残酷な描写あり
R-15
魔法の相性
オクトは紋章を四つ紙に描く。
「元素の紋章……」
「その通り。これは元素を司る紋章でね、それぞれ地水火風を表しているんだ。ここで問題、それぞれの属性はどうやって弱点を決めているかな?」
「はいはいっ!」
突然サクラが横から入り込み、オクトに迫る勢いで詰め寄る。
彼女の気迫に押され、「どうどう」と言いながら落ち着かせる。
落ち着いたのを見計らい、発言権を渡す。
「火は水に、水は風に、風は土に、土は火に弱いです!」
「そう!よく勉強してるねぇ。火は水で消され、水は風に乾かされ、風は大地の隆起に阻まれ、大地は火によって焼かれて死ぬ。これらは戦いに於いてかなり重要なもの。水魔法持ってるやつに火の魔法当てても勝ち目はない。一方魔道具に於いては勝手が違う」
オクトは肩掛けカバンから明らかに体積の限度を超えたものを取り出す。
重たそうに床に置くと、それをペシペシと叩く。
「コレ、氷の魔道具ね。厳密には【氷結】魔法は持っていないから擬似的なものだけど、氷を生成する事ができる」
セブがいつの間にか準備していた水を魔道具の給水口の中に流し込み、魔道具に手を翳して魔力を込める。
レンの目には二つの紋章が目に入り、それが風と水の紋章だということを理解する。
二つの魔力が絡み合い、中に入っている水に力が作用されていく。
魔法の反応が消えると、「コトッ」という音を立てて魔道具下部の器に何かが落ちる。
レンはオクトの顔を見ると取り出す様に目配せをする。
恐る恐る取り出すと冷たく硬い感触だった。
「それが氷だよ。綺麗な水で作ったから食べても大丈夫」
ゆっくり、口の中に運んでいき、その感触を舌で感じ取る。
「冷たい……!?」
「氷、食べたことなかった?」
何度も顔を縦に振り、レンの興奮を伝えると、それを面白そうにオクトは笑う。
生鮮食品を凍らせる手段がないこの世界で、氷を食べられる機会は殆どない。
それこそ、この国の神ヴォルフが気まぐれで起こす【冬】という環境でのみ触れる事ができる。
尤もそれほど寒くなってしまうと、猫族のレンは外に出たいという気持ちは無くなってしまうため氷に触れる機会が無かった。
ひんやりとする感覚を楽しんでいるとオクトは説明を再開する。
「【氷結】は元素の複合魔法だ。何と何の元素が混ぜ合わされたものかわかるかい?」
「オレ、見えました。風の紋章と水の紋章が混ぜ合わされていくところが」
(めえさんの言う通り……か。本当に紋章が見える子だとはね……)
オクトはメリルに目線を向けると深く頷き、言いたいことが伝わったようで、再びレンとサクラの方へ体を向ける。
「そうだ。でも、おかしいと思わないか?考えてごらん?水の苦手とするものは風の元素だ。ではなぜこの二つが手を取り、新たな元素を生み出したと思う?」
サクラは難しい顔をして悩み、レンは眼の前で起きたことをどうやって説明しようかと考える。
「その……説明の仕方がわからないんですが、、水を乾かさないように風で涼しくしていった……みたいな?ですか?」
レンの回答にオクト、メリル、セブは目を点にする。
何も言わない大人たちにレンは不安になり、サクラを見るが、首を傾げ「わからないよ」と目で訴える。
「ば、ばかなこ――」
パチパチパチ……
レンは回答を撤回しようと口を開いた瞬間に三人から拍手が送られる。
どういう状況かわからなくなったレンは、狼狽える。
オクトは腕を組み、好奇心に満ち溢れた目で連を見る。
先程まで緑色の瞳をしていたはずの彼の目は、金色に輝き、ふくや玉藻のような威圧感のある瞳へと変貌していた。
「オクト、面白い子が出たからってワクワクしすぎちゃダメよ?」
「あらら、ついつい……」
ゆっくりと目を閉じて深呼吸する。
再びゆっくりと目を開けると瞳の色は元の緑色に戻っていた。
彼のミニおきた不思議な現象にレンとサクラは呆然としていると、質問の答えを告げる。
「レンの言う通り水を風の元素で極限まで冷やすことで【氷結】の魔法になる。魔法にはこういった不思議なことができるから面白いよな。そこでだ、元素魔法に似たことが魔道具づくりにも時々起きるんだ。今、キミは木材に水も魔法を付与しようとしただろう?木と水は相性がいいんだ、普通はね。それでダメだったということは、相性あ良すぎて許容量を超えてしまったんだよ。取るべき選択は二つ」
「大きいものを作るか、相性の悪い素材で作る……ですか?」
「なんだ、理解してるじゃないか。では水と相性が悪い素材は?」
「硬い石ですか?」
「正解。セブさん。そこの倉庫の奥にある魔石を加工してあげてくれる?ここに石材加工の道具がないからデバイスでちゃちゃっとね」
「は~い」
セブはそう言って倉庫の中に入ると程なくして出てくる。
硬く、今のレンでは加工すらままならないはずの魔石が三日月状にカットされており、レンはそれを受け取っていいのかわからず、躊躇する。
そんなレンに微笑み、両手でレンの手を包むようにそれを渡す。
「大丈夫。みんな、あなたの魔道具を作るところが見たいの。いつものように、ね?」
「は、はい!」
レンは駆け足でミスリル鉄鉱を取り出し、紙を机の上に広げて【結合】の紋章を描き、材料をすべて乗せる。
魔道具を作ったのを見られるのはリコを助け出したとき以来で、レンは少しばかり緊張する。
大きく深呼吸をし、決意のこもった瞳で材料に手をかざす。
魔力で水の紋章を型取り、詠唱を始めた。
「『神々の恩寵を受けた素材たちよ。全てを結びつける力を以って、互いに手を取り合え。烈風の力を込められしその武具は我らの力と成せ!』」
魔石を包み込むようにミスリルがコーティングされ、表面に水の紋章が刻まれていく。
(壊れるな……!壊れるんじゃないぞ……!)
レンは必死に祈りを込めて魔力を全て注ぎ込んだ。
眩い光とともにそれは完成し、レンは気を失って倒れる。
倒れた拍子に頭部などに怪我を負わせないよう、メリルは素早くレンを抱きかかえた。
レンの意識は明日の朝まで戻ることはなく、ぶっつけ本番で魔法競技祭に参加するのであった。
「元素の紋章……」
「その通り。これは元素を司る紋章でね、それぞれ地水火風を表しているんだ。ここで問題、それぞれの属性はどうやって弱点を決めているかな?」
「はいはいっ!」
突然サクラが横から入り込み、オクトに迫る勢いで詰め寄る。
彼女の気迫に押され、「どうどう」と言いながら落ち着かせる。
落ち着いたのを見計らい、発言権を渡す。
「火は水に、水は風に、風は土に、土は火に弱いです!」
「そう!よく勉強してるねぇ。火は水で消され、水は風に乾かされ、風は大地の隆起に阻まれ、大地は火によって焼かれて死ぬ。これらは戦いに於いてかなり重要なもの。水魔法持ってるやつに火の魔法当てても勝ち目はない。一方魔道具に於いては勝手が違う」
オクトは肩掛けカバンから明らかに体積の限度を超えたものを取り出す。
重たそうに床に置くと、それをペシペシと叩く。
「コレ、氷の魔道具ね。厳密には【氷結】魔法は持っていないから擬似的なものだけど、氷を生成する事ができる」
セブがいつの間にか準備していた水を魔道具の給水口の中に流し込み、魔道具に手を翳して魔力を込める。
レンの目には二つの紋章が目に入り、それが風と水の紋章だということを理解する。
二つの魔力が絡み合い、中に入っている水に力が作用されていく。
魔法の反応が消えると、「コトッ」という音を立てて魔道具下部の器に何かが落ちる。
レンはオクトの顔を見ると取り出す様に目配せをする。
恐る恐る取り出すと冷たく硬い感触だった。
「それが氷だよ。綺麗な水で作ったから食べても大丈夫」
ゆっくり、口の中に運んでいき、その感触を舌で感じ取る。
「冷たい……!?」
「氷、食べたことなかった?」
何度も顔を縦に振り、レンの興奮を伝えると、それを面白そうにオクトは笑う。
生鮮食品を凍らせる手段がないこの世界で、氷を食べられる機会は殆どない。
それこそ、この国の神ヴォルフが気まぐれで起こす【冬】という環境でのみ触れる事ができる。
尤もそれほど寒くなってしまうと、猫族のレンは外に出たいという気持ちは無くなってしまうため氷に触れる機会が無かった。
ひんやりとする感覚を楽しんでいるとオクトは説明を再開する。
「【氷結】は元素の複合魔法だ。何と何の元素が混ぜ合わされたものかわかるかい?」
「オレ、見えました。風の紋章と水の紋章が混ぜ合わされていくところが」
(めえさんの言う通り……か。本当に紋章が見える子だとはね……)
オクトはメリルに目線を向けると深く頷き、言いたいことが伝わったようで、再びレンとサクラの方へ体を向ける。
「そうだ。でも、おかしいと思わないか?考えてごらん?水の苦手とするものは風の元素だ。ではなぜこの二つが手を取り、新たな元素を生み出したと思う?」
サクラは難しい顔をして悩み、レンは眼の前で起きたことをどうやって説明しようかと考える。
「その……説明の仕方がわからないんですが、、水を乾かさないように風で涼しくしていった……みたいな?ですか?」
レンの回答にオクト、メリル、セブは目を点にする。
何も言わない大人たちにレンは不安になり、サクラを見るが、首を傾げ「わからないよ」と目で訴える。
「ば、ばかなこ――」
パチパチパチ……
レンは回答を撤回しようと口を開いた瞬間に三人から拍手が送られる。
どういう状況かわからなくなったレンは、狼狽える。
オクトは腕を組み、好奇心に満ち溢れた目で連を見る。
先程まで緑色の瞳をしていたはずの彼の目は、金色に輝き、ふくや玉藻のような威圧感のある瞳へと変貌していた。
「オクト、面白い子が出たからってワクワクしすぎちゃダメよ?」
「あらら、ついつい……」
ゆっくりと目を閉じて深呼吸する。
再びゆっくりと目を開けると瞳の色は元の緑色に戻っていた。
彼のミニおきた不思議な現象にレンとサクラは呆然としていると、質問の答えを告げる。
「レンの言う通り水を風の元素で極限まで冷やすことで【氷結】の魔法になる。魔法にはこういった不思議なことができるから面白いよな。そこでだ、元素魔法に似たことが魔道具づくりにも時々起きるんだ。今、キミは木材に水も魔法を付与しようとしただろう?木と水は相性がいいんだ、普通はね。それでダメだったということは、相性あ良すぎて許容量を超えてしまったんだよ。取るべき選択は二つ」
「大きいものを作るか、相性の悪い素材で作る……ですか?」
「なんだ、理解してるじゃないか。では水と相性が悪い素材は?」
「硬い石ですか?」
「正解。セブさん。そこの倉庫の奥にある魔石を加工してあげてくれる?ここに石材加工の道具がないからデバイスでちゃちゃっとね」
「は~い」
セブはそう言って倉庫の中に入ると程なくして出てくる。
硬く、今のレンでは加工すらままならないはずの魔石が三日月状にカットされており、レンはそれを受け取っていいのかわからず、躊躇する。
そんなレンに微笑み、両手でレンの手を包むようにそれを渡す。
「大丈夫。みんな、あなたの魔道具を作るところが見たいの。いつものように、ね?」
「は、はい!」
レンは駆け足でミスリル鉄鉱を取り出し、紙を机の上に広げて【結合】の紋章を描き、材料をすべて乗せる。
魔道具を作ったのを見られるのはリコを助け出したとき以来で、レンは少しばかり緊張する。
大きく深呼吸をし、決意のこもった瞳で材料に手をかざす。
魔力で水の紋章を型取り、詠唱を始めた。
「『神々の恩寵を受けた素材たちよ。全てを結びつける力を以って、互いに手を取り合え。烈風の力を込められしその武具は我らの力と成せ!』」
魔石を包み込むようにミスリルがコーティングされ、表面に水の紋章が刻まれていく。
(壊れるな……!壊れるんじゃないぞ……!)
レンは必死に祈りを込めて魔力を全て注ぎ込んだ。
眩い光とともにそれは完成し、レンは気を失って倒れる。
倒れた拍子に頭部などに怪我を負わせないよう、メリルは素早くレンを抱きかかえた。
レンの意識は明日の朝まで戻ることはなく、ぶっつけ本番で魔法競技祭に参加するのであった。