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作者: O.T.I
残酷な描写あり
第四幕 7 『異界の神』
 レジスタンスのアジトにやって来た私達は、現在彼らのリーダーと思われるヨルバルトさんと対面しているところだ。

「あんたがレジスタンスのリーダーか?」

「ええ。不肖の身ではありますが。あなたは『剛刃』のダードレイさんですね」

「…ああ。その二つ名は好きじゃねえがな」

 父さんもブレないよねぇ…
 気持ちは分かるけど。

「あ、それは申し訳ありませんでした。…そちらは、お嬢さんのカティアさんですよね。『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』のお噂は聞いておりますよ」

 …そうですか。
 もうそんなに広まってるんですね…

「私もその名はあまり…」

「そんな…せっかく良い名だと思って一生懸命考えたのに…カティアさんに気に入ってもらえないなんて…悲しいですわ…」

 ああ!?
 お嬢様が凹んでいる!?
 ま、まずい!フォローしなければ…!

「い、いえ!お嬢様!とても素晴らしい名前過ぎて私には勿体ないというか、恐れ多いというか…」

「…ほんとにそう思ってます?(チラッ)」

「ほ、ほんとですって!(くっ…罪悪感が…)」

「そうですか!(ニッコリ)でも、勿体ないなんてことはありませんわ!カティアさんにこれ程相応しい二つ名なんて考えられません!」

「は、はは…ソウデスカ…」

「え~と…進めてもよろしいでしょうか?」

 あ!
 ヨルバルトさんが放ったらかしだったよ。
 ウチのお嬢様が話の腰を折ってスミマセン。

「他の方々も一座の方でしょうか?」

「ええ、私はカイトと申します。こっちは…」

「ミーティアです!パパとママのむすめなの!」

「あ、え~と、実の娘ではなくて、親戚の子なんですよ」

「ああ、そうなんですね。…すみませんね、子供まで巻き込んでしまって」

「あ!いえ、成り行きで助けて頂いたのはこちらですよ」

 声掛けるタイミングを窺っていたみたいだけど、実際助けてもらったのはこっちの方だ。
 まあ、あんなことが無ければ、こうしてここにいる事もなかったのかもしれないけど。

「あとは私ですわね。私はルシェーラと申します。ダードレイ一座の者では無いのですが、王都まで同行させてもらっておりますの。…ところで、あなた…ヨルバルトさんとおっしゃいましたよね?」

「…ええ。それが、何か?」

「私の記憶があっていれば、領主代行の息子の名前が確か…」

「!…なるほど、ご存知でしたか。確かに、マクガレンは私の父です」

 えっ!?
 どういう事?

 今回の事件の黒幕と思われているのが、先代領主の兄で、現領主代行のマクガレンだ。

 その息子がレジスタンスのリーダーだって?
 一体どうなってるの?

「ルシェーラさん、でしたね。…そう言えば私も聞き覚えがありました。社交界デビューはまだだったかと存じますが、隣領の方ですからね。…なるほど、お忍びと言うことですか。流石は、かの『破天侯』のお嬢さんと言うことですね」

 むむ!?
 『破天侯』ですって?
 いや~、侯爵様もお仲間でしたか~
 むふふ、これは今度お会いするのが楽しみですな!

 あ、それよりも、お嬢様の素性がバレちゃったね。
 …まあ、そこまで隠そうともしてないみたいだけど。

「私のことは今はよろしいでしょう。それよりも、どういう事なのかご説明頂けます?」

「そうですね、黒幕の息子と聞いては信用できないかも知れませんが…」

 そう前置きしてから、ヨルバルトさんはこれまでの経緯を話し始めた。





「今となっては見る影もありませんが…私の父マクガレンは叔父上との仲も良好で、領政も良く支えておりました。かつて、お祖父様から家督を継ぐ際も、『より優秀な者が継ぐべきだ』と言って身を引いたのも父だったと聞いてます」

 先代領主もその兄も、貴族としての責務と誇りを持ち、民のことを第一に考えるような人物だったと言う。

 そんな人が一体なぜ…

「私もなぜ父があのようになったのか、その本当の理由は分かっていません。しかし、何かが狂い始めたのは恐らく、数年前に母が亡くなってから…だと思うのです」

 マクガレンは非常に愛妻家だったと言う。
 数年前に愛する妻を亡くした時の嘆き悲しみは筆舌に尽くし難く、暫くの間は政務も覚束ないほどだったと言う。

「確かに父の苦痛は想像に難くないですし、それで性格が変わることもあるかも知れないとは思うのですが…それだけが原因とは思えないのです」

「何か心当たりが?」

「はっきりとしたことは分からないのですが、どうも怪しげな宗教にはまっていたようでして」

 …怪しげな宗教?
 怪しい…
 傷心に付け込んで勧誘して、洗脳して…
 無いとは言えないな。

「宗教?十二神への信仰とは別の、って事だよな?」

「その、それが…異界の神を信奉する宗教、というものらしいのです」

 異界の神…?
 異界、の…?

「大陸北部からやって来たみたいなのですか、何でも異界からやってきた神を崇めていて…その信仰心を特別に認められた者には『力』が与えられるとか」

「…衛兵の人も言ってましたわ。領主代行には不思議な力があると。その力とは、一体どういうものなんです?」

「それも詳しいことは分かってないのですが…ただ、黒い靄のようなものを出して、それに触れたものはまるで魂を抜かれたかのようになってしまう、と…」

 !!
 それは、まさか!?

「おい、カティア。そいつぁ、もしかして?」

「…うん。多分そうだと思う。異界の神…異界の魂。無関係じゃないでしょ」

「…どうやら何か情報をお持ちのようですね?差し支えなければ教えては頂けませんか?一体、父が何者になってしまったのか…」

「お嬢様、話してしまってもよろしいでしょうか?」

「…ええ。どこまで話すかはカティアさんにお任せしますわ」

 え?
 丸投げ?
 …じゃなくて、私が秘密にしておきたい事もあるだろう、と気を遣ってくれたんだね。

 だが、ことこの件に関して解決しようとするなら、秘密にしておけるものでも無いだろう。

「ここにいる皆さんが他言無用をお約束して頂けるなら、私が知っている事をお話しましょう」

「無論、それは約束しましょう。[宣誓]してもいい」

「いえ、そこまでは必要ないですよ。じゃあ、お話しますね」


 そうして、私はあの事件の顛末を話し始めた。












「そのような事が…」

 話を聞き終わったヨルバルトさんは、苦しそうな表情で呟く。
 それはそうだろう。
 もし、異界の魂に乗っ取られていると言う事であれば、おそらく彼の父はもう…

  だが、そんな苦しそうな表情はすぐに改めて、彼は決然として言い放つ。

「では、もうあれを父と思ってはいけないという事ですね」

 …強い人だな。
 この人も、かつての自分の父達と同じように、貴族の誇りを持って責務を全うしようとしてるのだろう。

 そして、その責務を果たすために、ヨルバルトさんは改めて私達に頭を下げてお願いをする。

「カティアさん、皆さん。改めてお願いします。どうか、私達に力をお貸しください」

「…ええ。もはや私にとっても他人事ではありません。エメリール様のシギルを受け継ぐ者として、放ってなどおけませんから。…って、私が勝手に決めちゃダメか」

「いや、あんなのが今も街中にいると思うとゾッするぜ。俺らだって他人事じゃねえよ。一座の連中にだっていつ危害が及ぶか分からねぇからな」

「そうですわ!ことここに至ってはこの街、この領だけの問題ではございませんもの!私も微力ながら協力いたしますわよ!」

「カティアは俺が守ると約束したからな。当然、俺も戦うさ」

 皆、一緒に戦うと言ってくれる。
 心強いね。

 と、もう一人…

「ミーティアも、たたかえるよ!」

 いや~、ミーティアはちょっと…いくら強くても子供に危険なことはさせられないよ。
 他の一座の面々と合流して預かってもらわないと。




 こうして私達は、あの異界の魂と再び相見えることになるのだった。
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