対策
翌日の練習。投球練習場で伸哉と彰久は野球選手としての大地の事を話していた。
「ところで木場はどんな選手なんだ。大したことねえんだろ?」
「とんでもない! 大地くんは、伸びのあるストレートでグイグイ押してくるタイプの投手で、常速百四十キロ前半で最速は百四十八キロを優に超える、超高校級の投手ですよ」
「えぇええ?!! すげえ実力者じゃねえか!!」
彰久はひっくり返るほど驚いた。大地の実力がないから、実力者である伸哉を追い出したのだと今の今まで思っていた。あまり信じたくは無いが、伸哉が真剣な目で言っていることから、それは本当の様だった。
「それだけじゃありませんよ。大地くんはそのストレートの他にブレーキの効いたチェンジアップ、するどく曲がるスライダーも武器ですね。唯一狙って打てるのは、カーブくらいで後は、たまにある乱調を起こさない限りは打てない。そのくらい、凄いですよ」
「話聞く限りだとめっちゃいいピッチャーじゃねえか。でも、そんなやつがなんでお前を……」
「周りが、いや、僕が悪かっただけなんです」
伸哉は俯いた。その時のことはあまり思い出していい気がしないのは確からしかった。
それから暫く投球練習場は沈黙に包まれた。
「すまなかった。ところで、バッティングはどうなんだ?」
沈黙を破ったのは彰久だった。
「バッティングもけっこういいですね。長距離打者でしかも安定した率も残せる。下手したら、一軍の四番も打てそうですね」
「なるほど。それはそれは随分といい選手みたいだね」
「「?!」」
その場の雰囲気を打ち破るように、練習着姿の薗部が投球練習場に入ってきた。
「私も映像を見てきたけど、確かにその通りの選手だね。ただ、フィールディングについては確認できなかったけど、それはどうなの?」
「えーっと、フィールディングはそこそこ上手かったはずです」
「そうか。バント作戦が通用しなさそうだね。となると、今の戦力でまともに打てそうなのは三人だけ」
薗部の表情が一瞬曇ったが、何かを思いついたのか直ぐに曇りは晴れ
「うーん。分かりました。得点は彰久君の一発に期待しましょう」
薗部はニヤリとしながらとんでもないことを言ってのけた。
「え?!」
想像だにしていなかった答えに伸哉と彰久はただ某然とした。
「え、本気で言ってますか?」
「ランナーを溜めて、四番の彰久君が打てばそれでいい。そうすれば一点は確実に入るのですから。それで伸哉君が抑えれば大丈夫ですよ」
呑気そうな調子で薗部は言うが、彰久は気が気ではない。
「しかし、伸哉が警戒するレベルの投手ですよ?! まあ確かに打撃に自信はありますが俺以外に打てそうな」
「三人いますよ。君と伸哉君と」
「俺と伸哉と、あとは?」
「幸長君です。バッティングセンスはおそらく僕が今まで見てきた選手の中でも、群を抜いたものを持っています。三人が機能すれば点は取れるでしょう。ただ、そのほかの選手は……今はまだ期待できません。でも別に問題はないでしょう。ただ、それ以上に厄介な問題がありましてねえ」
「何ですか?」
彰久が即答できないのを見るや否や、薗部はため息を吐いた。
「君はキャプテン失格ですね」
その表情は、キャプテンならチームの状況くらい分かっていて欲しかったよ、と言いたげだった。
「守備ですよ。今までの試合、確かに幸長君が序盤でへばって惨敗していますが、その失点のすべてにエラーや判断のミスが結びついています。春季大会も、そういったエラーが原因で逆転負けをした」
「確かに」
彰久には思い当たる節が幾つもあった。と言うより、よくよく考えれば幸長が崩れる原因の全てが守備に起因するものだった。
「おまけに守備がしっかりしていれば、打たせて取るという選択肢ができて、球数を減らせる。そうすることで投手がばてにくくなる」
あっ、と彰久は納得した。
無意識だが今までずっと打たせて取る選択肢を捨て、三振を狙いに行くリードをしていたことに気づいた。
その弊害か、振らせるためのボールを投げ過ぎて、球数がいつもとんでもないことになっていた。
かと言って打たせて取ろうとしたらしたで、守備がエラーをして苦しくなり、結局は三振を取りにいくしか選択肢がなくなっていた。
その結果、へばって球威のない球を長打されて失点していた。しかし、守備が上手くなればその心配はない。
「これは、夏の大会を勝ち抜くのにも繋がります。確かに打線を強化すれば目の前の試合には勝てます。だけど、その先の夏、いや甲子園では勝てませんよ」
「……」
「勝負で勝つには常に未来を見据えておくこと。それは一発勝負のトーナメントでも同じ。というわけで、野手陣に今から千本ノックしてきますね。二人は配球について話し合っていてくださいね」
薗部は笑顔でグランドへ行った。その笑顔は、これから選手に味あわせる地獄を楽しみにしているのが見え見えだった。
「ところで、監督って何者?」
「わからないですね」
二人の周りは、嵐が去ったようだった。
「ところで木場はどんな選手なんだ。大したことねえんだろ?」
「とんでもない! 大地くんは、伸びのあるストレートでグイグイ押してくるタイプの投手で、常速百四十キロ前半で最速は百四十八キロを優に超える、超高校級の投手ですよ」
「えぇええ?!! すげえ実力者じゃねえか!!」
彰久はひっくり返るほど驚いた。大地の実力がないから、実力者である伸哉を追い出したのだと今の今まで思っていた。あまり信じたくは無いが、伸哉が真剣な目で言っていることから、それは本当の様だった。
「それだけじゃありませんよ。大地くんはそのストレートの他にブレーキの効いたチェンジアップ、するどく曲がるスライダーも武器ですね。唯一狙って打てるのは、カーブくらいで後は、たまにある乱調を起こさない限りは打てない。そのくらい、凄いですよ」
「話聞く限りだとめっちゃいいピッチャーじゃねえか。でも、そんなやつがなんでお前を……」
「周りが、いや、僕が悪かっただけなんです」
伸哉は俯いた。その時のことはあまり思い出していい気がしないのは確からしかった。
それから暫く投球練習場は沈黙に包まれた。
「すまなかった。ところで、バッティングはどうなんだ?」
沈黙を破ったのは彰久だった。
「バッティングもけっこういいですね。長距離打者でしかも安定した率も残せる。下手したら、一軍の四番も打てそうですね」
「なるほど。それはそれは随分といい選手みたいだね」
「「?!」」
その場の雰囲気を打ち破るように、練習着姿の薗部が投球練習場に入ってきた。
「私も映像を見てきたけど、確かにその通りの選手だね。ただ、フィールディングについては確認できなかったけど、それはどうなの?」
「えーっと、フィールディングはそこそこ上手かったはずです」
「そうか。バント作戦が通用しなさそうだね。となると、今の戦力でまともに打てそうなのは三人だけ」
薗部の表情が一瞬曇ったが、何かを思いついたのか直ぐに曇りは晴れ
「うーん。分かりました。得点は彰久君の一発に期待しましょう」
薗部はニヤリとしながらとんでもないことを言ってのけた。
「え?!」
想像だにしていなかった答えに伸哉と彰久はただ某然とした。
「え、本気で言ってますか?」
「ランナーを溜めて、四番の彰久君が打てばそれでいい。そうすれば一点は確実に入るのですから。それで伸哉君が抑えれば大丈夫ですよ」
呑気そうな調子で薗部は言うが、彰久は気が気ではない。
「しかし、伸哉が警戒するレベルの投手ですよ?! まあ確かに打撃に自信はありますが俺以外に打てそうな」
「三人いますよ。君と伸哉君と」
「俺と伸哉と、あとは?」
「幸長君です。バッティングセンスはおそらく僕が今まで見てきた選手の中でも、群を抜いたものを持っています。三人が機能すれば点は取れるでしょう。ただ、そのほかの選手は……今はまだ期待できません。でも別に問題はないでしょう。ただ、それ以上に厄介な問題がありましてねえ」
「何ですか?」
彰久が即答できないのを見るや否や、薗部はため息を吐いた。
「君はキャプテン失格ですね」
その表情は、キャプテンならチームの状況くらい分かっていて欲しかったよ、と言いたげだった。
「守備ですよ。今までの試合、確かに幸長君が序盤でへばって惨敗していますが、その失点のすべてにエラーや判断のミスが結びついています。春季大会も、そういったエラーが原因で逆転負けをした」
「確かに」
彰久には思い当たる節が幾つもあった。と言うより、よくよく考えれば幸長が崩れる原因の全てが守備に起因するものだった。
「おまけに守備がしっかりしていれば、打たせて取るという選択肢ができて、球数を減らせる。そうすることで投手がばてにくくなる」
あっ、と彰久は納得した。
無意識だが今までずっと打たせて取る選択肢を捨て、三振を狙いに行くリードをしていたことに気づいた。
その弊害か、振らせるためのボールを投げ過ぎて、球数がいつもとんでもないことになっていた。
かと言って打たせて取ろうとしたらしたで、守備がエラーをして苦しくなり、結局は三振を取りにいくしか選択肢がなくなっていた。
その結果、へばって球威のない球を長打されて失点していた。しかし、守備が上手くなればその心配はない。
「これは、夏の大会を勝ち抜くのにも繋がります。確かに打線を強化すれば目の前の試合には勝てます。だけど、その先の夏、いや甲子園では勝てませんよ」
「……」
「勝負で勝つには常に未来を見据えておくこと。それは一発勝負のトーナメントでも同じ。というわけで、野手陣に今から千本ノックしてきますね。二人は配球について話し合っていてくださいね」
薗部は笑顔でグランドへ行った。その笑顔は、これから選手に味あわせる地獄を楽しみにしているのが見え見えだった。
「ところで、監督って何者?」
「わからないですね」
二人の周りは、嵐が去ったようだった。