残酷な描写あり
2.解決策
この危機を最初に把握したのはサムスなので、当然その見積もり既に計算し終えていた。その結果、資金が完全に底を付くのは約1年後になる計算だった。
つまりそれまでに、セレスティア達は何とかして資金を稼ぐ方法を考えないといけない。
「しかしセレスティアよ、我がこの屋敷に居候し始めた時は『屋敷に残っている財産であと100年は生活できる!』と豪語していたではないか。それからまだ90年程しか経っていないぞ? 何故予定より10年も早く資金が無くなったのだ?」
「それについてはサムスがここ90年で屋敷の財産がどんな風に使われたのかを計算してくれたわ」
セレスティアはサムスから一枚の紙を受け取り、それをミューダに手渡した。
「これは?」
「そこには本来残る予定だった10年分の財産が、何に、どの程度使用されていたかをサムスが計算して書き記してくれているわ」
「どれどれ……」
ミューダは紙に目を落として内容を読む。
―――――
[残り10年分の財産の使用割合]
・ゴーレム化費用×5人:5割
・ミューダの研究費用:3割
・セレスティアの研究費用:1割
・その他:1割
―――――
「……見ての通り、この子達をゴーレム化する際に使用した費用が一番多いわ。でもそれは私達にとって必要だったことはミューダも理解してるわね?」
「ああ、それは承知している。……だが何故、我の研究費が3割もあるのだ?」
「……それは貴方の研究の初期投資にかなりお金が掛かったからよ」
ミューダとセレスティアの研究費で2割もの差があるのは、初期投資の違いにある。
セレスティアは元々この屋敷に暮していたので、研究に必要な物は最初から全て揃っていた。使われた資金は、研究に必要な足りない物を補充するのに使ったぐらいである。
しかしミューダは約90年前にこの屋敷で突然居候を始めたので、ミューダの研究に必要な物が屋敷には全く揃っていなかった。
では何故そんなことが起こったのかと言うと、それはミューダの研究内容とセレスティアの研究内容が全く違うものだというのが原因だ。つまり言い換えると、二人の研究に必要な物が全く異なるのだ。
なのでミューダの研究に必要な物は一から揃える必要があり、その結果セレスティアとミューダの研究費に2割もの差が出来たのである。
「そう言えばそうだったな。90年も前のことだからすっかり忘れていたぞ……」
「思い出してくれて何よりだわ。まあ、この紙に書いてあることは残り10年分の財産がどんな風に使われたかを記しただけで、この後の話には特に関係ないから今は忘れてちょうだい」
セレスティアはそう言って、ミューダから返してもらった紙を机の上に置いた。
そしてソファーにもたれ掛かり手を組むと、表情を鋭いものに変化させる。
「さて、ここからが本題よ。皆、よく聞いてちょうだい」
セレスティアはそう言うと、全員の視線が自分に集中していることを確認してから話を切り出した。
「あと約1年程で資金が尽きるこの状態を打破するには、どうにかして早急にお金を稼ぐ必要があるわ。その為にはどうすれば良いと思う?」
「……よろしいでしょうか?」
一番最初に手を挙げたのはアインだ。セレスティアは頷いて続けるように促した。
「単純に稼ぐだけなら街に出稼ぎにいけば良いと思います。……ただ稼げても、セレスティア様達の研究に使う費用をそこから引きますと、場合によっては差し引きゼロ……最悪の場合はマイナスになる可能性もあります」
「ということは、マイナスにならない安定した稼ぎをどうやって得ることが出来るかが問題、ということですね?」
アインの話に続くようにミューダの後ろに立っていた、黒髪と白のコック服のコントラストが特徴の男性、“クワトル”が話に参加してきた。そのクワトルの指摘にアインは頷いて肯定する。
そう、問題は正にクワトルが指摘した通りなのだ。
アインの言う通り、稼ぐだけなら街でも働きに行けばいい。だがそれだけでは、折角稼いだお金はセレスティアとミューダの研究費であっさり消えてしまう可能性が十分にあった。それでは元も子もない。
これからもセレスティア達が研究を続けるためには、その研究費を上回る程の安定した稼ぎが必要になる。
どうやればそれだけの稼ぎを得られるのか、その方法を見つける事が出来なければこの問題は解決しないのだ。
「あ、因みに先に言っておくけど、私は研究を止めるつもりはないから、稼ぐのはアイン達でお願いね!」
(え、非常事態の時にそんなことを言ってる場合かって? では考えてみてほしい。もし私がお金を稼ぐため働いたとする。するとその間、私は研究が出来なくなってしまう。だがそのおかげで懐が潤ったなら、私は直ぐにでも研究を再開するだろう。研究を再開したら働く暇が無いので、資金はまたしばらくすれば底をつくことになる。そうなればまた働き、資金が入れば研究に戻り、また資金を稼ぐ――――と、そんな無限ループが続くことになってしまう。そんな面倒な事やっていられるわけがない! だから私は働きには行けないのだ。行かないのではなく、行けない。ここが重要だ!)
心の中で一人芝居の様に誰に聞こえるわけでもない言い訳を展開して、セレスティアは自分の正当性を再確認していた。
まあそもそもセレスティアの使用人であるアイン達は、主人のセレスティアが労働をしに行くこと自体いいように思わないはずなので、セレスティアの意思に反対はしない。
しかし、ミューダはそうではなかった。
「ずるいぞセレスティア! それなら我も研究を止めるつもりはないから、働きには行かんぞ!」
(……はぁ~、やっぱりこうなるか……)
ある程度そういう反応が返って来るのは予想していたが、それでもセレスティアは心の中で大きなため息を吐いた。
「まあ、ミューダはそう言うと思っていたわ。そのことに関して私も強く言わないから安心していいわよ。でも少しは協力しなさいよ?」
「それは分かっておる」
「……で話を戻すけど、もしアイン達5人で働きに行った場合、安定した稼ぎを得ることは出来そうなのかしら?」
セレスティアの質問に、使用人のリーダーを務めるアインが少し考えてから答える。
「……5人全員で大きな町に行って稼ぎの多い仕事に就ければ十分に可能だとは思います。……ですが、そうすると屋敷で働く者がいなくなりセレスティア様達のお世話が出来なくなってしまいます。私としては最低でも2人は屋敷に残ってほしいところです」
5人の使用人達は全員が優秀なので、アインの言う通り全員で働きに出れば十分な稼ぎは得られるはずである。
しかしそうすると屋敷で働く者がいなくなり、セレスティアとミューダの生活が不便になる。それはアイン達使用人一同が許容できない問題だ。
因みにアインであれば、本気を出せば一人でも屋敷の仕事をこなす事は可能である。……だがアイン一人だけが屋敷に残った場合、何か非常事態が起きた時にアイン一人では対応できなくなる可能性ある。
例えば、アインが近くの街に買い出しに出掛けている時に屋敷で何かあった場合、その対処は物理的に不可能だ。
アインはその万が一の可能性も捨てずに考慮して、最低でも2人は屋敷に残して欲しいと主張しているのだ。
「ですが、それだと働きに行くのは3人だけになります。十分な稼ぎを得ると言うなら、最低でも4人は働きに行かないと難しいと思います。更にその上で、高収入の仕事を見つけることが最低条件になるでしょう」
アインの意見に反論したのはサムスだ。
サムスの意見も尤もで、いくら優秀だと言っても働く人数が減れば、十分な稼ぎを得る条件が厳しくなるのは当然だ。
「でも高収入の仕事を3人で見つけられたら、その問題は解決するんだよね?」
セレスティアの後ろに立ってそれまで話を聞くのに徹していた、コーラルピンクの髪と鮮やかな緑色メイド服の小柄な女の子、“ティンク”がサムスに純粋な質問を飛ばす。
「確かにそうなるのが一番いいのですが、それは難しいのですよティンク」
「どういうこと?」
サムスの言う事が分からないようで、ティンクは首を傾ける。
「いいですか? 高収入の仕事と言うのは基本的に、その街での重要な役職に就く仕事だったり、非常に機密性が高い仕事だったり、仕事の拘束時間が異常に長かったりするものなのです。僕達はセレスティア様にお仕えする以上、そういった立場が高くなったり、秘密を守らされたり、セレスティア様の元に居れる時間が短くなるようなことはなるべく避けなくてはなりません。ティンクも長い日数、セレスティア様に会えなかったりすると困るでしょう?」
「うん……ティンク、それは嫌かな……」
もしそうなった時の自分の姿を想像したのか、ティンクが寂しそうな顔をしてサムスの説明に納得する。
「……でも困ったわね。アインとサムスのどちらの意見も的を得てるのだけど、両方の意見を両立させるには屋敷にいる人手が足りないわ……」
「……ん? 人手だと……?」
セレスティアが頭を悩ませながらポツリと漏らした言葉を聞いたミューダが、何か思い付いたようで、一つの提案を口にした。
「……だったら、新しく使用人を格安で雇えば良いのではないか? 住み込みとかの保障を色々付ければ、使用人の給料は安く済ませられるであろうからそこまで気にしなくてもよいし、アインとサムスの両方の意見も採用できるのではないか?」
「「「それだ!!!」」」
ミューダの提案に対するセレスティアとアインとサムスの決断はそれはもう早かった。まさに『即決』であった。
つまりそれまでに、セレスティア達は何とかして資金を稼ぐ方法を考えないといけない。
「しかしセレスティアよ、我がこの屋敷に居候し始めた時は『屋敷に残っている財産であと100年は生活できる!』と豪語していたではないか。それからまだ90年程しか経っていないぞ? 何故予定より10年も早く資金が無くなったのだ?」
「それについてはサムスがここ90年で屋敷の財産がどんな風に使われたのかを計算してくれたわ」
セレスティアはサムスから一枚の紙を受け取り、それをミューダに手渡した。
「これは?」
「そこには本来残る予定だった10年分の財産が、何に、どの程度使用されていたかをサムスが計算して書き記してくれているわ」
「どれどれ……」
ミューダは紙に目を落として内容を読む。
―――――
[残り10年分の財産の使用割合]
・ゴーレム化費用×5人:5割
・ミューダの研究費用:3割
・セレスティアの研究費用:1割
・その他:1割
―――――
「……見ての通り、この子達をゴーレム化する際に使用した費用が一番多いわ。でもそれは私達にとって必要だったことはミューダも理解してるわね?」
「ああ、それは承知している。……だが何故、我の研究費が3割もあるのだ?」
「……それは貴方の研究の初期投資にかなりお金が掛かったからよ」
ミューダとセレスティアの研究費で2割もの差があるのは、初期投資の違いにある。
セレスティアは元々この屋敷に暮していたので、研究に必要な物は最初から全て揃っていた。使われた資金は、研究に必要な足りない物を補充するのに使ったぐらいである。
しかしミューダは約90年前にこの屋敷で突然居候を始めたので、ミューダの研究に必要な物が屋敷には全く揃っていなかった。
では何故そんなことが起こったのかと言うと、それはミューダの研究内容とセレスティアの研究内容が全く違うものだというのが原因だ。つまり言い換えると、二人の研究に必要な物が全く異なるのだ。
なのでミューダの研究に必要な物は一から揃える必要があり、その結果セレスティアとミューダの研究費に2割もの差が出来たのである。
「そう言えばそうだったな。90年も前のことだからすっかり忘れていたぞ……」
「思い出してくれて何よりだわ。まあ、この紙に書いてあることは残り10年分の財産がどんな風に使われたかを記しただけで、この後の話には特に関係ないから今は忘れてちょうだい」
セレスティアはそう言って、ミューダから返してもらった紙を机の上に置いた。
そしてソファーにもたれ掛かり手を組むと、表情を鋭いものに変化させる。
「さて、ここからが本題よ。皆、よく聞いてちょうだい」
セレスティアはそう言うと、全員の視線が自分に集中していることを確認してから話を切り出した。
「あと約1年程で資金が尽きるこの状態を打破するには、どうにかして早急にお金を稼ぐ必要があるわ。その為にはどうすれば良いと思う?」
「……よろしいでしょうか?」
一番最初に手を挙げたのはアインだ。セレスティアは頷いて続けるように促した。
「単純に稼ぐだけなら街に出稼ぎにいけば良いと思います。……ただ稼げても、セレスティア様達の研究に使う費用をそこから引きますと、場合によっては差し引きゼロ……最悪の場合はマイナスになる可能性もあります」
「ということは、マイナスにならない安定した稼ぎをどうやって得ることが出来るかが問題、ということですね?」
アインの話に続くようにミューダの後ろに立っていた、黒髪と白のコック服のコントラストが特徴の男性、“クワトル”が話に参加してきた。そのクワトルの指摘にアインは頷いて肯定する。
そう、問題は正にクワトルが指摘した通りなのだ。
アインの言う通り、稼ぐだけなら街でも働きに行けばいい。だがそれだけでは、折角稼いだお金はセレスティアとミューダの研究費であっさり消えてしまう可能性が十分にあった。それでは元も子もない。
これからもセレスティア達が研究を続けるためには、その研究費を上回る程の安定した稼ぎが必要になる。
どうやればそれだけの稼ぎを得られるのか、その方法を見つける事が出来なければこの問題は解決しないのだ。
「あ、因みに先に言っておくけど、私は研究を止めるつもりはないから、稼ぐのはアイン達でお願いね!」
(え、非常事態の時にそんなことを言ってる場合かって? では考えてみてほしい。もし私がお金を稼ぐため働いたとする。するとその間、私は研究が出来なくなってしまう。だがそのおかげで懐が潤ったなら、私は直ぐにでも研究を再開するだろう。研究を再開したら働く暇が無いので、資金はまたしばらくすれば底をつくことになる。そうなればまた働き、資金が入れば研究に戻り、また資金を稼ぐ――――と、そんな無限ループが続くことになってしまう。そんな面倒な事やっていられるわけがない! だから私は働きには行けないのだ。行かないのではなく、行けない。ここが重要だ!)
心の中で一人芝居の様に誰に聞こえるわけでもない言い訳を展開して、セレスティアは自分の正当性を再確認していた。
まあそもそもセレスティアの使用人であるアイン達は、主人のセレスティアが労働をしに行くこと自体いいように思わないはずなので、セレスティアの意思に反対はしない。
しかし、ミューダはそうではなかった。
「ずるいぞセレスティア! それなら我も研究を止めるつもりはないから、働きには行かんぞ!」
(……はぁ~、やっぱりこうなるか……)
ある程度そういう反応が返って来るのは予想していたが、それでもセレスティアは心の中で大きなため息を吐いた。
「まあ、ミューダはそう言うと思っていたわ。そのことに関して私も強く言わないから安心していいわよ。でも少しは協力しなさいよ?」
「それは分かっておる」
「……で話を戻すけど、もしアイン達5人で働きに行った場合、安定した稼ぎを得ることは出来そうなのかしら?」
セレスティアの質問に、使用人のリーダーを務めるアインが少し考えてから答える。
「……5人全員で大きな町に行って稼ぎの多い仕事に就ければ十分に可能だとは思います。……ですが、そうすると屋敷で働く者がいなくなりセレスティア様達のお世話が出来なくなってしまいます。私としては最低でも2人は屋敷に残ってほしいところです」
5人の使用人達は全員が優秀なので、アインの言う通り全員で働きに出れば十分な稼ぎは得られるはずである。
しかしそうすると屋敷で働く者がいなくなり、セレスティアとミューダの生活が不便になる。それはアイン達使用人一同が許容できない問題だ。
因みにアインであれば、本気を出せば一人でも屋敷の仕事をこなす事は可能である。……だがアイン一人だけが屋敷に残った場合、何か非常事態が起きた時にアイン一人では対応できなくなる可能性ある。
例えば、アインが近くの街に買い出しに出掛けている時に屋敷で何かあった場合、その対処は物理的に不可能だ。
アインはその万が一の可能性も捨てずに考慮して、最低でも2人は屋敷に残して欲しいと主張しているのだ。
「ですが、それだと働きに行くのは3人だけになります。十分な稼ぎを得ると言うなら、最低でも4人は働きに行かないと難しいと思います。更にその上で、高収入の仕事を見つけることが最低条件になるでしょう」
アインの意見に反論したのはサムスだ。
サムスの意見も尤もで、いくら優秀だと言っても働く人数が減れば、十分な稼ぎを得る条件が厳しくなるのは当然だ。
「でも高収入の仕事を3人で見つけられたら、その問題は解決するんだよね?」
セレスティアの後ろに立ってそれまで話を聞くのに徹していた、コーラルピンクの髪と鮮やかな緑色メイド服の小柄な女の子、“ティンク”がサムスに純粋な質問を飛ばす。
「確かにそうなるのが一番いいのですが、それは難しいのですよティンク」
「どういうこと?」
サムスの言う事が分からないようで、ティンクは首を傾ける。
「いいですか? 高収入の仕事と言うのは基本的に、その街での重要な役職に就く仕事だったり、非常に機密性が高い仕事だったり、仕事の拘束時間が異常に長かったりするものなのです。僕達はセレスティア様にお仕えする以上、そういった立場が高くなったり、秘密を守らされたり、セレスティア様の元に居れる時間が短くなるようなことはなるべく避けなくてはなりません。ティンクも長い日数、セレスティア様に会えなかったりすると困るでしょう?」
「うん……ティンク、それは嫌かな……」
もしそうなった時の自分の姿を想像したのか、ティンクが寂しそうな顔をしてサムスの説明に納得する。
「……でも困ったわね。アインとサムスのどちらの意見も的を得てるのだけど、両方の意見を両立させるには屋敷にいる人手が足りないわ……」
「……ん? 人手だと……?」
セレスティアが頭を悩ませながらポツリと漏らした言葉を聞いたミューダが、何か思い付いたようで、一つの提案を口にした。
「……だったら、新しく使用人を格安で雇えば良いのではないか? 住み込みとかの保障を色々付ければ、使用人の給料は安く済ませられるであろうからそこまで気にしなくてもよいし、アインとサムスの両方の意見も採用できるのではないか?」
「「「それだ!!!」」」
ミューダの提案に対するセレスティアとアインとサムスの決断はそれはもう早かった。まさに『即決』であった。