R-15
part Aki 7/24 pm 2:32
「いい?桜橋に着く 10分前には 絶対 電話してね?あと…」
「……ママ もう何回も聞いたから。ちゃんと電話するよ。スマホの充電もしたし。チケットも持った。もう 行くね?」
まだ 何か言いたそうなママを 後ろに残し 家を出る。
帰りは ママに迎えに来てもらうから 桜橋まで 少し歩かなきゃならない。今日も昨日と変わらない猛暑。日傘をさし 駅までの坂道をゆっくり下っていく。
昨日の夜から ずっと悩んで 夢でも悩んで 午前中も悩んで 今は ちょっとスッキリした。
やっぱり ボクは こんのさんが好きだ。
これは変えられない。無理に嫌いになる必要もないし 嫌われることもない。4月に 初めて彼女を見たとき ホントに綺麗で 衝撃的で こんな娘と恋に落ちられたらって思った。そしてこんのさんを痴漢から助けて 知り合いになった。その日の夜 自分で気づいたはずなんだ。こんのさんを助けたのは〈あき〉でボクじゃないんだって。
だから昨日 こんのさんにフラれたのも〈あき〉であってボクじゃない。
そもそも ボクは こんのさんに認知されてもいない。その状況は 4月初めから 実は 何も変わってない。こんのさんと仲良くなったのは〈あき〉であって ボクじゃない。
落ち込む必要なんてなかったんだ……最初から。
ただ この3ヶ月の間 ボクは こんのさんにどんどん惹かれていった。彼女の笑い顔 怒り顔 泣き顔。こんのさんの豊かな表情みてると癒されたし 彼女のために もっと頑張ろうと思った。もちろん ボクに気づいて欲しい カッコいいって思って欲しいってゆー下心があったのも事実だけど それ以上に こんのさんが幸せそうだったら ボクも幸せだった。
さっき ダンカン神父がよく言う言葉を思い出したんだ。
『ああして欲シイ。こうなったラいいのニ。求める気持チ 焦がれる気持チを 恋と言いマス。愛は 違いマス。愛は 求めマセン。愛は 与えるものデス』
そう。この3ヶ月 ボクは 本気で恋をして 気がついたら彼女を愛するようになってたんだ。いつものことながら ちょっとカッコつけ過ぎで 無理してる部分もあるとは 思うし また なんかあったら泣いちゃう日もあると思うけど(なんてったって 筋金入りのヘタレのボクだ…)それでも ボクは こんのさんを愛してる…… そう思えば乗り越えられる気がする。
恋は 終わった。でも ボクは 彼女を愛してる。
…3ヶ月前 恋に恋する平凡な十六歳だったボクは 人を愛することを覚えて 少し大人になったんだ。
今日のT-GROのライブも 初めは2人で出かけるきっかけを作りたくて考えたものだった。 チケットを取ったときは 2人で出かけるなんて 想像もできなかったけど 気がつけば 2人で出かけるのも 今日で4回目。もちろん 今日も〈デート〉じゃあ 無い…。ボク達は 恋人じゃないんだから。でも こんのさんに楽しんでもらって ボクも楽しんで 思い出になれば いい。
こんのさんにとっては 親友の〈あき〉との夏休みの思い出。
ボクにとっては 愛する女の子間近で過ごした思い出。
こんのさんの化粧品を買う約束もある。
お化粧 覚えて こんのさんがもっと笑顔になればと思う。あんなに美人なのに 時々『外見に自信がなくて…』みたいなこと言ってるもんな。お化粧で自信つけて もっともっと魅力的に笑ってくれたら どんなに幸せだろう。彼女の笑顔のために ボクが少しでも役に立てるなら それで十分 幸せだ。
ホントに素敵な こんのさんだから きっとそのうち誰かと恋に落ちたりするんだろう。その時も こんのさんが幸せそうだったら 笑顔で『おめでとう』って言えるボクでいよう。
それって カッコいいよね?
……やっぱムリかな。考えただけで涙出そうになってきたし…。
まぁ いい。泣きたいときは 家で 泣こう。こんのさんの前では 笑顔でいる。
次の角を曲がれば 桜橋の駅が見える。
ボクは〈あき〉。こんのさんの〈親友〉だ…。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 7/24 pm 2:52”