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作者: O.T.I
残酷な描写あり
第一幕 7 『合流』
「……おかしいッスね」

 しばらく歩いていると、唐突にロウエンさんが疑念を口にした。

「どうした?」

「いや、もうとっくに外に出てもおかしくないはずなんスけど……」

「なんだ?方向間違えてんじゃねえのか?」

「いや、そんなはずは……」

「枝葉で見えにくいけど、太陽は確認できてるし私も方向は合ってると思うけど?」

 夜や屋内ならまだしも、そうそう方向を誤るはずもないはずだ。

「そうすると……どういう事なんだ?」

「うーん、分からないッス。それと、どうもアイツとの距離がさっきから変わっていないみたいなんスよ」

「はぁ?何だそりゃ?あっちも動いてるんじゃねえのか?」

「そういう感じでもなくて……同じところをぐるぐる巡ってるような?魔法のトラップでそんなのがあるッスよね?一度入ったら出られない的な……」

「あ~、あるわね~。結界魔法の一種ね~。ダンジョンとかでも使われてて結構厄介なのよね~」

 それが事実だとしたら、抜け出すためには確か……

「確か、魔法の起点になっている何かを破壊、あるいは術者を倒すなりしないといけないんだったか?」

「そうなるわね~。今回の場合は後者ね~」

「はあ~、勘弁してほしいぜ……」

 そう、あのオーガもどきが発動させてるのだろう。
 そうすると、アイツを倒すしかないという事だ。

「魔力切れは期待できないのか?」

「一旦発動すると本人の魔力は関係なくなるわ~。その場所の魔素を糧にして維持し続けるの~。ここは地脈から木々が魔素を吸い上げて大量に放出してるから~効果は半永久的かしら~。[解呪]って手もあると言えばあるんだけど~、これだけ広範囲だと私じゃ無理ね~」

「あ~分かった分かった。お前が無理なら誰だって無理だろ。腹ぁ括るしか無ぇって事か」

 いよいよ覚悟を決めなければ、と言うとき。


「ちょっと待つッス。何かこちらに来るッス」

 ロウエンさんが何かを察知したようだ。

「何だ?魔物か?」

「いや……これは人間っぽいッスね。向こうもこちらを察知してるみたいッス。動きに迷いがないッス」

「何?まさか……?」

 今この森にいる他の人間って、もしかして?


 念の為警戒しながら待ち構えていると、やがて姿を現したのは……

「ああ、やはり冒険者か!あんたたち、この森の調査に来たんだろう?」

 そう言って、こちらに声をかけてきたのは二十歳前後くらいの長身の男。
 茶褐色の髪と瞳に精悍で整った顔立ちの、なかなかの男前だ。
 どこか気品があるような感じもする。
 纏った鎧や腰に下げた長剣を見るに、前衛の剣士と思われる。


 その後ろには比較的軽装の斥候らしき三人。

 一人は長い黒髪を首の後で束ねた、鋭い雰囲気の細身の男性。

 一人は薄茶髪の中肉中背であまり特徴のない男性。

 一人は赤髪をショートボブにした、気が強そうだけど綺麗な女性。


 そして、もう一人。
 いかにも魔道士と思しき出で立ちの、私より少し年上くらいの女の子。
 紺色の髪をお下げにして、ちょっと野暮ったい眼鏡をかけている。
 顔立ちは可愛らしいのにもったいない感じだ。
 そして、多分ドジっ子だ。
 いや、雰囲気がそう主張してる気がして……


「あぁ。そう言うお前さんたちは『鳶』か?」

 剣士の彼の問に父さんが答え、逆に問いかける。
 パーティーの構成も聞いていた通りに見えるし、間違いないだろう。

「ああ、そうだ。俺はリーダーのカイトという。で、こいつらは……」

「レダだ」

「ザイルです」

「レイラよ。よろしく」

 黒髪の男、茶髪の男、赤髪の女、の順だ。
 そして、最後に魔道士の女の子が名乗る。

「あ、わ、私はリーゼですっ!よろしくお願いしまふっ!」

 ……噛んだ。

 ああ、赤くなってる。
 やはり見立ては間違っていないようだ。


「俺たちは『エーデルワイス』ってんだ。まあ、名前は昨日付けたんだがな。俺は一応リーダーのダードレイだ」

「ティダだ」

「ロウエン、ッス」

「アネッサよ~」

「カティアです」

 父さんの紹介に合わせて皆名乗る。

「ダードレイにティダ……もしかして『剛刃』『閃刃』の?」

「……自分で名乗ったことは無いんだがな。まあ、そうだ」

 ホントに嫌そうだね、その二つ名。

「それほどの大物が来てくれるとはありがたい……何とか粘った甲斐があるってもんだ」

「おぉ、そうだ。よくアレから生き延びられたもんだな?」

「あんたたちも既にアレに遭遇したんだな。まあ、俺たちは逃げ足が早いのが取り柄だから。森の中は幸か不幸かアレのおかげで他の魔物は居なくなってるし、水や食料の調達もできたし。あとはアレに見つからないように、ギルドが誰か派遣してくれるまで何とか粘ろう、ってな。知っての通り、アレの気配は俺でも察知できるくらいに強烈だから結構なんとかなった」

「まあ、何にせよ良かった。正直、状況から見て生存はあまり期待してなかったからな」

「ああ、そうだろうな。むしろこんなに早く来てくれるとは思わなかった」

「侯爵閣下が随分気にかけていたみたいでな。俺たちにも直接話を持ってきた」

「そうか……侯爵様には頭が上がらないな」

 うちのスケジュールを気にして……と言うのもあるんだけど、それは言わなくてもいいだろう。
 気にかけてた、というのもその通りだし。




 そして、父さんやカイトさんたち男性メンバーが少し離れて情報交換のため話し合いを始めた。


 その一方で、こちらは両パーティーの女性メンバーが集まっていた。

(ああ、すんなり女性の輪の中に入ってしまうのね……【俺】的には、ちょっと複雑だよ)

「ねぇ、あなた……カティアちゃんって、ダードレイ一座の歌姫さん?」

「あ、ハイ、そうですけど」

 『鳶』パーティーの一人、レイラさんが話しかけてきた。

「やっぱり!アタシ公演見に行ったのよ。あなたの歌にはそれはもう感動したわ!」

「あ、ありがとうございます」

 正面から手放しで褒められると、ちょっと照れるね。
 鼻息荒い男どもに囲まれて握手を求められるよりずっと良いけど。

「それにしても、遠目でもキレイな娘だと思ったけど、こうやって間近に見ると……ホント、綺麗だわぁ……」

 なんか目が怪しい感じになってるんだけど、大丈夫だろうか?

 あれ?
 あの男どもと大して変わらない?


「レイラさん、見に行ったんですね。いいなぁ」

 リーゼさんも話に入ってきた。
 父さんも言ってたし、ここはファンサービスしておくか?

「もし良かったら、チケット融通しましょうか?……ここを切り抜けてから、ですけど」

「いいの!?」
「いいんですか!?」

「え、ええ。これから皆さんの協力も必要になるでしょうし、そのお礼と言うか……」

「いや、協力をお願いする立場なのはこっちなんだけど。でも俄然やる気が出るわね!」

「は、はい、私も頑張ります!」

 凄い食いつきだね……
 やる気が出て何よりだけど。


 ちょっと落ち着いたところで、リーゼさんがアネッサ姉さんに話しかける。

「あ、あの~。アネッサさんとおっしゃいましたよね?」

「ええ~、そうよ~」

「もしかして、アスティカントの『学院』出身だったりしますか?」

「あら~、そうよ~。もしかしてあなたも~?」

「あ、はい!」

 どうやら、リーゼさんは姉さんのことを知っているらしい。
 アスティカントというのは、ここイスパル王国と、隣国であるレーヴェラント王国、カカロニア王国の計三カ国の国境に囲まれた共和制都市国家の事だ。

 そこにある『学院』とは、正式名称を『アスティカント総合学院』と言う。
 この世界でも特に高度な教育を受けることができ、あらゆる分野において最先端の研究が行われている総合教育機関……前世で言うところの高校と大学を合わせたような学校だ。

 学院は各国より多くの寄附が寄せられ、広く優秀な人材を集めている。
 そして、出身者は各国の政治の中枢を担うような高官となったり、大商会の経営者となったり……ここを卒業できれば将来は安泰と言われている。

 リーゼさんはそこの卒業生なのか。

 しかしそんな凄いところを出ているのに、何で冒険者なんてやってるんだろ?

 ……ちなみに姉さんはティダ兄に一目惚れして、卒業と同時に駆け落ち同然に付いて行った、って前に聞いた。

「在籍してたのは随分前の話なのに~、よく知ってるわね~?」

「それはもう、学院魔法科の伝説の人ですから!」

「伝説って、どんなのです?」

 ちょっと気になって聞いてみた。

「有名なところではアレですね。無理やり婚約を迫ったどこかの国の高位貴族の嫡男をボコボコにした挙げ句、素っ裸にして簀巻きにした上に時計塔から吊り下げた『全裸簀巻きの刑事件』、とか。」

「大げさね~時計塔になんか吊り下げないわよ~。大講堂の壇上に放置しただけよ~」

 簀巻きまでは合ってるんかい。

「あとはですね、野外演習の授業で想定外の魔物が出没した時に、教官も含めてパニック状態だったにもかかわらず単独で撃破。その時ついでに、予てからボコろうと計画していたセクハラ教官を巻き込んだ『どさくさ闇討ち事件』、とか」

「女の敵は滅ぶべきよね~」

 おいおい……

「ついた二つ名が、『天使の微笑みの悪魔』『暴虐の聖女』『最凶主席』などなど」

「姉さん……何やってんの……」

「あらあら~恥ずかしいわ~。若気の至りよね~」

 昔はやんちゃしてました、のノリですか?




 そんな感じで和気あいあい(?)と談笑してる間に、父さんたちの話合いが終わったようだ。


「よし、皆聞いてくれ。ここで『鳶』の連中と合流できたのは望外の幸運だ。これだけのメンツがいりゃあ、なんとかなるかも知れねえ。カイト、先ずはヤツに関する情報を説明してやってくれ」

「ああ、分かった。……俺たちはこの結界に囚われて以降、何とか状況を打破しようと試行錯誤したんだが、その過程でヤツとは3度ほど接敵してるんだ」

「ええ!?あんなのに3回も遭遇して、よくご無事でしたね?」

「ああ、倒すんじゃなくて情報収集に徹していたからな。言ったろ?うちは逃げ足には自信があるんだ」

「いや、それにしても……ですよ。閣下が言ってたとおり皆さん優秀な方なんですねぇ……」

「ああ、大したものだ」

「……いや、そこまで褒められると照れるんだが……んんっ!ともかく、それだけの機会があったんで、いろいろ分かった事もあるってことだ」

 そう言って、カイトさんはあのオーガもどきの説明を始めた。

「まず、アイツの索敵範囲だが……そこまで広くはないな。この森の中であれば、せいぜい数メートルから十数メートル程度だ。つまり、情報の殆どを目に頼ってるって事だ。まあ、聴覚も普通みたいだから音にも注意しとけば問題ないないだろう」

「そうッスね。初見ではそこまで細かいことはわからなかったッスけど、感覚的にはそんな感じだったッス」

「でも、いくらこっちの方が遠くから察知出来たって、攻撃するには結局視界に収めないといけないのはこっちも一緒でしょ?」

「いや、事前に気付かれないように包囲網を敷けるのは、初撃としちゃあ大きなアドバンテージだと思うぞ」

「ああ、その通りだ。直前まで潜んで、一斉に仕掛けりゃヤツは狙いを絞るのに迷いが出るはずだ。後はヤツが中心になるように囲みを維持して、一纏めに攻撃されないようにするのと、常にお互いがフォロー出来るようにしておくんだ」

 私の疑念を父さんが否定して、カイトさんが具体的な作戦を述べる。
 さすが、歴戦の強者。
 カイトさんも逃げ足だけ、なんて言ってるけど集団戦の経験値は相当なものみたいだ。
 これは小娘の出る幕じゃあないね。

「それで、ヤツの攻撃手段だが……確認できたものとしては、主に二つあるな」

「二つ?」

「ああ。一つは、あの圧倒的なパワーとスピードで繰り出される肉弾攻撃。この森の木々なんて、ヤツにとっては小枝みたいなもんだ。盾にもならん」

「ああ、ありゃあヤベぇな。一発でももらったらお陀仏だ」

「だが、単調だ。近づいて殴る。それだけだ。それも全力の大振りのみ。おそらく、フェイントとかそういう小細工をするアタマが無い。故に避けるだけなら実はそれほど難しくはない。」

「なるほどな。だが、こちらから近づいて攻撃、となると」

「ああ、格段にリスクが大きくなるな。リーチが長い上に攻撃が早い。近づくと被弾する可能性が跳ね上がる。だから、基本的に前衛はターゲット取ったら回避に専念することだ」

「攻撃するなら、大振りを躱してからのカウンター狙い、あるいは誰かが狙われた隙を突くって事か」

「そうなるな」

「もう一つの攻撃手段ってのは?」

「あの、全身に纏った黒い靄だ。あれを一箇所に集めて、槍みたいにして伸ばしてきた。射程は……そうだな、5~6メートルくらいか。もっとあるかも知れんが、この森の中で戦うなら関係ないだろう」

「それでも、結構な射程だな」

「だが、肉弾攻撃より避けるのは容易だ。スピードはそこそこだが、一度収束させると言う予備動作が入るからな」

「当たるとどうなるんだ?アレ、見たところガスとかそう言うんじゃなくて、実体はないんだろ?」

「分からない。だが、ろくな事にはならんだろう」

「ん~、多分、生命力を吸われるとか?高位アンデッドの黒い瘴気って~少しづつ体力奪われるでしょ~?あれに似てるんだし~同じような能力なのかも~。でも濃さが全然違うから~、一撃で昏倒しちゃうかも~?」

 昏倒……で済めばまだ良いけど。
 いや、それも十分マズいんだけど。
 アレは絶対に喰らっちゃダメだ。
 あの不吉な靄を見てから、ずっと記憶の隅を刺激される気がする。

 【私】の身に起きたことを考えれば、アレはおそらく……
 生命の根源、『魂』を喰らう。

「アレはだめ。……絶対にアレをくらっちゃダメ」

 湧き上がる焦燥感に突き動かされ、思わず呟く。

「何だカティア?何か知ってるのか?」

「……ううん。ただの勘」

「……そうか。どの道あんな不気味なもんくらうつもりは無え。皆もうっかり貰っちまわねえように注意しろよ」

「ま、これまで話したとおり、攻撃を躱すのは難しくない。あんまり固くならないほうが良いだろう。で、問題はこっちの攻撃手段なんだが……」

「見たところ、実体はあるんだ。物理は通るんだろ?」

「撤退中にナイフ飛ばして見たんだがな、全く痛痒を感じていないようだった」

 ……ティダ兄、いつの間に。
 あの撤退の最中にもしっかり情報収集しようとしてたんだね、さすが。

「そうだな。うちも大した攻撃ができないなりに何度かやってみたんだがな、物理は全く効いていないように見える。異常に回復が早いのか、それとも物理攻撃自体効かないのか?もう少し威力のある攻撃を当てられたら判断できたかも知れないが、避けながら…となるとな」

「……そういやアネッサ、あの靄はアンデッドのヤツに似てるって言ってたよな。だったらアレはアンデッドじゃねえのか?違うって言ってたが」

「ああ、そういやリーゼもそんな事いってたな?何か根拠があるのか?」

「う~ん、わたしの感覚的なものなので、明確な根拠がある訳じゃないんですけど……普通、アンデッドって、生者への恨みとか、生への執着とか、そういう負のオーラ、というか想念みたいなものをひしひしと感じるんです。それはもう『アンデッドです!』って主張してるんですよ。でも、アレにはそう言ったものを感じなかった。……いえ、何らかの想念のようなものは感じました。ただ、もっと根源的な渇望みたいな……」

「ん~、私も同じように感じたわ~。アンデッドにしては存在感も強すぎるし~」

「その辺は魔道士ならではの感覚なんだろうね、アタシには分かんなかったよ」

「オイラもッス」

「ふ~ん?よく分からんが、退魔系は効きそうなんだよな?」

「多分だけどね~」

「それならリーゼ、試してたよな?少し怯んだから多少効き目はありそうだと思ったんだが……」

「あ、はい。詠唱時間が取れなかったから、一番低級の[清光]ですけど。物理攻撃は全く意に介さなかったのに、確かに少し怯みましたね」

「そうすると、攻撃の望みは退魔系の魔法にあるって事か。アネッサ。アイツに効きそうな魔法は無詠唱じゃ使えねえって言ってたが、どんくらい時間がかかるんだ?」

「そうね~、私が使える中では最上級の~[神威]だと最低10秒くらいは欲しいわね~。それでも~、一撃で倒せるかは分からないわ~」

「アネッサ先輩、[神威]が使えるんですね!さすがです!」

「そお~?神殿ならそれなりに使い手も多いと思うけど~」

「それはその道のエキスパートですもん。冒険者でそこまで使える人なんて殆んどいないですよ!」

「でも、これって~、狙いがシビアなのよね~。同じ威力で広範囲の[極天光]もあるんだけど~、もっと詠唱時間必要だしね~」


(……先輩?)

 父さんがこそっと私に聞いてきた。

(あ、何か二人ともアスティカントの『学院』の卒業生なんだって)

(あぁ……そういう(あの変人の巣窟か……))


「カティアちゃんも~、確か退魔系統は使えたわよね~?」

「えっ?あっ、うん。つかえるよ。私は[退魔]まで。詠唱も必要で、5~6秒くらいかかるかな?」

「私も[退魔]までです。あ、もちろん詠唱は必要です。時間も大体そんなところですね」

 ……確かゲームでのカティアは、二つ上の[日輪華]まで覚えてたな。
 今の私でも使えるのかな?
 スキルは問題なかったし、行けそうな気がするけど。

 でも、高位の魔法は魔力消費がバカにならないからおいそれと試せないし、ぶっつけ本番も危険だし……
 確実に使えるものを使ったほうが良いか。

 なお、退魔系統は威力順に次のようになる。

 [清光]<[聖光]<[退魔]<[神威](=[極天光])<[日輪華]<[神炎]

 最もポピュラーなのが[退魔]なので退魔系と言われていて、神殿の聖職者に使い手が多い……と言うか半ば必須技能と言える。
 中級の[退魔]までなら冒険者にもそれなりに使い手はいるが、リーゼさんの言うとおり[神威]から上となると、相当珍しいと言える。

 退魔系魔法はアンデッドに対しては最も有効な攻撃手段である。
 それ以外だと……一部の攻撃魔法か、聖なる武器、魔物毎に異なる弱点を突く、などの対抗策が必要となる。



「となると、作戦は……?」

「前衛で囲んで引きつけて、攻撃は退魔系魔法を中心で。前衛は基本的に回避に専念だが……ダードレイさん、あんたヤツに大きな隙があったらその大剣叩きこんでもらえないか?再度撤退の可能性もあるから、なるべく情報収集もしておきたい」

「ああ分かった、何とかやってみよう」

「まあ、シンプルだがそれが一番手堅いか。配置は?」

「俺、ティダ、カイトが前衛でタゲ取りしつつ時間稼ぎ、無理に手は出さずに回避優先。ロウエン、レダ、ザイル、レイラは中衛で支援。前衛が抜かれそうになったら態勢立て直すまでタゲ取って後衛に行かねえようにしてくれ。あと、万が一撤退することになった場合は誘導もだ。アネッサ、カティア、リーゼは後衛で魔法攻撃に専念。確か退魔系はアンデッド以外には影響無かったよな?遠慮なくバンバン撃ってくれ」

「そんなに~連発はできないわよ~」


「ねえ、父さん。前衛3人だけで大丈夫なの?私も前の方が良くない?」

 アレ相手に3人で囲むのはキツくないかな?と、思い確認してみる。

「いや、退魔がどれくらい効果があるか分からんからな。今回は魔法攻撃に加わってくれ。こっちは何とかなんだろ」

「え?カティアちゃんて前衛もできるの?」

「ああ、これでも戦闘技量上級だからな。剣技だけなら俺やダードと遜色ない。こいつは前もやれるし、斥候みたいな事も出来るし、魔法もそこそこ行ける」

「その若さで上級……大したもんだ」

「は~、すごいんですね~」

「……そんな、器用貧乏なだけですよ」

「謙遜も過ぎると嫌味になるぞ?上級持っててそれはないだろう。才能があるってのは羨ましいな」

「まあ、コイツはちょっとおかしいんだよ。教えたら教えた分だけ全部吸収しちまう。そんなだからうちのメンバーも面白がって色々仕込んじまいやがって。ご覧の通りとんだじゃじゃ馬娘が出来上がっちまったよ」

「父さんひどい!?でも、カイトさんだって、情報分析も状況把握も的確だし、自分のできる事を最大限活かして、侯爵様の信頼を得るほどのパーティーのリーダー務めてるし、すごいと思いますよ!」

 ひどいことを言う父さんに非難の声を上げ、カイトさんにフォロー、と言うか素直な称賛の気持ちを伝える。
 何か出来る男って感じでカッコいいんだよね。
 私が女だったら惚れてるところだよ。

 ……あれ?


「あ、ああ、そう言ってもらえると嬉しいな」

 私の称賛にカイトさんは何だか顔を赤くして言った。

「あはは!カイト、こんなに可愛い子に褒められたものだから照れちゃって!顔赤いわよ」

 ちょっ!レイラさん、そういう事言わないでよ。
 こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか……


「からかうな。んんっ、ともかく!皆、作戦と役割は分かったな?……で、決行はどうする?」

「日没まではまだ余裕があるな。特に準備も無いし、皆の体力的に問題なければこのまま決行したいが……」

 特に異議は挙がらない。よし、これから作戦決行だ。

「後は、不測の事態が生じた場合は速やかに撤退すべきと思うんだか、ダードレイさんに判断と合図を任せても?」

「いや、合同チームのリーダーはカイト、お前がやってくれ」

「……俺はBランクなんだが」

「ランクなんざ関係ねえ。適任者がやるべきだ。ヤツとの戦闘経験、分析力、状況判断能力、どれをとってもお前が適任だろう」

「ああ、分かった。……ありがとう」

 ああ、これは多分……父さんなりの気遣いなんだね。

 もともと最初に調査依頼を受けてたのは『鳶』だ。
 今回は不測の事態だし、侯爵様もその点は汲んでくれるとは思うけど……なるべく失点にならないように実績をあげてもらおうって事なんだろう。
 そして、それはカイトさんも分かってるからお礼を言ったんだね。


 斥候組の誘導に従いヤツの元に向かう道すがら、父さんがカイトさんに声をかける。

「しかし、三度接敵したとはいえ……よくここまで情報収集できたもんだな?」

「ま、うちはそれが専門だからな。これくらい出来ないと調査のプロは名乗れんよ」

「いや、アレの攻撃を躱せるだけで戦闘能力も相当だと思うぞ」

「あ~、攻撃手段が貧弱なんだよ。俺は剣士だけどせいぜい戦闘技量中級程度だし、斥候の3人はうちのウリからすれば要だけど攻撃力は言わずもがな。一番火力があるのはリーゼの攻撃魔法だな。それだけはなかなかのもんだ」

 ……う~ん、そうかなぁ?

 何か謙遜してるけど……カイトさんって、父さんやティダ兄と同じぐらいの『強者』の匂いを感じるんだけどなぁ?

 隠してるのか、自己評価が低いだけなのか……
 父さんも分かってると思うけど、それ以上は触れないことにしたようだ。


「しかし、よく考えたものだな。普通だったらお前たちみたいなパーティー構成はバランスが悪いと言われる。それが一転、目的を限定すれば逆に非常に有能と言う事になる。斥候3人もそれぞれタイプが違うんだろう?」

「あぁ、そうですね。僕は気配察知が得意なんで早期警戒が主な役割です。レダは隠密行動が得意なんで単独行動での情報収集に優れてます。レイラはバランス型で弓矢が得意なんで戦闘時は後方支援もこなせますね。リーゼは魔法による支援全般とカイトが言うように火力が必要な時は一番頼りになる。で、集めた情報の分析はカイトが得意とするところ、というように上手いこと分担できてますね」

 斥候の一人、ザイルさんが解説する。
 偏ってるように見えるけど、改めて聞くと全体として非常に纏まりがあることが分かる。
 これからの作戦でも期待が持てそうだ。
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