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作者: Siranui
残酷な描写あり
第五十六話「事件の真実」
 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依
 犠牲者:???

「終わりよ、アースラ……お父様の敵をここでとらせてもらうわ!!」

 右手で今度は光の雫を槍状にして精製する。一方でアースラは動きを封じられて動けない。

 動けないうちにこれを放つ……!!

 エレイナの右手が振り下ろされるその寸前、アースラは何故か笑っていた。

「ふふ……ふふふふ……」
「……何がおかしいの?」

 しかし、返答は無い。ただ不気味な笑い声しか返ってこない。

「あは……あっはははははは!!!!」

 その時だった。アースラは徐々に黒い塵となってエレイナ達の横を通り、王室に飛んでいくのが見えた。

「待って……あそこには芽依ちゃんと凪沙ちゃんが!!」
「……ひとまず追いかけましょう!」
「いや、俺一人で追いかけます。あなた達はアースラの警戒と黒神と白神の治癒を」

 そう言ってすぐに優羽汰はエレイナのドーム状の盾をすり抜け、王室へと続く道を左に曲がった。

「あはははははは!!!!」

 アースラは笑いながら徐々に塵となって消えていく。乖離剣かいりけんも塵となって本体と同化する。

「あの剣が……消えていく……」
「もしや、あの剣も王室に……」

 そうなったらまずい。宮殿の宝が全て無になる。いや、そうなったら本当にフランスが終わる。

「あははははは!! あっははははは!!!」

 不気味な笑い声だけを残し、アースラの身体は完全に黒い塵となって消えた。塵は王室に向かって流れるように進む。

「……行こう、蒼乃ちゃん!」
「で、ですが大蛇さんの怪我は……」
「それならボクが何とかするよ」

 エレイナ達の背後から不意に現れた黒い影。壊れた宮殿の爪痕つめあとから吹く優しい風に揺られるマントに目元を隠す白い仮面。まごうことなきパンサーの姿がそこにはあった。

「――! パンサー、そこを動かないでください!」
「おやおや怖いな〜お嬢ちゃん。彼らに何かしようだなんて思ってないよ」

 パンサーは銃を向ける蒼乃に笑いながら言った。

 ……どうやらそのつもりは無さそうですね。ですが捕まえてスタニッシュリングを取り返すなら今が最大のチャンス。なにかしようとしたらその隙に凍らせるまでです!

「……一体何のつもりですか?」
「まぁ見てなよ。『揺り籠姫の唄アルラウネ』」

 パンサーが左手を俺にかざす。その刹那、右肩の出血が一瞬にして止まり、傷も完全に塞がる。更に、隣の亜玲澄にも同じ魔法を唱えて傷を癒やす。

「……よし、こんなもんかな」
「貴方は一体何を……」
「何って……回復魔法だよ。
「……!!」

 エレイナと蒼乃は驚いた。黒花……なんて初めて耳にする言葉だ。それに大蛇達が必要とは一体どういうことなのだろうか。

「全く……ネフティスも情報をうのみにし過ぎなんだよなあ〜。ちなみにボクがパンサーを名乗って宮殿の宝を盗む理由、聞きたいでしょ?」
「……ふざけているのですか?」
「やだなあ、ふざけてなんかないよ。怪盗に嘘偽りは無いよ。それはただお宝の価値を低くするだけさ」

 右手でマントを翻しながらパンサーはそう言う。少し大袈裟感があってかエレイナと蒼乃は少し引いてしまったが、それでもパンサーは話を続ける。

「……ボクはその黒花を倒すためにここで宝を……いや、『神器』を盗んでるのさ。その中でもこの『スタニッシュリング』は格別なのさ。
 装備するだけで一日に一度だけ『死即蘇生リレイズ』が付与される強力な能力持ちの神器なのさ。これは黒花を倒すためには必須級の神器……決して宮殿を支配しようだなんて理由で盗んでるわけじゃないんだよ」

 ……信じがたい。にわかに信じがたい。絶対嘘だ。私達を惑わせてより解決を困難にさせてるだけに違いない。

「……事実を言ってください」
「仕方ないなぁ〜……なら、証拠を出してあげるよ」

 すると、パンサーはタキシードの内側ポケットに右手を突っ込んで勢いよく何かをばら撒いた。それらは全て宝石の如く輝くものばかりだった。

「これは……!!」
「ボクは君達が来るのをずっと待っていた。ずっと怪盗を装って世界中の宝を盗んできた。これはその全てさ。どれも貴重な能力を持つものばかり。全ては君達に与え、共に黒花を倒すためにやってきたんだ。」

「「――!?」」

 数え切れない。一体その内ポケットからどうやって出したのかが不思議になるくらい大量に指輪やアクセサリーなどがある。

「皆、頼んでほしい。一緒に黒花を倒そう。もちろん倒したら全ての宝は元に返すと約束しよう」
「そ、そんな……」

 エレイナは戸惑う。凪沙に致命傷を与え、世界中の宝を盗んできた本人と手を組んで新たな敵を倒そうだなんて無理だ。そう言おうと右足を前に踏み込んだときだった。

 蒼乃がエレイナの前に立ち、動くのを止められた。

「分かりました、その条件、乗らせて頂きます」
「蒼乃ちゃん……」
「確かにパンサーがしていることは許せません。ですが、パンサーも隠れた危機を阻止するために戦ってるのです。
 それに、ネフティス副総長として『黒花』を放っておけません。下手をすれば任務どころの騒ぎでは無くなるかもしれません。不本意ですが、まずはこの地球を守る事を優先します!」

 ……強い目だ。その瞳はどんな宝石よりも輝いて見える、女性ながらも強くたくましい目。この人達ならきっと黒花を倒せる。

 ――ようやくあの時の敵が討てる……

「ありがとう……まさか協力してくれるなんて思わなかったよ。もちろん信用しろとは言わない。納得いかなければここでボクを捕まえればいい。それが君達の『任務』でしょ?」

 パンサーは今から手錠をかけられるかのように両手首をくっつけるポーズをとる。

「いえ、今はそんな事してる場合ではありません。急ぎましょう!」
「あ……ちょっと待ってよ蒼乃ちゃ〜ん!!」

 話してるのを横から見てたらいつの間にか蒼乃に置いていかれ、エレイナは慌てて二人を追った。



「――っ」

 視界が徐々に彩られる。左半身の感覚を取りもどす。知らぬ間に痛みは消えていた。俺は生きている。何故だ、何故俺は生きているんだ。タイムリープでもしてるのだろうか。

「……」

 喋れない。思うように口が開かない。右半身の口が機能しない。視覚も聴覚も嗅覚も、右半身からは何一つ感じない。これでは右半身がただの置物にすぎない。邪魔くさい。

「…………」

 そっと左を向く。そこには亜玲澄が俺と同じように意識を失っている。亜玲澄もまた、傷が完全に回復していた。

「……………」

 亜玲澄、すまない。お前が寝てる間に任務を終わらせてやる。

 左足と左手で支えながら立ち上がり、右半身を壁に寄りかからせながら引きずるようにして歩いた。

 謎の黒い塵が示す道に向かって――
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