残酷な描写あり
第二十八話「暖かい日常」
緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰
犠牲者:???
博士の両手に持つは色々なものが入ったレジ袋。袋からはネギや大根がはみ出ているのが見て取れる。
「ごめんごめん、遅くなっちゃったね。じゃあ今から作るから待ってて」
「え、博士料理作れるんですか……?」
「これでも栄養士の資格取ってるからね。僕に任せてくれ!」
それは聞いてなかった。まさかあのマヤネーン博士が資格を取っていたとは。
マヤネーン博士の父アズレーンからちょこっと資格の事を教わったが、かなり難しいものもあると聞いた事がある。栄養士なら尚更難しいのではないだろうか。どういうものかはよく分からないが、名前を聞くだけで相当な資格だというのは分かる。
「んで、博士よぉ。何作る気だ?」
「ふふん、このレジ袋を見れば分かるだろう? トンカツさ!」
「トン……」
「カツ……?」
正義が目をキラキラと輝かせているのと対に、俺と亜玲澄は聞いた事無い単語を口にする。
……まぁ、トンカツって言うんだし少なくとも肉料理である事には間違いない。でも焼き料理って感じでも無さそうだ。一体どういうものだろうか。栄養士の資格持ちの博士の腕に期待だ。
「……大蛇、俺ふと思ったんだけどさ」
亜玲澄が隣で独り言のように呟いた。俺の名を呼んでいるので、とりあえず耳を傾ける。
「トンカツって、俺達何度か食べたような気がするんだが……気のせいか?」
「え、いや……気のせいだろ」
流石にそんな事は無いだろう。そもそもトンカツという単語を今ここで初めて聞いたのだ。亜玲澄は一体何処の記憶からそう考えたのだろうか……
肉を揚げる音が聞こえてきた。なるほど、これは揚げ物料理というやつか。
「いや〜、トンカツなんていつぶりだ!? この肉を揚げる音だけで白飯食っていけるんだよな〜!」
「いやそれは無理があるだろ……」
「でも、私その気持ち分かるかも」
ただ肉に衣をつけて油で揚げてるだけなのにそこまで美味しいものなのだろうか。もしや普段滅多に食べられない高級料理なのかもしれない。
「よし、出来たよ〜っ!」
「おっ、来た来た!」
「美味しそう〜っ!」
見た目は本当に美味しそうだ。しっかり中まで揚がっていて、衣もサクサクしてそうだ。そこに市販のソースを適当にかける。
「「いただきまーす!!」」
手を合わせていざ試食……と思ったが、一つ大事な事を忘れていた。
「おい、米はいいのか?」
「「あ……」」
先走って熱々のトンカツを食べようとしていた正義とエレイナが口を合わせ、博士の方を向く。博士は微笑みながら全員分の茶碗を食器棚から取り出し、炊きたての白米を盛り付けた。
「分かってるよ。すぐ持っていくからね」
「博士、手伝います!」
「ありがとう、亜玲澄君」
全員の目の前に茶碗が置かれた。運び終えた博士と亜玲澄が自席に座り、両手を合わせていただきますを唱えた。
まずは八等分に切られているトンカツの一切れを箸で掴み、一度ご飯の上に乗せてから口に運ぶ。サクッという音が口の中に広がり、それと同時に肉とソースの旨味が混ざり合う。
「こ、これは……!」
……美味い。これがトンカツか。そもそも今まで生きてから一度も手料理というのを口にした事が無かったので、何か新鮮だ。
「気に入ってくれたなら良かったよ! 今日は初任務完遂記念で腕によりをかけて作ったんだ! ちゃんと手間かけて2度揚げしたし、その肉もちゃんとした精肉店で買ったんだよ? 結構値段したけど、そこはご愛嬌って事で!!」
「「博士……!」」
今度は亜玲澄と正義が口を合わせる。勿論この博士の優しさは大蛇にも伝わっている。こんな人に助けられて良かったと改めて思う。こればかりはどんなに恨んでても運命に感謝しなければならない。
「……ところで、食べながらで良いんだけど、ここで次の任務について話しておきたい」
ふと博士が話題を切り替える。熱々のトンカツを頬張りながら全員が博士の方を向く。
「次のシンデレラ宮殿の事なんだけど、今回は正直『海の惑星』なんか比にならないレベルで酷らしい。つい先程連絡があったんだけど、あのネフティスNo.3の涼宮凪沙が『パンサー』を名乗る者と接触して大怪我を負った」
「「――!!」」
……嘘だろ。ネフティスで3番目に強い人でさえも太刀打ち出来ないのか。これは一筋縄では行かないだろう。
「……そうだとしたら間違いないな。『パンサー』は禁忌魔法の所有者だ」
「……うん、僕もそれ以外考えられないと思っている。凪沙ちゃんも君達と同じ神器使いだ。神器も無い怪盗に負けるはずが無い」
「博士、一つ訂正だ。まだパンサーが神器を持ってないなんて確証は無いぜ」
これに関しては正義の言う通りだ。パンサーはまだ何かを隠している可能性が高い。
そこに俺が会話に口を挟む。
「だが逆もあり得る。それは、禁忌魔法を持っている確証も無いと言う事だ。
例を挙げるならエレイナだ。前に満身創痍の俺と正義の傷を完治したあの雨……あれは禁忌魔法なんかでは無い。もしかしたらパンサーも、このパターンの魔法を持っている可能性がある」
「そのパターンもあるか……」
亜玲澄がトンカツを口に入れながら頷く。
「もしそのパターンが正しいなら……」
「あぁ。自然にパンサーの正体も分かるはずだ」
「「なっ……!!」」
正義と博士が同じタイミングで驚く。だが二人には申し訳ないがその可能性は低いと思って良い。ゼロでは無いが、あっても1%あるか無いかってところだがな。
「まぁどの道……すぐに向かわなきゃ行けねぇんだろ?」
「その通りだ。君達は3日の休暇を貰っているが、凪沙が大怪我を負った事でそういうわけにも行かなくなった。これだけでも今日伝えたかったんだ」
一応確認だが、凪沙さんは生きてると思って良いだろう。まぁ、ネフティスNo.3の実力者だからそう簡単に死ぬ事はまず無いだろう。
「それで、早くも明日から君達はシンデレラ宮殿に向かう事になる。そこで蒼乃ちゃんと合流するよう総長から命じられるはずだ。……そういう意味で、今日はトンカツにしたんだよ!」
「「――!」」
伏線回収のつもりか。『次の任務も勝つ!』ためにトンカツを作ったってか。これではただのダジャレでは無いか。伏線回収でも何でも無い。
「……博士、どういう事だ?」
「博士さん、今の話とトンカツって関係あるの?」
「あ……、えっとお〜っ……」
助けを求めるかのように俺と亜玲澄に目線を送る博士であったが、二人は無視してトンカツに集中した。
……やっぱり、何処かで食べたような気がするな。このトンカツとやらは。
存在するか分からない遠い記憶の思い出と共に、トンカツの一切れを噛み締めた。
そしてあっという間に夜になる。先程まで寝ていたからか、あまり眠れなかったが皆と布団の中で談笑しながら今日の夜を過ごした。
この時の時刻は深夜0時を過ぎていた――
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰
犠牲者:???
博士の両手に持つは色々なものが入ったレジ袋。袋からはネギや大根がはみ出ているのが見て取れる。
「ごめんごめん、遅くなっちゃったね。じゃあ今から作るから待ってて」
「え、博士料理作れるんですか……?」
「これでも栄養士の資格取ってるからね。僕に任せてくれ!」
それは聞いてなかった。まさかあのマヤネーン博士が資格を取っていたとは。
マヤネーン博士の父アズレーンからちょこっと資格の事を教わったが、かなり難しいものもあると聞いた事がある。栄養士なら尚更難しいのではないだろうか。どういうものかはよく分からないが、名前を聞くだけで相当な資格だというのは分かる。
「んで、博士よぉ。何作る気だ?」
「ふふん、このレジ袋を見れば分かるだろう? トンカツさ!」
「トン……」
「カツ……?」
正義が目をキラキラと輝かせているのと対に、俺と亜玲澄は聞いた事無い単語を口にする。
……まぁ、トンカツって言うんだし少なくとも肉料理である事には間違いない。でも焼き料理って感じでも無さそうだ。一体どういうものだろうか。栄養士の資格持ちの博士の腕に期待だ。
「……大蛇、俺ふと思ったんだけどさ」
亜玲澄が隣で独り言のように呟いた。俺の名を呼んでいるので、とりあえず耳を傾ける。
「トンカツって、俺達何度か食べたような気がするんだが……気のせいか?」
「え、いや……気のせいだろ」
流石にそんな事は無いだろう。そもそもトンカツという単語を今ここで初めて聞いたのだ。亜玲澄は一体何処の記憶からそう考えたのだろうか……
肉を揚げる音が聞こえてきた。なるほど、これは揚げ物料理というやつか。
「いや〜、トンカツなんていつぶりだ!? この肉を揚げる音だけで白飯食っていけるんだよな〜!」
「いやそれは無理があるだろ……」
「でも、私その気持ち分かるかも」
ただ肉に衣をつけて油で揚げてるだけなのにそこまで美味しいものなのだろうか。もしや普段滅多に食べられない高級料理なのかもしれない。
「よし、出来たよ〜っ!」
「おっ、来た来た!」
「美味しそう〜っ!」
見た目は本当に美味しそうだ。しっかり中まで揚がっていて、衣もサクサクしてそうだ。そこに市販のソースを適当にかける。
「「いただきまーす!!」」
手を合わせていざ試食……と思ったが、一つ大事な事を忘れていた。
「おい、米はいいのか?」
「「あ……」」
先走って熱々のトンカツを食べようとしていた正義とエレイナが口を合わせ、博士の方を向く。博士は微笑みながら全員分の茶碗を食器棚から取り出し、炊きたての白米を盛り付けた。
「分かってるよ。すぐ持っていくからね」
「博士、手伝います!」
「ありがとう、亜玲澄君」
全員の目の前に茶碗が置かれた。運び終えた博士と亜玲澄が自席に座り、両手を合わせていただきますを唱えた。
まずは八等分に切られているトンカツの一切れを箸で掴み、一度ご飯の上に乗せてから口に運ぶ。サクッという音が口の中に広がり、それと同時に肉とソースの旨味が混ざり合う。
「こ、これは……!」
……美味い。これがトンカツか。そもそも今まで生きてから一度も手料理というのを口にした事が無かったので、何か新鮮だ。
「気に入ってくれたなら良かったよ! 今日は初任務完遂記念で腕によりをかけて作ったんだ! ちゃんと手間かけて2度揚げしたし、その肉もちゃんとした精肉店で買ったんだよ? 結構値段したけど、そこはご愛嬌って事で!!」
「「博士……!」」
今度は亜玲澄と正義が口を合わせる。勿論この博士の優しさは大蛇にも伝わっている。こんな人に助けられて良かったと改めて思う。こればかりはどんなに恨んでても運命に感謝しなければならない。
「……ところで、食べながらで良いんだけど、ここで次の任務について話しておきたい」
ふと博士が話題を切り替える。熱々のトンカツを頬張りながら全員が博士の方を向く。
「次のシンデレラ宮殿の事なんだけど、今回は正直『海の惑星』なんか比にならないレベルで酷らしい。つい先程連絡があったんだけど、あのネフティスNo.3の涼宮凪沙が『パンサー』を名乗る者と接触して大怪我を負った」
「「――!!」」
……嘘だろ。ネフティスで3番目に強い人でさえも太刀打ち出来ないのか。これは一筋縄では行かないだろう。
「……そうだとしたら間違いないな。『パンサー』は禁忌魔法の所有者だ」
「……うん、僕もそれ以外考えられないと思っている。凪沙ちゃんも君達と同じ神器使いだ。神器も無い怪盗に負けるはずが無い」
「博士、一つ訂正だ。まだパンサーが神器を持ってないなんて確証は無いぜ」
これに関しては正義の言う通りだ。パンサーはまだ何かを隠している可能性が高い。
そこに俺が会話に口を挟む。
「だが逆もあり得る。それは、禁忌魔法を持っている確証も無いと言う事だ。
例を挙げるならエレイナだ。前に満身創痍の俺と正義の傷を完治したあの雨……あれは禁忌魔法なんかでは無い。もしかしたらパンサーも、このパターンの魔法を持っている可能性がある」
「そのパターンもあるか……」
亜玲澄がトンカツを口に入れながら頷く。
「もしそのパターンが正しいなら……」
「あぁ。自然にパンサーの正体も分かるはずだ」
「「なっ……!!」」
正義と博士が同じタイミングで驚く。だが二人には申し訳ないがその可能性は低いと思って良い。ゼロでは無いが、あっても1%あるか無いかってところだがな。
「まぁどの道……すぐに向かわなきゃ行けねぇんだろ?」
「その通りだ。君達は3日の休暇を貰っているが、凪沙が大怪我を負った事でそういうわけにも行かなくなった。これだけでも今日伝えたかったんだ」
一応確認だが、凪沙さんは生きてると思って良いだろう。まぁ、ネフティスNo.3の実力者だからそう簡単に死ぬ事はまず無いだろう。
「それで、早くも明日から君達はシンデレラ宮殿に向かう事になる。そこで蒼乃ちゃんと合流するよう総長から命じられるはずだ。……そういう意味で、今日はトンカツにしたんだよ!」
「「――!」」
伏線回収のつもりか。『次の任務も勝つ!』ためにトンカツを作ったってか。これではただのダジャレでは無いか。伏線回収でも何でも無い。
「……博士、どういう事だ?」
「博士さん、今の話とトンカツって関係あるの?」
「あ……、えっとお〜っ……」
助けを求めるかのように俺と亜玲澄に目線を送る博士であったが、二人は無視してトンカツに集中した。
……やっぱり、何処かで食べたような気がするな。このトンカツとやらは。
存在するか分からない遠い記憶の思い出と共に、トンカツの一切れを噛み締めた。
そしてあっという間に夜になる。先程まで寝ていたからか、あまり眠れなかったが皆と布団の中で談笑しながら今日の夜を過ごした。
この時の時刻は深夜0時を過ぎていた――