残酷な描写あり
R-15
魔法の恐ろしさ
レンは「しまった!」といった表情をし、呆然としていた。
それもそのはず、昨日まで使っていた【結合】は何でも結合できるような魔法ではなかった。
故に【風】の魔法も鳥人族のクラスメイトと同じものだと思っていたのだ。
どういう事か威力は木偶人形を吹き飛ばしている。
レンは元素魔法が使えたことよりも、サムが生徒たちを庇った事が気になり、走って向かっていく。
砂埃が晴れると、サムはレンの魔法を完全に受け切っていた。
いつも使っている革の手袋ではなく、機械のような見た目をした手甲型の黒い魔道具だった。
「せ、先生っ!」
「ふぃ〜っ!レン、ヒヤヒヤしたぞ?お前がここまでの紋章魔法を扱うなんて知らなかった!めえさんに仕込まれたのか?」
「そ、そんな事より、先生のケガは……」
「あん?あの一撃なんかでケガしないぞ?こちとら伊達に調査隊やってないからな!いやぁ……こんな直ぐに成長を見せてくれる生徒は初めてだ!」
サムはレンの背中をバンバン叩きながら成長を誉めていく。
一方レンは浮かない顔をしており、サムはそれに気付かないほど鈍感ではない。
レンの両肩を掴み、目線を合わせる。
「良いか?コレは訓練。お前のことを今まで魔法無しだと油断していた奴がたまたまお前の魔法で傷ついたとする。この責任は攻撃を当てられた方が悪い。何でかわかるか?」
レンはサムの言う事が分からず、首を横に振る。
それは当然のことであり、誰であろうとヒトを傷つける者は罰せられる。
レンはそれを知っていたからで、この国のルールだからだ。
それをサムが覆すような事を言うので理解ができなかったのだ。
「レン。訓練というのは練習という意味であるのは分かるな?今私たちがやっている練習は魔法で攻撃するだけの練習ではないんだ。突然の事故が起こっても良いように対応する事も訓練の内。味方となるものを攻撃するのは減点だが、コイツらは戦場にも関わらず油断していたこと。これは一番大きな減点対象だ」
サムの背後で守られていたはずの生徒たちの表情が固くなる。
サムは彼らの方へ向き、腕を組んで魔力を昂らせる。
「お前たち?何油断しているんだ?魔法持ってないやつが魔法を放つ事ができないと誰が教えた?お前たちは戦場であっても今みたいに格下だと思う相手に舐めた態度でいるのか?はっきりと言うが、お前たちはこのまま卒業しても戦闘職には一生就けないぞ?近衛師団はヴォルフ様の直轄だから実力主義。王の付き人は一人で魔獣を相手できるほどの実力が必要だからな?」
サムが現実を生徒たちに叩き付けると、止めと言わんばかりの一言を飛ばす。
「レンは今のお前たちよりも魔法の威力が強いぞ?ヒトのことを貶める前にやるべき事があるんじゃないのか?」
魔法を持っていないレンよりも魔法に劣っていると受け取り、絶望の表情を浮かべる生徒たち。
レンは褒められた事が嬉しくなり、サムの元へ歩こうと足を一歩出した瞬間、視界がグルンと回り、失神するのだった。
サムは急に倒れたレンの様子を見ると呼吸はしており、眠っているだけだった。
「まあ、あの木偶人形を壊せる威力は中等級では全力だろうな……。しかし、まあ、レンの成長は著しいな。さすがメリルの指導を受けているだけはあるなっ!」
サムはレンの成長の要因がメリルであることを確信し、満足そうな表情で競技場の隅にレンを寝かせた。
その後、木偶人形を破壊するような生徒は現れなかったが、その中でハウルが意地を見せ、強引に木偶人形の頭を弾き飛ばしたのだった。
§
「おーい、起きろ〜」
レンは頬をペチペチと叩かれ、声をかけられたことで目を覚ました。
起こしたのは担任の教師であるサム。
レンは授業中に眠ってしまったことに驚き、飛び上がる。
「ご、ごめんなさいっ!あ……?れ……?」
レンは急激に動いたことによる立ちくらみで再び座り込む。
「あんま、無理するなよ?自分の限界を考えずに魔法を放てば誰でもそうなるから。まあ、初めて魔法を放ったんだから仕方がないか!」
「仕方がないわけないだろう!」
突如レンとサムに雷が落ちた。
二人は恐る恐る振り返るとメリルが腕を組んで仁王立ちをしていた。
「め、めえ……さん……?」
「せ、せんせい……!?」
レンが驚いたのは無理もない。
メリルの怒気にサムは完全に狼狽えていたのだ。
「サム。指導要領に紋章魔法を使っていいと書いてあったか?」
「いえ……無いです……」
「では何故紋章魔法を使わせた?」
「レンの成長ぶりが見られると思い……好奇心で……」
「バカモノっ!紋章魔法は未熟な者が使えば威力の調整に失敗して損害を与える事があったということを忘れたのか!?」
「い、いえ……!決してそのような事は思ってなく……」
完全に縮こまってしまったサムを睨みつけた後、レンにも矛先が向いた。
「レン。私は訓練で使用しても良いと許可を出したか?」
「だ、出してません……」
「……お前に叱っても仕方がないのだが、紋章魔法は未だわからない事が多いんだ。お前の限界の魔力を注ぎ込んでもサムに傷をつける事は不可能だろう。しかし、生徒が相手ならどうだ?少なくとも受け身の姿勢をとっていない者は死んでしまうかもしれない」
レンは改めて魔法の恐ろしさを説明され、サムと同じように縮こまる。
メリルはため息を吐き、上半身が吹き飛んだ木偶人形を一瞥するとこめかみを突きながら口を開く。
「レン。お前に少し頼みたい事があるんだ。全ての講義が終わり次第保健室に来る事。いいな?」
「は、はいっ!そ、その……約束破って、ごめんなさい……!」
レンの謝罪にメリルの表情は少し柔らかくなり、雑に頭を撫でられる。
「完全にモノにするまでは使用を禁ずる。魔法事故が起きてしまっては女王様にご迷惑がかかるからな」
それだけ告げると足早に競技場を去っていったのである。
サムはレンの肩に手を置き、安堵の表情を浮かべる。
「怒られちったな」
「先生こそ」
「うるせい」
この後に控えていた魔法の訓練は特にトラブルもなく行われ、あっという間に放課後になったのである。
レンはメリルとの約束のため保健室へと足早に向かうのだった。
それもそのはず、昨日まで使っていた【結合】は何でも結合できるような魔法ではなかった。
故に【風】の魔法も鳥人族のクラスメイトと同じものだと思っていたのだ。
どういう事か威力は木偶人形を吹き飛ばしている。
レンは元素魔法が使えたことよりも、サムが生徒たちを庇った事が気になり、走って向かっていく。
砂埃が晴れると、サムはレンの魔法を完全に受け切っていた。
いつも使っている革の手袋ではなく、機械のような見た目をした手甲型の黒い魔道具だった。
「せ、先生っ!」
「ふぃ〜っ!レン、ヒヤヒヤしたぞ?お前がここまでの紋章魔法を扱うなんて知らなかった!めえさんに仕込まれたのか?」
「そ、そんな事より、先生のケガは……」
「あん?あの一撃なんかでケガしないぞ?こちとら伊達に調査隊やってないからな!いやぁ……こんな直ぐに成長を見せてくれる生徒は初めてだ!」
サムはレンの背中をバンバン叩きながら成長を誉めていく。
一方レンは浮かない顔をしており、サムはそれに気付かないほど鈍感ではない。
レンの両肩を掴み、目線を合わせる。
「良いか?コレは訓練。お前のことを今まで魔法無しだと油断していた奴がたまたまお前の魔法で傷ついたとする。この責任は攻撃を当てられた方が悪い。何でかわかるか?」
レンはサムの言う事が分からず、首を横に振る。
それは当然のことであり、誰であろうとヒトを傷つける者は罰せられる。
レンはそれを知っていたからで、この国のルールだからだ。
それをサムが覆すような事を言うので理解ができなかったのだ。
「レン。訓練というのは練習という意味であるのは分かるな?今私たちがやっている練習は魔法で攻撃するだけの練習ではないんだ。突然の事故が起こっても良いように対応する事も訓練の内。味方となるものを攻撃するのは減点だが、コイツらは戦場にも関わらず油断していたこと。これは一番大きな減点対象だ」
サムの背後で守られていたはずの生徒たちの表情が固くなる。
サムは彼らの方へ向き、腕を組んで魔力を昂らせる。
「お前たち?何油断しているんだ?魔法持ってないやつが魔法を放つ事ができないと誰が教えた?お前たちは戦場であっても今みたいに格下だと思う相手に舐めた態度でいるのか?はっきりと言うが、お前たちはこのまま卒業しても戦闘職には一生就けないぞ?近衛師団はヴォルフ様の直轄だから実力主義。王の付き人は一人で魔獣を相手できるほどの実力が必要だからな?」
サムが現実を生徒たちに叩き付けると、止めと言わんばかりの一言を飛ばす。
「レンは今のお前たちよりも魔法の威力が強いぞ?ヒトのことを貶める前にやるべき事があるんじゃないのか?」
魔法を持っていないレンよりも魔法に劣っていると受け取り、絶望の表情を浮かべる生徒たち。
レンは褒められた事が嬉しくなり、サムの元へ歩こうと足を一歩出した瞬間、視界がグルンと回り、失神するのだった。
サムは急に倒れたレンの様子を見ると呼吸はしており、眠っているだけだった。
「まあ、あの木偶人形を壊せる威力は中等級では全力だろうな……。しかし、まあ、レンの成長は著しいな。さすがメリルの指導を受けているだけはあるなっ!」
サムはレンの成長の要因がメリルであることを確信し、満足そうな表情で競技場の隅にレンを寝かせた。
その後、木偶人形を破壊するような生徒は現れなかったが、その中でハウルが意地を見せ、強引に木偶人形の頭を弾き飛ばしたのだった。
§
「おーい、起きろ〜」
レンは頬をペチペチと叩かれ、声をかけられたことで目を覚ました。
起こしたのは担任の教師であるサム。
レンは授業中に眠ってしまったことに驚き、飛び上がる。
「ご、ごめんなさいっ!あ……?れ……?」
レンは急激に動いたことによる立ちくらみで再び座り込む。
「あんま、無理するなよ?自分の限界を考えずに魔法を放てば誰でもそうなるから。まあ、初めて魔法を放ったんだから仕方がないか!」
「仕方がないわけないだろう!」
突如レンとサムに雷が落ちた。
二人は恐る恐る振り返るとメリルが腕を組んで仁王立ちをしていた。
「め、めえ……さん……?」
「せ、せんせい……!?」
レンが驚いたのは無理もない。
メリルの怒気にサムは完全に狼狽えていたのだ。
「サム。指導要領に紋章魔法を使っていいと書いてあったか?」
「いえ……無いです……」
「では何故紋章魔法を使わせた?」
「レンの成長ぶりが見られると思い……好奇心で……」
「バカモノっ!紋章魔法は未熟な者が使えば威力の調整に失敗して損害を与える事があったということを忘れたのか!?」
「い、いえ……!決してそのような事は思ってなく……」
完全に縮こまってしまったサムを睨みつけた後、レンにも矛先が向いた。
「レン。私は訓練で使用しても良いと許可を出したか?」
「だ、出してません……」
「……お前に叱っても仕方がないのだが、紋章魔法は未だわからない事が多いんだ。お前の限界の魔力を注ぎ込んでもサムに傷をつける事は不可能だろう。しかし、生徒が相手ならどうだ?少なくとも受け身の姿勢をとっていない者は死んでしまうかもしれない」
レンは改めて魔法の恐ろしさを説明され、サムと同じように縮こまる。
メリルはため息を吐き、上半身が吹き飛んだ木偶人形を一瞥するとこめかみを突きながら口を開く。
「レン。お前に少し頼みたい事があるんだ。全ての講義が終わり次第保健室に来る事。いいな?」
「は、はいっ!そ、その……約束破って、ごめんなさい……!」
レンの謝罪にメリルの表情は少し柔らかくなり、雑に頭を撫でられる。
「完全にモノにするまでは使用を禁ずる。魔法事故が起きてしまっては女王様にご迷惑がかかるからな」
それだけ告げると足早に競技場を去っていったのである。
サムはレンの肩に手を置き、安堵の表情を浮かべる。
「怒られちったな」
「先生こそ」
「うるせい」
この後に控えていた魔法の訓練は特にトラブルもなく行われ、あっという間に放課後になったのである。
レンはメリルとの約束のため保健室へと足早に向かうのだった。