R-15
part Aki 10/17 pm 1:06
「うーん。カワイイわよ~。でも もうちょっとだけ 口角上げて!……ハイ。オッケー」
「すみません。ありがとうございます」
「ママ ありがと」
いつものことながら ママがポーズの細かいところまで 指示してきて煩いんだけど 写真撮影終了。ママの一眼レフの後 ボクと こんのさんのスマホでも撮ってもらった。
「見て見て。これなんて可愛く撮れたんじゃない? こっちも綺麗よ…」
うん。可愛く撮れてる。こんのさんも ホント綺麗。
実は こんのさんと2ショットで 写真 撮ったの初めて。こんのさんは友達と撮ったミニシールを何枚も スマホケースに貼ってるけど ボクとは 撮ったことがない。この写真 2人とも可愛く撮れてるし 待ち受けに使おうかな…。ボクのお誕生日の写真だし プレゼントのエプロンドレスの写真だし 〈女の子同士〉だし そんなに変じゃないよね…。
こんのさんは ママがお化粧直しして 確かにグッと大人カワイイ感じになった。
Tゾーン強調して大人っぽくなってるけど チークとリップの色をちょっとだけ変えて 可愛いさもアップ。やっぱり ママ お化粧上手だな…。お姫様ってゆーかプリンセスって感じかな。なんてゆーか気品みたいのが出てる気がする。こんのさんの素敵なところを見つけるのも 別にボクの専売特許ってワケじゃない。……当たり前のことだけど。
こんのさんを綺麗にするのが ママでもいい。こんのさんを支えるのが 他の男でもいい。こんのさんが笑顔になれるなら それでいい。
……大丈夫。
今度は 涙は 出ない。
そう。ボクは男の子。人前で涙なんて見せないんだ。
ボクが こんのさんの幸せを見守っていくってゆー決意を 確かめている間も ママは こんのさんにペチャクチャと 色んなことを話しかけてる。いつもは よく話す こんのさんも さすがに防戦一方だ。ホント マシンガントークだな…。ちょっとは 黙れよ…とか思ってたら 聞き捨てならない話が 耳に飛び込んでくる。
「ホント綺麗ねぇ。これ 私の勘なんだけど 瞳ちゃん 今 好きな人いるんでしょ?」
「えっ? …いや あの……」
……こんのさんの好きな人の話。
できたら今日は 聞きたくなかったけど ……。でも 気には なる。ポーカーフェイスで 聞き耳をそばだてる。
「夏に初めて会ったときも 美人な子ねって思ったけど さっき お化粧してるときに見たら 一段と綺麗になってるんだもの びっくりしちゃった」
確かに この2ヶ月で こんのさんは見違えるほど綺麗になった。
好きな人ができたんだろうな…ってゆーのは ボクも思ってたこと。ママも やっぱりそう思ったんだな。
「本気で好きになった人がいるんじゃない? そんな顔してるわよ?」
こんのさんは 少しうつむいて 切ないような苦いような表情。
でも すぐに 顔を上げて 言った。背筋をシャンと伸ばした こんのさんらしい姿勢で。
「…そうですね。大好きな人がいます」
目の前が 一瞬 暗くなるけど そこまでの衝撃じゃない。もう だいぶ前から覚悟できてたこと。
「ほ~ら やっぱり……。ねぇ 両想いなんでしょ?」
「……どうなんでしょう…。自分では いい雰囲気だと 思ってるんです。けど 付き合っては いないし やっぱ 片想いってことに なるんでしょうか…」
……そうなんだ。
ショックって言えばショックだけど ある程度 想定の範囲内。
「あら? そ~なの? 付き合ってはないんだ…? そう……。なんか焦れったい感じなのね。いいわねぇ。青春よね。甘酸っぱいわ~。ねぇ もうちょっと聞かせてもらってもいい? 」
オバサン根性丸出しで こんのさんのプライベートにズカズカ入り込んでいくママ。やめといた方がいいんじゃあ…って思うけど 片想いの相手って どんなヤツなんだろう? 気には なるんだよな…。
「私ね 結婚した頃から 夢があって 娘が年頃になったら 一緒に恋バナとかしてみたかったの。でも 1人目も2人目も男の子で 3人目も男の子でしょ? 今度こそって思って産んだ4人目だったんだけど…。亜樹ちゃんって 全~然 そんな話してくれないの」
そう。ママは どーしても女の子が欲しかったんだ。
この話は 小さいときから何度も聞いたし その度に 深く傷ついた。小6のときは ホント ボロボロになったし。そして ボクが思い付いた解決方法が〈あき〉とボクを分けること。〈あき〉は ママ好みのカワイイ女の子になって ママとオシャレやお化粧の話題で盛り上がり 可愛いポーズでママに写真を撮ってもらうんだ。……でも ボクは ボクだ。ボクは 男の子だから 男の子を好きになったりは しない。ママのために 男の子と恋愛するなんてアリエナイ選択肢だ。そこは 譲るワケにはいかない。
「私の勘だと 亜樹ちゃんも 好きな人 いるんじゃないかって思ってるんだけど~?」
そう言いながら ボクのこと ジト目で見てくるけど 無視だ。無視。
「まぁいいや…。で 瞳ちゃんの好きな人って どんな人?」
「スゴく優しくて 賢くて 頼りになって いつも守ってくれるってゆーか…。側にいてくれると安心する感じなんです。でも なんか 子どもっぽいとこもあって 完璧過ぎないってゆーか。そういう意味でも スゴく安心できる人で…」
……そんなヤツいんのかよって 心の中でツッコミ入れるけど こんのさんの顔は 大真面目。少なくとも こんのさんは 本気で信じてる。ホント 騙されてるんじゃなきゃいいけど…。
「……守ってくれる感じなの? そ~なんだ…」
守ってくれるとか 側にいるとってことは やっぱり 身近にいるんだよね…。……ってことは 学校にいる男の子なのかな? 学校の行きは ボクと電車に乗ってくれてるし 家の近所とかじゃないハズ。……たぶん。
「好きになってどれくらいなの? やっぱり 夏から?」
「そうですね。出会いは 春だったんです。出会い自体がスゴく運命的な感じで…。でも あたし はじめのうちは 自分の気持ちに気づけてなくて……。 いい友だちができたくらいに思ってて。けど 夏ごろ 急に あたし この人のこと 好きなんだって 気がついちゃって……」
出会いは 春って言ってるし 新しくクラスが一緒になった男の子ってことか。それとも 部活の後輩くんとか なのかな…?
それで やっぱり 夏休みに なんかあったんだ…。9月に会ったときは もう 雰囲気 違ってたもんな。お化粧もするようになってたし……。
「ずっと側にいるんでしょ? 瞳ちゃんくらい美人だったら 相手から モーションかけてきたりするんじゃないの?」
「……そうですね。なんか 思い返してみれば あの時のアレがそうだったのかなって 思ったりもするんです……。でも その時は ぜんぜん そんな風には 思ってなくて 聞き流してて…。……逆に あたしから 勇気出して 告白もしたんですけど その人 冗談だと思ったのか スルーされちゃったりして」
……えっ? 告白したんだ?
片想い専門って言ってた こんのさんが自分から告白するぐらい好きなんだ……。事態は ボクの想定していた最悪のケースとまでは いかないにしろ かなり悪い方のシナリオらしい。こんのさんは ガチで恋してて 相手の男もまんざらでも ない。2人が付き合い始めるのも 時間の問題ってワケだ……。
「お互いにスレ違いってワケ? いや~ん。モロ青春って感じじゃない。おばさん 切なくなっちゃうわ~。でも相手の子も相手の子よね……。瞳ちゃんみたいな素敵な女の子に告白されて スルーだなんて……。…ひどいニブチンなのかしら……? ねぇ 亜樹ちゃん?」
ホントに。
きっと こんのさんのことだから 正面切って『好きです』とか言ったに違いないんだ。それを冗談扱いしてスルーとか アリエナイにも程がある。
「……いえ。その時 あたし まだ その人のこと ぜんぜん わかってなかったんです。冗談扱いされたのも 当然って言えば当然で。……でも 今は少し〈彼〉のことわかるようになりました。今なら もうちょっと〈彼〉に寄り添えると思います」
彼か…。
ソイツが こんのさんと付き合うようになったら 朝の時間に その彼との ノロケ話 聞かされたりするんだろうな。なんかツライ展開だな。それとも ソイツと学校行くから ボクはお役御免ってことになるのかな…? なんにせよ〈あき〉と こんのさんの 至福の日々は 終わりを告げようとしているらしい。そういう意味では 2人でエプロンドレス着て記念写真 撮れてよかったかも。……一生の宝物になるよね。
「それだけ気持ちがあるんだったら もう一度 告白してみたら? 今度はきっと上手くいくんじゃない?」
「いや~。告白は もう ちょっと…。…あたし 女の子なんで できたら 男の子から告白して欲しいんですよね~」
そこまで けっこう真面目な顔で ママと応対していた こんのさんが照れたような表情を浮かべて 同意を求めるようにチラリとこっちを見た。
確かに 告白は男子からの方がいい。ってゆーか 絶対 男からの方がいい。女の子からの告白待ちなんて ヘタレじゃん。ソイツ ホントに こんのさんが言うような立派な男なのかな? ボクなら そんなカッコ悪いこと 絶対 しないけどな。
「あっ それ わかるわ~。絶対 男の子からが いいわよね! ねぇ 亜樹ちゃん? ……私も 高校2年の時にね……」
あらら。
ママが パパと出会った時のハナシが始まっちゃった…。これが始まると長いからな。やれやれだ……。
………。
……。
…。
to be continued in “part Kon 10/17 pm 1:58”