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作者: nuseat
残酷な描写あり
ビッグブラインド
サブロク機関を統括する大臣「小竹橋」を拷問し、政府のスキャンダルの証言を得た二人。
だが、宮野の動きも迅速だった——
 予定では、青山通りでミナミの車に合流し、録音したボイスレコーダーを渡すと共に離脱するはずだった。
『なぁ君ら。何かへマしたのか?』
 電話越しにミナミが問う。
「? 誰にも見つかってないからまだ発覚してないはずだけど」
『じゃあこの機動隊による検問と道路封鎖はなんなんだよっ! これじゃ君らの回収どころか、動くこともできないんだけど⁉︎』
「⁉︎」
 ミワは咄嗟に悟る。宮野の手回しであることを。小竹橋を餌にして、ミワたちを釣り上げるつもりだ。
「ミナミ、ラジオ! ラジオではなんて言ってる?」
『ラジオ? ラジオラジオ……』
 カーラジオのスイッチを入れ、適当に周波数を切り替えていく。いくつかどうでもいい番組をスルーして、特報番組を見つけ出した。
『速報です。つい先ほど、内国安全担当大臣の小竹橋おたけばし氏が、港区青山にある自宅で何者かによって殺害されたとの情報が入りました。警視庁によりますと、犯人は現在逃走中で、都内では機動隊による道路閉鎖が敷かれており――』
 電話越しに聞こえるアナウンサーの声。
「ミナミ、あたしらは殺してないぞ」
『じゃあ誰かに殺されたってこと? 君らが尋問したすぐ後に? 口封じ?』
「多分宮野だ。田畑たばた殺しと小竹橋殺しを被せる気だな。引き出した証言が表に出る前に片付けられれば、全部あたしらのせいってことにできる。あのクソたぬきめ」
『ほぁっ⁉︎』
 ミナミが変な声をあげる。
「なに、どうした」
特殊急襲部隊SATの車両が動いてるぞ、おいっ』
「警察の特殊部隊? 本気で狩りを始めるつもりだな」
 舌打ちするミワ。
「ミナミは撤退して。ラングウッドで落ち合おう」
『君らはどうすんのさ!』
「うまく撒いて身を隠すよ」
『そんな簡単に言うけど……気をつけろよ!』
「ミナミもね」
 電話を切る。
「SATが動き始めたなんら、私たちも急がないと。どう逃げる?」
 建物の向こうから、パトカーのサイレンが風に乗って聞こえて来る。もたもたしてはいられない。
 プリペイドSIMを抜き出してへし折ると、ミワはバッグから薄いケースを取り出しサンに渡す。
「スマートフォンはこれに入れろ。GPSを遮断する。追跡できそうなものがあればどんな手を使ってでも追って来るからな」
「バッグはどうする?」
 戦利品を詰めたバッグは動きを鈍らせる。抱えて逃げるのは大変だし、万が一荷物を検められれば終わる。
「そうだな。一度手近なところに隠して、後で回収しよう。ついてこい」
 ミワの指示に従いながらサンは思った。顔を隠すネックウォーマーといい、これではまるで逃走中の銀行強盗だ。

 犬を飼っていない民家の敷地内に潜り込む。最近の新築物件は防災の都合上、土地面積に対して建築に利用できる建築面積に厳しめの基準が適用されている。つまり隣の家との隙間はかなり空いているのだ。そこへ入っていく。
 人が入れる隙間があるとはいえ、裏にまで住人が入って来ることなど滅多にない。一時的に隠すにはちょうどよかった。
「もし警察にバレたら、ここの人に迷惑かかるんじゃ」
「うへはは、そん時はしらを切るしかねぇな」
 塀を乗り越え、そっと敷地を移っていく。住人に見つかれば面倒だが、表を闊歩するわけにもいかない。
 ――問題はSATがどれくらいいて、どこに配置されるかだな。
「サン、マガジンを確認しろ」
 指示しながら、自分のも確認する。MEUのハイキャパシティマガジンが二つ。装填されているものを含めて三つ。まだ一発も撃ってないから、五一発分ある。それ以外はコンバットナイフが一本。
「ショートマガジン三つにロングマガジンが一つ。全部持ってきてる」
「心臓二発、頭に一発。一人につき弾三発……あまり無駄撃ちはできないからそのつもりでね、サンちゃん」
「はぁ……了解。今夜も楽しい夜になりそう」
 言葉とは裏腹にうんざりした声で呟く。

 二人は木陰を縫うように走り、赤坂区民センターの側に出た。青山通りには多くの警察車両が止まっている。
 目指すは赤坂御苑の迎賓館。ここは東宮御所とうぐうごしょとして建設され、現在は国が管理しているものの元皇室の所有物ということもあり、そういうものにはの脱出のための隠し通路が備わっていた。その存在を知る者は政府の人間でさえ少ない。だが、ミワが知っているということは宮野も知っているということだ。
「どこに繋がっているか知れば知るほど、防ぎようがないもんだ。こういうのは特に」
 ミワ曰く、地下通路は網の目のようになっていて、あらゆる地下道へと通じている。つまり、全ての地下鉄の路線、地下街、地下駐車場、それらが出口の候補となり得る。一度入ってしまえば、追っ手に成す術はない。
「だから、入るまでが勝負」
 ミワの言葉を噛み締める。ここまでたどり着いた中で感じた罠の臭い。誘導されている感覚。敵も赤坂御苑内での決着を望んでいるのは間違いなかった。
「ま、街中でやるわけにもいかねえってわけでしょ、SATも」
 国民は公的機関が銃を使うことをことさら嫌う。日本人の享受する平和というものは、「悪や暴力」は見えさえしなければ存在しないことにできる、それで成り立っているもの、とでも言いたげだ。
 ――だから人権問題にも平気で目を塞いでいられるんだな。
 ミワはその点について熱心なわけではない。だがハラスメントに関しては人一倍敏感だった。でなければ、育ての親に等しい宮野に楯突くなんてこともしなかったろう。
「歩道橋を渡って道路を越えよう。サン、ついてこい」
「はいはい」
 警戒の一瞬の隙をついて駆け出す二人。それを見咎めた機動隊員が静止を求めるも、当然無視する。
 歩道橋の階段を駆け上がり、道路を横断していく。機動隊員たちは当然ながら、交通を止めている道路を渡っていくが、
「あっ」
 走り去ろうとする少女たちを見ていた一人が声をあげた。
 横断した二人は階段を降りず、そのまま赤坂御苑に向かって飛んだのである。
 公園は二メートルほど道路より高い。さらには生垣で視界が遮られている。二人はその生垣すら飛び越え、追手の視界から消えた。
 十数秒ほど遅れて彼らが石垣をよじ登り、坂を駆け上がり、生垣を越えたときにはもう容疑者の少女二人の姿はなかった。
「こちら、青山通りA班より、リーダー。標的は三笠宮みかさのみや東邸付近から御苑内に侵入。行方をくらましました。どうぞ」
『リーダーより青山通りA班へ。追跡は御苑内のSATが引き継ぐ。A班は引き続き、御苑外周の警備に当たられたし、以上』
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