残酷な描写あり
第十一話「誓った約束(中)」
緊急任務:攫われたマリエルの捜索及び救出、『海の魔女』アースラの討伐
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹
犠牲者:0名
空間を、時を、次元をも斬り裂く二つの刀剣が交わる度に火花を散らす。まるで小さな花火でも見ているかのように。
二人の青年の右手には剣を、周囲には正義霊刀が飛び交っている。
「おらぁっ!」
「っ――!」
霊刀を弾きつつ、正義の剣を掻い潜って致命傷を与える。至難の業だが、これしか勝機は無い。
「ふっ……!」
それでも俺は反命剣で霊刀を弾き飛ばしながら何とか前に足を踏み込む。しかし、あと一歩のところで正義の刀にせき止められる。
「へっ、なんだそのだせぇ神器はよお! まるでおもちゃみてぇだな!」
「そう思うなら勝手に思え。後に痛い目を見るのはお前だ」
「随分と大口叩く男だなぁっっ!!」
正義は俺の踏み込んだ左足目掛けて霊刀を飛ばすよう指示しつつ、瞬時に左足で地面を強く蹴って後方に跳ぶ。
「後方戻るべからずだぜ、黒坊っっ!!」
「ちっ、あの刀厄介だな……っ!」
後ろから二本の霊刀が来るのが見えた。更に四方八方から霊刀が飛んでくるのも見え、俺は空中で全身を捻りながら、それら全てを剣で弾く。
「マジか、あれ全部弾くのかよっ……!」
あまりの凄技に正義は驚くが、すぐに気持ちを切り替えて右手に握った刀に力を入れ、突進してくる。
「霊刀ばっかに気ぃ取られ過ぎだぜぇ!」
「ちっ!」
回転斬りによる硬直を逃さず、正義は刀を大上段に構えて俺の首目掛けて刀を振り下ろす。
「せあああ!」
硬直している身体を無理矢理動かし、刃が首を通る寸前で刀を上に受け流した。そしてその勢いで素早く正義の右腕めがけて再び回転して斬り上げる。
今度こそは斬れるっ……!
「あぶっ……!」
しかし、正義の霊刀が俺の回転斬りを防ぐ。
「……まだ隠してたか」
「甘ぇ……甘ぇぜ黒坊っ! 金平糖より甘ぇぜ!! その黒髪はチョコソースで染めてんのかぁ!!」
「……黙れ」
俺は静かな怒りを正義に向け、胸元目掛けて剣を突くが、はたまた6本の霊刀が反命剣を強くはじいた。
「鬱陶しいな……!」
「ははぁん、剣の腕前はイマイチってとこだなぁぁっ!!」
「くそっ――!」
ズバァァンッ、と音速に至る速さで正義の刀が俺の首を斬った。しかし、血飛沫が飛んでいない。これはつまり……
「斬れ……てねぇっ!」
どこに消えた……。あいつはどこにっ……!?
「どうやらお前の剣はブラックコーヒーがココアになるレベルで甘々のようだな」
「何だとっ……!?」
まさかの下かよっ! そいつは聞いてねぇぞ!?
俺は刀が振り下ろされるより速く姿勢を低くし、正義の心臓めがけて水晶の剣を突いた。
「うぉっとぉ!!」
「……『瞬影』」
心臓を狙った俺の剣先が正義の左胸を浅く斬った。
「は、速ぇっ……! 何だ今の技は!?」
浅いな……。あの技に対してその程度の傷とは、反射速度が人間の域を遥かに超えている。
「へっ、やるじゃねぇか! だがまだまだぁ!!」
「そっちもな。人間の粋は超えていると見た」
互いを褒めながら地面を強く蹴る。正義は左手で物を投げる動作をして、霊刀を飛ばす。
「ちっ、どうやら本気を出さなければ到底崩せなさそうだなっ!」
霊刀と正義の攻撃のコンビネーションを弾きながらそう判断した俺は、一旦後方に大きく下がり、水晶剣に魔力を込める。青白い剣から黒く禍々しいオーラが放たれる。
「お、こっからが本番ってとこか。面白ぇ!おととい来やがれっ!!」
「はぁぁああっ!!」
俺は黒い閃光を散らしながら正義との距離を一気に詰める。今までより速い速度で霊刀を弾き飛ばし、正義をこの目で捕らえる。
「後方注意だぜっ?」
「この程度っ――!!」
残像が見える程の速さで6本の霊刀を一本の水晶剣で弾く。だが完全に霊刀を防ぎきれず、左肩と右胸、そして右の頬を浅く斬られた。
「っ――!」
「おらおらぁ! こんなもんかぁぁ!!」
再び霊刀と正義の連携攻撃を出来る限り弾くが、再び何ヶ所か切り傷を負う。
これでは防戦一方だ。一度体制を変えなければ……
俺は再び後方に下がるが、背後に霊刀が飛んでくる事を先読みし、途中で右足で何とか踏みとどまる。
「三度目の正直ってとこか。流石に引っかからないか」
さて、今度は何を見せてくれるのやら……
と正義は期待した。しかし俺は反命剣を地面に突き刺し、目を瞑った。
「……」
「ん……? 黒坊、もう限界が来たってとこか?」
俺の足元には血がポタポタと落ちてきている。傷を負いすぎたのか。やはり限界のようだな。
そう確信し、正義は霊刀と共に俺との間合いを詰めながら刀を振り下ろす。
「終わりだ、黒坊ぉぉっ!!」
「……」
大蛇君っ……!!
今まで速すぎて何も見えなかったが、ようやく二人が見えたと思えば俺が絶体絶命な状況に陥っていた。
やめて。もうこれ以上大蛇君を傷つけないで。
――大蛇君の運命を、ここで終わらせないで!!
「これで終わりにさせると思ってるのか……?」
刹那、右目から赤くて暖かい涙が出てくるのを感じる。血涙だ。途端、身体の傷の痛みが感じなくなっていく。
「な、何だ……。気配が今までと全然違ぇぞ!?」
さっきまで戦ってた黒神大蛇からは全く感じられなかった、禍々しい気配。全てを喰らうかのような覇気。
あれほど大蛇と互角に戦った正義でさえも身体が震えている。
「さて、武刀正義。このパレードをもっと盛り上げようぜ……」
あれほど青白い光を帯びていた俺の反命剣が黒く染まり、刀身から陽炎の如く禍々しいオーラを解き放つ。そしてそれは俺自身を包み込んだ。
「なっ――!?」
「………!!」
今までと全く違う大蛇を見て、マリエルと正義は驚きを隠せなかった。それはまるで悪魔……いや、『邪竜』と言っておこう。
黒い魔力が俺の衣服と剣を覆う。足元に血が落ちていたのは俺の右目から出ている血涙だ。
「こいつはやべぇな……だが、お前が何になろうと関係ねぇよなぁぁっ!!!」
俺の本気に応えたのか、正義の全身から紅の閃光が放たれる。
「死ぬ準備は出来たか……?」
「それはこっちのセリフだぁぁっ!!」
そして、邪竜と人間は同時に黒と赤の閃光を散らしながら突進する。
そして剣撃のパレードが再び始まった――
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹
犠牲者:0名
空間を、時を、次元をも斬り裂く二つの刀剣が交わる度に火花を散らす。まるで小さな花火でも見ているかのように。
二人の青年の右手には剣を、周囲には正義霊刀が飛び交っている。
「おらぁっ!」
「っ――!」
霊刀を弾きつつ、正義の剣を掻い潜って致命傷を与える。至難の業だが、これしか勝機は無い。
「ふっ……!」
それでも俺は反命剣で霊刀を弾き飛ばしながら何とか前に足を踏み込む。しかし、あと一歩のところで正義の刀にせき止められる。
「へっ、なんだそのだせぇ神器はよお! まるでおもちゃみてぇだな!」
「そう思うなら勝手に思え。後に痛い目を見るのはお前だ」
「随分と大口叩く男だなぁっっ!!」
正義は俺の踏み込んだ左足目掛けて霊刀を飛ばすよう指示しつつ、瞬時に左足で地面を強く蹴って後方に跳ぶ。
「後方戻るべからずだぜ、黒坊っっ!!」
「ちっ、あの刀厄介だな……っ!」
後ろから二本の霊刀が来るのが見えた。更に四方八方から霊刀が飛んでくるのも見え、俺は空中で全身を捻りながら、それら全てを剣で弾く。
「マジか、あれ全部弾くのかよっ……!」
あまりの凄技に正義は驚くが、すぐに気持ちを切り替えて右手に握った刀に力を入れ、突進してくる。
「霊刀ばっかに気ぃ取られ過ぎだぜぇ!」
「ちっ!」
回転斬りによる硬直を逃さず、正義は刀を大上段に構えて俺の首目掛けて刀を振り下ろす。
「せあああ!」
硬直している身体を無理矢理動かし、刃が首を通る寸前で刀を上に受け流した。そしてその勢いで素早く正義の右腕めがけて再び回転して斬り上げる。
今度こそは斬れるっ……!
「あぶっ……!」
しかし、正義の霊刀が俺の回転斬りを防ぐ。
「……まだ隠してたか」
「甘ぇ……甘ぇぜ黒坊っ! 金平糖より甘ぇぜ!! その黒髪はチョコソースで染めてんのかぁ!!」
「……黙れ」
俺は静かな怒りを正義に向け、胸元目掛けて剣を突くが、はたまた6本の霊刀が反命剣を強くはじいた。
「鬱陶しいな……!」
「ははぁん、剣の腕前はイマイチってとこだなぁぁっ!!」
「くそっ――!」
ズバァァンッ、と音速に至る速さで正義の刀が俺の首を斬った。しかし、血飛沫が飛んでいない。これはつまり……
「斬れ……てねぇっ!」
どこに消えた……。あいつはどこにっ……!?
「どうやらお前の剣はブラックコーヒーがココアになるレベルで甘々のようだな」
「何だとっ……!?」
まさかの下かよっ! そいつは聞いてねぇぞ!?
俺は刀が振り下ろされるより速く姿勢を低くし、正義の心臓めがけて水晶の剣を突いた。
「うぉっとぉ!!」
「……『瞬影』」
心臓を狙った俺の剣先が正義の左胸を浅く斬った。
「は、速ぇっ……! 何だ今の技は!?」
浅いな……。あの技に対してその程度の傷とは、反射速度が人間の域を遥かに超えている。
「へっ、やるじゃねぇか! だがまだまだぁ!!」
「そっちもな。人間の粋は超えていると見た」
互いを褒めながら地面を強く蹴る。正義は左手で物を投げる動作をして、霊刀を飛ばす。
「ちっ、どうやら本気を出さなければ到底崩せなさそうだなっ!」
霊刀と正義の攻撃のコンビネーションを弾きながらそう判断した俺は、一旦後方に大きく下がり、水晶剣に魔力を込める。青白い剣から黒く禍々しいオーラが放たれる。
「お、こっからが本番ってとこか。面白ぇ!おととい来やがれっ!!」
「はぁぁああっ!!」
俺は黒い閃光を散らしながら正義との距離を一気に詰める。今までより速い速度で霊刀を弾き飛ばし、正義をこの目で捕らえる。
「後方注意だぜっ?」
「この程度っ――!!」
残像が見える程の速さで6本の霊刀を一本の水晶剣で弾く。だが完全に霊刀を防ぎきれず、左肩と右胸、そして右の頬を浅く斬られた。
「っ――!」
「おらおらぁ! こんなもんかぁぁ!!」
再び霊刀と正義の連携攻撃を出来る限り弾くが、再び何ヶ所か切り傷を負う。
これでは防戦一方だ。一度体制を変えなければ……
俺は再び後方に下がるが、背後に霊刀が飛んでくる事を先読みし、途中で右足で何とか踏みとどまる。
「三度目の正直ってとこか。流石に引っかからないか」
さて、今度は何を見せてくれるのやら……
と正義は期待した。しかし俺は反命剣を地面に突き刺し、目を瞑った。
「……」
「ん……? 黒坊、もう限界が来たってとこか?」
俺の足元には血がポタポタと落ちてきている。傷を負いすぎたのか。やはり限界のようだな。
そう確信し、正義は霊刀と共に俺との間合いを詰めながら刀を振り下ろす。
「終わりだ、黒坊ぉぉっ!!」
「……」
大蛇君っ……!!
今まで速すぎて何も見えなかったが、ようやく二人が見えたと思えば俺が絶体絶命な状況に陥っていた。
やめて。もうこれ以上大蛇君を傷つけないで。
――大蛇君の運命を、ここで終わらせないで!!
「これで終わりにさせると思ってるのか……?」
刹那、右目から赤くて暖かい涙が出てくるのを感じる。血涙だ。途端、身体の傷の痛みが感じなくなっていく。
「な、何だ……。気配が今までと全然違ぇぞ!?」
さっきまで戦ってた黒神大蛇からは全く感じられなかった、禍々しい気配。全てを喰らうかのような覇気。
あれほど大蛇と互角に戦った正義でさえも身体が震えている。
「さて、武刀正義。このパレードをもっと盛り上げようぜ……」
あれほど青白い光を帯びていた俺の反命剣が黒く染まり、刀身から陽炎の如く禍々しいオーラを解き放つ。そしてそれは俺自身を包み込んだ。
「なっ――!?」
「………!!」
今までと全く違う大蛇を見て、マリエルと正義は驚きを隠せなかった。それはまるで悪魔……いや、『邪竜』と言っておこう。
黒い魔力が俺の衣服と剣を覆う。足元に血が落ちていたのは俺の右目から出ている血涙だ。
「こいつはやべぇな……だが、お前が何になろうと関係ねぇよなぁぁっ!!!」
俺の本気に応えたのか、正義の全身から紅の閃光が放たれる。
「死ぬ準備は出来たか……?」
「それはこっちのセリフだぁぁっ!!」
そして、邪竜と人間は同時に黒と赤の閃光を散らしながら突進する。
そして剣撃のパレードが再び始まった――