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作者: Siranui
残酷な描写あり
第二十五話「新たなる謎、そして事件」
 緊急任務:達成済

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、桐谷優羽汰、人魚四姉妹、トリトン王


 2005年 2月25日 午後16時頃――

 東京都足立区 ネフティス司令塔 転送装置前

 実に何日ぶりだろうか。時間感覚が狂っていて今日が何月何日の何曜日かどうかすら分からない。分かるのはたった今水星から地球に帰ってきたという事のみ。

「……戻ってきたな」
「あぁ、そうだな」

 帰ってきた。今この瞬間、俺達は生きて戻ってこれた。この公衆電話ボックスのような狭い空間が何故か懐かしく感じる。

 ――しかし、二人はある大きな違和感を覚えていた。

「……亜玲澄」
「大蛇、分かっている。白いマフラーの男と姉妹達がここにいない」

 今この転送装置の中にいるのは俺と亜玲澄、そして正義とエレイナの四人だけだった。

 あの白いマフラー男も姉妹達も、確かに同じ転移魔法で同時に水星リヴァイスから帰還したはず。なのにこの場にいないのはどういう事か。

 徐々に迫りくる不安が冷や汗となって襲ってくる。

「もしかしたら……お姉様達、まだ残ってるんじゃない?」
「は? 嬢ちゃん、それは無いと思うぜ。だって一緒に転移しただろ?」

「でも、お姉様達はまだ人魚のままだよ。あのままだったら地球ここで暮らせないよ!」
「「――!!」」

 男三人は同時に息を詰まらせた。確かにそうだった。まだ姉妹達は人間では無い。つまり人魚のまま地球に転移したと考えられる。でも地球に転移するメリットがあるとはとても思えない。

 一向にこの違和感が晴れない。一体何故俺達だけがここに転移されたのか。そしてあの時姉妹達が転移装置に乗ろうとした意図は――

 でも結局考えても身体に疲労が蓄積されるだけな気がしてきた。

「このままここにいても分かんねぇな……! 一旦外出ようぜ!」

 正義の言う通り、ここは自分達が動かなければ何も解決しない。もしかしたら何かしらヒントが隠されているかもしれない。まさかこれでも運命は変わっていないのか。あるいは運命が別の路線に変えたか。

「とにかく嫌な予感しかしないのは確かだな……」

 ふと呟き、俺は亜玲澄と共に先に転送装置を出た正義とエレイナの後を追った。手がかりすらない、ただ一つの大きな謎を抱えて――




 ――転送装置を出たと同時に、ズボンの右ポケットに入ってる携帯が震えた。画面を開くと、ネフティス本部から電話が来ていた。すぐに受話器ボタンを押して電話を受ける。

「もしもし、俺だっ……、大蛇です」
『もしもし、大蛇君か。私はネフティス総長の桐谷だ。まずは三号惑星リヴァイスでの任務ご苦労だった。亜玲澄君にも伝えておくれ』

「はい……、伝えておきます」

 ……何だ、ただ今回の任務の報酬の報告を伝えるだけか。なら今すぐに切っても良さそうだな。

 そう思って電源ボタンを押そうとした時、正嗣総長から思いがけない言葉が放たれた。

『ところで大蛇君。君と亜玲澄君には伝えておかなければならない話がある。それを簡潔にこの場で伝える。今から言う話は亜玲澄君以外の者には伝えないように頼む』

 ……何だ突然。それほど機密にしなければならない話なのか。いや、もしかしたらあの違和感に関係する話かもしれない。聞いておく価値は十分にある。

「……了解しました」
『では、伝える。つい先程、君達が転送された後の事だ。突然四人がリヴァイスで亡くなった。それも自らの手でな』
「なっ――!!」

 ふと大声を出した。それに亜玲澄達が気づき、走って俺の方に駆けつけてきた。

 四人……間違いない。あの人魚四姉妹だ。でも一体何故? 俺達と一緒に転送されたはずなのに何故今死んだのだ。


『詳しい話は後で言う。大蛇君と亜玲澄君は至急総長室に来てほしい。では気をつけて帰還したまえ』

 耳元でブチッと通話が切れる音がした途端、冷たい風が黒髪をなびかせた。あまりの衝撃的な出来事で右手から携帯がするりと抜け落ち、雪で湿った地面に落ちた。 

 ……何故だ。何故死んだ。一体いつどこで……!!

「大蛇君、どうしたの?」
「エレイナ、すまない。これだけはお前には言えない。今の電話は総長からの伝言で、俺と亜玲澄に伝えるようにと言われている」

「……でも、あの黒坊の驚きよう見てると聞かなくても分かるぜ。あの違和感に大きく関係ある話だろ?」
「……」

 正義の鋭い勘に何も言えなかった。でもこれは亜玲澄と総長の三人でじっくり話し合う必要がある。

「……亜玲澄、ひとまず本部に向かうぞ。正義、エレイナ。後にこの事はお前らにも話す。だがとりあえず今はついてきてくれ」

「う、うん……」
「そうと決まればさっさと行くか!」

 四人はネフティス本部に向かって急いで走った。夕日は少しずつ沈んでいき、丁度闇が街を照らしていた。

 この時、少し空気が甘く感じた――


 


 三十分後 ネフティス本部 総長室――

 本部に着いた所で偶然帰宅しようとしていた博士に会ったので、事情を話して正義とエレイナを車に乗せて家まで連れて行く事にした。二人を博士に任せ、俺と亜玲澄は総長室へと向かうべくエレベーターのボタンを押した。

「大蛇、さっき電話で何て言われたんだ?」
「……俺達がここに帰還した後、四人がリヴァイスで自殺した」
「なっ……、嘘だろ……!?」

 亜玲澄も先程の俺と同じような反応をした。それもそのはず。何故なら殺されたのではなく、自殺だからだ。それも四人も。こんな不可解な出来事があるだろうか。

「そ、その四人って……」
「これは俺の推測だが、人魚四姉妹と考えている」
「だよな……。でもあの時俺達と一緒に転送されたよな……」

 考えているうちにエレベーターの扉が開く。幸い誰も入っていなかったのですぐさま入り、総長室がある七階のボタンを押して扉を閉じる。動き出したと同時に足が床に張り付くような感覚がしばらく続き、「七階です」というアナウンスと同時に扉が開く。

 そこには二人の女性が俺達を待っていた。

「貴方達が大蛇さんと亜玲澄さん、ですね。初めまして。私はネフティスNo.2、副総長の錦野蒼乃です」
「私はネフティスNo.3の涼宮凪砂ですっ! よく来たな〜少年達っ!!」
「凪沙さん、これでも彼らはお客ですからね……」

 な、何だこの人達は……と思いながらも口には出さないでおく。

 ちなみに、パステルブルーの長髪と瞳の元気がある方が凪沙さん、白いショートヘアーに黒っぽい瞳の冷静沈着の方が蒼乃さん。
 ……覚えておこう。後に大きく関与する可能性がある二人だと思う。


「ところで、正嗣総長が貴方達をお呼びです。どうぞこちらへ」

 蒼乃さんが俺と亜玲澄を総長室へと案内し、二回ノックをして扉を開ける。

「総長、大蛇さんと亜玲澄さんを連れてきました」
「ご苦労、入れてくれ」

 その後蒼乃さんが扉を抑え、俺達を先に入らせる。その後扉を閉め、横一列に並んだ三人に並ぶ。

「……まぁ、全員そこに座れ。ゆっくり話をしようではないか」

 そう言うと全員が目の前にあるテーブルを囲む柔らかいソファに向かい合って座り、正嗣総長も席から立ち、俺達と向かい合うような形で座る。

「まずは亜玲澄君、大蛇君から例の話は聞いたかね?」
「……はい、つい先程大蛇から直接聞きました」
「そうか。なら話は早い。先程午後16時15分頃、三号惑星リヴァイスにて突如四人の死亡が確認された。死因は自殺。動機は不明だ。これによって今回の任務での犠牲者は計5名となった。」

「「ご、五人……!?」」

 俺と亜玲澄の2人が同時に声を上げた。

「その中の一人が、あの海王トリトンだとの事だ」

「――! そうか、それなら納得がいく」
「……? 大蛇、何か分かったのか?」

 突然全てを悟ったかのような顔をした俺に、亜玲澄が問いかける。それは蒼乃さんも凪沙さんも同じ感情だった。

「正嗣総長。貴方も音声だけでもあの爆発音が聞き取れたはずだ。あれの原因はトリトン王とアースラが残した光の球だ。本来あの球は一度落ちれば水星リヴァイスが跡形もなく消える。それほど凶悪な魔法だ。

 だがトリトン王は俺達が動けない中、唯一自分だけが動けると判断し、あの球をたった一人で……生命を魔力に変えながらも星の壊滅を阻止したと思われる。トリトン王が止めたのなれば、目覚めた時にあれ程深かった海が浅くなるのも当然だしその四人の自殺の動機にも繋がるかもしれない」

「「――っ!!」」

 全員が息を詰まらせる。確かにその四人があの姉妹達なら、実の父の死に悲しみのあまり自殺したという事に直結する。更によく考えれば転送前に全員集合した際にトリトン王の姿が無かった。

 数々のピースがはまり、この違和感も徐々に真実が明かされていく。

「うむ、その通りだ。その四人こそ、今亡きトリトン王の娘四姉妹なのだ。マリエル君には流石に伝えるのが辛くてね、君達だけに話を通す事にしたのだ」

 そうだろうなと亜玲澄が納得したように頷く。これで違和感が晴れた。全てのピースが埋まった。これでこの話は終わり――


 ――と思っていたのも束の間、勢いよく総長室の扉が開く音が聞こえた。そこから一人のメンバーが報告をしにきた。

「総長、大変っす! 緊急任務っす!! 場所はフランス・パリのシンデレラ宮殿! そこで一人の怪盗によって数多くの財宝が盗まれたらしいっす!!」

「「――!!」」

 全員が息を呑む。シンデレラ宮殿。そこは元々ヴェルサイユ宮殿が建てられるはずだったが、完成した際にルイ十四世が納得せずにそのまま放置されたと言われている。いわば『ヴェルサイユの失敗作』だ。 

 そんな宮殿に何故財宝があるのか。そもそも何故人がいるのか……正嗣総長は頭が追いつかない状況に至った。


「そこで宮殿の主からの依頼っす!『パンサーと名乗る怪盗を逮捕し、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪い返すしてほしい』との事っす!!」

「了解した。君達、急ですまないが転送装置に向かってくれ。それと正義君も後に任務に同行させてもらうから安心してくれ」
「了解です。……皆さん、至急向かいましょう!」

 蒼乃さんが呼びかけるとすぐにソファから立ち上がり、四人は一斉に総長室から出た。正嗣総長と報告に来たメンバーの一人もメインルーム室へと足を運んだ。

 もしかしたら、あの自殺もこの任務に関わってくるのかもしれないな……。

 時刻はもう17時を過ぎていた――




 同日 午前11時頃 フランス パリ――

 雲一つない青空。その下のパリの街では多くの人で賑わっている。エッフェル塔付近では多くの車やバスが通っていて、その賑わいは冷める気がしない。

 そんな街の上空を一舟の飛行船が飛ぶ。そこからはしごをぶら下げている。そこに掴みながら街を眺める一人の怪盗がいた。

「………」

 やはりパリの街は素晴らしい。では一切見られない景色だ。あの子、元気にしてるかな。

 でも、今度は一人の人間としてあの子にまた会えると思ったらとても嬉しい。あの青年に感謝しないとね。

「……パリの街で待ってるよ、諸君」



 怪盗はただ一人、かつての英雄が来るのを待っていた。


 その時が来るまで、怪盗はパリの街を空から眺める。


 そして、夜はやってくる――
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