R-15
part Kon 10/17 pm 2:34
あきちゃんは ずいぶん長いこと泣いていた。
少し落ち着きかけて なんか喋ろうとすると また 涙が零れて 大泣きに逆戻り。
初めて出会った日のことを思い出した。
あの日は 泣いてたのが あたしで 介抱してくれたのが あきちゃんだったけど。
あの日 最高の勇気を見せてくれた あきちゃんが 今 あたしの腕の中で ボロボロ泣いている。
あきちゃんは いつも颯爽としてて 頼りになって 賢くて ちょっとおバカなとこもあったけど 泣いてるところなんて 想像もできなかった。
でも ホントは 泣きたいのガマンしてたんだ。
あの時も この時も あたしの心に残った あきちゃんの表情は全部 泣きそうな顔だったんだ…。
どんなに辛くても 誰にも言えない 深い孤独。
それが あの表情。
いっぱい泣いたら いい。
今日から あたしが傍にいて 慰めてあげられる。
さっきのことを思い出す。
勢いでキスしちゃった。
ファーストキス。
想い描いていたようなキスじゃなかった。
でも 想いを込めたキス。
もちろん あきちゃんの呪いが解けて 王子様に戻ったりはしなかった。
だけど あきちゃんの17年分の涙を呼び起こした。
ある意味 あたしのキスが あきちゃんの呪いを解いたんだ。
涙が溢れて お化粧が流れて カワイイ顔は ドロドロ。
鼻水も垂れてるし…。
ハンカチを出して 涙を拭いてあげる。
お化粧が落ちても やっぱり スゴい美少女。
……いや 美少女じゃないのか。
でも 美少年でもないしな……。
あきちゃん自身は どう考えてるんだろ?
色々 話 聞いておきたい。
じゃないとまた 悲しい想いをさせちゃうかも。
………。
……。
…。
「……こんのさん。ありがとうございます。アタシ もう 大丈夫です」
あきちゃんは やっと少し落ち着いたみたい。
お化粧が流れて ヒドイ顔だけど 目はしっかりしている。
でも 喋り方も元に戻ってる。
敬語だし『アタシ』。
たぶん素あきは『ボク』って言うんだよね。
「あきちゃん。『ボク』でいいんだよ?」
「……えっ? あ。…ボ ボク……ボク……。ううっ……うえぇぇ……」
あ。
また 泣いた…。
涙腺 緩みまくってる。
落ち着くまで まだまだかかりそう…。
でも17年分だもんね。
ゆっくり待ってあげよう……彼女として。
……いや。
まだ 彼女じゃないのかな?
そーいえば まだ 告白してもらってない。
………。
……。
…。
「……今度こそ 大丈夫。ボク 落ち着いたから。ごめん。泣いてばっかで」
「ううん。よかった。『ボク』ってゆーんだね」
「うん。ボク。ずっと心の中ではボクって思ってた」
目は赤いし 化粧は崩れて ぐちゃぐちゃだし 悲惨な顔になってる。
だけど 今まで 見た中で一番 爽やかな笑顔。
胸がキュンってなる。
「やっぱ 男の子なんだ?」
「うん。ボクは男の子。身体は女の子だけど ボクは自分のこと男だって思ってる」
あきちゃんは 自分の言葉で『男だ』ってキッパリ言いきった。
あたしが あきちゃんのこと『あたしの好きな男の子の場所にスッポリ嵌まった』って感じてたのは間違いじゃなかった。
そして『身体は女の子』ってゆーのも 今日 採寸のときに下着姿で確かめた。
でも まあ男の子なんだから 約束は守ってもらわないとね。
「あきちゃん。男の子なんだよね? ほら… なんかない?」
「えっ?」
「だから 男の子なんでしょ? だからさぁ…。なんか思い出さない?」
「?」
やっぱニブチン。
「男の子だったら なんか あたしに言うこと あったんじゃないの?」
あきちゃん ハッとした顔になって 赤くなり 目が泳ぎ出して かなり焦った様子。
……そんな 緊張しなくていいのに。
お互い もう 気持ちは分かってるんだし……。
でも やっぱ ちゃんと言葉にして欲しいんだ……女の子としては。
「あ あの…… さ さっきは 着替え 見ちゃって ごめん。い 一応 他の部屋で着替えようとは 思ったんだけど…。あんまり断ったら男の子だってバレるんじゃないかって思っちゃって…… つい。もう しません。ごめんなさい……」
ああ。
そっちか。
確かに『男の子』に見られたって思うと 恥ずかしいといえば恥ずかしいけど。
でもまあ 自分から誘ったしな…。
あきちゃんが エッチな視線で あたしのこと見るだろうってわかった上で ワザとやったんだから あたしも共犯。
ってゆーか主犯。
あきちゃんが 謝ることじゃない。
「そんなの気にしてないし 怒ってもないから大丈夫。そうじゃなくて 男の子だったら あたしになんか言うって約束してなかったっけ? 今日も言ってたし 7月にも 1回 言ってたって思うけど?」
ああ。
もう…。
なんか 言わせてる感 満々。
……どんどんロマンチックな感じから遠ざかっていってる。
あきちゃん やっと意味わかったみたいで 少しあたふたした感じだったけど あたしの目を正面から 見つめてくれて ゆっくりと口を開いた。
「……あ あの。紺野 瞳さん。ボ ボク こんのさんのこと 絶対 一生 大切にします。だから ずっと傍にいて 笑ってて欲しいです」
「一生?」
「……うん。一生」
あきちゃんって いつも めっちゃ賢いのに ときどきホントに おバカ。
それじゃ 告白じゃなくて プロポーズ。
あたし達 まだ 高校生なのに。
……でも あたしの答えは『YES』。
あたしもバカだ。
バカップル確定。
「うん。あきちゃん 大好き。ずっと傍にいるから…大丈夫」
あきちゃんは それには返事をくれずに 少し体を浮かして 身を寄せてくる。
自然と目を閉じる あたし。
あきちゃんの柔らかな唇が あたしの唇に重なる。
長いキス。
はじめは 好き 嬉しい ぐらいだった。
けど ずっとキスされてる間に じわじわ身体が熱くなってくる。
こんなにも愛されてるんだって思う。
……ううん。
会った時からずっと 愛してくれてたんだ。
痴漢から助けてくれたときの怒った顔。
エプロンドレスの色決めてくれたときの嬉しそうな顔。
生地を守ってくれたときの透明な笑顔。
お化粧してくれてるときの真剣な顔。
気がついたら あたしも涙を流してた。
ありがとうって言おうと思って 唇を離す。
口を開きかけたら グッと肩を抱き寄せられる。
あっと思う間もなく もう一度 唇を塞がれた。
そして 今度は 舌を挿し入れられる。
あきちゃん ちょっと強引。
……ううっ。
でも あたし こーゆーのに超~弱い。
アタマの中が『好き』で埋め尽くされていく。
あきちゃんの濡れた舌が あたしの舌に絡む。
ザラッとした舌があたしの舌に触れるたび 真っ暗な中に星が煌めき『好き』が弾ける。
どんどん どんどん ワケわかんなくなっていく。
あきちゃんの右手が エプロンドレス越しに あたしの左の胸を触ってる気がするけど 気にならない。
ってゆーか 気持ちいい……。
このまま 押し倒されちゃったら エプロンドレス シワになっちゃう…。
そんな心配だけが アタマの中をゆっくり巡ってる。
あきちゃんの首に 腕を回して 唇をもっと密着させる。
自分からも舌を絡めにいく。
好き。
大好き。
キスすればするほど もっとあきちゃんが欲しくなる。
もっと ワケわかんなくして欲しい……。
………。
……。
…。
「亜樹ちゃーーん。瞳ちゃーん。ケーキ焼けたわよー!」
あきちゃんのお母さんの声で 2人同時に跳び上がる。
そうだ。
2人の世界に浸りきってたけど ここはあきちゃんの家。
お母さんいるんだし めったなことできない……。
……ちょっと落ち着かなきゃ。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 10/17 pm 3:07”