残酷な描写あり
R-15
呼び出し
メリルの足取りはとても軽く、陽気に鼻歌を歌いながら保健室の扉を開ける。
保健室には治療用のベッドや治療用の器具以外に大量の魔導書が本棚に飾られてある。
もちろんそれは実用性のあるものばかりで【呪い】にも対抗できるように豊富な魔法の数々が記載されている。
その本棚の一番上に置かれている巻物を取り出し、保健室の板間の上に広げる。
紋章とは違う雰囲気の字体や模様が描かれており、メリルは手を翳して魔力を込める。
「我の想い人をを呼び寄せ。名はオクト。関わり人がいれば同様に呼び寄せろ」
メリルがそう呟くと巻き物に描かれた模様が光り輝きボンッ!という音を立て、保健室内は白煙に包まれた。
メリルは空中に風の紋章を描き、詠唱を始める。
「『我の視界を妨げる白霧をその風をもって晴らせ』」
保健室の中にあるものがカタカタと音を立てて揺れる。
サーキュレーターと機械排煙のような効果を持つこの魔法は保健室を包み込んだ白煙を窓の外へと吐き出していく。
視界が明瞭になったところ、メリルは二人の人影を捉える。
「すまないな、急に呼び寄せて」
「めぇさんか。何かトラブル?」
メリルと話す相手はポチおだった。
そしてもう一人、白色の体毛と銀色の髪を持つ猫族の女性が座っていた。
女性はメリルの姿を見て飛び掛かると、メリルの平手が振り下ろされ、床に叩きつけられる。
部屋が揺れそうなほどの衝撃と衝突音が外にまで響き、たまたま通りすがりの生徒たちは普通なら保健室からしない音と衝撃に驚き、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「メリルちゃん酷いよ〜……」
「急に飛び掛かるのが悪い。私にそのような文化はないのだ。それはそうと、セブも呼び寄せてすまないな」
「メリルちゃんが本名で呼ぶって珍しいね」
「私たちしかいないからな」
セブと呼ばれた猫族の女性は納得した様に手をポンと打つ。
メリルは腕を組み、ポチおを見る。
その表情はとても楽しそうで思わず身構えてしまう。
「オクト喜べ。レンはやはり紋章を封じ込めることができたぞ」
「……?あぁ!あのネコくんか!……へぇ、紋章を、ねぇ……」
「その子、凄いね!」
メリルは保健室の出口まで歩き、振り返って手招きする。
「だから、レンに少し稽古をつけてやってくれ。明日の魔法競技祭でアイツが参加するんだ。中等級クラスの魔法無しが活躍するところが観たいんだ」
目を輝かせ、待ち遠しと言わんばかりにその場で足踏みして二人を急かす。
そんな様子のメリルを見てオクトとセブは目を合わせてクスッと笑う。
「めえさんが肩入れするなんて余程の子だな。しょうがない、宮廷魔術師のメリル様のご命令なら従おう」
「やめろ」
「うんうん!王族の付き人のメリル様の言うことは絶対だもんね!」
「お前たち……後で覚えておくんだな……!」
先程のご機嫌は遥か遠くに吹き飛び、眉間にシワを寄せて怒りを滲ませたような視線を二人に送る。
命の危機を感じた二人は急いでメリルの元に駆け寄ると、オクトだけ尻を蹴られるのであった。
一方部室ではレンは魔道具の作成、サクラは紋章魔法の発動方法や性質が記載されている本を読んでいた。
二人で話し合った結果、比較的安全に使える水の紋章を魔道具に封入する事にした。
レンは、ミスリルの短剣状の魔道具を作り、紋章を封じ込める作業に突入していたが、彼の側には数本の砕けた魔道具が置かれ、失敗作であるという事が判る。
何度も失敗をしてもレンは諦めなかった。
それは一種の意地なのかもしれない。
魔法を持たないレンはサクラの足手まといにならないように必死であり、何が何でも水の魔道具を作りたいという気持ちで一心不乱に制作していた。
しかし、封入する途中で根本から乾いた音を立てて割れる。
天を仰ぎ、大きくため息を吐くと、サクラが顔を覗きに来る。
二人はしばらく無言で見つめあっていると、サクラはポケットから白い布を取り出してレンの顔を拭いていく。
「顔、汚れてたから拭いてあげる」
「……あ、ありがと……」
初めは大人しく顔を拭かれていたが、段々と恥ずかしくなり、身を起こして再び机の前に置かれている残骸を片付ける。
残り一本。
レンはこれを握り締め、唾を飲み込む。
水の紋章を紙に描こうとした瞬間、部室の玄関扉が勢いよく開く。
「やあやあ、天下の魔法技術士のポチおがやってきたよ。作業は捗ってるかな?」
「ポチおさん!!来てくれてありがとうございます!」
「早速なんだが、風の紋章の魔道具を見せてもらえるかな?その短剣の魔道具の型に入れてね」
レンは一瞬躊躇した。
残り一本しかないのだ。
これを使ってしまえば木材の加工から始めなければならない。
レンの決して多くない魔力量では二振り作るので精一杯。
作ってしまうと紋章を封じ込める魔力が足りなくなり、明日に間に合わないと計算する。
中々動かないレンを見て、足元に目線を向けると残骸が転がっていた。
それを見たオクトは少し口角を上げ、レンの短剣を持つ。
(……魔力を込めやすくするためにミスリルメッキか……魔法樹の木材を使って魔力を流れやすくする……。こんな発想を十三歳になる子がしたのか。中々面白い発想をするもんだ。魔力の痕跡を見る限り、水の魔法を使いたいんだな……)
「レン。少しだけ、素材選びのコツを教えてやる。よく聞くんだ」
オクトの声掛けにレンは表情を明るくして聞く体制に入るのだった。
保健室には治療用のベッドや治療用の器具以外に大量の魔導書が本棚に飾られてある。
もちろんそれは実用性のあるものばかりで【呪い】にも対抗できるように豊富な魔法の数々が記載されている。
その本棚の一番上に置かれている巻物を取り出し、保健室の板間の上に広げる。
紋章とは違う雰囲気の字体や模様が描かれており、メリルは手を翳して魔力を込める。
「我の想い人をを呼び寄せ。名はオクト。関わり人がいれば同様に呼び寄せろ」
メリルがそう呟くと巻き物に描かれた模様が光り輝きボンッ!という音を立て、保健室内は白煙に包まれた。
メリルは空中に風の紋章を描き、詠唱を始める。
「『我の視界を妨げる白霧をその風をもって晴らせ』」
保健室の中にあるものがカタカタと音を立てて揺れる。
サーキュレーターと機械排煙のような効果を持つこの魔法は保健室を包み込んだ白煙を窓の外へと吐き出していく。
視界が明瞭になったところ、メリルは二人の人影を捉える。
「すまないな、急に呼び寄せて」
「めぇさんか。何かトラブル?」
メリルと話す相手はポチおだった。
そしてもう一人、白色の体毛と銀色の髪を持つ猫族の女性が座っていた。
女性はメリルの姿を見て飛び掛かると、メリルの平手が振り下ろされ、床に叩きつけられる。
部屋が揺れそうなほどの衝撃と衝突音が外にまで響き、たまたま通りすがりの生徒たちは普通なら保健室からしない音と衝撃に驚き、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「メリルちゃん酷いよ〜……」
「急に飛び掛かるのが悪い。私にそのような文化はないのだ。それはそうと、セブも呼び寄せてすまないな」
「メリルちゃんが本名で呼ぶって珍しいね」
「私たちしかいないからな」
セブと呼ばれた猫族の女性は納得した様に手をポンと打つ。
メリルは腕を組み、ポチおを見る。
その表情はとても楽しそうで思わず身構えてしまう。
「オクト喜べ。レンはやはり紋章を封じ込めることができたぞ」
「……?あぁ!あのネコくんか!……へぇ、紋章を、ねぇ……」
「その子、凄いね!」
メリルは保健室の出口まで歩き、振り返って手招きする。
「だから、レンに少し稽古をつけてやってくれ。明日の魔法競技祭でアイツが参加するんだ。中等級クラスの魔法無しが活躍するところが観たいんだ」
目を輝かせ、待ち遠しと言わんばかりにその場で足踏みして二人を急かす。
そんな様子のメリルを見てオクトとセブは目を合わせてクスッと笑う。
「めえさんが肩入れするなんて余程の子だな。しょうがない、宮廷魔術師のメリル様のご命令なら従おう」
「やめろ」
「うんうん!王族の付き人のメリル様の言うことは絶対だもんね!」
「お前たち……後で覚えておくんだな……!」
先程のご機嫌は遥か遠くに吹き飛び、眉間にシワを寄せて怒りを滲ませたような視線を二人に送る。
命の危機を感じた二人は急いでメリルの元に駆け寄ると、オクトだけ尻を蹴られるのであった。
一方部室ではレンは魔道具の作成、サクラは紋章魔法の発動方法や性質が記載されている本を読んでいた。
二人で話し合った結果、比較的安全に使える水の紋章を魔道具に封入する事にした。
レンは、ミスリルの短剣状の魔道具を作り、紋章を封じ込める作業に突入していたが、彼の側には数本の砕けた魔道具が置かれ、失敗作であるという事が判る。
何度も失敗をしてもレンは諦めなかった。
それは一種の意地なのかもしれない。
魔法を持たないレンはサクラの足手まといにならないように必死であり、何が何でも水の魔道具を作りたいという気持ちで一心不乱に制作していた。
しかし、封入する途中で根本から乾いた音を立てて割れる。
天を仰ぎ、大きくため息を吐くと、サクラが顔を覗きに来る。
二人はしばらく無言で見つめあっていると、サクラはポケットから白い布を取り出してレンの顔を拭いていく。
「顔、汚れてたから拭いてあげる」
「……あ、ありがと……」
初めは大人しく顔を拭かれていたが、段々と恥ずかしくなり、身を起こして再び机の前に置かれている残骸を片付ける。
残り一本。
レンはこれを握り締め、唾を飲み込む。
水の紋章を紙に描こうとした瞬間、部室の玄関扉が勢いよく開く。
「やあやあ、天下の魔法技術士のポチおがやってきたよ。作業は捗ってるかな?」
「ポチおさん!!来てくれてありがとうございます!」
「早速なんだが、風の紋章の魔道具を見せてもらえるかな?その短剣の魔道具の型に入れてね」
レンは一瞬躊躇した。
残り一本しかないのだ。
これを使ってしまえば木材の加工から始めなければならない。
レンの決して多くない魔力量では二振り作るので精一杯。
作ってしまうと紋章を封じ込める魔力が足りなくなり、明日に間に合わないと計算する。
中々動かないレンを見て、足元に目線を向けると残骸が転がっていた。
それを見たオクトは少し口角を上げ、レンの短剣を持つ。
(……魔力を込めやすくするためにミスリルメッキか……魔法樹の木材を使って魔力を流れやすくする……。こんな発想を十三歳になる子がしたのか。中々面白い発想をするもんだ。魔力の痕跡を見る限り、水の魔法を使いたいんだな……)
「レン。少しだけ、素材選びのコツを教えてやる。よく聞くんだ」
オクトの声掛けにレンは表情を明るくして聞く体制に入るのだった。