残酷な描写あり
第三幕 プロローグ 『王都への誘い』
ミーティアに出会ってから早数週間。
一座の皆にもすっかり慣れて、最初は私やカイトさんから離れたがらなかった彼女も徐々に他の人に預けられるようになって来た。
特に歳の近いリィナとは仲がよく、「おねえちゃん」と慕っていて、リィナも妹が出来たみたいで喜んでいるようだ。
その様子を見ていたティダ兄とアネッサ姉さんは、二人目を…なんて話をしてるのを聞いた。
…私としては、いつも隙あらばイチャイチャしてるのに、何で二人目三人目が出来ないんだと思ってたが。
まあ、一座の事を考えてくれてたんだと思う。
今はハンナちゃんとか、若手も成長してきたからね。
そのアネッサ姉さんは何かと母親としてのアドバイスをしてくれる。
…自分的には母親と言うよりは歳の離れた姉とかのつもりなんだけど。
目下の悩みは、一座の面々が昔私にそうしたように、自分の持てる技を伝授しようと私の目が届かないところで教え込んでるらしいと言う事だ。
まだ早いでしょ、と思うのだが、見た目によらず優れた身体能力を発揮してどんどん吸収するもんだから、教える方も楽しくて仕方ないらしい。
身を守る術はあった方が良いのは確かだから、最近は黙認している。
そんなふうに、最近うちの一座はすっかりお姫様を中心に動いてるのだが、まだ次回の公演予定は決まっていない。
なので最近はミーティアを預けて冒険者の依頼を請負うのが主な仕事となっている。
基本はソロだが、カイトさんと一緒に活動することもあるし、危険度の少ない採取依頼なんかはピクニックがてらミーティアと一緒に出かけることもあった。
ああ、そう言えば、父さんが言っていた通り取材が来たので、正式に噂を否定するコメントを出しておいた。
そのおかげか、好奇の目を向けられることも少なくなり、ミーティアを連れて街を歩くのもあまり気にならなくなってきた。
そうやって日々を過ごしていたのだが、変化の訪れは父さんがある知らせを受けた事から始まった。
宿のロビーに私、父さん、ティダ兄が集まって話をしている。
「…王都に?」
「ああ、国立劇場を本拠として活動しないか?ってな誘いだな」
「凄いじゃない!」
「ああ、またとない話ではある。正直ウチもかなり大きくなったし、どこかに拠点を持って落ち着くか、って思い始めていたところだしな。ブレゼンタムも候補に考えたんだが、やはり人口規模的にこの先いつまでも客が入るかと言われれば…何れ先細りしてくだろう」
「その点、王都の人口はブレゼンタムとは比較にならないし、拠点にできるならこれ以上は考えられないな」
ティダ兄の言う通り、王都の人口はブレゼンタムの数倍、約二十万人ほどの人口を抱え、更には数千人規模の衛星都市も都市圏として抱えていると言う。
「そうだ。しかもだ。国立劇場は特別に使用料を格安にしてくれる上に、俺達の住む場所も確保してくれるらしい」
「ふぇ~、ずいぶんと至れり尽くせりだねぇ?」
「…美味すぎる話で逆に怪しいな?」
「ああ、これは俺の推測なんだが…このタイミングでこの話が来たのは、おそらく侯爵が絡んでるだろうな」
「侯爵様が?何で?確かにタイミングとしては合ってるかもしれないけど…」
「分からねえか?多分、国王がお前を近場に置いておきてえんじゃねえかな?」
「…ああ、そんな話もあったね…印持ちの私の動向は押さえておきたいとか何とか」
「そうだ。まあ、それも分からんでもないし、ヤツが信頼してる相手ならばそうおかしな事にはならないとは思うがな。ただ、それも単なる憶測だ。実際のところ、ウチの評判を聞いて純粋に招致しようとしてるだけかも知れんしな」
「…そうだね。それにまたとないチャンスだと思うし…受けるんでしょ?」
私の事にしたって、別に気になるものでもないし…
「お前が良ければな」
「良いに決まってるじゃない。私の我儘でせっかくのチャンスをふいにはできないよ」
「そうか。まあお前ならそう言うと思ったがな。一応確認はしときたかったんだ」
「私だけじゃなくて皆にも聞いてよね」
「それはもちろんだ」
「…しかし、カティアよ。カイトのことはどうするんだ?」
「あ…」
ティダ兄が気遣うように聞いてくる。
そうだ。
私達が王都に行ってしまえば、カイトさんとはそれでお別れになるかもしれない。
もちろん、連絡は取れると思うし、これっきり今生の別れってわけでも無い。
でも、この街から王都までは数週間かかるほど距離が離れている。
もう会えないかも知れないと思うと、急に胸が締め付けられるように苦しくなる…
「…だったら、カイトも誘ったらどうだ?」
「えっ?」
「アイツだって別にこの街に根を下ろしてるわけでもねぇだろ?」
どうだろう?
侯爵様にご縁があるからここにいるのだと思ってたんだけど…
「で、でも、別に私達は付き合ってるって訳でもないし…」
「…まだそんな事言ってんのか」
と、呆れたように父さんに言われてしまう。
「だ、だって…」
私自身、かなり【私】と【俺】の人格の統合が進んだ事もあって気持ちの整理は大分ついている…と思う。
だけど、それとは別に一歩踏み出すには勇気がいるのだ。
それに…カイトさんも何かを抱えて一定距離以上には踏み込まないようにしてる気がするのも躊躇う理由の一つだ。
「はぁ、魔物相手するみたいに果敢に突撃しときゃ良いだろうに」
「いや、それとこれとは全然違うでしょ…」
それじゃ私が脳筋みたいじゃない…
「まあ、もう少し先の話だ。それまでに何とかすりゃいいさ」
「う、うん。そうするよ…」
でも…
そろそろ私達の関係もハッキリさせないとね…
一座の皆にもすっかり慣れて、最初は私やカイトさんから離れたがらなかった彼女も徐々に他の人に預けられるようになって来た。
特に歳の近いリィナとは仲がよく、「おねえちゃん」と慕っていて、リィナも妹が出来たみたいで喜んでいるようだ。
その様子を見ていたティダ兄とアネッサ姉さんは、二人目を…なんて話をしてるのを聞いた。
…私としては、いつも隙あらばイチャイチャしてるのに、何で二人目三人目が出来ないんだと思ってたが。
まあ、一座の事を考えてくれてたんだと思う。
今はハンナちゃんとか、若手も成長してきたからね。
そのアネッサ姉さんは何かと母親としてのアドバイスをしてくれる。
…自分的には母親と言うよりは歳の離れた姉とかのつもりなんだけど。
目下の悩みは、一座の面々が昔私にそうしたように、自分の持てる技を伝授しようと私の目が届かないところで教え込んでるらしいと言う事だ。
まだ早いでしょ、と思うのだが、見た目によらず優れた身体能力を発揮してどんどん吸収するもんだから、教える方も楽しくて仕方ないらしい。
身を守る術はあった方が良いのは確かだから、最近は黙認している。
そんなふうに、最近うちの一座はすっかりお姫様を中心に動いてるのだが、まだ次回の公演予定は決まっていない。
なので最近はミーティアを預けて冒険者の依頼を請負うのが主な仕事となっている。
基本はソロだが、カイトさんと一緒に活動することもあるし、危険度の少ない採取依頼なんかはピクニックがてらミーティアと一緒に出かけることもあった。
ああ、そう言えば、父さんが言っていた通り取材が来たので、正式に噂を否定するコメントを出しておいた。
そのおかげか、好奇の目を向けられることも少なくなり、ミーティアを連れて街を歩くのもあまり気にならなくなってきた。
そうやって日々を過ごしていたのだが、変化の訪れは父さんがある知らせを受けた事から始まった。
宿のロビーに私、父さん、ティダ兄が集まって話をしている。
「…王都に?」
「ああ、国立劇場を本拠として活動しないか?ってな誘いだな」
「凄いじゃない!」
「ああ、またとない話ではある。正直ウチもかなり大きくなったし、どこかに拠点を持って落ち着くか、って思い始めていたところだしな。ブレゼンタムも候補に考えたんだが、やはり人口規模的にこの先いつまでも客が入るかと言われれば…何れ先細りしてくだろう」
「その点、王都の人口はブレゼンタムとは比較にならないし、拠点にできるならこれ以上は考えられないな」
ティダ兄の言う通り、王都の人口はブレゼンタムの数倍、約二十万人ほどの人口を抱え、更には数千人規模の衛星都市も都市圏として抱えていると言う。
「そうだ。しかもだ。国立劇場は特別に使用料を格安にしてくれる上に、俺達の住む場所も確保してくれるらしい」
「ふぇ~、ずいぶんと至れり尽くせりだねぇ?」
「…美味すぎる話で逆に怪しいな?」
「ああ、これは俺の推測なんだが…このタイミングでこの話が来たのは、おそらく侯爵が絡んでるだろうな」
「侯爵様が?何で?確かにタイミングとしては合ってるかもしれないけど…」
「分からねえか?多分、国王がお前を近場に置いておきてえんじゃねえかな?」
「…ああ、そんな話もあったね…印持ちの私の動向は押さえておきたいとか何とか」
「そうだ。まあ、それも分からんでもないし、ヤツが信頼してる相手ならばそうおかしな事にはならないとは思うがな。ただ、それも単なる憶測だ。実際のところ、ウチの評判を聞いて純粋に招致しようとしてるだけかも知れんしな」
「…そうだね。それにまたとないチャンスだと思うし…受けるんでしょ?」
私の事にしたって、別に気になるものでもないし…
「お前が良ければな」
「良いに決まってるじゃない。私の我儘でせっかくのチャンスをふいにはできないよ」
「そうか。まあお前ならそう言うと思ったがな。一応確認はしときたかったんだ」
「私だけじゃなくて皆にも聞いてよね」
「それはもちろんだ」
「…しかし、カティアよ。カイトのことはどうするんだ?」
「あ…」
ティダ兄が気遣うように聞いてくる。
そうだ。
私達が王都に行ってしまえば、カイトさんとはそれでお別れになるかもしれない。
もちろん、連絡は取れると思うし、これっきり今生の別れってわけでも無い。
でも、この街から王都までは数週間かかるほど距離が離れている。
もう会えないかも知れないと思うと、急に胸が締め付けられるように苦しくなる…
「…だったら、カイトも誘ったらどうだ?」
「えっ?」
「アイツだって別にこの街に根を下ろしてるわけでもねぇだろ?」
どうだろう?
侯爵様にご縁があるからここにいるのだと思ってたんだけど…
「で、でも、別に私達は付き合ってるって訳でもないし…」
「…まだそんな事言ってんのか」
と、呆れたように父さんに言われてしまう。
「だ、だって…」
私自身、かなり【私】と【俺】の人格の統合が進んだ事もあって気持ちの整理は大分ついている…と思う。
だけど、それとは別に一歩踏み出すには勇気がいるのだ。
それに…カイトさんも何かを抱えて一定距離以上には踏み込まないようにしてる気がするのも躊躇う理由の一つだ。
「はぁ、魔物相手するみたいに果敢に突撃しときゃ良いだろうに」
「いや、それとこれとは全然違うでしょ…」
それじゃ私が脳筋みたいじゃない…
「まあ、もう少し先の話だ。それまでに何とかすりゃいいさ」
「う、うん。そうするよ…」
でも…
そろそろ私達の関係もハッキリさせないとね…