残酷な描写あり
R-15
すれ違い
レンたちがレプレの国外調査に連れて行ってもらった期間は四日。
ワイバーンに乗らなければあと十日ほど歩かなければならないという事態は免れたのだが、四日分の補習はレンにとっては堪えた。
実践テスト形式だが、魔法の基礎部分で躓いてしまう。
同じクラスのサクラはすでに補習が終わっており、差を見せつけられた結果となる。
サムも、レンには少し同情する部分があり、何度か難易度を易しいものに変更しようと打診したが、レンはそれを拒否していた。
内容は生得魔法の発動手順と詠唱による正確な魔法の発動だった。
レンはこれができない。
魔法がないから。
それでもあきらめずに挑戦するのは母の言葉がずっと引っかかっていた。
――母さんは、オレに魔法があるって言ったんだ……。どうにかして発動できるようになったら……!
何度手順を踏んでも、レンの魔法は現れない。
リコのことを思い浮かべたとしても、発動することがなく膝から崩れ落ちる。
魔力を大量に放出した影響で立ち上がるのも困難だった。
意固地になっているレンに困っていると教室の扉が開かれ、サムとレンは視線を向ける。
カツカツと足音を鳴らして入ってきたのはメリルだった。
そして、その後ろにはリコとサクラが心配そうについて来ていた。
「メリ……じゃなくて、めえさん。どうしたんだ?」
「いつまで経ってもレンの補習が終わらないからな。様子を見にきたんだ。内容は?」
「生得魔法と詠唱だよ。一応、他の課題にしてやろうか?とは言ったんだ。レンがどうしてもって……」
困った表情を浮かべるサムに対し、疲労を見せながらも諦めていない眼をしているレンを見てメリルはため息を吐く。
「レン、出来ないことをするのは間違いだと私は思うんだが。どう思う?」
「母さんが……オレに魔法があるって……」
「ん?お前の母親は亡くなったのでは?」
「父さんが何かの魔法を封印して、母さんと少しだけ話ができるようにしてくれたんです……!だから……父さんと母さんの遺してくれたものは無駄じゃないって証明したいんです……!」
諦める様子の無いレンを見て考える。
――その魔法はヴォルフ様だけが使えたはず……。それを何故レンの父親が……?
メリルはレンの言っていた魔法を知っており、世界で一人しか使えないはずの魔法をレンの父親が使っていたということに疑問を持つ。
首を横に振り、現状でレンの課題を解決する事に思考を巡らす事にした。
「レン、母親は他にも何か言っていないか?レンの魔法があるっていうのに理由があるはずだ」
「り、リコさんのことを母さんに話していたら魔力が活性化していたって……」
隠しても仕方がないため、レンは言われた通りのことを話す。
メリルはリコの方を向き、レンを指差して向かうようにと伝える。
リコはレンの元に走り、レンの隣に座る。
魔力が少なく、肩で息をしているレンを支えて立ち上がらせる。
「あ、ありがとう……」
「私が鍵ならどうしたら良いでしょうか?ご指示をお願いします」
相変わらずレンに全面協力するリコを見て、サクラの胸の中にモヤっとしたものを感じ、制服のネクタイをギュッと掴む。
「鍵って……そんな、自分の事を物扱いしないでよ……!」
「ですが、私がいる事でレン君のお力になれるなら私はそれでも構わないと思ってます。私の命はレン君に救われたものなので、好きにし――」
「そういうんじゃないって!!」
――あれ?二人は何かすれ違っている……?
サクラはレンがリコを怒鳴りつけたことを驚いて見ていると、サムが割って入った。
「ちょ、せんせっ……!」
一触即発の雰囲気の中、サクラは教室の外へと連れ出された。
サクラが見たかった光景は見ることができず、雑に担がれていた。
「先生……。なんで締め出したんですか」
「……ありゃ、戦争になるぞ」
「……?」
「二人の想いがすれ違ってるんだ。リコは自分を物扱い……酷く言えば奴隷にされても良いからレンの力になりたい。レンはリコの力で魔法が発動できるかもしれないが、物扱いなんてしたくない。当たり前っちゃ、当たり前なんだが……。サクラはリコの生い立ちは聞いたことあるか?」
サクラは首を横に振ると、サムは教室から少し離れた場所に置いてあるベンチにサクラを座らせる。
困った表情を浮かべているサムに対し、サクラは不満を募らせる。
――あの子の事なんて知ろうなんて思わないわよ……。レンくんを獲ろうとするライバル……なんだし。
口先を尖らせて拗ねているサクラの隣にどかっと座り、窓の先にある空を見つめる。
「リコは野狐族の首領の娘。オレが生まれる前だから……五十年前くらいか?それぐらい前の裏切り者の血縁者だ。その影響で野狐族の中でもさらに隔離された身でずっと独りだったそうだ」
「……それはなんとなく分かりますが」
「襲撃によって両親を失い、野狐からも他者からも愛されなかった子供は表現が乏しくなってしまう。それにリコは一度レンによって助けられてレンとの繋がりを得た。自分を差し出す事で愛されるのならば無条件でそれを選んでしまうだろう。レンはリコにそうあって欲しくないからすれ違ってしまう。オレなら『えっ!?良いの!?やったー!』って言うんだろうけど、レンは真面目だからな」
「サイテー……」
サクラはサムのことを蔑みの目で見下し、慌てて取り消そうとするが、すでに遅かった。
嵐の前の静けさのように何も起こらない教室の扉を見つめて、サクラは拳を強く握りしめた。
ワイバーンに乗らなければあと十日ほど歩かなければならないという事態は免れたのだが、四日分の補習はレンにとっては堪えた。
実践テスト形式だが、魔法の基礎部分で躓いてしまう。
同じクラスのサクラはすでに補習が終わっており、差を見せつけられた結果となる。
サムも、レンには少し同情する部分があり、何度か難易度を易しいものに変更しようと打診したが、レンはそれを拒否していた。
内容は生得魔法の発動手順と詠唱による正確な魔法の発動だった。
レンはこれができない。
魔法がないから。
それでもあきらめずに挑戦するのは母の言葉がずっと引っかかっていた。
――母さんは、オレに魔法があるって言ったんだ……。どうにかして発動できるようになったら……!
何度手順を踏んでも、レンの魔法は現れない。
リコのことを思い浮かべたとしても、発動することがなく膝から崩れ落ちる。
魔力を大量に放出した影響で立ち上がるのも困難だった。
意固地になっているレンに困っていると教室の扉が開かれ、サムとレンは視線を向ける。
カツカツと足音を鳴らして入ってきたのはメリルだった。
そして、その後ろにはリコとサクラが心配そうについて来ていた。
「メリ……じゃなくて、めえさん。どうしたんだ?」
「いつまで経ってもレンの補習が終わらないからな。様子を見にきたんだ。内容は?」
「生得魔法と詠唱だよ。一応、他の課題にしてやろうか?とは言ったんだ。レンがどうしてもって……」
困った表情を浮かべるサムに対し、疲労を見せながらも諦めていない眼をしているレンを見てメリルはため息を吐く。
「レン、出来ないことをするのは間違いだと私は思うんだが。どう思う?」
「母さんが……オレに魔法があるって……」
「ん?お前の母親は亡くなったのでは?」
「父さんが何かの魔法を封印して、母さんと少しだけ話ができるようにしてくれたんです……!だから……父さんと母さんの遺してくれたものは無駄じゃないって証明したいんです……!」
諦める様子の無いレンを見て考える。
――その魔法はヴォルフ様だけが使えたはず……。それを何故レンの父親が……?
メリルはレンの言っていた魔法を知っており、世界で一人しか使えないはずの魔法をレンの父親が使っていたということに疑問を持つ。
首を横に振り、現状でレンの課題を解決する事に思考を巡らす事にした。
「レン、母親は他にも何か言っていないか?レンの魔法があるっていうのに理由があるはずだ」
「り、リコさんのことを母さんに話していたら魔力が活性化していたって……」
隠しても仕方がないため、レンは言われた通りのことを話す。
メリルはリコの方を向き、レンを指差して向かうようにと伝える。
リコはレンの元に走り、レンの隣に座る。
魔力が少なく、肩で息をしているレンを支えて立ち上がらせる。
「あ、ありがとう……」
「私が鍵ならどうしたら良いでしょうか?ご指示をお願いします」
相変わらずレンに全面協力するリコを見て、サクラの胸の中にモヤっとしたものを感じ、制服のネクタイをギュッと掴む。
「鍵って……そんな、自分の事を物扱いしないでよ……!」
「ですが、私がいる事でレン君のお力になれるなら私はそれでも構わないと思ってます。私の命はレン君に救われたものなので、好きにし――」
「そういうんじゃないって!!」
――あれ?二人は何かすれ違っている……?
サクラはレンがリコを怒鳴りつけたことを驚いて見ていると、サムが割って入った。
「ちょ、せんせっ……!」
一触即発の雰囲気の中、サクラは教室の外へと連れ出された。
サクラが見たかった光景は見ることができず、雑に担がれていた。
「先生……。なんで締め出したんですか」
「……ありゃ、戦争になるぞ」
「……?」
「二人の想いがすれ違ってるんだ。リコは自分を物扱い……酷く言えば奴隷にされても良いからレンの力になりたい。レンはリコの力で魔法が発動できるかもしれないが、物扱いなんてしたくない。当たり前っちゃ、当たり前なんだが……。サクラはリコの生い立ちは聞いたことあるか?」
サクラは首を横に振ると、サムは教室から少し離れた場所に置いてあるベンチにサクラを座らせる。
困った表情を浮かべているサムに対し、サクラは不満を募らせる。
――あの子の事なんて知ろうなんて思わないわよ……。レンくんを獲ろうとするライバル……なんだし。
口先を尖らせて拗ねているサクラの隣にどかっと座り、窓の先にある空を見つめる。
「リコは野狐族の首領の娘。オレが生まれる前だから……五十年前くらいか?それぐらい前の裏切り者の血縁者だ。その影響で野狐族の中でもさらに隔離された身でずっと独りだったそうだ」
「……それはなんとなく分かりますが」
「襲撃によって両親を失い、野狐からも他者からも愛されなかった子供は表現が乏しくなってしまう。それにリコは一度レンによって助けられてレンとの繋がりを得た。自分を差し出す事で愛されるのならば無条件でそれを選んでしまうだろう。レンはリコにそうあって欲しくないからすれ違ってしまう。オレなら『えっ!?良いの!?やったー!』って言うんだろうけど、レンは真面目だからな」
「サイテー……」
サクラはサムのことを蔑みの目で見下し、慌てて取り消そうとするが、すでに遅かった。
嵐の前の静けさのように何も起こらない教室の扉を見つめて、サクラは拳を強く握りしめた。