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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 7/23 pm 12:42



 ブラウス用にブロードを400㎝。
 85円/10㎝で3400円。
 エプロンドレスだけ作るつもりにしてたんだけど 先生にラフ見せた段階で『上も作りなさい』って話になって ブラウスを作ることになった。
 
 普通に白って思ってたんだけど あきちゃんが『ファッションショーなんだから 冒険しましょう』ってゆーんで ダークネイビーのブロードにした。
 これを クレリックシャツに仕立てる。
 普段のあたしなら 絶対着ないカラーリングだけど 確かに大人っぽいかも。

 あと 裏地用にプリントオックスを580㎝。
 ベージュの生地に落葉がプリントされた 秋冬デザイン。
 基本的に見える場所じゃないけど 隠れたオシャレってワケだ。
 無地の布と値段もほとんど変わらんないし…。
 55円/10㎝なんで3190円。

 オーガニックコットンのレース端切れを2枚。
 570円×2で 1140円。
 ブラウスの襟袖用 白ブロードの端切れ1枚。
 200円。

 合計7930円の税込み8729円。
 残りはだいたい1万1千円。

 とりあえず 稲荷町のお店で エプロンドレスの表地以外の生地を見繕って 予算を立てる。
 すぐにでも 本町へ行こうとする あたしだったんだけど あきちゃんが 他の生地も見ておいた方が良いってアドバイスしてくれた。
 確かに いい表地があったとしても ブラウスの生地が気に入らないとかなったら 何度もお店を往復するハメになるところだったもんね…。
 あきちゃんってやっぱ 頭いい。

 
 ……いや あたしが要領悪いだけか…。


 稲荷町のお店を出て 本町へと向かう。
 アーケードを戻り 光岡大通りをお城の方へと歩く。
 
 真夏の正午過ぎ ジリジリと強烈な日射しが アスファルトを焦がしている。
 大通りを走る車の音に交じって 城西公園から 蝉の声が聞こえてくる。

 あきちゃんが 日傘を翳してくれるから 少しはマシだけど 凄まじい暑さ。
 照り返しだけでも 目が痛くなる。

 水筒のお茶も ほとんど飲み干してしまった。
 今日は応援だけだから 小さめのにしたけど こんなことなら 練習用の大きいヤツにしとけばよかった。
 あきちゃんにも『お茶いる?』って勧めてみたけど断られた。
 あんまり汗かかないタイプみたいだけど それでもうっすら汗が滲んでいる。
 水分補給 ホントに大丈夫なのかな?

 そんなことを考えてたら 本町の交差点に着く。
 目指すお店は この交差点を北に向かって5分ほどのハズ。
 
 あと少しだ。頑張ろう。
 あきちゃんに声をかけて 陽炎の浮かぶビル街の方へと曲がる。
 ………。
 ……。
 …。

 

「ここが 生地屋さんなんですか?」

 
 微妙に不安そうなあきちゃんの声。

 
「……うん。そのハズ」

 
 あたし達の前に建っているのは 7階建てのオフィスビル。
 入り口の上に〈富永商事株式会社〉って金文字が打ってある。
 
 だけど ショーウィンドウも何も無い。
 スマホで もう一度 ホームページをチェックする。
 会社名も住所も合ってる。
 
 あきちゃんにも 確かめてもらう。

 
「あー ホントだ。〈布地の卸問屋 TOMINAGA 1mからの小売り対応いたします 個人のお客様 大歓迎〉って書いてあります。住所も… ここですね」

「だよね?…ここで 合ってるハズ。大丈夫 大丈夫…」

 
 自分にも 言い聞かせながら 入り口の扉をそっと開ける。
 エアコンの冷気が ヒンヤリと心地好い。
 入ってすぐのところに 白いカウンターがあって その奥には いくつか事務机。
 コピー機やパソコン スチール戸棚が並んでいて 分厚いファイルや紙箱が 雑然と積み上げられている。
 壁には ホワイトボードが掛けられていて 予定やグラフでビッシリと埋まっている。


 やっぱ ここ生地屋さんじゃあ無いんじゃあ…。


 不安になって引き返しかけたとき カウンターのところにいた スーツにメガネのおじさんが あたし達に気づいて 声をかけてくれる。

 
「いらっしゃいませ。小売りご希望のお客様ですか?」

 
 あたしが 慌てて頷くと

 
「3Fがショールームになっております。左手奥のエレベーターで3Fへどうぞ」

 
 と教えてくれる。
 言われるままに あきちゃんとエレベーターに乗り込む。

 
「ぜんぜん関係無い会社とかじゃなくてよかったよ…」

「ホントですね。結構 緊張しました…」

 
 エレベーターを降りると 革張りの応接セットが置いてあって 1Fと同じような位置にカウンターがある。
 その奥には 何列にも 並んだスチール棚に 分厚いファイルが整然と並べてある。

 3Fがショールームってハナシだったんじゃあ…って戸惑っていると 事務服姿のお姉さんが近寄って来て 対応してくれた。

 
「いらっしゃいませ。どんな生地をお探しですか?」

「あのチノです。臙脂とオリーブグリーンのチノなんですけど」

「チノですね。混率こんりつのご指定はありますか?」

 
 コンリツ?

 
「すみません…。コンリツってなんですか…? ゴメンなさい ぜんぜん わかってなくて…」

「あっ すみません。混紡率こんぼうりつです。コットン何% リネン何%とか ご指定ありますか?」

 
 えっ?
 そんなのぜんぜん 考えてなかった。
 なんて答えていいかわかんなくて まごついていると お姉さんが 笑いながらけ助け船を出してくれる。

 
「あなた達 高校生? そんなに緊張しなくて大丈夫よ。何に使うつもりなの?」

「えっと 学校の実習で エプロンドレスを作るんです。それの表地です」

「……エプロンドレスか…。わかりました。サンプル取って来ますので そちらにお掛けになって 少々お待ち下さい」
 

 そう言うと お姉さんは奥の方へと歩いて行く。
 身長170㎝は たぶんないけど スラッとした体型。
 歩く時も背筋が伸びててカッコいいっぽい雰囲気。
 年齢は20代後半くらいかなあ…?
 ………。
 ……。
 …。




                        to be continued in “part Aki 7/23 pm 1:03”






 
 
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