残酷な描写あり
R-15
仲直り
教室は静寂に包まれていた。
サクラとサムが去った後、残されたのは重い空気と、向き合う二人の影。
レンはリコを鋭く見つめ、リコは視線を耐えきれず、顔を引きつらせて震えた。
――嫌われた。また、間違えてしまった……。
リコは絶望に顔を歪め、膝を抱えて床に座り込んだ。
呼吸が荒くなり、視界が揺らぐ。
過去の嘲笑や冷たい視線が脳裏をよぎり、彼女を飲み込もうとする。
「リコ!」
メリルの声が響き、リコの意識を引き戻した。
気を失わずに済んだ彼女は、メリルの横長の瞳孔を見つめる。
――心の傷だ。昔のことが原因か。
メリルはリコの瞳に宿る想いを読み取った。
心の傷は魔法では癒せない。
【治癒】の魔法は細胞を活性化させて治癒する効果の為、心には効果がないのだ。
「レン。怒っているのは分かる。気が進まなくても、話を聞いてくれるか」
「……先生がそう言うなら」
レンは不満を顔に浮かべつつ、耳を傾ける姿勢を見せた。
メリルはリコに向き直り、口を開く。
「リコ。レンのために尽くしたいというお前の気持ちは素晴らしい。献身的で、純粋だ」
――結局、仲直りの話じゃん……。
レンは内心で舌打ちし、メリルの意図をそう解釈した。だが、メリルの言葉は続く。
「だが、道具として自分を差し出すのは違う。リコ、お前は野狐族だ。確かにいろんな噂を立てられて卑屈になるのもわかる。だが、レンはお前を道具ではなく、【リコ】というヒトとして見てくれている。それなのに、自分を道具だと貶める言葉を聞いて、喜ぶと思うか? お前は役に立てて満足かもしれない。だが、レンは決して嬉しくない。そうだな、レン」
「えっ?……まあ、そうですけど……」
突然話を振られ、レンは戸惑いながら頷いた。
「レンが怒ったのは、お前を大切に思うからだ。道具扱いなんて、絶対にしたくないんだ」
リコの目が揺れる。彼女は唇を噛み、声を絞り出す。
「私は……それでもいい! 野狐族は裏切り者の血筋。ハブられても、いじめられても……ヒグッ……。役に立てれば……使い捨てでも……グスッ……。私なんか、そんな価値しかない!」
その瞬間、レンの手が動いた。
彼はリコの肩を強くつかみ、正面から見つめた。
「やめてよリコさん!オレはそんな言葉聴きたくないっ!」
教室に響く声は、怒りと悲しみに震えていた。
リコは驚き、言葉を失う。
レンの瞳には涙が浮かび、握りしめた拳が震える。
「ごめん、リコ。俺、受け入れられない。お前のその考え、間違ってる」
突き放されてしまったと受け取ったリコは立ち上がり、教室を飛び出した。
メリルは追わず、廊下に待機していたサムに指示を飛ばす。
「サム! ルゥに学園の防御結界を強化しろと伝えろ。誰も外に出すな!」
「了解! じゃあ、サクラ、また明日!」
サムは窓を飛び越え、競技場へ向かった。
サクラは一瞬レンを気遣うが、リコの匂いを追うことを決める。
――レンくんは先生が何とかしてくれる。リコを追うのが先……よね?
犬族ほどではないが、サクラの鼻は鋭い。リコの残り香を辿り、彼女は走り出す。
教室に残されたレンとメリル。レンは床を見つめ、涙をこぼす。
「グスッ……」
「レン。リコの言葉、許せなかったんだな」
「……いじめられてきたのは、俺も同じだ。だから分かる。リコの気持ち、痛いほど分かる……。だから俺はリコを道具になんてできない! リコと一緒にいるから、毎日が楽しいんだ。リコだから、俺は何でも話せた!」
レンは感情を爆発させ、涙を流す。メリルは彼の頭を胸に引き寄せ、背中を撫でる。
「お前はリコを本当に好きなんだな」
「……えっ? な、なんで……!?」
レンは慌ててメリルから離れて狼狽えていた。
メリルは笑みを浮かべ、続ける。
「お前たちの気持ちは見ていて分かる。お前はリコの事が好きで守りたい。一方リコはお前のことが好きだから、お前に役に立ちたいと考えているんだよ」
「えっ……って、リコが俺のこと!?」
「気づかなかったのか? あの子、お前にゾッコンだ。以前にお前が助けてくれたことが、よほど嬉しかったんだろう。私はお前たちのキューピットってところかな」
リコの好意を知り、レンは衝撃を受ける。同時に、彼女の肩を掴み、怒鳴った自分の行動を悔いる。
「もうダメだ……リコに嫌われた……」
「逆だ。お前が嫌ったと思ってるのはリコの方だ。そのことは明日、謝るといい。今日は私に任せて、明日、ちゃんと仲直りしろ。リコは私が部活に連れていく」
「あはは……分かりました……」
メリルは教室を後にし、レンは一人残される。
だが、彼は待てなかった。
覚悟を決め、学園内を走り、リコを探し始める。
一方、サクラはリコの匂いを追って学園の裏庭にたどり着く。
そこには、膝を抱えて座るリコの姿があった。
「リコ!」
サクラの声に、リコは顔を上げる。
涙で濡れた目が、サクラを見つめる。
「サクラさん……どうして……」
「突然教室を飛び出すから、驚いたわ。……どうしてそうなったの?」
リコは唇を震わせ、言葉を絞り出す。
「私は……レンに嫌われたくなかった。ただ、役に立ちたかっただけなのに……」
サクラはリコの隣に座り、優しく肩に手を置く。
「レンくん、道具扱いするのが嫌だったんだよ。って先生も言ってたよね……。なんて言うか……アタシはレンくんがいじめられてるの見てたから、もしかしたらアンタのことと自分のこと、重ねちゃったんじゃない?」
リコの目から新たな涙がこぼれる。サクラは続ける。
「野狐族の過去、聞いたよ。でもさ、リコはリコだよ。レンくんはその辺はしっかりと分けて考えてくれてるんじゃない?だって、一度も『野狐族だから〜〜だ!』なんて言ってないでしょ?」
リコはハッとし、顔を上げる。サクラの言葉が、彼女の心に小さな光を灯す。
その時、裏庭にレンの声が響く。
「リコさん!」
レンは息を切らし、リコを見つける。
サクラは立ち上がり、二人にスペースを譲る。
「ほら、早く話しなさいよ!アタシだって、ギスギスしたままの部活なんて嫌だからね?」
サクラの言葉に思わず苦笑いしてしまう。
レンはリコに近づき、膝をつく。
「リコ、ごめん。オレ……怒りすぎた。リコさんの気持ち、全然考えてなかった……」
リコは目を伏せ、震える声で答える。
「レンくん……ごめんなさい。私も自分のこと道具とか、言わなきゃよかった……」
「違う!そんな風に思うのが、オレが嫌なんだ!リコさんはオレにとって、ただの道具なんかじゃない。リコさんだから、オレは……」
レンは言葉を切り、深呼吸する。
「君が一緒にいてくれたから、毎日楽しいし、もっと強くなりたいって思えるんだ。だからこれからも一緒にいて欲しい。リコさんと一緒ならどんなことも乗り越えられる気がするんだ」
リコの目が大きく見開く。
彼女は初めて、自分の存在が誰かに必要とされていることを感じた。
「明日も……部活に行って良いですか?」
「もちろん。ね?サクラさん」
「……あ、当たり前じゃない!」
リコは嬉しそうな顔で立ち上がり、涙を拭う。
【太陽】が夜を迎える中、密かに防御結界が強化されたのだった。
三人は寮へと続く廊下を歩いていると、レンは少し緊張していた。
――危なかった……。思わず好きって言いそうになっちゃった……!
想いを吐き出せば楽になれるとは思いつつ、まだ心にしまっておく事にしたレンなのであった。
サクラとサムが去った後、残されたのは重い空気と、向き合う二人の影。
レンはリコを鋭く見つめ、リコは視線を耐えきれず、顔を引きつらせて震えた。
――嫌われた。また、間違えてしまった……。
リコは絶望に顔を歪め、膝を抱えて床に座り込んだ。
呼吸が荒くなり、視界が揺らぐ。
過去の嘲笑や冷たい視線が脳裏をよぎり、彼女を飲み込もうとする。
「リコ!」
メリルの声が響き、リコの意識を引き戻した。
気を失わずに済んだ彼女は、メリルの横長の瞳孔を見つめる。
――心の傷だ。昔のことが原因か。
メリルはリコの瞳に宿る想いを読み取った。
心の傷は魔法では癒せない。
【治癒】の魔法は細胞を活性化させて治癒する効果の為、心には効果がないのだ。
「レン。怒っているのは分かる。気が進まなくても、話を聞いてくれるか」
「……先生がそう言うなら」
レンは不満を顔に浮かべつつ、耳を傾ける姿勢を見せた。
メリルはリコに向き直り、口を開く。
「リコ。レンのために尽くしたいというお前の気持ちは素晴らしい。献身的で、純粋だ」
――結局、仲直りの話じゃん……。
レンは内心で舌打ちし、メリルの意図をそう解釈した。だが、メリルの言葉は続く。
「だが、道具として自分を差し出すのは違う。リコ、お前は野狐族だ。確かにいろんな噂を立てられて卑屈になるのもわかる。だが、レンはお前を道具ではなく、【リコ】というヒトとして見てくれている。それなのに、自分を道具だと貶める言葉を聞いて、喜ぶと思うか? お前は役に立てて満足かもしれない。だが、レンは決して嬉しくない。そうだな、レン」
「えっ?……まあ、そうですけど……」
突然話を振られ、レンは戸惑いながら頷いた。
「レンが怒ったのは、お前を大切に思うからだ。道具扱いなんて、絶対にしたくないんだ」
リコの目が揺れる。彼女は唇を噛み、声を絞り出す。
「私は……それでもいい! 野狐族は裏切り者の血筋。ハブられても、いじめられても……ヒグッ……。役に立てれば……使い捨てでも……グスッ……。私なんか、そんな価値しかない!」
その瞬間、レンの手が動いた。
彼はリコの肩を強くつかみ、正面から見つめた。
「やめてよリコさん!オレはそんな言葉聴きたくないっ!」
教室に響く声は、怒りと悲しみに震えていた。
リコは驚き、言葉を失う。
レンの瞳には涙が浮かび、握りしめた拳が震える。
「ごめん、リコ。俺、受け入れられない。お前のその考え、間違ってる」
突き放されてしまったと受け取ったリコは立ち上がり、教室を飛び出した。
メリルは追わず、廊下に待機していたサムに指示を飛ばす。
「サム! ルゥに学園の防御結界を強化しろと伝えろ。誰も外に出すな!」
「了解! じゃあ、サクラ、また明日!」
サムは窓を飛び越え、競技場へ向かった。
サクラは一瞬レンを気遣うが、リコの匂いを追うことを決める。
――レンくんは先生が何とかしてくれる。リコを追うのが先……よね?
犬族ほどではないが、サクラの鼻は鋭い。リコの残り香を辿り、彼女は走り出す。
教室に残されたレンとメリル。レンは床を見つめ、涙をこぼす。
「グスッ……」
「レン。リコの言葉、許せなかったんだな」
「……いじめられてきたのは、俺も同じだ。だから分かる。リコの気持ち、痛いほど分かる……。だから俺はリコを道具になんてできない! リコと一緒にいるから、毎日が楽しいんだ。リコだから、俺は何でも話せた!」
レンは感情を爆発させ、涙を流す。メリルは彼の頭を胸に引き寄せ、背中を撫でる。
「お前はリコを本当に好きなんだな」
「……えっ? な、なんで……!?」
レンは慌ててメリルから離れて狼狽えていた。
メリルは笑みを浮かべ、続ける。
「お前たちの気持ちは見ていて分かる。お前はリコの事が好きで守りたい。一方リコはお前のことが好きだから、お前に役に立ちたいと考えているんだよ」
「えっ……って、リコが俺のこと!?」
「気づかなかったのか? あの子、お前にゾッコンだ。以前にお前が助けてくれたことが、よほど嬉しかったんだろう。私はお前たちのキューピットってところかな」
リコの好意を知り、レンは衝撃を受ける。同時に、彼女の肩を掴み、怒鳴った自分の行動を悔いる。
「もうダメだ……リコに嫌われた……」
「逆だ。お前が嫌ったと思ってるのはリコの方だ。そのことは明日、謝るといい。今日は私に任せて、明日、ちゃんと仲直りしろ。リコは私が部活に連れていく」
「あはは……分かりました……」
メリルは教室を後にし、レンは一人残される。
だが、彼は待てなかった。
覚悟を決め、学園内を走り、リコを探し始める。
一方、サクラはリコの匂いを追って学園の裏庭にたどり着く。
そこには、膝を抱えて座るリコの姿があった。
「リコ!」
サクラの声に、リコは顔を上げる。
涙で濡れた目が、サクラを見つめる。
「サクラさん……どうして……」
「突然教室を飛び出すから、驚いたわ。……どうしてそうなったの?」
リコは唇を震わせ、言葉を絞り出す。
「私は……レンに嫌われたくなかった。ただ、役に立ちたかっただけなのに……」
サクラはリコの隣に座り、優しく肩に手を置く。
「レンくん、道具扱いするのが嫌だったんだよ。って先生も言ってたよね……。なんて言うか……アタシはレンくんがいじめられてるの見てたから、もしかしたらアンタのことと自分のこと、重ねちゃったんじゃない?」
リコの目から新たな涙がこぼれる。サクラは続ける。
「野狐族の過去、聞いたよ。でもさ、リコはリコだよ。レンくんはその辺はしっかりと分けて考えてくれてるんじゃない?だって、一度も『野狐族だから〜〜だ!』なんて言ってないでしょ?」
リコはハッとし、顔を上げる。サクラの言葉が、彼女の心に小さな光を灯す。
その時、裏庭にレンの声が響く。
「リコさん!」
レンは息を切らし、リコを見つける。
サクラは立ち上がり、二人にスペースを譲る。
「ほら、早く話しなさいよ!アタシだって、ギスギスしたままの部活なんて嫌だからね?」
サクラの言葉に思わず苦笑いしてしまう。
レンはリコに近づき、膝をつく。
「リコ、ごめん。オレ……怒りすぎた。リコさんの気持ち、全然考えてなかった……」
リコは目を伏せ、震える声で答える。
「レンくん……ごめんなさい。私も自分のこと道具とか、言わなきゃよかった……」
「違う!そんな風に思うのが、オレが嫌なんだ!リコさんはオレにとって、ただの道具なんかじゃない。リコさんだから、オレは……」
レンは言葉を切り、深呼吸する。
「君が一緒にいてくれたから、毎日楽しいし、もっと強くなりたいって思えるんだ。だからこれからも一緒にいて欲しい。リコさんと一緒ならどんなことも乗り越えられる気がするんだ」
リコの目が大きく見開く。
彼女は初めて、自分の存在が誰かに必要とされていることを感じた。
「明日も……部活に行って良いですか?」
「もちろん。ね?サクラさん」
「……あ、当たり前じゃない!」
リコは嬉しそうな顔で立ち上がり、涙を拭う。
【太陽】が夜を迎える中、密かに防御結界が強化されたのだった。
三人は寮へと続く廊下を歩いていると、レンは少し緊張していた。
――危なかった……。思わず好きって言いそうになっちゃった……!
想いを吐き出せば楽になれるとは思いつつ、まだ心にしまっておく事にしたレンなのであった。