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作者: 丘多主記
追放で失ったものと後悔
このようにして策は上手くはまり、伸哉は追放され追い出すという事は達成した。

 けれど心が満たのは、その時のほんの一瞬のことだけだった。

 後に残ったのは、無実の伸哉に嘘や自分から仕向けた暴力事件で濡れ衣をきせた自分への激しい憎悪と、大親友を失った虚しさと喪失感だった。

 それだけでは終わらなかった。

 この事件で伸哉側についた三人とは当然ながら縁を切られた。その中でも正捕手の古池はチームに愛想をつかしてしまい、伸哉が辞めた一週間後にチームを去ってしまった。




 伸哉が追放されてから三週間後の練習試合。それまでベンチ外続きだった大地は、いきなり先発のマウンドを任された。

「今日は先発で出てもらう。どんなに打たれようともフォアボールを出そうとも替えない。その代り、全力で腕を振ってみろ。それだけだ」

 そう言われて大地はグラウンドへと向かった。

 大地は監督の言われたまま、ひたすら腕を振って投げた。この試合で大地は完璧な投球を見せ、試合は四対零で勝った。試合後、大地はロッカーの裏に来るように監督から呼び出された。

「申し訳なかった!!」

 監督は突然、大地に深々と頭を下げた。

「いや、どうしたんですか、監督」

「俺がお前にもっと気を使っていれば、お前はあんなことをせずに済んだ。そして、伸哉も辞めなくてよかったっ」

「………」

 監督は初めから、伸哉に濡れ衣をきせていたのに気づいていた。大地の策は最初からバレていたのだった。だが、大地を一切怒っていなかった。

「辛かったよなあ! 大事な人がいなくなって。今までずっとつらかったんだよなあっ。俺が秋の大会で試合に出さなければ! もっとお前の心のケアをしたいればこんな悲しい結末にならなかったっ! 俺達大人が、お前のような心優しい子を苦しめてしまって本当に情けない。許してくれ……っ、大地‼︎」

 監督は泣いていた。大粒の涙を流していた。本当は大地自身が起こしたことだった。

 だが、大地以上に監督は責任を感じていた。大地は涙を流しながら、自分の未熟さを恥じるだけだった。

 その後も自分との葛藤にもがき苦しみながら野球を続けその結果、名門久良目商業に進学する事は出来た。

 母親の作った借金も、親族の力を借りて何とか返すことができた。

 けれど、伸哉を野球から引き剥がしてしまった、という後悔が消えることは一度もなかった。

 この事は誰にも言わなかった。

 父親は知っていたが自分の知っている限り、監督以外には知られてないようだった。

 だが、高校に入って、彰久や涼紀から電話がかかってきた時に少し感じていた。もしかしたら、あのことについてではないかと。

 その予感は的中し、苦く、そして実に浅はかで愚かだったあの時の事を、母親のことを除いて全て話した。

 そして、今の伸哉の状況を聞き、その日は自分の感じていた過ちの重さがさらに重くなった気がした。

 もし時を戻せるなら戻したい。けれど、もう戻す事は出来ない。大地が伸哉にしたことは、本人にどれだけ謝ろうと赦されるようなことではない。

 伸哉と大地はつぶやきながら、瞳を閉じた。
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