R-15
Ally-20:苛烈なる★ARAI(あるいは、一斉不備/四面疎外感)
はたして、「道」ェ……
「貴様らを呼び立ておっちゃるが、他でも無きゃーすも。まんだまだ域にば達しておらんちょっとば、そんらの熱意ばちょ買うて、こなる『1Q85団』ばの、『準構成員』ばに取り立てちゃがらん事も無ゃーとろ思っておるむんがんどが」
いきなり呼びつけられたにも関わらず、二人とも十分もかからずくらいでボイヤスにやって来ていた。卑屈とも歓喜とも取れる満面の笑みで、双方肩で息なんかしている……そうまでの何かがあろうということに、僕は率直に驚きを感じるけど。どうしたっていうの……
真然汰氏と伊右衛朗氏……改めてテーブル挟んでの近距離で向かい合うと、結構なけったいさだ。ひとりは肩幅が異様に角ばっている猿人にも程がある佇まいの、最近では虚構の中でもあまり見ること叶わない、シルエットがやけにギザギザした学ランと学帽を身に着けた御仁……
もう一人は、正面から相対してもまるで後頭部を見ているかのような、それでいてまったくアハ感をもたらすことは無いという無意味な騙し絵じみた、もっさり金髪長髪を顔の前に簾よりも簾然と垂らしつつ、黒いスーツとシャツにさっきは無かった真っ白なネクタイが要らん差し色のように気障りさを引き立てて呈示してくるという、白黒が何となく格好いいんじゃね? みたいな今日び地方都市の中二中三でも陥らないようなファッションセンスオブワンダーの持ち主……
彼らの席を開けるため、通路側に座っていた僕とアライくんは窓側のソファへと移動。団長を中心に、その左に副団長、右に書記という並びだ。何だか面接のようにも見えるなこれ……でも窓からの逆光がその正面に座る異形感醸す二人の不必要な視覚情報を陰影づけて僕の視細胞に送ってくることに気付いて、反対の方が良かったかな……とのどうでもいい思いに囚われてしまう。
何だろねこの状況……との己への問いかけは何も為さないことをそろそろ僕は肝に銘じるべき段階に来てはいるのだろうけど、かと言ってそれをうまくまだ呑み込めもしない自分も感じている……
アライくんに意味不明な求心力があるということは、もう充分過ぎるほどに知らしめられている。三ツ輪さんのことも勿論そうだし、春日井のおばあちゃんも言うたらそうだよね……かくいう僕だってその最たるものかも知れないのだから何も言えないっちゃあ言えない……
そして取り分けて「信奉度」的なものが振り切れかかっているのが件のこの二人だ。何で? と二度思いをさせられてしまったけれど、奇人と変人は惹かれ合うのやも知れない……とその巷の準構成員よりも準構成員指数が高そうな選民たちを先ほどから凪いだ目でなるべく顔を直視しないように下げつつ、当たり前のように注文されたパンケーキの山に焦点を合わせている。
ほ、ほんとですかいッ? との声を上げたのは向かって右、猿人氏の方で、そのガタイに見合った野太い声が、直に僕の横隔膜辺りを揺らしてくる。
それには答えず、もったいぶった手つきで団長はその両者の前にずずいと白いボイヤスのコースターと、その上に乗った三回りくらい小さな金色の円を押し出していく。
こここれはあの……ッ!! との声を上げたのは向かって左、髪人氏の方で、掠れた耳障りな声が、直に僕の蝸牛辺りを振動させてくる。
「……知っているじゃば話は早かど。それこそが『EXPO‘85』公式記念メダルッ!! 純金仕上げ40枚セットがのうちのひとつとひとつよぅ……」
さらにのもったいぶった口調でアライくんはのたまう。横顔をちらと拝見したらひどく悪そうな顔をしていたけど、よくそんなものを持って来ていたね……ちなみにコーティングされているだけで全部が純金では無い。念のため。
「赤郎は『アメリカ館』ッ!! 黄郎は『ソ連館』ッ!! それぞれがに今後ちゅあも切磋琢磨ばして欲しいっちゅ思いを込めたがばどッ!! 異論は無かがろがはいッ!?」
多分こういう体育会的・軍隊的なやり取りの何かに憧れていたのだろう、お手の物の上からの物言いも、今のこの瞬間はますます切れ渡っている。各々の名前はいい具合に間違っているけど、それは当然些末なことと言える。
あ、あわわあうわわ……と、テンパッた時の僕のような声を上げながら、そのメダルの乗ったコースターを押し戴くようにする二人。この二人は何でこれらのモノに食いつくんだろうね……そんなに1985年の波が来ているとでもいうのだろうか……と、
「……あくまで『準』だからね。しょうがない措置なんだからね。だから団長さんの言うことは絶対聞くことっ」
三ツ輪さんはやはりこの二人には冷徹一辺倒なんだけれど、何だろう、それもまた良ひかな……天上のいぱねまのような(ググってもどういうことかは分からない)涼やかな声が、僕の前頭葉辺りを震わせてくるよ……
でも眼前の二人は天使そっちのけで、今しがた渡された金色のメダルをぐひぐひ言いながら見せ合いっこなんかしてるよ本当に度し難いな……
とか思っていたら、三ツ輪さんがその制服に包まれたしなやかな右腕をずいとテーブル越しにその二人へと突きつけたのだけど。
その白魚のような指と指に挟まれていたのは、気品ある黄金の輝き。まあ他の二人に配られたものと材質は同じなのだけれど、何故か光り輝いて見える……
「……副団長の私はこの『コスモ星丸』くん……言わずもだけど、私の命令もまた絶対であることを……肝に銘じておくように」
ほんとにこの二人に対しては冷たいな!! 慄く二人……そしてメダルの絵柄がこの団でのヒエラルキーを示しているとでもいうのだろうか……ッ!! でもさっき僕がアライくんからぞんざいに投げ渡されたのは「燦鳥館」のもの……ッ!! こ、これはいったいどの立ち位置だというのだろう……ッ!?
「……その下の『団訓』もよぉ見るがじゃじ」
僕の逡巡を尻目に、もったいぶったままのアライくんの仕切りは続いていく……
「貴様らを呼び立ておっちゃるが、他でも無きゃーすも。まんだまだ域にば達しておらんちょっとば、そんらの熱意ばちょ買うて、こなる『1Q85団』ばの、『準構成員』ばに取り立てちゃがらん事も無ゃーとろ思っておるむんがんどが」
いきなり呼びつけられたにも関わらず、二人とも十分もかからずくらいでボイヤスにやって来ていた。卑屈とも歓喜とも取れる満面の笑みで、双方肩で息なんかしている……そうまでの何かがあろうということに、僕は率直に驚きを感じるけど。どうしたっていうの……
真然汰氏と伊右衛朗氏……改めてテーブル挟んでの近距離で向かい合うと、結構なけったいさだ。ひとりは肩幅が異様に角ばっている猿人にも程がある佇まいの、最近では虚構の中でもあまり見ること叶わない、シルエットがやけにギザギザした学ランと学帽を身に着けた御仁……
もう一人は、正面から相対してもまるで後頭部を見ているかのような、それでいてまったくアハ感をもたらすことは無いという無意味な騙し絵じみた、もっさり金髪長髪を顔の前に簾よりも簾然と垂らしつつ、黒いスーツとシャツにさっきは無かった真っ白なネクタイが要らん差し色のように気障りさを引き立てて呈示してくるという、白黒が何となく格好いいんじゃね? みたいな今日び地方都市の中二中三でも陥らないようなファッションセンスオブワンダーの持ち主……
彼らの席を開けるため、通路側に座っていた僕とアライくんは窓側のソファへと移動。団長を中心に、その左に副団長、右に書記という並びだ。何だか面接のようにも見えるなこれ……でも窓からの逆光がその正面に座る異形感醸す二人の不必要な視覚情報を陰影づけて僕の視細胞に送ってくることに気付いて、反対の方が良かったかな……とのどうでもいい思いに囚われてしまう。
何だろねこの状況……との己への問いかけは何も為さないことをそろそろ僕は肝に銘じるべき段階に来てはいるのだろうけど、かと言ってそれをうまくまだ呑み込めもしない自分も感じている……
アライくんに意味不明な求心力があるということは、もう充分過ぎるほどに知らしめられている。三ツ輪さんのことも勿論そうだし、春日井のおばあちゃんも言うたらそうだよね……かくいう僕だってその最たるものかも知れないのだから何も言えないっちゃあ言えない……
そして取り分けて「信奉度」的なものが振り切れかかっているのが件のこの二人だ。何で? と二度思いをさせられてしまったけれど、奇人と変人は惹かれ合うのやも知れない……とその巷の準構成員よりも準構成員指数が高そうな選民たちを先ほどから凪いだ目でなるべく顔を直視しないように下げつつ、当たり前のように注文されたパンケーキの山に焦点を合わせている。
ほ、ほんとですかいッ? との声を上げたのは向かって右、猿人氏の方で、そのガタイに見合った野太い声が、直に僕の横隔膜辺りを揺らしてくる。
それには答えず、もったいぶった手つきで団長はその両者の前にずずいと白いボイヤスのコースターと、その上に乗った三回りくらい小さな金色の円を押し出していく。
こここれはあの……ッ!! との声を上げたのは向かって左、髪人氏の方で、掠れた耳障りな声が、直に僕の蝸牛辺りを振動させてくる。
「……知っているじゃば話は早かど。それこそが『EXPO‘85』公式記念メダルッ!! 純金仕上げ40枚セットがのうちのひとつとひとつよぅ……」
さらにのもったいぶった口調でアライくんはのたまう。横顔をちらと拝見したらひどく悪そうな顔をしていたけど、よくそんなものを持って来ていたね……ちなみにコーティングされているだけで全部が純金では無い。念のため。
「赤郎は『アメリカ館』ッ!! 黄郎は『ソ連館』ッ!! それぞれがに今後ちゅあも切磋琢磨ばして欲しいっちゅ思いを込めたがばどッ!! 異論は無かがろがはいッ!?」
多分こういう体育会的・軍隊的なやり取りの何かに憧れていたのだろう、お手の物の上からの物言いも、今のこの瞬間はますます切れ渡っている。各々の名前はいい具合に間違っているけど、それは当然些末なことと言える。
あ、あわわあうわわ……と、テンパッた時の僕のような声を上げながら、そのメダルの乗ったコースターを押し戴くようにする二人。この二人は何でこれらのモノに食いつくんだろうね……そんなに1985年の波が来ているとでもいうのだろうか……と、
「……あくまで『準』だからね。しょうがない措置なんだからね。だから団長さんの言うことは絶対聞くことっ」
三ツ輪さんはやはりこの二人には冷徹一辺倒なんだけれど、何だろう、それもまた良ひかな……天上のいぱねまのような(ググってもどういうことかは分からない)涼やかな声が、僕の前頭葉辺りを震わせてくるよ……
でも眼前の二人は天使そっちのけで、今しがた渡された金色のメダルをぐひぐひ言いながら見せ合いっこなんかしてるよ本当に度し難いな……
とか思っていたら、三ツ輪さんがその制服に包まれたしなやかな右腕をずいとテーブル越しにその二人へと突きつけたのだけど。
その白魚のような指と指に挟まれていたのは、気品ある黄金の輝き。まあ他の二人に配られたものと材質は同じなのだけれど、何故か光り輝いて見える……
「……副団長の私はこの『コスモ星丸』くん……言わずもだけど、私の命令もまた絶対であることを……肝に銘じておくように」
ほんとにこの二人に対しては冷たいな!! 慄く二人……そしてメダルの絵柄がこの団でのヒエラルキーを示しているとでもいうのだろうか……ッ!! でもさっき僕がアライくんからぞんざいに投げ渡されたのは「燦鳥館」のもの……ッ!! こ、これはいったいどの立ち位置だというのだろう……ッ!?
「……その下の『団訓』もよぉ見るがじゃじ」
僕の逡巡を尻目に、もったいぶったままのアライくんの仕切りは続いていく……