残酷な描写あり
R-15
リコとの出会い
レンは遂に魔法を使うことができ、嬉しそうに木製の天秤刀を持って眺めていた。
メリルはレンが紋章を描いた魔法を発動させたことを目の当たりにし、椅子に座って考える。
「レン。一つ忘れないことだ。紋章を使った魔法は魔道具とは違い威力が安定しないと思う。だから授業や訓練では使わないように。事故が起こってしまってはせっかくの技術を封印しなければならないからな。それはお前にとっても不利益なものだという事は理解できるはずだ」
メリルの言葉にしっかりと頷くレン。
戦闘用魔道具を使用して解ったのはどれだけ威力を抑えていたとしても、相手を傷つける力がある。
加減された威力でそうなのだから、不安定な紋章の魔法は下手すれば相手を殺してしまう危険性があるという事。
メリルの温和な見た目から想像できない威圧感にレンは頷くのだった。
しばらく何度か紋章の魔法を使い、木剣を【結合】の魔法でくっ付ける練習をするが、中途半端な結合度合いであり、仕舞いには紋章を描くことが出来なくなっていた。
「ふむ……魔力切れのようだな。紋章が描けなくなれば休まなければ魔力を回復することがない。また明日訓練に勤しむと良い」
「先生!明日は部活に来ますか?」
「そうだな……明日は難しいが、明後日は顔を出そう」
「お願いしますっ!」
「それじゃあ、今日は解散だ。気をつけて帰る……と言ってもお前は寮だったな。私も食堂に行くとしよう」
二人は部室から出ると魔法で鍵を閉める。
「そうだな、ここの部室の権限をお前にも渡しておこう。扉に手を翳して詠唱をして、名前を告げるんだ」
「は、はい!『縄張りを守りし魔法よ、我を群れの一味として認めよ。我が名はレン』」
レンはメリルから渡されたカンペを読み切ると、メリルが魔力を込めて紋章にレンの情報を書き記す。
すると、紋章がレンの事を拒絶する事を止め、レンの魔力と紋章が共鳴する。
「今はまだ私が部室の権限を持っているから他のヒトに開錠の権利を与えられないが、部員が増えたら全権をレン、お前に託そう。頑張る事だな」
「は、はいっ!」
当面の目標は部員を集めることとなり、レンはやる気を出す。
既に夜を回っていた時間であり、屋外で活動する部員とは出会うことがなかった。
廊下を歩いて食堂へ向かっていると、一人の女子生徒がレンたちに向かって走ってくる。
藤色の髪の色をした野狐族の女子だった。
メリルと並んで歩いていたレンを一度見るが、すぐに目を逸らされた。
「先生。探しました」
「おや?今日は特に講義をするような事は無かったはずだが?」
「いえ……。その、明日の授業終了後に郊外に出る許可が欲しくて……」
「リコ。それはどういう事か分かって言っているのか?」
一瞬躊躇っていたリコだが、目に力を込めて頷く。
メリルは大きくため息を吐き、眉間に手を当てる。
「……何人分だ?」
「四人です」
「分かった。私についてきなさい。レン、私は仕事ができたからここで失礼するよ。明後日、また訓練をしよう。おやすみ」
「わ、分かりました!先生、おやすみなさい。……り、リコさんもおやすみ、なさい」
「……ふんっ」
お互いの素性を知らない事もあり、リコはレンに対して冷たい対応で返した。
そして、メリルとリコは食堂ではない方向へと歩いて行ったのだった。
「リコさん……綺麗なヒトだったなぁ……。さすが野狐族だ……」
あれだけ冷たい対応をされたにも関わらず、レンは少しリコのことが気になってしまったのである。
レンは食堂で晩御飯を平らげ、自室に戻る。
魔力が回復していないため魔法を扱うことが出来ないが、机に向かい、紙に紋章と詠唱、今日できた事を書き記していく。
いわゆる日記のようなものだ。
しっかりと書き上げると、引き出しの中へそれを収め、ベッドの上に転がる。
魔力は気力に近いものだ。
あっという間に夢の世界へと落ちていくのであった。
§
翌日、訓練の時にレンは違和感を感じた。
それは今までに見たことがなかったものだったのだが、今ではハッキリと見える。
決まって魔法が発動する瞬間に現れるのだ。
「『唸りを上げる烈風よ、それは刃となり切り刻め!』」
クラスメイトにいる鳥人族の男子が詠唱を終え、魔法を発動させる。
その瞬間にも現れた。
レンはすぐにその形を紙に書き記し、魔法の効果を見る。
渦巻く大気が一筋だけその速度を上げていく。
速度が増した場所は訓練用の木偶人形を傷つけ、大気は霧散した。
元素魔法【風】による裂傷効果のある攻撃魔法だった。
「よし、次はレンの番だ。魔道具で攻撃しても良いからな」
サムの指示で木偶人形の前に出ると笑い声が上がる。
「卑怯者〜!」
「さっさと退学しろ!」
「武を弁えろ」
ハウルとその取り巻きがレンに対して心無い言葉の口撃をする。
レンは彼らの事を気にする事なく木偶人形へ対峙する。
その行動が気に入らなかったハウルは手頃な石礫を拾い、投げようとした時、サムの顔が間近に現れる。
「ま〜た懲罰を受けたいのかな〜?」
「……チッ!」
ハウルはレンの邪魔をする事を諦めて寝転がる。
それはそれで訓練を受ける態度としては良くない事なので小さな雷がハウルに落ちるのである。
レンは紙を一枚取り出し、それを眺めて深呼吸する。
指揮棒のような杖の先端を木偶人形に向けて構える。
加工されていない生木の枝のような見た目で、先端には小さな石が取り付けられていた。
(この杖の先端を指先として見て……身体の大きさの紋章を描く……!)
先ほどのクラスメイトが放った魔法と同じ紋章を描いていく。
何も知らない他のクラスメイトたちはレンが意味不明な杖の動かし方をしているのを目の当たりにし、クスクスと笑う。
レンはそれでも紋章を描き続け、それを完成させる。
「『唸りを上げる烈風よ……それは薄刃の如く敵を切り刻め!』」
「不味い……!」
レンが魔法を発動した瞬間、サムは飛び出し、木偶人形の後ろに待機していた生徒たちの前に立ち塞がる。
レンの魔法は木偶人形の胸から上を吹き飛ばし、サムに直撃したのだった。
メリルはレンが紋章を描いた魔法を発動させたことを目の当たりにし、椅子に座って考える。
「レン。一つ忘れないことだ。紋章を使った魔法は魔道具とは違い威力が安定しないと思う。だから授業や訓練では使わないように。事故が起こってしまってはせっかくの技術を封印しなければならないからな。それはお前にとっても不利益なものだという事は理解できるはずだ」
メリルの言葉にしっかりと頷くレン。
戦闘用魔道具を使用して解ったのはどれだけ威力を抑えていたとしても、相手を傷つける力がある。
加減された威力でそうなのだから、不安定な紋章の魔法は下手すれば相手を殺してしまう危険性があるという事。
メリルの温和な見た目から想像できない威圧感にレンは頷くのだった。
しばらく何度か紋章の魔法を使い、木剣を【結合】の魔法でくっ付ける練習をするが、中途半端な結合度合いであり、仕舞いには紋章を描くことが出来なくなっていた。
「ふむ……魔力切れのようだな。紋章が描けなくなれば休まなければ魔力を回復することがない。また明日訓練に勤しむと良い」
「先生!明日は部活に来ますか?」
「そうだな……明日は難しいが、明後日は顔を出そう」
「お願いしますっ!」
「それじゃあ、今日は解散だ。気をつけて帰る……と言ってもお前は寮だったな。私も食堂に行くとしよう」
二人は部室から出ると魔法で鍵を閉める。
「そうだな、ここの部室の権限をお前にも渡しておこう。扉に手を翳して詠唱をして、名前を告げるんだ」
「は、はい!『縄張りを守りし魔法よ、我を群れの一味として認めよ。我が名はレン』」
レンはメリルから渡されたカンペを読み切ると、メリルが魔力を込めて紋章にレンの情報を書き記す。
すると、紋章がレンの事を拒絶する事を止め、レンの魔力と紋章が共鳴する。
「今はまだ私が部室の権限を持っているから他のヒトに開錠の権利を与えられないが、部員が増えたら全権をレン、お前に託そう。頑張る事だな」
「は、はいっ!」
当面の目標は部員を集めることとなり、レンはやる気を出す。
既に夜を回っていた時間であり、屋外で活動する部員とは出会うことがなかった。
廊下を歩いて食堂へ向かっていると、一人の女子生徒がレンたちに向かって走ってくる。
藤色の髪の色をした野狐族の女子だった。
メリルと並んで歩いていたレンを一度見るが、すぐに目を逸らされた。
「先生。探しました」
「おや?今日は特に講義をするような事は無かったはずだが?」
「いえ……。その、明日の授業終了後に郊外に出る許可が欲しくて……」
「リコ。それはどういう事か分かって言っているのか?」
一瞬躊躇っていたリコだが、目に力を込めて頷く。
メリルは大きくため息を吐き、眉間に手を当てる。
「……何人分だ?」
「四人です」
「分かった。私についてきなさい。レン、私は仕事ができたからここで失礼するよ。明後日、また訓練をしよう。おやすみ」
「わ、分かりました!先生、おやすみなさい。……り、リコさんもおやすみ、なさい」
「……ふんっ」
お互いの素性を知らない事もあり、リコはレンに対して冷たい対応で返した。
そして、メリルとリコは食堂ではない方向へと歩いて行ったのだった。
「リコさん……綺麗なヒトだったなぁ……。さすが野狐族だ……」
あれだけ冷たい対応をされたにも関わらず、レンは少しリコのことが気になってしまったのである。
レンは食堂で晩御飯を平らげ、自室に戻る。
魔力が回復していないため魔法を扱うことが出来ないが、机に向かい、紙に紋章と詠唱、今日できた事を書き記していく。
いわゆる日記のようなものだ。
しっかりと書き上げると、引き出しの中へそれを収め、ベッドの上に転がる。
魔力は気力に近いものだ。
あっという間に夢の世界へと落ちていくのであった。
§
翌日、訓練の時にレンは違和感を感じた。
それは今までに見たことがなかったものだったのだが、今ではハッキリと見える。
決まって魔法が発動する瞬間に現れるのだ。
「『唸りを上げる烈風よ、それは刃となり切り刻め!』」
クラスメイトにいる鳥人族の男子が詠唱を終え、魔法を発動させる。
その瞬間にも現れた。
レンはすぐにその形を紙に書き記し、魔法の効果を見る。
渦巻く大気が一筋だけその速度を上げていく。
速度が増した場所は訓練用の木偶人形を傷つけ、大気は霧散した。
元素魔法【風】による裂傷効果のある攻撃魔法だった。
「よし、次はレンの番だ。魔道具で攻撃しても良いからな」
サムの指示で木偶人形の前に出ると笑い声が上がる。
「卑怯者〜!」
「さっさと退学しろ!」
「武を弁えろ」
ハウルとその取り巻きがレンに対して心無い言葉の口撃をする。
レンは彼らの事を気にする事なく木偶人形へ対峙する。
その行動が気に入らなかったハウルは手頃な石礫を拾い、投げようとした時、サムの顔が間近に現れる。
「ま〜た懲罰を受けたいのかな〜?」
「……チッ!」
ハウルはレンの邪魔をする事を諦めて寝転がる。
それはそれで訓練を受ける態度としては良くない事なので小さな雷がハウルに落ちるのである。
レンは紙を一枚取り出し、それを眺めて深呼吸する。
指揮棒のような杖の先端を木偶人形に向けて構える。
加工されていない生木の枝のような見た目で、先端には小さな石が取り付けられていた。
(この杖の先端を指先として見て……身体の大きさの紋章を描く……!)
先ほどのクラスメイトが放った魔法と同じ紋章を描いていく。
何も知らない他のクラスメイトたちはレンが意味不明な杖の動かし方をしているのを目の当たりにし、クスクスと笑う。
レンはそれでも紋章を描き続け、それを完成させる。
「『唸りを上げる烈風よ……それは薄刃の如く敵を切り刻め!』」
「不味い……!」
レンが魔法を発動した瞬間、サムは飛び出し、木偶人形の後ろに待機していた生徒たちの前に立ち塞がる。
レンの魔法は木偶人形の胸から上を吹き飛ばし、サムに直撃したのだった。