R-15
part Aki 7/23 pm 5:12
……終わった。
春 桜橋のホームで こんのさんに一目惚れした時 始まった 恋が 今 終わった…。好きな女の子の横で アダルトビデオ見て 鼻血吹くとか…… ホント どーしよーもない。あまりのカッコ悪さに マジに死にたい気分。そこの窓を開けて 表の国道に飛び込もうか…。
そんなことを 考えてたら こんのさんが部屋に戻って来た。
「あきちゃん 大丈夫? ちょっとは 落ち着いた?」
「あー もう 大丈夫っぽいです…。ホント ゴメンなさいです…」
こんのさんは 畳についた血痕とかの始末をしてくれてたみたい。他人の家の畳に血痕とか迷惑の極み。しかも 忍び込んだお兄さん達の部屋で…。そんな 最悪に迷惑なボクの首筋を こんのさんは 優しくトントンしてくれる。
小さいときボクは よく鼻血が出る子だったから よくママに こうやって首筋を叩いてもらった。こんのさんは ママより背が高いから ちょうど子どものころママを見上げてた位置にこんのさんの顔がある。なんだか 小さい頃に戻ったような不思議な気分。もちろん 今のボクはママにこんな風に甘えたりはしない。
ってゆーか 鼻血出したのも かなり久しぶり(たぶん 小学校以来だと思う…)。
「……こんのさん?」
気がつくと こんのさんはボクの頭を撫でている。
「ごめん ごめん…。いやぁ あきちゃんが あんまりカワイイからさぁ…」
謝りながらも こんのさんはボクの頭のてっぺん辺りを 撫で続ける。その撫で方は 鼻血をいたわるとゆーよりは 小さい子を『おりこうさんだね』って褒めてるような撫で方。そう思うと『カワイイ』って言ってくれてるのも『幼児さんカワイイ』的な感じがする…。
「そんなこと言って…。アタシのこと子ども扱いしてません?」
一応 抗議すると
「…ちょっとしてるかも。だって 鼻血…」
あっさり肯定された上 鼻血ネタで反撃される。
ものすごく迷惑かけたのは事実だし 救いようもない程の醜態を曝したのも事実だけど それでも 自己弁護に走ってしまう ボク。今さらに過ぎるけど…。
「いっ いや あの… その… 。あっ あのビックリしちゃったってゆーか… 初めてだったから その…。頭に血が昇った だけで 興奮したとか そーゆーんじゃないんです… ホントですよ?」
何の言い訳にもなってないようなことを クドクドといい募ってしまう。
自己弁護どころか かえって傷口を広げてるだけのような気がする。
「あきちゃんってさ いつも颯爽としてて『アタシ 恋愛とか興味無いです』って感じに見えるけど ちゃんとエッチなことに興味あったりするんだね」
『エッチなことに興味あったりするんだね』
『エッチなことに興味あったりするんだね』
こんのさんの言葉が ビブラートかかって 頭の中で こだまする。
アダルトビデオ見て 鼻血吹いたんだ…。
……否定のしようもない。
軽蔑されている。
絶対に軽蔑されている。ほんの少しでも こんのさんに〈カッコいい〉 〈尊敬できる〉って思ってもらおうと これまで積み上げてきた努力が水の泡。
「だっ だから… ホント 初めてで ビックリしちゃっただけで…」
いよいよカッコ悪いことになるだけって分かっていても しつこく言い訳を重ねてしまう。
「いいよ。言い訳なんてしなくて」
こんのさんが ピシャリと言い放ち 無様なボクに引導を渡す。
「あたしも 興味あるから 誘ったんだし」
……えっ!?
それって こんのさんもエッチなことに興味あるって意味だよね? なんかもう 自分のことで いっぱいいっぱいで 頭回ってなかったけど こんのさんも一緒にアダルトビデオ視たってことは こんのさんもエッチなことに興味あるってこと。
こんのさんもエッチなこと考える。
ボクの妄想の中のこんのさんじゃなく 本物のこんのさんの口から出た言葉。いろんな想いが 渦巻いて 心臓がドキドキして 頭に血が昇ってくるのがわかる。落ち着け。落ち着かなくちゃ…。このままじゃ また 鼻血吹いちゃう。
「あたしさ… あきちゃんが エッチなことに興味あったり 進路のことで悩んでたりって知って ちょっと安心したの」
ボクが 心の平静を取り戻そうと 悪戦苦闘してる間に こんのさんは ポツポツと話し始める。
「えっ?」
ボクがエッチだったり 優柔不断だったりして 安心したってこと?
「いやぁ なんか あたしと似たようなこと考えたり 悩んだりしてるんだなぁって。あきちゃんって いつも颯爽としてて カッコいいし お金持ちだし 賢いし カワイイし 悩み事なんてきっと無いんだろうなって思ってたの」
こんのさんって ボクのこと そんな風に見てくれてたの?
〈颯爽〉〈カッコいい〉…。
もちろん こんのさんにそんな風に思ってもらいたいと思って 自己演出してきたけど ズッコケてばっかで ホントに思われてるなんて 考えたこともなかった。
「そっ そんなこと無いです…。アタシ 決断力とか無いんで いっつもウジウジ悩んでばっかです…」
ましてや 悩みがないなんて… 優柔不断の代名詞みたいな ボクなのに。
「…うん。そうなんだよね……きっと。でも あきちゃんも悩むってわかって あたし ちょっと嬉しいんだ。なんか いつも あきちゃんに助けてもらってばっか だからさ…。」
ボクは こんのさんの相談 聞いたり 手助けすると 幸せな気分だった。
感謝してもらったり 笑顔を見れると スゴく癒された。こんのさんも ボクに対してそんな気持ちでいてくれてた。だからこそ ボクが 相談持ちかけたりしないから 寂しい思いをしてたんだ…。ボクが あんまり相談しないのは こんのさんを信用してないとかじゃなくて ただ 人に相談するのが下手なだけなんだけど…。でも それが こんのさんを不安な気持ちにさせてたんだ。〈もらう〉ばっかりって不安。やっぱり〈あげる〉もないとね。
「あたしも 少しはあきちゃんの役に立ちたい。あたし あきちゃんみたいに賢くないし 上手く解決とかできないと思うけど 話聞くだけなら いつでも聞くから。だから また 話してくれたら嬉しいかも」
人としての弱さみたいなのがあるから 親しみがわく。ボクなんて 弱さの塊みたいな感じだから できるだけ弱味を見せないようにって 頑張ってたんだけど こんのさんには 本当に弱味の無い人間に見えてたみたい…にわかには 信じられないけど。
「あっ アダルトビデオ見て 鼻血出しちゃたことは 悩まなくて大丈夫だよ? あたしと あきちゃんだけの秘密にしとくから。大丈夫 大丈夫」
「ううっ… こんのさん イジワルです…」
…弱味を見せるってことは 親しみがわくってことでもあるけど イジられるってことでもある。こんのさんの中では ボクは アダルトビデオ見て鼻血出した子…。エッチなことに興味あるのは事実だし 否定も出来ないけど かなり恥ずかしい。
「悩み事って言えばさ 恋の悩みとか無いの? あきちゃんって 彼氏なしなんでしょ? じゃあさ どんな男の子が好みなの? エッチ上手な人?」
「もうっ!そんなことばっかり!怒りますよ!?」
でも まぁ 冗談だって分かるし 冗談って分かってれば 怒ったりもできる。お互いに 感情を表に出しやすくなってきたってゆーのは 仲良くなってきたってゆーこと。
いいことだと思う。
「ごめん ごめん。で どんなタイプが好み?」
サラッと謝ってくれるし。
それは ありがたい。
……で 好みの男の子の話題か。
エッチに興味あるなら 恋愛にも興味があるだろう。恋愛に興味あるなら 好きな異性のタイプがいるだろう。自然な思考の流れだし ボクにも好きな異性のタイプがいる。ただ ボクの場合〈異性〉って認識してるのが〈男の子〉じゃあないんだよね…。
できれば 巧くはぐらかして スルーしたい話題だ。
「あー あの… アタシ 女子校で 出会いとか無いし…」
とりあえず 定番の答えで 逃げてみる。
「そうじゃなくて 理想のタイプとか ないの? 好きな芸能人とか…さ」
おっと逃がしてはくれないみたいだ。補足質問の芸能人の話題で もう一度 はぐらかしてみる。
「好きな芸能人ですか? T-GROのAYANO.さんとか好きですけど」
「アヤノさんって 女の人でしょ? そうじゃなくて 男の人のタイプ」
『女の人でしょ?』か…。男の人を好きなハズって こんのさんも思ってるんだよね。当たり前って言えば当たり前なんだけど…。
「あー いや… 特に無いんですけど…」
ホントに男に興味は ない。でも こんのさんは 不満そうな表情。きっと ボクが 隠してるって思ってるんだろう。
何か言わなきゃ収まらない感じだ…。
「強いて言えば 感情表現が豊かな人ですかね。笑ったり怒ったりが ハッキリしてる人が いいかもです」
要するに こんのさんのことだけど もちろん 彼女に伝わるハズもない。
こんのさんの 見た目 美しい顔や黒い髪 スタイル 声 みんな大好きだけど やっぱり その豊かな表情に一番 惹き付けられる。笑顔 怒り顔 しょげた顔 そして 泣き顔。笑顔がいっぱい見られるように 泣き顔を見なくてすむように 。ボクは こんのさんのことを守っていたい。
一応 答えたし ボクから話題を逸らしたい。
恋愛の話題なら 前から聞きたかったことがある。
「こんのさんは どんな人がタイプですか? 前 片想い専門とか言ってましたけど 今も片想い中ですか?」
ボクの ここ3ヶ月の感覚じゃ たぶん こんのさんに片想い中の相手は いないと思う。こんのさんの性格なら いるんだったら ボクに話していると思う。なんたって〈女の子同士〉なんだから…。ただ やっぱり確認して安心しておきたい。
「 …あたし レギュラー獲るまで 恋愛禁止って決めてるから」
この話は 前に聞いたことがある。
でも この話は 恋愛したいって想いの裏返しでもある。だって 迷いなくバレー 一筋なんだったら わざわざ禁止しなくても いいハズだもんな。
「あー そうなんですね…。じゃあ 高校 入ってから 全然 片想いとかしてないんですか?」
「……いや そーゆーワケでも無くて…さ。あたし 去年 卒業した男バレのキャプテンのこと 好きだったんだけど…。遠目に見てただけで なーんにも出来ないまま 卒業して 東京の大学に行っちゃったの」
グッと 嫉妬に胸が締め付けられる。
こんのさんが見せた表情は ボクが今まで見たことのない 切なそうな少し苦い表情。
「今でも その先輩のこと 好きなんですね?」
「どーなんだろ? 春頃は…さ 先輩のこと考えただけで 涙が出そうになったんだけど… 今は そこまでじゃあ ない…かな」
少し遠い目をして こんのさんは 答えるともなく呟く。たぶん その先輩のこと思い出しているんだろう。
「別に先輩のこと嫌いになったってワケでも無いけど…。痴漢騒ぎからこっち なんかバタバタしてるうちに 気がついたら なんだか立ち直っちゃってるな…あたし。別に 新しい恋に出会ったんでも無いけどさ」
後半は ボクに話すと言うよりは 自分に言い聞かせてる感じ。
こんのさんの想いに気づかずに東京へ行ったっていう先輩に ボクは 何を思えばいいんだろう。少し沈んだ こんのさんの表情は 恋する女の子。嫉妬の心が 胸の中で黒く燻る。
「こんのさん スゴい美人で性格も素敵だから きっと こんのさんのこと好きだって想ってる人がいると思いますよ。こんのさんが 気づいてないだけで…」
ボクが ここにいて 誰よりこんのさんのことを想ってるってことを伝えたい。
……でも それは叶わぬ夢。ボクには 一般論でしか語ることができない。
「ありがと。そーだといいんだけど」
こんのさんも 愛の告白じゃなく ただの慰めだと 思ったみたいだ。
「大丈夫です。きっといると思います。身近なところに…」
完全に告白だけど ボクの想いが こんのさんに 届くことはない。
だって こんのさんにとってボクは〈女の子〉で友だちだ。今日も 買い物したり 話したり また少し仲良くなったけど あくまでも友だちとしてだ。
「そーいや あきちゃん。素敵な出会いが1回だけあったよ。運命的なヤツ」
今日のこんのさんの星占いには『運命的な出会いがあるかも』って出てたけど? 富永商事の三原さんとか 七海堂の七海さんとか運命的な出会いと言えなくはないけど 恋愛対象って感じじゃあ無いよね。たぶん 今日のことじゃなくて 春からこっち みたいなハナシなんだろうけど。
「…そうなんですか?」
今まで そんなハナシ 一度もしてなかったし… 誰なんだろ? やっぱりクラスに 気になる男子がいて みたいなハナシなんだろうか? ちょっと不安になる。さっきは 片想いの相手は いないって言ってたけど…。
「うん。その人ね あたしが 痴漢されて困ってた時に 全力で あたしのこと守ってくれたの」
……痴漢から守った?
「それって アタシのことですか?」
「そう。あの時のあきちゃん ホント カッコよかったし 惚れた~って思ったよ」
〈惚れた〉って言葉に ドキっとするけど 次の言葉が 予想できる…。
……そして その言葉は 絶対に 聞きたくない。
でも ボクの祈りは届かず こんのさんは 言葉を続ける。
「あきちゃん 男だったら良かったのに…」
覚悟していたけど それでも こんのさんの言葉に心臓が握り潰される。
男だったら…。
男だったら惚れてた。
でも 女の子のボクに こんのさんが惚れることはない。ボクが男の子だったら 2人は本当に恋に落ちていたのかもしれない。
ボクが男だったら…だ。
こんのさんに悪気は ない。
〈女の子同士〉の軽い冗談だ。ポーカーフェイス いや 違う… 笑顔を作って流さなきゃ。
「……ホントですね。もし アタシが男の子だったら こんのさんに交際申し込んでます。『お願いします!』って」
〈あき〉の口から 冗談めかした告白の言葉がこぼれる。
もちろん こんのさんは 笑って流す。
ボクの恋は あっけなく終わった。
絶望的なほど あっけなくだ。いや もちろん 始まっても無かったんだけど…。でも この瞬間 ボクの中で〈終わった〉ってわかったんだ。
もしかしたら〈あき〉とこんのさんの友情は 続くのかもしれない。
けど 本当の気持ちを伝えることのできないボクは こんのさんと〈親友〉になることさえできない。だって こんなに絶望的に悲しいのに ボクは〈あき〉を笑わせているんだもの。
でも まぁ いい。
今は〈あき〉を笑わせることに集中しよう。泣くのは 部屋に帰って 独りになってから。
それが ボクみたいな嘘つきには お似合いだ……。
………。
……。
…。
to be continued in “part Kon 7/23 am 2:14”