ないものねだり その6
「あれ。良二くん随分と上手になってない?」
上里コーチが目の前に来たのは子どもたちも少なくなってスケートリンクの一般利用時間も終わりに近づいてきた頃だ。
大体のスケートリンクは一般利用と貸切利用に分かれているらしい。入場料を払って滑るのが今の時間。一般滑走。
ここから先は団体で貸し切っての練習を主に行う時間帯の貸切利用に入る。
アイスホッケーやショートトラックなんかは貸し切りでないと練習にならない。フィギュアスケートだって音楽に合わせて演技をする練習なんかは貸し切り中に行っている。だから、そのうち良二だって貸し切り練習を行わなくてはならない。そのスケジュールも実はもらっていたりする。
「上手な人達をたくさん見れましたから」
足を動かす前に必死にどうやって滑っているかを観察した。印象で受けるよりも足が高く上がることはなく。氷と平行に動いていることが多い。それに足が前に出たり後ろに出たりはしていない。基本的に自分の重心の下にしか足は置かない。
それらをなんとなく意識しながら足を動かしたらちょっとはマシになったと思う。
「うん。いい調子。スケーティングが安定すれば上半身も自由に動かせるようになるからね。基礎はしっかりやらなきゃ」
「上里コーチはなんでスケートやってるんですか?」
「えっ?」
「あ。いや。なんとなく気になっただけなんで。嫌なら答えなくてもいいんです」
「いや。驚いただけだから。嫌とかではないよ。それに大した理由もないしね。物心ついたときには始めてたから。なんとなくってだけんなんだ」
そんな人も世の中にはいるのか。それこそ住む世界が違うってやつだ。
「辞めたいと思ったこともないんですか?」
「あるよ。たくさん」
被せ気味に返ってきた言葉にたじたじになる。
じゃあ。どうして続けてるんですか。そんな言葉は続かなかった。
「だけどね。スケートがない人生はもう想像付かないから」
そんな風に言える人に対してなにを言えると。何を問いかければいいのかと。良二には想像もつかなかった。果たして自分はそう言える日が来るのだろうかと良二は問いかける。自分の中に答えなんてありもしないのに。
「という訳で良二くん。来週から貸切練習にも参加してもらうからよろしくね」
なにが、というわけでか分からないけれど。上里コーチがにこやかにしている。
「本来だったらもうとっくに合流しているはずだったんだけど。良二くんが中々来てくれないから、他のみんなはもう練習開始してしまってるんだ。一緒に頑張ろうね」
ぐうの音も出やしない。そりゃそうだ。対抗戦はもう二ヶ月あまり。良二からしてみればもらった時間の半分を捨てたことになる。後悔はしていない強制されてるわけでも、演技がとんでもない出来でも自分の責任だ。それは受け入れるだけの覚悟はあるからだ。
でも、一緒に出る人たちに迷惑がかかるのはちょっと想定の外だ。もっとドライな付き合いで終わるものだと思っていた。実際、良二の周りにはそんな人が多かった。
熱くなるだけ無駄。その一瞬のがんばりがダルい。そう言われては。そうだよなと返し続けた。その結果が今に繋がっている。
だからちょっとは抵抗したくてWEBデザイナーになるだんて言い始めたけれど。それだけだ。なれてもいない。本気でなるのかも迷い続けている。
そんな良二を受け入れ、一緒にがんばろうと声をかけ続けてくる。せめてその期待には応えなきゃなと思い始めている。
「はい。頑張ります」
そんな良二の反応に少し意外そうな表情を浮かべた上里コーチを見て。こんなひねくれてない自分も悪くない。そう思えた。
上里コーチが目の前に来たのは子どもたちも少なくなってスケートリンクの一般利用時間も終わりに近づいてきた頃だ。
大体のスケートリンクは一般利用と貸切利用に分かれているらしい。入場料を払って滑るのが今の時間。一般滑走。
ここから先は団体で貸し切っての練習を主に行う時間帯の貸切利用に入る。
アイスホッケーやショートトラックなんかは貸し切りでないと練習にならない。フィギュアスケートだって音楽に合わせて演技をする練習なんかは貸し切り中に行っている。だから、そのうち良二だって貸し切り練習を行わなくてはならない。そのスケジュールも実はもらっていたりする。
「上手な人達をたくさん見れましたから」
足を動かす前に必死にどうやって滑っているかを観察した。印象で受けるよりも足が高く上がることはなく。氷と平行に動いていることが多い。それに足が前に出たり後ろに出たりはしていない。基本的に自分の重心の下にしか足は置かない。
それらをなんとなく意識しながら足を動かしたらちょっとはマシになったと思う。
「うん。いい調子。スケーティングが安定すれば上半身も自由に動かせるようになるからね。基礎はしっかりやらなきゃ」
「上里コーチはなんでスケートやってるんですか?」
「えっ?」
「あ。いや。なんとなく気になっただけなんで。嫌なら答えなくてもいいんです」
「いや。驚いただけだから。嫌とかではないよ。それに大した理由もないしね。物心ついたときには始めてたから。なんとなくってだけんなんだ」
そんな人も世の中にはいるのか。それこそ住む世界が違うってやつだ。
「辞めたいと思ったこともないんですか?」
「あるよ。たくさん」
被せ気味に返ってきた言葉にたじたじになる。
じゃあ。どうして続けてるんですか。そんな言葉は続かなかった。
「だけどね。スケートがない人生はもう想像付かないから」
そんな風に言える人に対してなにを言えると。何を問いかければいいのかと。良二には想像もつかなかった。果たして自分はそう言える日が来るのだろうかと良二は問いかける。自分の中に答えなんてありもしないのに。
「という訳で良二くん。来週から貸切練習にも参加してもらうからよろしくね」
なにが、というわけでか分からないけれど。上里コーチがにこやかにしている。
「本来だったらもうとっくに合流しているはずだったんだけど。良二くんが中々来てくれないから、他のみんなはもう練習開始してしまってるんだ。一緒に頑張ろうね」
ぐうの音も出やしない。そりゃそうだ。対抗戦はもう二ヶ月あまり。良二からしてみればもらった時間の半分を捨てたことになる。後悔はしていない強制されてるわけでも、演技がとんでもない出来でも自分の責任だ。それは受け入れるだけの覚悟はあるからだ。
でも、一緒に出る人たちに迷惑がかかるのはちょっと想定の外だ。もっとドライな付き合いで終わるものだと思っていた。実際、良二の周りにはそんな人が多かった。
熱くなるだけ無駄。その一瞬のがんばりがダルい。そう言われては。そうだよなと返し続けた。その結果が今に繋がっている。
だからちょっとは抵抗したくてWEBデザイナーになるだんて言い始めたけれど。それだけだ。なれてもいない。本気でなるのかも迷い続けている。
そんな良二を受け入れ、一緒にがんばろうと声をかけ続けてくる。せめてその期待には応えなきゃなと思い始めている。
「はい。頑張ります」
そんな良二の反応に少し意外そうな表情を浮かべた上里コーチを見て。こんなひねくれてない自分も悪くない。そう思えた。