残酷な描写あり
第九十五話「血祭りの開幕」
――夢を見ていた。俺が望む、平和な世界を。誰も運命に呪われて死ぬ事のない、和気藹々とした未来を。
しかし、それは『今』という名の宿命を創った陰謀者にとっては悪夢でしかないのだ。俺が望む未来を、奴は望んでいない。
澄み切った青空を鳥が羽を落としながら飛んでいく。白い羽根だ。何一つ汚れていない純白の羽根だ。それにそっと手を伸ばしてみる。
「……」
触れた瞬間、消えた。雲に触れたらこんな感じなのだろうかと想像する。そう思いながら掌を見る。その時、俺の掌は真紅に汚れていた。刹那、何者かの笑い声が聞こえて――
「はっ……!」
目を覚ます。周りを見る限り、どこかのホテルであることが分かる。足音も無いからここにいるのは俺一人か。いや、まだ眠っている可能性もある。
「……」
ホテルの中とはいえ、ベッドから床に足を踏み入れるとその地にいるというのが感じられる。ここが長崎県……あの正嗣総長とその息子優羽汰の故郷か。
――って、そんなのんびりしてる暇は無い。一先ず今の時刻を確認しなければ。
「……7月14日、午前8時45分……」
まだ朝か。ならまだ参加者のほとんどが眠っている状況か。
少し心に余裕ができ、背中に魔剣があるのを確認した後すぐにカーテンを開けては窓を開ける。そこから差し込む朝焼けに思わず左手で遮る。
「くっ……眩しいなおい」
今更カーテンを閉めたくもなかったのでそのままにし、朝焼けを遮りながら長崎の街を一望する。景色としてはただの建物が立ち並んでいるだけだが、ここがたった一ヶ月で戦場になってしまうと考えると恐ろしくて仕方がない。
「ここ……長崎のどこだ?」
ふと思った。一体何のために窓の景色を見たのかと思ったらそういう事だったのを忘れていた。朝焼けと一緒にその思考さえも遮ってしまったのか俺は。
そんなふざけた事を心の中で呟いていたその時、背後から何者かの声が聞こえた。
「ここは松浦市です。『アジフライの聖地』なんて呼ばれたりしてますよね」
「――!!」
咄嗟に背中の魔剣を引き抜こうとする前に男は俺の右手首を強く抑えた。
「安心してください、少なくとも私は貴方の味方ですよ、『黒神大蛇』さん」
「……!!」
こ、こいつ……何者なんだ。いや、あの学院の生徒だよな……なのに何故「オロチ・クロガミ」ではなく本来の呼び方で呼ぶのか。
「私はクロム・セリウス。貴方の担任をしているミスリア・セリウスの弟です」
「弟……」
ま、まさかあのミスリアに弟がいたとは……それにしてもその漆黒の鎧といい同色の髪色といい、ミスリアとは正反対だ。
「はい、なので貴方達の作戦については姉から聞いております」
「……なら話が早いな」
「はい、もちろん私も協力します」
お礼代わりに頷き、2人はすぐにホテルの部屋を出て、ロビーまで降りては外へと駆け出した。
――私はこの時を待ちわびていた。この無意味な祭りに終焉を迎えさせるために。大蛇に潜む悪魔を殺すために。
……その悪魔は必ず私が殺します。ネフティスNo.6の北条銀二という、正義になりすました愚者を――
しかし、それは『今』という名の宿命を創った陰謀者にとっては悪夢でしかないのだ。俺が望む未来を、奴は望んでいない。
澄み切った青空を鳥が羽を落としながら飛んでいく。白い羽根だ。何一つ汚れていない純白の羽根だ。それにそっと手を伸ばしてみる。
「……」
触れた瞬間、消えた。雲に触れたらこんな感じなのだろうかと想像する。そう思いながら掌を見る。その時、俺の掌は真紅に汚れていた。刹那、何者かの笑い声が聞こえて――
「はっ……!」
目を覚ます。周りを見る限り、どこかのホテルであることが分かる。足音も無いからここにいるのは俺一人か。いや、まだ眠っている可能性もある。
「……」
ホテルの中とはいえ、ベッドから床に足を踏み入れるとその地にいるというのが感じられる。ここが長崎県……あの正嗣総長とその息子優羽汰の故郷か。
――って、そんなのんびりしてる暇は無い。一先ず今の時刻を確認しなければ。
「……7月14日、午前8時45分……」
まだ朝か。ならまだ参加者のほとんどが眠っている状況か。
少し心に余裕ができ、背中に魔剣があるのを確認した後すぐにカーテンを開けては窓を開ける。そこから差し込む朝焼けに思わず左手で遮る。
「くっ……眩しいなおい」
今更カーテンを閉めたくもなかったのでそのままにし、朝焼けを遮りながら長崎の街を一望する。景色としてはただの建物が立ち並んでいるだけだが、ここがたった一ヶ月で戦場になってしまうと考えると恐ろしくて仕方がない。
「ここ……長崎のどこだ?」
ふと思った。一体何のために窓の景色を見たのかと思ったらそういう事だったのを忘れていた。朝焼けと一緒にその思考さえも遮ってしまったのか俺は。
そんなふざけた事を心の中で呟いていたその時、背後から何者かの声が聞こえた。
「ここは松浦市です。『アジフライの聖地』なんて呼ばれたりしてますよね」
「――!!」
咄嗟に背中の魔剣を引き抜こうとする前に男は俺の右手首を強く抑えた。
「安心してください、少なくとも私は貴方の味方ですよ、『黒神大蛇』さん」
「……!!」
こ、こいつ……何者なんだ。いや、あの学院の生徒だよな……なのに何故「オロチ・クロガミ」ではなく本来の呼び方で呼ぶのか。
「私はクロム・セリウス。貴方の担任をしているミスリア・セリウスの弟です」
「弟……」
ま、まさかあのミスリアに弟がいたとは……それにしてもその漆黒の鎧といい同色の髪色といい、ミスリアとは正反対だ。
「はい、なので貴方達の作戦については姉から聞いております」
「……なら話が早いな」
「はい、もちろん私も協力します」
お礼代わりに頷き、2人はすぐにホテルの部屋を出て、ロビーまで降りては外へと駆け出した。
――私はこの時を待ちわびていた。この無意味な祭りに終焉を迎えさせるために。大蛇に潜む悪魔を殺すために。
……その悪魔は必ず私が殺します。ネフティスNo.6の北条銀二という、正義になりすました愚者を――