R-15
最悪の女王と聖女
宮殿内に押し寄せてきた民衆。中には武器を手に持った姿もあるわ。
しかし、その中には男性がいない。
女性陣のみが暴動を起こし、宮殿までやってきたということだ。
「悪逆非道の女王、ユリ・デ・ビーエル! 私はあなたを許さない!」
先頭に立ち、この民衆を率いているのは、かつて聖女と呼ばれた女性。
このゲーム世界での主人公、オリヴィア・マイルス。
初めて出会った時とは違い、怒りで我を忘れているように見える。
「フッ……オリヴィアか? 久しいな?」
「何が『久しいな?』ですかっ!? あなたは自分のやったことを分かっているのですか?」
「ふむ、なんのことかな?」
「これですよっ! こんな低俗な創作物で王族や民衆をたぶらかし、王位まで奪うとは! やはりあなたは処刑されるべきでした!」
まあ、彼女が怒るのも無理はない。
だって配った同人誌のモデルは、オリヴィアと使用人のザリナなのだから……。
しかも18禁だから、かなり際どいシーンを追加してしまった。
民草をたぶらかしてしまう、自分の才能が怖いわ。
「オリヴィア様……そこまで言われなくても、ただの創作ですし」
とオリヴィアの腕を掴むのは、モデルになった使用人ザリナだ。
もしかして、彼女には百合の耐性があるのかしら?
「ザリナ、何を言っているの? 私とあなたを使って……こんないやらしいものを勝手に描いたのよっ? それで今や玉座に座るなんて!」
「別に私も望んで、この王冠を手にしているわけではない」
そう言って、黄金の王冠を人差し指でくるくると回して見せる。
「じゃあ、一体なぜこんなことをするのですかっ!? 今やこの国では、百合文化で男性陣が訳の分からないことばかり言うのですよ!?」
「それもそうね……」
だから今は、宮殿内から私を守る兵士たちを追い払ったのだ。
唯一この場に残った男性は、玉座の隣りに立つカデルのみ。
なぜ彼だけ残したのか……それはこれから分かってもらえる。
「陛下、そろそろ頃合いかと」
「うむ。カデルよ、例のものを女性陣に配ってくれ」
「はっ! イエス・ユア・マジェスティ」
毎回、言うのかしら? ちょっと痛い子に見えて来たわ。
~数分後~
カデルはどこからか、眩しく輝く黄金のワゴンを持ってくる。
ワゴンの上には、大量のカラー同人誌が載せてある。
もちろん、百合ではない。
表紙には汗だくになったアランが、弟のカデルと激しく絡み合っている。とても卑猥な作品だ。
「皆の物よ! これを読んで欲しい。そこに答えがあると思う!」
私がそう言うと、先ほどまでの態度はどこへやら。
腹を空かせた子供のように、同人誌目がけて突っ走る。
目は血走り、我を忘れている。
時折、同人誌を奪い合う女性たちの姿が見えるわ。
思った以上の反応だわ。
玉座の隣りに戻ったカデルが、耳元で囁く。
「陛下の予想された通りですね」
「うむ、ところでカデル。お前はあの作品を見ても大丈夫なの? ひょっとして耐性があるのかしら?」
「耐性というより、私は”腐男子”ですから」
「そうか……」
良い感じに仕上がったわね。