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作者: gaction9969
R-15
Ally-25:闊達なる★ARAI(あるいは、へーい/はっちゃきもーれつ)
 端末で構内地図を表示させながら、集合場所を目指す。現在時刻10:55。正に図ったかのようなぴったりの時間だ。
 
 それにしても人の波が凄い。二回くらい行ったことのある横浜駅の混雑も相当だったけど、まだ流れの方向がある程度定まっていたように思えるし、通路の幅もあった。
 
 比べてここ秋葉原駅は割と複雑な導線で、三層構造になっていることもあって、何か人の滝つぼのような趣きを感じる……おわん、というようなざわめきの反響と、むわん、と漂ってくる多国籍の芳香フレグランスに、早くも僕は平衡感覚すらも失ったかのようによろよろとおろおろと漂うばかりであるのだけれど。
 
 ようやく改札を通るものの、<1,038円>という普段は見慣れぬ四桁が残高から引かれたことに、い、いやぁ結構いったぞ、お小遣い貰っといてよかったなあ、と改めて母さんに感謝をしてしまう。いや、そんな場合でも無い。
 
 他の面子はともかく、三ツ輪さんをこのような猥雑なる混雑の中で待たせること、それは罷りならん……そして怪しげなナンパやキャッチが今、こうしている間にもたかってくるやも知れぬ……との、聖なる使命感に後押しされるように僕は背筋を伸ばすと、目を見開いてアクティブスキル『天使エンジェリック探索眼サーチアイ』を発動させる。
 
 アライ流護身術を付け焼刃的にでも身に着けたことが少しは自信になっているのかそうかは分からないけど、姿勢を正して息を思い切り腹底まで吸い込んだら、少しは頭も冷えて落ち着いてきていたわけで。
 
 人波をいなす術も少しづつ体得しつつあった僕は、腰を落としどの方向にも素早く移動ができるよう、そして人にぶつからないように右手を胸に、左手を背中側に巻き付けるように密着させたコンパクトな態勢スタイル……まさにの忍びの者の如くの呼吸で待ち人を捜し始めるのであった。
 
 しかして。寄せては返す人波の波濤の中のどこにも、それらしい人影はいない……あれ改札が違うのかな、それとも時間を間違えているか、あるいは僕だけハブられているのか……誰かに連絡を取ればいいのに、勝手にテンパってしまう僕。そう言えば昔、そんないじめまがいの事もされたな……
 
 思い出すとまだ苦みが舌の付け根辺りにこみ上げてきてしまう記憶を振り払うように、僕は最大限首を伸ばして不審と思われるのを承知で300°くらい左右に旋回させつつ必死な顔面でサーチを続けるのだけれど。
 
 刹那、だった……
 
「お、おうげ、ジローばちょ? ま、間違ぉ無かッ!! おおおおおおいッ!! そこな!! ジローやぁぁぁああああああんッ!!」
 
 背後からいきなりそんな突拍子も無い声が掛けられたわけだけれど、そのしゃがれてるけどこの雑踏においてもやけにクリアに通る声の使い手は、僕の知る限り関東圏には一人しかいないわけで。でもいつもなら胃の辺りにまでもたれてくる勢いの胸焼けをもよおすその呼ばわりにも、今の僕には天上の音姫はばかりが如くに響いてきた。
 
 しかして。
 
 よ、よかったぁ、と振り返った先には、白黒のいわゆるメイド服(しかもペラペラな生地で丈が膝上の極めてパーティーグッズ的な質感の)に身を包んだ、ただし頭に付ける純白のカチューシャは、そのいつもよりも高く長く張り出した頭髪トサカの下のおでこに嵌まりこむようにして装着されているという、ヤンキーメイドというカテゴリにかろうじて入ろうものの、ヤンキーの部分が不穏な方のベクトルへと振り切れたかのような、ナイトメア永住権を確実に有していそうな夢幻の住人がそこにはいたわけで。張り付けた笑顔が剥がれ落ちるような感覚を顔面が受け取っている……
 
 いやぁあまりにも、こ、こん街に溶け込んでたがげ、分からんちょばったいよ……と、割と普通のテンションで喋りかけられてくることが逆に恐ろしいのだけれど。周りの人々も社会的距離ソーシャルディスタンスを一律綺麗に守ってアライくんの周りだけ円状の空域が展開しておる……
 
 え? 何でコスプレしてんの? イベントとかあるならまだしも、秋葉原ここだからそんな格好をしなければいけないという条例ルールは無いはずだよ? と何とか固まる唇を震わせつつそう言おうとしたものの。
 
 いんげやぁ、やっぱちょ正装でキメんばあかんとやっき、ほれ、シアンばもそこにおるげや、とのいたって自然な感じでうながされた先には何と。
 
「……ちょ、ちょっとあんまり見ないで……こういうの初めてで緊張してるんだからっ」
 
 SSR級のメイド天使が光臨していたわけで……正統派の(と言うのかは分からないけれど)、長袖・膝下まで伸びるワンピースはビロード地だろうか、横に並んだ御大と比べると歴然以上の質の差が見て取れる。そしてその上の、真っ白で飾り気のないエプロンドレスが、逆に着ている人の美しさを際立たせているよ完璧だよ……
 
 ……でも何でまた三ツ輪さんもメイド服……大方アライくんがそう曇りなく吹き込んだんだろうけど、そこを鵜呑みにするものかな……思てた以上に天然……いやでも結果オーライと言えなくもないか……御大のここのところの鬼ヅモに水を差してはいけないよね……といろいろ去来する思いを、万事ヨシ!! との結論に帰結させる僕。
 
 けど、二人ともども、駅内に佇んでいるだけなのに、周りからはシャッター音が絶えていないという状況に、でも撮る動機というのはおそらくは正反対なんだろうな……と思いつつも、僕もしばしその眼福にあやかることに全・網膜の能力を集中させていく。
 
 だが僕は迂闊にも忘れていた。というかそこで思考を停止しておきたかったのだけれど、そう言えば鵜呑みにしたヒトと同じ遺伝子を有した生命体があと二つ、この場に接近しているはずだ……ッ!! 刹那、
 
「押忍押忍押忍押忍~、お待たでよぉ~」
「ふ、我が同志たち、皆気合いは充分の模様……」
 
 僕の背後からそのような声が掛かったので、やめときゃ良かったんだけど、つい振り返ってしまった。と、そこにいたのはやはりのペラペラメイド服を装備したはぐれ勇者(娑婆からのという意味での)と言えなくもない御仁たちであったわけで……詳しく描写することは本能が嫌がっているので流すけど、大きい方はパツンパツンで膝上20cmくらいまでずり上がっちゃってるから、下手したら職質もんだよ絶対に行動を共にしたくないよ……
 
「いやいやぁ、しかしジローくんの出で立ちは完璧だぞなぁ」
「我が同志ジロー……完全なる正装……そちらでコーディネートすべきであったか不覚……」
 
 はじめてその二人から話しかけられたように思えるけど、何か僕の服装を褒めているの? 何で? 黒と黄色のチェック柄のシャツも、ケミカルウォッシュのジーンズも、全部母さんが買ってきてくれたのを適当に選んで来てきただけだけど……
 
 な、何じょッ、ひとりだけスカしおりきばりおって、こ、こげに気合いいれてきたぁらがが馬鹿バゴみたいだがにぃッ、と何故か不機嫌そうになったイキれメイド御大が肩を怒らせながら歩きだしてしまうけど。ええ?
 
 あれれー、また僕なんかやっちゃいました?
 
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