まで 暴露してしまった…。
 恥ずかしくて顔が熱くなる。

 
「へっ 変なこと言ってゴメンね。あっと ええっ…と」

「名前ですか?」

 
 あたしが しどろもどろになって 口の中でゴニョゴニョやってると 彼女が察して すっと助け船を出してくれる。

 
「アタシの名前は 宮村 亜樹です。友だちからは『あき』とか『あきちゃん』とか 呼ばれてます。『あきちゃん』って呼んでもらえると 嬉しいです」

「あきちゃんってゆーんだ。あ あたしの名前は…」

「こんのさんですよね? さっき自己紹介してくれましたよ?」

 
 えっ?
 いや… そうじゃなくて。
 あだ名ってゆーか 呼び方を…

 
「ホントのこと言うと こんのさんの名前 アタシ昨日から知ってました。凄い美人さんなんで どうしても お名前知りたくって 鞄のキーホルダー こっそり見ちゃいました。ごめんなさい」

 
 あきちゃんにスゴい美人って言われた瞬間 背筋がゾワゾワッってした。
 女の子同士でカワイイとか美人とか褒めあうのは よくあることだけど あきちゃんみたいな本物の美少女に言われると やっぱ 嬉しかった。
 しかも 言い方が誠実そうで 本気で言ってくれてるみたいに聞こえた。
 
 ……いや お世辞に決まってるんだけどさ。
 
 褒めてもらったお返しに あきちゃんも褒めてあげなきゃ。 
 今日のあきちゃんは 栗色の髪をシンプルに後ろで一つ括りにして垂らしている。
 ホント絹糸みたいな綺麗な髪…。
 真っ白な肌に薔薇色の頬。
 小ぶりで桜色をした唇。
 赤色の眼鏡の向こうにぱっちりとした二重瞼と鳶色の瞳。

 褒めるとこ多すぎて どこから褒めようか悩む…。
 羨ましすぎる…。

 でも 目が少し疲れてるようにも見える。
 そういえば 歩き方も元気がなかったような気がする。

 
「あたしも昨日からあきちゃんのこと スゴいカワイイ子だなぁって思ってた。でも なんか昨日より元気ないことない? もしかして 突き飛ばされたとき どっか痛めた?」

 
 スゴいカワイイ子って言ったとき あきちゃんの顔に困惑?悲しみ?
 なんとも言えない微妙な感情が微かに浮かんですぐ消えた。
 なんで?
 あたし なんか変なこと言った?

 
「えっ…? そんな風に見えました? あの ケガとか全然大丈夫です。昨日の晩 ちょっと寝付けなくて 少し寝不足気味なんで そんな風に見えたのかも…。あの こんのさんのせいとかじゃ 全然 ないので大丈夫です。心配かけて ごめんなさい…」

「いや ケガなかったんなら よかったけど。昨日はゴメンね。ホント ありがとう」

「いえ 気にしないでください。 ……あの 手 離してもらって いいですか?」

 
 言われて まだ腕を掴んだままだったことに気づき 慌てて手を離す。
 また 頭に血が上るのがわかる。
 さっきから こんなんばっかだ…。

 
「ゴッ ゴメン…」

「全然 いいですよ。そろそろ ホームに上がりませんか?」

 
 そう言うと あきちゃんは いつものホームへと 階段を上りはじめる。
 階段を上りながら ふと疑問に思ったことを 尋ねてみる。

 
「あたし バレー部の朝練でこの時間に電車乗るんだけど あきちゃんも なんかの部活?」

 
 あきちゃんは 見るからに華奢で スポーツやってる感じには見えなかった。
 吹奏楽部かな?
 楽器は 持ってないみたいだけど…。
 なんだろ?

 
「あー アタシですか? ……部活ってゆーか…。まぁ そんな感じです…」

「なにやってんの? 吹部?」

「あー あの アタシ 歌 歌ってるんです。部活じゃないんですけど ウチの学校 聖歌隊っていうのがあって アタシ そこで聖歌を歌ってるんです」

 
 げっ マジ天使じゃん。
 似合いすぎ。
 さすが ミッション系のお嬢様学校。
 聖歌隊か…。

 
「あ あの 先生に勧められて 半分 無理矢理 入れられちゃったんです…」

 
 あきちゃんは 口の中でゴニョゴニョと言い訳みたいなことを呟いている。

 
「へー 聖歌隊かぁ。讃美歌とか歌うの?」

 
 キリスト教とか よくわかんないけど とりあえず聞いてみる。

 
「讃美歌も もちろん歌うんですけど 聖心の子は みんな礼拝で讃美歌は歌うんで 聖歌隊は グレゴリオ聖歌の練習がメインなんです」

「そうなんだ」

 
 わかったふりして頷くけど グレゴリ何?
 聖歌って何?
 あとでスマホで調べよう…。

 
「でも グレゴリオ聖歌メインとか言うと メンバーが なかなか集まらないんで コンサートとかでは ゴスペルとかもやってるんです」

 
 恥ずかしそうにゴニョゴニョ言ってた割には 聖歌隊の話をする あきちゃんは 目を輝かせて とっても嬉しそうだ。
 聖歌隊のことが 好きなんだってことが伝わってくる。

 
「讃美歌とか 歌ってるってことは あきちゃん キリスト教なんだ?」

「えっ…。いや あの… アタシ 歌うのが好きなだけで 洗礼とかは 受けてなくて…。ママやおばあちゃんは クリスチャンなんですけど…。アタシは…」

 
 また 小声でゴニョゴニョ言ってる…。
 とっても可愛らしいけど なんだかすごく内気な印象だ。
 昨日 大声であたしを守ってくれた子とは 思えない。

 そんなことを話してるうちに ホームに列車が入って来て あたしたちが並ぶ列の前にドアが止まった。
 そのドアを見たとき あたしの身体に異変が起こった。
 脚がすくみ 脈が速くなる。
 喉が乾き うっすら涙が滲んだ。

 ……怖い。

 自分でも驚くほど 怖かった…。
 ドアが開き 通勤客が降りてくる。
 乗らなきゃって思うけど 身体が硬直して動かない。
 自分が電車を見てこんな反応をするなんて想像もしてなかった。

 そのとき 右手に温かさを感じ スッと身体のこわばりが取れた。
 あきちゃんが右手を握ってくれていた。

 
「大丈夫です。アタシが 手を握ってますから…」

 
 昨日と同じように 静かに勇気をたたえた目で あきちゃんがこちらを 見上げていた。
 涙が 溢れそうになる。

 
「……うん。ありがとう…」

 
 今日は 号泣するわけには いかない。
 それだけ声にするのが精一杯だった……。
 ………。
 ……。
 …。


                        to be continued in “part Aki 4/22 pm 5:30”





 
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