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作者: 丘多主記
出会いは……
「キス……しちゃったね」
 
摩耶と抱き合いながら私は言った。あの後私たちは数え切れないほどキスをした。それくらい気持ちがよかったし、興奮した。

「うん。ディープまでしちゃったな」

「なんていうか、凄く気持ちよかったわね。舌と舌が絡むのって、あんなに気持ちがいいなんて思っておなかったからびっくりしたわ」

「あと、唾液って糸を引くって、あれ漫画とかで見て絶対嘘だと思ってたけど本当のことだったんだな」

「確かにね。けど、摩耶もそういう描写が出る漫画も読むんだ。なんか意外」

私がそう呟くと、摩耶はムッとした顔をした。

「あたしだって恋愛物読むんだぞ。乙女なとこがあるんだぞ」

「ごめんごめん。でも、どんな話のものを読んでるの?」
 
そこから先は摩耶がその漫画の内容をただひたすら楽しそうに語った。その内容はと言うと、恋愛物を多く読んできた私でも読んだことがないくらい、甘々でメルヘンティックな内容のものだった。

「えっと、そのなんというか、その……ね?」
 
あまりにも想定外すぎる内容に私は反応に困った。当然摩耶は拗ねた態度をしている。

「そんなにおかしかったかよ。あたしが少女趣味全開な漫画とか小説読んでいるのが」

摩耶はこっちを見てくれない。相当怒っている時に見せる態度だ。こうなるとしばらく口をきいてくれなくなる。

「ご、ごめんってば摩耶。許してよお」

私は必死になって謝った。これで許してもらえるとは思ってはいない。多分こっちを見てくれさえしないだろう。だが私の予想とは違い、摩耶は私を恥ずかしそうに見ていた。

「あたし、元々はこういうのを読んでるほうが似合ってる女の子だったんだからな。……優衣のせいだぞっ」

私のせい? 摩耶に言われ、優衣との思い出を振り返ってみた。文化祭、体育祭、高校の入学式に中学時代の様々なイベント。果ては摩耶と初めて出会った時のこと。

色々な記憶を探っては見たが、どれも今の摩耶と何も変わらない。”カッコいい王子様”の摩耶しかいない。

「優衣、あたしと最初にあった時の時のこと憶えてる?」

「えっと、中学校の入学式の後だったよね。私が隅っこの方でポツーンってしてた時に時摩耶が『やあ、こんにちは。隅っこでどうしたの』って声を掛けてくれたんだよね。それから色々他愛もない話をしてそれで、別れ際に『自己紹介がまだだったね。あたしは松永まつなが摩耶。同じクラスだし仲良くしような。優衣』って摩耶が言ってくれてめちゃくちゃドキドキしたのよね。女の子なのにあんなにカッコいい人がいるのか、ってあの時からもう一目惚れだったわ」
 
私の惚気に近い答えを聞くと、摩耶はふふふと笑っていた。

「そ、そんな笑わなくてもいいじゃない!」

「ごめんごめん。でもそうだよね。優衣は憶えてないよね。ちょっと悲しいけど」

「えっ、なんのこと?」

「あたし、優衣と小学校一年生の時だけ学校で同じクラスだったんだよ。仲も凄くよかったからよく遊んでたし」

衝撃の事実だった。まさか摩耶との出会いはそんなに前のことだったとは。だけど、その記憶が頭の中にはない。

摩耶の言うように仲がよければ一つくらいは残っていそうだが、摩耶のような子は友達にはいなかったはずだ。むしろ、大人しい子が多かったと思う。

「まあそうだろうな。あの時のあたしはすっごく泣き虫で根暗で内気で大人しい子だったからな。それで優衣と初めて話したのは歓迎遠足だったんだ。あの時仲がいい人がいなかったから、一緒に食べる人がいなくてオドオドしてたあたしに優衣が声を掛けてきてくれたんだよな。それで――」

「好きな絵本の話とかアニメの話をした、でしょ」
 
摩耶の話で思い出した。私と摩耶の出会いは中学校の入学式の後ではなく、その時だった。
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