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作者: 山のタル
残酷な描写あり
5.労働組合
 例の受付嬢が言っていたように、中央塔を出てすぐの所にその大きな建物はあった。私の屋敷よりも大きい2階建ての『管理棟』と呼ばれている建物である。
 管理棟の中には4つの施設が入っていて、そこを利用する人々がひし形のホールを縦横無尽に行き交う光景は圧巻の一言だった。
 その4つある施設の中で、私達が足を踏み入れたのは『労働組合』と呼ばれる施設だ。労働組合はひし形のホールの左奥に位置していて、仕事に関するあらゆることを管理している組合らしい。
 
 労働組合内部の中央には、先程の案内所よりも大きな受付が設置されていた。
 入口から左の壁際には沢山の掲示板が並んでいて、その掲示板を埋め尽くすほど大量の張り紙が貼り出されていた。
 その張り紙の全てが求人募集の張り紙だというから驚きだ。と言うのも、ここの掲示板には大陸全土から集められた求人募集が貼り出されているらしい。
 各国の首都にあるそれぞれの労働組合支部で受け付けた求人募集の情報を集め、支部だけではなく本部であるここでも貼り出すことで、募集希望者と雇い主が出会う確率を上げているというのだ。
 因みにニーナ達は今まさに、その大量の求人募集と睨めっこしているはずだ。
 
 次に労働組合の奥に目をやると、そこには沢山の個室が並んでいた。
 その個室は労働組合を利用する人と職員が個別に対応するための部屋らしい。受付の対応はあくまでも受付業務だけであり、本格的な対応はこの個室内で行われるそうだ。
 だが個室の数には当然ながら限りがある。沢山の人が訪れれば順番待ちになることは珍しくない。いや、むしろここでは日常的な出来事だと受付の人に言われた。
 そういう時に受付では“番号札”を配布して、順番をしっかりと管理しているそうだ。勿論、私もその番号札を受け取った。
 そして番号札を貰った人は、労働組合の入り口から右側にあるテーブルが沢山置かれた『待合所』で待機、順番が来たら担当者が配布した番号札の番号で呼び出すというシステムになっているそうだ。
 
「番号札“200”番の方、いらっしゃいますかー?」
 
 番号札を確認すると、私の番号は“227”だ。……どうやら私の番はまだまだのようである。
 とりあえず待ってる間にミューダに現状を報告しておこう。
 
 ………………
 …………
 ……
 
 (――という訳で、今のところ私達に接触してきた人はいないし、見張られている気配も感じないわ)
 
 私の報告を聞いてミューダは「とりあえず心配は無さそうで安心した」と言い、ホッとした様子だった。
 
 (ただ、募集を出す際に雇い主の名前を書かなくちゃいけないみたいなの。現状問題は無さそうだけど怪しまれた可能性がある以上、本名を使うのは避けた方がいいと思うのよ)
 (ふむ、確かにそうだな。となると、どんな偽名を使うかだが……)
 (そこは任せて。こんなこともあろうかと事前にちゃんと考えてあったから! 心配しなくても大丈夫よ!)
 (相変わらず準備がいいな。わかった、そのまま頑張ってくれ。……だが、いざとなったら躊躇ちゅうちょせずにすぐに戻ってくるのだぞ?)
 (ええ、分かってるわ。それじゃあね)
 
 ミューダへの報告を終えて念話が終了すると、私はネックレスを握っていた手を緩めた。
 別に念話するのにネックレスを握る必要はないのだが、このネックレスの特性上、念話中はどうしてもネックレスが光ってしまうのだ。
 周りに誰もいなければ特に問題はないのだけど、今居る労働組合みたいに周りに人が多い場所だとそれが目立ってしまう。
 なので光が漏れて変に怪しまれないように、ネックレスの石を握りしめていたのだ。
 
「“227”番でお待ちのお客様~、いらっしゃいますか~?」
 
 ミューダとの念話が終わってすぐに、私の番号札の番号を呼ぶ声が聞こえて来た。声のする方を見れば、キョロキョロと辺りを見回して歩いている女性職員の姿が見える。
 
「はい、私です」
 
 私は手を挙げ返事をすると、番号を呼んでいた女性職員がトテトテと小走りで私の方にやって来た。
 その女性職員は私と殆ど変わらない背丈で、顔には大きな丸渕の眼鏡をかけているのが特徴的だ。背中まで伸びる金色の長い三つ編みの髪が歩く動きに合わせて左右に揺れ、まるで馬の尻尾のようにも見えなくはない。
 だがそれよりも目を引くのが、身体の前面にあって歩く度に三つ編みとは違う動きで上下に大きく揺れる2つの豊かな山であった。
 彼女が歩く近くにいる人、特に男の視線が彼女の姿を逃すまいと後を追っている。
 
「大変お待たせしました~。さぁ、こちらへどうぞ~」
 
 おっとりとしたしゃべり方をするその女性職員は、そう言って私の前を歩いて個室へと案内する。
 
「くっ、今回はハズレかッ!!」
「メールちゃんの歩く姿……ハァ……ハァ……、マジ尊すぎるぅッ!」
「なぁ見たかよあの揺れる丘……いや山を!! あれが見れただけで俺は今日満足だ……」
「「「「「いいなぁ~、あの女の人、今すぐ俺と変わってくれねえかなぁ~?」」」」」
 
 周りの男達の視線と言葉が、なんだか突き刺さるようで痛い……。
 
(というか何なのこの人達!? 私は目立ちたくないのに!! そもそも、“メールちゃん”って呼ばれてるこの職員、一体何者なのよぉ!?)
 
 こうして私は個室に入るまでの短い間、最も避けたかった周りの人達の視線を不本意ながら一身に集めることとなってしまった……。
 
 
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