チョコレートとキス
「摩耶。もうすぐ着くわよ」
「んぅ……。起こしてくれてありがと優衣」
摩耶は気怠そうに眼を擦っていた。それから数分後に電車は駅に到着した。
「摩耶、行くよ」
私はまだ少し寝ぼけている摩耶の手を引いて電車から降りた。ホームに降りると同時に北風が強く吹き込み、暖房で温まっていた体は一気に冷え込んできた。
「うぅ、寒いなあ」
この寒さで摩耶は完全に目を覚ましたようだ。というか、寒いのに眠くなっているのならそれはそれで危ない。
「寒いねえ。昼は暖かかったのに」
「そうだよなあ。というか、優衣はなんか残念そうな顔してるけどなんで?」
摩耶に言われて気がつき、私は慌てて誤魔化した。
「えっ?! そ、それはどうせなら展望台とかに行って星を見に行きたかったなあ、って思っていたからよ」
「ああ! 確かに星とか見てみたかったよなあ。今日とか絶対綺麗だったよ」
摩耶が単純だったおかげで上手く誤魔化せたようだ。
私が残念そうな顔をしていたのは夜景を見たかったからではない。キスができなかった、というより途中で止めてしまった自分が情けなく思えたからだ。
唇まで数センチまで来ていたのだ。だけど、そのタイミングであることに気づいてしまった。今まで一度も摩耶とキスをしたことがないことに。
つまり、それがファーストキスになっていたわけだ。この時の私は、ファーストキスはやっぱり摩耶とちゃんと向き合ってからしたい、と考えてしまい途中でやめてしまったのだ。
私はなんでこう肝心なところでチキンになってしまうのだろう。我ながら呆れてしまうレベルだ。私はそっとため息を吐いた。
「もう一日が終わってしまうなあ。早かったなあ」
摩耶がそう呟いた時、私は思い出した。そうだ、あれを渡さないと。私はバッグの中を漁ってそれを取り出した。
「摩耶、遅くなったけど誕生日おめでとう! それとこれ。私からの誕生日プレゼントよ」
私は赤の包装紙でラッピングされた箱を手渡した。
「おお! 中身見ていい?」
私がいいわよ、というとすぐに中身を取り出した。包装紙の中から出てきたのは、摩耶が有名チョコブランドの店のチョコレートだった。
「こ、これってずっと前からあたしが気になってた六個入りのやつだ」
摩耶は目をキラキラさせながら箱を凝視している。かなり気に入ってくれたらしい。
「摩耶がずっと前から欲しいって言ってたの聞いていたから買ってきちゃった」
実を言うと昼食後にお手洗いに行くついでにその店に行って、これを買ってきていたのだ。
「ありがとう優衣! 本当に嬉しい! 大事に食べるよ」
摩耶は喜びの感情を体一杯で表現していた。とても喜んでくれているみたいだ。買った当初はかなりの高級品だけどこんなのでいいのかなあ、と思い不安だった。だがこの反応を見て、私はこれにしてよかったと心の底から思った。
「じゃあこんな素敵なプレゼントをくれた優衣にはお返しをしないといけないね」
「お返しって、今日は摩耶の誕生日だからそんなのいらないわよ」
「いいからいいから。それにしたいでしょ? さっきの続き」
「さっきの続き……? ってまさか! 摩耶あの時起き――」
私の言葉を遮るように摩耶は下顎を掴んで少し角度を上げ、流れるように顔を近づける。
「優衣。大好きだよ」
私と摩耶の唇が重なった。らだそれはあまりにも一瞬だった。私が摩耶の唇の感触を堪能する前に終わってしまっていた。
「優衣。どうだった?」
摩耶は満足そうな表情を浮かべている。摩耶はちゃんと味わうことができたみたいだ。だけど、私は満足できていない。
「ごめん。もう一回して欲しい。まだ、満足できてないの」
「うん。いいよ。優衣が満足するまで何度でも」
摩耶はキザなセリフを言うように声のトーンを少し下げて言った。そして再び摩耶と私の唇が重なった。
「んぅ……。起こしてくれてありがと優衣」
摩耶は気怠そうに眼を擦っていた。それから数分後に電車は駅に到着した。
「摩耶、行くよ」
私はまだ少し寝ぼけている摩耶の手を引いて電車から降りた。ホームに降りると同時に北風が強く吹き込み、暖房で温まっていた体は一気に冷え込んできた。
「うぅ、寒いなあ」
この寒さで摩耶は完全に目を覚ましたようだ。というか、寒いのに眠くなっているのならそれはそれで危ない。
「寒いねえ。昼は暖かかったのに」
「そうだよなあ。というか、優衣はなんか残念そうな顔してるけどなんで?」
摩耶に言われて気がつき、私は慌てて誤魔化した。
「えっ?! そ、それはどうせなら展望台とかに行って星を見に行きたかったなあ、って思っていたからよ」
「ああ! 確かに星とか見てみたかったよなあ。今日とか絶対綺麗だったよ」
摩耶が単純だったおかげで上手く誤魔化せたようだ。
私が残念そうな顔をしていたのは夜景を見たかったからではない。キスができなかった、というより途中で止めてしまった自分が情けなく思えたからだ。
唇まで数センチまで来ていたのだ。だけど、そのタイミングであることに気づいてしまった。今まで一度も摩耶とキスをしたことがないことに。
つまり、それがファーストキスになっていたわけだ。この時の私は、ファーストキスはやっぱり摩耶とちゃんと向き合ってからしたい、と考えてしまい途中でやめてしまったのだ。
私はなんでこう肝心なところでチキンになってしまうのだろう。我ながら呆れてしまうレベルだ。私はそっとため息を吐いた。
「もう一日が終わってしまうなあ。早かったなあ」
摩耶がそう呟いた時、私は思い出した。そうだ、あれを渡さないと。私はバッグの中を漁ってそれを取り出した。
「摩耶、遅くなったけど誕生日おめでとう! それとこれ。私からの誕生日プレゼントよ」
私は赤の包装紙でラッピングされた箱を手渡した。
「おお! 中身見ていい?」
私がいいわよ、というとすぐに中身を取り出した。包装紙の中から出てきたのは、摩耶が有名チョコブランドの店のチョコレートだった。
「こ、これってずっと前からあたしが気になってた六個入りのやつだ」
摩耶は目をキラキラさせながら箱を凝視している。かなり気に入ってくれたらしい。
「摩耶がずっと前から欲しいって言ってたの聞いていたから買ってきちゃった」
実を言うと昼食後にお手洗いに行くついでにその店に行って、これを買ってきていたのだ。
「ありがとう優衣! 本当に嬉しい! 大事に食べるよ」
摩耶は喜びの感情を体一杯で表現していた。とても喜んでくれているみたいだ。買った当初はかなりの高級品だけどこんなのでいいのかなあ、と思い不安だった。だがこの反応を見て、私はこれにしてよかったと心の底から思った。
「じゃあこんな素敵なプレゼントをくれた優衣にはお返しをしないといけないね」
「お返しって、今日は摩耶の誕生日だからそんなのいらないわよ」
「いいからいいから。それにしたいでしょ? さっきの続き」
「さっきの続き……? ってまさか! 摩耶あの時起き――」
私の言葉を遮るように摩耶は下顎を掴んで少し角度を上げ、流れるように顔を近づける。
「優衣。大好きだよ」
私と摩耶の唇が重なった。らだそれはあまりにも一瞬だった。私が摩耶の唇の感触を堪能する前に終わってしまっていた。
「優衣。どうだった?」
摩耶は満足そうな表情を浮かべている。摩耶はちゃんと味わうことができたみたいだ。だけど、私は満足できていない。
「ごめん。もう一回して欲しい。まだ、満足できてないの」
「うん。いいよ。優衣が満足するまで何度でも」
摩耶はキザなセリフを言うように声のトーンを少し下げて言った。そして再び摩耶と私の唇が重なった。