R-15
Ally-16:遺憾なる★ARAI(あるいは、U are the/亜麻色髪エィンジェー)
放課後。
「……」
昼休みに起きた諸々のことに、今日分の大脳演算能力を全て使い果たされた僕は、五限六限はそれこそ無我の境地でただ教室の片隅に鎮座するだけの物言わぬ(物も考えぬ)像と化したままであったものの。
おうげ、こん後ばぁ、作戦会議じょぞ? 駅裏の『ボイヤス』ばに集合すんごぼ、掃除ばバックれちょりじぁい、との、またその声は無駄にクリアに通る人に振り向きざま言われた。のは割と教室内に筒抜けであったので、真面目が取り柄の鴇崎さんに、ちょっと!! あなたたちちゃんとやりなさいよねッ、との要らぬ叱責を受けつつもきっちりと掃除をこなしてから、ようやく駅の裏手にあるファミレスに向かったのだけれど。
今日が週明けとは思えないほどのしんどさだ……いろいろな事があった……いろいろと度し難いあれやこれやが……
「作戦会議」、と御大はのたまったものの、薄れかけてきていた今後の見通しについて、一度原点に立ち返って再度認識しといた方がいいなとの、よく分からない使命感みたいなのに背中を押されるようにして、僕は身体の内部から萎れるかのような妙な疲労感を引きずりながら、無尽蔵そうなエネルギーを無駄なうきうき動作に変換しつつ先を行く御仁の後を何とか付いて行く。
京急久里浜の駅ビルの脇、高架下をくぐり抜けて少し行くとすぐに赤白に派手に塗り分けられた非常に目に付く二階建ての店舗……「地域に根ざした最安ファミリーリストランテ:ボイヤス」は、駅近な立地と結構な敷地面積を誇るにも関わらず、常時あまり客は入ってない。一説にはふたつ隣に昨年オープンした小洒落たカフェに客層ごと根こそぎ持っていかれたとかなんとかとのことで、でも、その安さと(パンケーキ299円にドリンクバー99円でずっと居座れる)、無駄な座席の広さが、こういった密談(?)をする時なんかは非常に重宝するのであり。
空いてるお席にどうぞ、と店内に入った僕らの姿を認めるやいなや、最低限の会釈をしつつ踵を返して即座にバックヤードに帰っていく店員さんの職人芸を尻目に、あぁ、先に来とるがぁ、と、窓方向に前髪と目を向けるアライくん。え? 先? とか思ってつられるようにして追った僕の目の先には。
「!!」
薄暗い店内においてなお、柔らかく後光を放つ、天使の姿があったのであった……!! な、なぜ昼の学食に続き、このような掃きだめのような場末感が支配する場所に連続降臨を……?
僕らに気づくと、ぱっと輝かせたその可憐なる小顔の前で可憐なる手を可憐なる素振りにて可憐に小さく振っているよ……
夢じゃ……無かったのか……込み上げる嗚咽を何とか飲み下すと、待っちょっちょ? いんやぁ、あの××がばぁ××××(聞き取れなかったがおそらく鴇崎さんのこと)にば取っ掴まりょったい、御免御免……とか手刀を切りつつ、アライくんは極めて自然にそちらに向かってずんずと歩み寄ると、はぎゃぁ、疲ればっとぉ、との言葉と共にパチモンセカンドバッグを投げだしながら、三ツ輪さんの掛けていた八人掛けのテーブルにおばちゃんのようなしんどさを見せつつ倒れ込むけれど。
いやブレないな……!! アライくんは誰に対しても遺憾なく平等に鷹揚に接することが出来る。それはもう羨ましい限りのことなんだけれど。
うううん、私が無理言っちゃったわけだし、うちの姉らも迷惑かけちゃったわけだし……との、天上の諫早のような(地名?地名出た!)、可憐なるはにかみ声が僕の耳小骨をかつてないほどの優しい振動にて揺さぶってくる……
今日という日は、未だ終わりを見せなさそうで。いや、ここからが本当の今日だ……ッ
僕は本日ごっそりと奪われた何かを取り戻そうとばかりに、いやそんな事とは関係なしに、勇気を振り絞って三ツ輪さんの斜め前の席にぎくしゃくと座る。
打席に立ってバットを振らなければ、何もつかみ取れない。急速に沸き上がってきた熱をぎごちない深呼吸にて何とか抑えつつ、僕は光放つ可憐な姿と、その後ろで明らかに肩で息をしている投手の幻影を見やる。
「……」
昼休みに起きた諸々のことに、今日分の大脳演算能力を全て使い果たされた僕は、五限六限はそれこそ無我の境地でただ教室の片隅に鎮座するだけの物言わぬ(物も考えぬ)像と化したままであったものの。
おうげ、こん後ばぁ、作戦会議じょぞ? 駅裏の『ボイヤス』ばに集合すんごぼ、掃除ばバックれちょりじぁい、との、またその声は無駄にクリアに通る人に振り向きざま言われた。のは割と教室内に筒抜けであったので、真面目が取り柄の鴇崎さんに、ちょっと!! あなたたちちゃんとやりなさいよねッ、との要らぬ叱責を受けつつもきっちりと掃除をこなしてから、ようやく駅の裏手にあるファミレスに向かったのだけれど。
今日が週明けとは思えないほどのしんどさだ……いろいろな事があった……いろいろと度し難いあれやこれやが……
「作戦会議」、と御大はのたまったものの、薄れかけてきていた今後の見通しについて、一度原点に立ち返って再度認識しといた方がいいなとの、よく分からない使命感みたいなのに背中を押されるようにして、僕は身体の内部から萎れるかのような妙な疲労感を引きずりながら、無尽蔵そうなエネルギーを無駄なうきうき動作に変換しつつ先を行く御仁の後を何とか付いて行く。
京急久里浜の駅ビルの脇、高架下をくぐり抜けて少し行くとすぐに赤白に派手に塗り分けられた非常に目に付く二階建ての店舗……「地域に根ざした最安ファミリーリストランテ:ボイヤス」は、駅近な立地と結構な敷地面積を誇るにも関わらず、常時あまり客は入ってない。一説にはふたつ隣に昨年オープンした小洒落たカフェに客層ごと根こそぎ持っていかれたとかなんとかとのことで、でも、その安さと(パンケーキ299円にドリンクバー99円でずっと居座れる)、無駄な座席の広さが、こういった密談(?)をする時なんかは非常に重宝するのであり。
空いてるお席にどうぞ、と店内に入った僕らの姿を認めるやいなや、最低限の会釈をしつつ踵を返して即座にバックヤードに帰っていく店員さんの職人芸を尻目に、あぁ、先に来とるがぁ、と、窓方向に前髪と目を向けるアライくん。え? 先? とか思ってつられるようにして追った僕の目の先には。
「!!」
薄暗い店内においてなお、柔らかく後光を放つ、天使の姿があったのであった……!! な、なぜ昼の学食に続き、このような掃きだめのような場末感が支配する場所に連続降臨を……?
僕らに気づくと、ぱっと輝かせたその可憐なる小顔の前で可憐なる手を可憐なる素振りにて可憐に小さく振っているよ……
夢じゃ……無かったのか……込み上げる嗚咽を何とか飲み下すと、待っちょっちょ? いんやぁ、あの××がばぁ××××(聞き取れなかったがおそらく鴇崎さんのこと)にば取っ掴まりょったい、御免御免……とか手刀を切りつつ、アライくんは極めて自然にそちらに向かってずんずと歩み寄ると、はぎゃぁ、疲ればっとぉ、との言葉と共にパチモンセカンドバッグを投げだしながら、三ツ輪さんの掛けていた八人掛けのテーブルにおばちゃんのようなしんどさを見せつつ倒れ込むけれど。
いやブレないな……!! アライくんは誰に対しても遺憾なく平等に鷹揚に接することが出来る。それはもう羨ましい限りのことなんだけれど。
うううん、私が無理言っちゃったわけだし、うちの姉らも迷惑かけちゃったわけだし……との、天上の諫早のような(地名?地名出た!)、可憐なるはにかみ声が僕の耳小骨をかつてないほどの優しい振動にて揺さぶってくる……
今日という日は、未だ終わりを見せなさそうで。いや、ここからが本当の今日だ……ッ
僕は本日ごっそりと奪われた何かを取り戻そうとばかりに、いやそんな事とは関係なしに、勇気を振り絞って三ツ輪さんの斜め前の席にぎくしゃくと座る。
打席に立ってバットを振らなければ、何もつかみ取れない。急速に沸き上がってきた熱をぎごちない深呼吸にて何とか抑えつつ、僕は光放つ可憐な姿と、その後ろで明らかに肩で息をしている投手の幻影を見やる。