残酷な描写あり
1
塔崎康太はミンダナオ島にいた。騒音と硝煙と、そして死の香りをまといながら。
塔崎はロシア製のFAM(Fighting Armor Multi-joints、装着機甲)であるMe-31“ゼールカロ”——その中国製の密造品である88式裝備裝甲を着込み、青々とした熱帯雨林を駆け抜ける。88式の右手には、トリガー・アダプターを追加したDShk重機関銃。左手には、敵から奪ったFAMサイズのダガーを装備している。
政府軍に独立傭兵として雇われた塔崎は、配属直後に反政府勢力との激戦地へと送り込まれた。与えられた装備は整備の行き届いていない88式と、弾が切れかけで銃身も僅かながら反れているDShk。慢性的な人員不足に陥っている政府軍傭兵部隊は、塔崎に僚機をつけることさえ拒んだ……というよりも、つい数日前に補給路を絶たれたが故に、僚機を出す方が非合理的であると踏んだ。「救援を出した」という事実を帳簿にまとめることで、政府軍上層部からの追及を避ける算段である。
〈君一人では心許ないだろうが、どうか分かってくれ。救援を待つ仲間がいる〉
傭兵部隊の隊長を務める大柄な白人男は、塔崎を送り出す前に言った。どうやら部隊への予算を確保するため、与えられた任務には単騎であろうと挑むしか無いという。
——やってやろうじゃないか。
こちらだって、ずぶの素人ではない。傭兵市場への登録がもうすぐ許される。FAMの腕部シェルの中で操縦桿を握り続けた左右の指が極限まで強張っている。事前情報によれば、この熱帯雨林を抜けた先に救援を待つ部隊がいる。別働の傭兵部隊が塔崎の出発前に向かったらしいが、最初の救援要請から四時間が経過した現在も戦闘は継続中。追加ボーナスを得るチャンスだ。そう自分に言い聞かせ、FAMの足取りを加速させる。
古びた外部集音装置が連続した銃声を拾い、塔崎の耳元に位置するスピーカーへと伝える。ノイズ混じりだが、この二年で聞き慣れた音の違い。味方が使うのは東側の機銃で、敵が使うのは西側の機銃。小さく軽機関銃も紛れている。乾いた7.62ミリの連射音。友軍の副兵装か。敵も味方も生き残っている証左である。
敵に増援を悟られぬよう、無線封鎖状態で熱帯雨林の端へと駆け付ける。その先は谷状であり、底に民家が密集している。黒煙が至る所で立ち上り、FAMが家々の合間を駆け巡るか、屋内に立てこもるかをしている。
味方部隊は全員が88式を使用しており、一方の敵部隊はフランス製の“ティーガル2”を使っている。ティーガル2の装備は等しくブローニングM2重機関銃。
塔崎は88式に搭載された旧式のスキャン装置を用い、視界内の敵の数を計測する。物陰に隠れるなどして集計できなかった機体を除き、少なくとも三十機。対する味方は十一機。
「行くしか無い」
意を決し、谷の斜面を駆け下りる。塔崎機の存在に気づかなかったティーガル2の頭上を取り、弾薬節約と隠密行動を兼ねてダガーで仕留める。機体の喉元から刃を挿入し、装着者の頭が位置する胸元へ届くよう力を加える。敵機沈黙。ずるりと引き抜いたダガーの刀身が赤く染まっており、その一瞬後、狭いFAM内で行き場を失った装着者の鮮血が機体の喉元から流れ出る。
「一機」
88式は戦術データ・リンクすら搭載していない古い機体。後付けも可能だが、このミンダナオ島の地において、果たして信頼に値するリンク装置に有り付けるかは甚だ疑問であった。
近くでM2重機関銃の連射音。12.7ミリ弾が塔崎機のすぐ横を通り過ぎ、集音装置が耳障りな擦過音を拾う。こちらを狙う敵の方向にDShkを向け、自動照準の有効化を待たずに射撃。12.7ミリ完全被甲弾を叩き込む。ティーガル2の側面装甲がはじけ飛び、穿たれた穴から血液とも駆動液ともつかない色の液体を噴き出しながら倒れる。
「二機」
ふと視線を上に向けると、青い塗装の88式が外壁の吹き飛んだビルの内部で戦闘中だった。右腕には見慣れない銃器——銃身を極端にまで切り詰めたKPV重機関銃——を装備している。同じフロアに躍り出たティーガル2に、彼らが使用するM2の弾薬口径を上回る14.5ミリ弾を浴びせる。
やり手だな。塔崎は確信する。いくら大口径の銃器といえど、FAMが持てば機関拳銃程度にしか感じられない得物である。それも、ほとんど銃身が存在しない。当然ながら精度は極端に失われ、反動抑制や照準システムとの連携に支障が生じる。あの青い88式はその欠点を熟知し、絶妙な距離を確保してバースト射撃を行っているのだ。
ティーガル2が一機、民家の屋上からビルへ飛び移る。青い機体の左に着地。次の瞬間、青い機体は接近し、左腕で敵のM2の銃身を払う。12.7ミリの弾痕が弧を穿つ。フロア上の薬莢を踏みつけるようにしてさらに接近し、カスタムKPVを押し付ける。88式の指がトリガー・アダプターを絞り、銃弾がティーガル2を貫通。だらりと四肢を垂れ下げたティーガル2が、存在しない壁面に全重量を預け落下する。
塔崎機の接近警報装置が作動。二機のティーガル2が南北から接近中。暗視装置起動。緑の視界に切り替わる。建物や木の陰に隠れつつ接近してくる、ひときわ明るい緑の“人型”。
「……崖伝いか」
塔崎は機体を跳躍させ、眼前のビルへ侵入。階段を駆け上がる。敵の進行方向が変化。遅れて、先ほどいた場所に着弾。敵が食いついたことを確信する。
操縦桿を操作し、IFFアクティブ・出力最大値。青の機体がいるフロアへ。煙たい空気越しに、塔崎機と青い機体が向かい合う。
「貴様……」
青い機体からの通信——凛々しい女の声——が入る。
「ブルーメール機に近づくな!敵味方の区別はしない!」
KPVを振るう。
「了解した。敵が接近中。貴官は北を」
「ふ……舐めるな。当然、確認済みだ」
ティーガル2が至近距離へ。塔崎機、ブルーメール機は互いに機体を反転させ、射撃。同時に二機分の敵性反応が消失。
「ところで貴官、名前は」
「俺は塔崎だ」
「そうか。塔崎、救援部隊は」
「……ああ」
ふと、昔見た映画を思い出す。敵陣に墜落したヘリコプター。そのパイロットの救援に向かう、特殊部隊員の二人。そこで放った言葉——。
「救援は、俺一人だ」
しかし、無情。今はその映画よりひどい状況だ。
「貴官一人で何ができる。本部への抗議を行う!」
「無駄だろう。ここはかなり強力なジャミングがかかっている。通じないさ」
「ぐっ……ならば、敵を撤退まで追い込むしかないのか」
「そうだ。ここへたどり着くのにも苦労した……なにより本部は補給路が断たれている。出せる増援などない」
「この町の制圧に成功すれば、補給が再開できる……そういう触れ込みのはずだ。そこで我々が送り込まれた」
「さあ、どうだろうな」
出撃直前に見た光景が浮かぶ。前線基地の簡易滑走路に整然と並んだC-130輸送機、積み込み用パレットに乗せられたFAM、なぜか兵舎を離れる士官たち……。
「基地の奴ら、今頃逃げおおせているかもしれんぞ」
「なんだと!?なにか見たのか、貴様」
「ああ。えらく慌ただしい正規軍の連中と、妙に準備の整った輸送機がな。俺は着任早々任務を受けたから、その後はどうか分からないが」
「捨て駒、ということか」
「そう考えていたほうが、後々楽かもな」
突然、ブルーメール機がKPVを床に擲つ。
「どうした」
「弾が切れた。よりによって……!」
彼女は機体背面のウェポン・バインダーを起動し、兵装保護用のカバーを分離させる。現れたのは、アームで保持された巨大なバトルアクス。
「私はブルーメールの一族。先祖の名のもとに、敵どもをこの刃の錆にしてくれる!」
背面のアームが展張し、両腕でバトルアクスを掴む。「青い閃光」とでも形容できる速さで、ブルーメール機はビルから飛び出す。跳躍、別の建物の屋上へ。
ブルーメール。しかし、どこかで聞いた苗字だ。接近する敵をDShkで薙ぎ払いつつ、ふと思案する。
「塔崎、貴官の本名は」
巨大な斧を振るっているためか、先刻よりも息遣いが激しい。
「塔崎康太だ」
「私はソフィア・ブルーメール。生きてこの場を脱するぞ。覚悟はいいな!」
「無論だ……!」
敵機捕捉。操縦桿のトリガーを絞る。点射が爆発反応装甲を射抜き、沈黙させる。
思い出した。ブルーメールとは、かつてのフランス名門貴族家。世界史に疎い塔崎も、その名は聞き及んでいる。彼女は傭兵市場でも屈指の人気を誇る「高級傭兵」である。
由緒正しい家柄の娘が、しかも傭兵市場の目玉商品が、こんな場所で稼ぎを。探りたくはないなと思いつつ、DShkのトリガーを絞る。ディスプレイに赤い警告表示。残弾なし、予備弾薬なし。敵機が現れる。DShkを投げつけ、怯んだ隙に床を蹴る。重力を利用して飛びかかり、逆手に構えたダガーで正面装甲を貫く。88式が返り血に染まる。センサー部を洗浄。
偶然にも、敵のM2に装着されているトリガー・アダプターはDShkのものと同型だった。人間用の火力をFAMに適用させるアダプターはモジュラー式で、本体トリガーとの接点とFAM用グリップに分割される。本体との接点を交換すれば、トリガー形状や位置の異なる銃器に装着可能である。
ダガーを突き刺したまま敵を蹴倒し、M2と予備弾薬を拾い上げる。照準システムを受動修正モードへ移行。
敵陣で乱舞する友軍機の反応は、まだ消えていない。
塔崎はロシア製のFAM(Fighting Armor Multi-joints、装着機甲)であるMe-31“ゼールカロ”——その中国製の密造品である88式裝備裝甲を着込み、青々とした熱帯雨林を駆け抜ける。88式の右手には、トリガー・アダプターを追加したDShk重機関銃。左手には、敵から奪ったFAMサイズのダガーを装備している。
政府軍に独立傭兵として雇われた塔崎は、配属直後に反政府勢力との激戦地へと送り込まれた。与えられた装備は整備の行き届いていない88式と、弾が切れかけで銃身も僅かながら反れているDShk。慢性的な人員不足に陥っている政府軍傭兵部隊は、塔崎に僚機をつけることさえ拒んだ……というよりも、つい数日前に補給路を絶たれたが故に、僚機を出す方が非合理的であると踏んだ。「救援を出した」という事実を帳簿にまとめることで、政府軍上層部からの追及を避ける算段である。
〈君一人では心許ないだろうが、どうか分かってくれ。救援を待つ仲間がいる〉
傭兵部隊の隊長を務める大柄な白人男は、塔崎を送り出す前に言った。どうやら部隊への予算を確保するため、与えられた任務には単騎であろうと挑むしか無いという。
——やってやろうじゃないか。
こちらだって、ずぶの素人ではない。傭兵市場への登録がもうすぐ許される。FAMの腕部シェルの中で操縦桿を握り続けた左右の指が極限まで強張っている。事前情報によれば、この熱帯雨林を抜けた先に救援を待つ部隊がいる。別働の傭兵部隊が塔崎の出発前に向かったらしいが、最初の救援要請から四時間が経過した現在も戦闘は継続中。追加ボーナスを得るチャンスだ。そう自分に言い聞かせ、FAMの足取りを加速させる。
古びた外部集音装置が連続した銃声を拾い、塔崎の耳元に位置するスピーカーへと伝える。ノイズ混じりだが、この二年で聞き慣れた音の違い。味方が使うのは東側の機銃で、敵が使うのは西側の機銃。小さく軽機関銃も紛れている。乾いた7.62ミリの連射音。友軍の副兵装か。敵も味方も生き残っている証左である。
敵に増援を悟られぬよう、無線封鎖状態で熱帯雨林の端へと駆け付ける。その先は谷状であり、底に民家が密集している。黒煙が至る所で立ち上り、FAMが家々の合間を駆け巡るか、屋内に立てこもるかをしている。
味方部隊は全員が88式を使用しており、一方の敵部隊はフランス製の“ティーガル2”を使っている。ティーガル2の装備は等しくブローニングM2重機関銃。
塔崎は88式に搭載された旧式のスキャン装置を用い、視界内の敵の数を計測する。物陰に隠れるなどして集計できなかった機体を除き、少なくとも三十機。対する味方は十一機。
「行くしか無い」
意を決し、谷の斜面を駆け下りる。塔崎機の存在に気づかなかったティーガル2の頭上を取り、弾薬節約と隠密行動を兼ねてダガーで仕留める。機体の喉元から刃を挿入し、装着者の頭が位置する胸元へ届くよう力を加える。敵機沈黙。ずるりと引き抜いたダガーの刀身が赤く染まっており、その一瞬後、狭いFAM内で行き場を失った装着者の鮮血が機体の喉元から流れ出る。
「一機」
88式は戦術データ・リンクすら搭載していない古い機体。後付けも可能だが、このミンダナオ島の地において、果たして信頼に値するリンク装置に有り付けるかは甚だ疑問であった。
近くでM2重機関銃の連射音。12.7ミリ弾が塔崎機のすぐ横を通り過ぎ、集音装置が耳障りな擦過音を拾う。こちらを狙う敵の方向にDShkを向け、自動照準の有効化を待たずに射撃。12.7ミリ完全被甲弾を叩き込む。ティーガル2の側面装甲がはじけ飛び、穿たれた穴から血液とも駆動液ともつかない色の液体を噴き出しながら倒れる。
「二機」
ふと視線を上に向けると、青い塗装の88式が外壁の吹き飛んだビルの内部で戦闘中だった。右腕には見慣れない銃器——銃身を極端にまで切り詰めたKPV重機関銃——を装備している。同じフロアに躍り出たティーガル2に、彼らが使用するM2の弾薬口径を上回る14.5ミリ弾を浴びせる。
やり手だな。塔崎は確信する。いくら大口径の銃器といえど、FAMが持てば機関拳銃程度にしか感じられない得物である。それも、ほとんど銃身が存在しない。当然ながら精度は極端に失われ、反動抑制や照準システムとの連携に支障が生じる。あの青い88式はその欠点を熟知し、絶妙な距離を確保してバースト射撃を行っているのだ。
ティーガル2が一機、民家の屋上からビルへ飛び移る。青い機体の左に着地。次の瞬間、青い機体は接近し、左腕で敵のM2の銃身を払う。12.7ミリの弾痕が弧を穿つ。フロア上の薬莢を踏みつけるようにしてさらに接近し、カスタムKPVを押し付ける。88式の指がトリガー・アダプターを絞り、銃弾がティーガル2を貫通。だらりと四肢を垂れ下げたティーガル2が、存在しない壁面に全重量を預け落下する。
塔崎機の接近警報装置が作動。二機のティーガル2が南北から接近中。暗視装置起動。緑の視界に切り替わる。建物や木の陰に隠れつつ接近してくる、ひときわ明るい緑の“人型”。
「……崖伝いか」
塔崎は機体を跳躍させ、眼前のビルへ侵入。階段を駆け上がる。敵の進行方向が変化。遅れて、先ほどいた場所に着弾。敵が食いついたことを確信する。
操縦桿を操作し、IFFアクティブ・出力最大値。青の機体がいるフロアへ。煙たい空気越しに、塔崎機と青い機体が向かい合う。
「貴様……」
青い機体からの通信——凛々しい女の声——が入る。
「ブルーメール機に近づくな!敵味方の区別はしない!」
KPVを振るう。
「了解した。敵が接近中。貴官は北を」
「ふ……舐めるな。当然、確認済みだ」
ティーガル2が至近距離へ。塔崎機、ブルーメール機は互いに機体を反転させ、射撃。同時に二機分の敵性反応が消失。
「ところで貴官、名前は」
「俺は塔崎だ」
「そうか。塔崎、救援部隊は」
「……ああ」
ふと、昔見た映画を思い出す。敵陣に墜落したヘリコプター。そのパイロットの救援に向かう、特殊部隊員の二人。そこで放った言葉——。
「救援は、俺一人だ」
しかし、無情。今はその映画よりひどい状況だ。
「貴官一人で何ができる。本部への抗議を行う!」
「無駄だろう。ここはかなり強力なジャミングがかかっている。通じないさ」
「ぐっ……ならば、敵を撤退まで追い込むしかないのか」
「そうだ。ここへたどり着くのにも苦労した……なにより本部は補給路が断たれている。出せる増援などない」
「この町の制圧に成功すれば、補給が再開できる……そういう触れ込みのはずだ。そこで我々が送り込まれた」
「さあ、どうだろうな」
出撃直前に見た光景が浮かぶ。前線基地の簡易滑走路に整然と並んだC-130輸送機、積み込み用パレットに乗せられたFAM、なぜか兵舎を離れる士官たち……。
「基地の奴ら、今頃逃げおおせているかもしれんぞ」
「なんだと!?なにか見たのか、貴様」
「ああ。えらく慌ただしい正規軍の連中と、妙に準備の整った輸送機がな。俺は着任早々任務を受けたから、その後はどうか分からないが」
「捨て駒、ということか」
「そう考えていたほうが、後々楽かもな」
突然、ブルーメール機がKPVを床に擲つ。
「どうした」
「弾が切れた。よりによって……!」
彼女は機体背面のウェポン・バインダーを起動し、兵装保護用のカバーを分離させる。現れたのは、アームで保持された巨大なバトルアクス。
「私はブルーメールの一族。先祖の名のもとに、敵どもをこの刃の錆にしてくれる!」
背面のアームが展張し、両腕でバトルアクスを掴む。「青い閃光」とでも形容できる速さで、ブルーメール機はビルから飛び出す。跳躍、別の建物の屋上へ。
ブルーメール。しかし、どこかで聞いた苗字だ。接近する敵をDShkで薙ぎ払いつつ、ふと思案する。
「塔崎、貴官の本名は」
巨大な斧を振るっているためか、先刻よりも息遣いが激しい。
「塔崎康太だ」
「私はソフィア・ブルーメール。生きてこの場を脱するぞ。覚悟はいいな!」
「無論だ……!」
敵機捕捉。操縦桿のトリガーを絞る。点射が爆発反応装甲を射抜き、沈黙させる。
思い出した。ブルーメールとは、かつてのフランス名門貴族家。世界史に疎い塔崎も、その名は聞き及んでいる。彼女は傭兵市場でも屈指の人気を誇る「高級傭兵」である。
由緒正しい家柄の娘が、しかも傭兵市場の目玉商品が、こんな場所で稼ぎを。探りたくはないなと思いつつ、DShkのトリガーを絞る。ディスプレイに赤い警告表示。残弾なし、予備弾薬なし。敵機が現れる。DShkを投げつけ、怯んだ隙に床を蹴る。重力を利用して飛びかかり、逆手に構えたダガーで正面装甲を貫く。88式が返り血に染まる。センサー部を洗浄。
偶然にも、敵のM2に装着されているトリガー・アダプターはDShkのものと同型だった。人間用の火力をFAMに適用させるアダプターはモジュラー式で、本体トリガーとの接点とFAM用グリップに分割される。本体との接点を交換すれば、トリガー形状や位置の異なる銃器に装着可能である。
ダガーを突き刺したまま敵を蹴倒し、M2と予備弾薬を拾い上げる。照準システムを受動修正モードへ移行。
敵陣で乱舞する友軍機の反応は、まだ消えていない。