残酷な描写あり
36.二度あることは三度ある2
翌日、いつもより早起きしたセレスティアは、早速ゴーレムの修復作業に取り掛かった。
昨日アインと一緒に確認した結果、4つの道それぞれで修復が必要なゴーレムの数は『第1ルート』で125体、『第2ルート』で22体、『第3ルート』で7体、『第4ルート』で13体の合計167体だった。
セレスティアは屋敷の正面に設置された石碑を起動させて、まず最初に『第1ルート』のゴーレムの修復に取りかかる。
『第1ルート』で修復が必要なゴーレムは125体で、他の道に比べて圧倒的に数が多い。何故そんな事になっているかだが、これにはちゃんと理由がある。
『第1ルート』は森の最北に出る道なのだが、実はこの道、作ったのはいいもののセレスティア達がこの道を利用すること事体が滅多になかったのだ。そのため『第1ルート』は他の道に比べて放置気味になっており、ゴーレム達のメンテナンスが疎かになっていた。
その結果、100体を超えるゴーレムが激しく劣化してしまっていたのだった。
セレスティアは『第1ルート』を歩きながら、今までほったらかしにしていたツケを払うように、黙々とゴーレム達を修復していく。
因みに、今日アインは付いて来ておらず、セレスティアが一人で修復作業をしている。
というのも、錬金術で作ったゴーレムの修復が出来るのは、錬金術を使えるセレスティアとティンクしかいない。つまりアインは例え付いて来たとしても手伝える事が全くないのだ。だからアインは屋敷に残って自分の仕事をしている。そしてティンクは今日もスペチオと特訓をしているので、当然手が空いていない。
セレスティアは昨日赤い紐を結びつけた修復が必要なゴーレムに、石碑を起動させる純白の指輪に反応する特別な術式を刻んだ新しい魔石を、ゴーレムに埋め込んでいた古い魔石と交換する作業を一人寂しく進めていく。
本来ゴーレムは術者の命令で動かすのだが、この魔石を組み込むことによって術者ではなく石碑を起動させる純白の指輪に反応するようにしてある。つまり、石碑を起動させる指輪を持っていれば誰でもゴーレムを動かすことが可能なのだ。
この純白の指輪はセレスティアが作った魔道具で、セレスティア以外の屋敷にいる全員(モラン以外)が所持している。
モランの分の指輪はまだ作られておらず、魔獣事件の時にモランが街から屋敷に戻る時はティンクの指輪を使っていた。
因みに屋敷の住人以外で他に指輪を持っているのは、セレスティアの友人のオリヴィエ・マイン公爵とティンクの父親のスペチオの二人だけだ。
ただスペチオに関しては空を飛べるので、指輪を使う機会があるかと言われれば無いに等しいと言わざるを得ない。
魔石の交換を終えると、セレスティアは次にゴーレムの劣化した箇所の修復に取り掛かる。
そうして一体ずつ順番に修復していき、昼頃には『第1ルート』のゴーレム125体全てを修復し終えた。
セレスティアはそのまま森の外周に沿って東側に移動すると、『第2ルート』、『第3ルート』、『第4ルート』と、昨日とは逆の順番で道を進んでゴーレムを修復していく。
そして全てのゴーレムを修復した頃には、太陽は既に森の地平線の下へ姿を隠そうとしていた。
「予想以上に時間が掛かったわね……」
そう呟くセレスティアの言葉には、疲れの色が窺えた。
それもそのはずだ。いくらセレスティアの魔力量が多いといっても、167体ものゴーレムを修復するのにはそれ相応の魔力を消費する。
それに、昨日に続いて二日連続で一日中外を歩けば、普段運動をしないセレスティアにとって疲れるのは当たり前であった。不老の身体だからといっても、疲れないという訳ではないのだ。
「ただいまー……」
セレスティアが力の抜けた声で玄関を開けると、その声を聞いたアインが飛んで来てセレスティアを出迎える。
「お疲れ様でした、セレスティア様。お食事とお風呂の用意は出来ていますが、どうしますか?」
セレスティアが疲れて帰ってくることを見越していたアインは、既に食事と風呂の準備を終わらせて、セレスティアが戻るのを待っていた。この辺りの気配りの良さは、流石使用人のリーダーというべきものだ。
アインの質問に「お風呂にするわ」と答えて、セレスティアは先に風呂に入って疲れを取る事にした。
風呂場は屋敷の地下にある。そこに向かう階段は、特別実験室に下りる階段がある扉から食堂を挟んだ反対側の廊下の角にあった。
特別実験室に下りる階段とは違って、風呂場に向かう階段には扉が設置されていない。
風呂場に向かう階段を下りると、そこは横幅が広く、奥行きの短い廊下になっていた。そして、廊下の左右には向かい合うように扉が2つあり、左の扉は男風呂、右の扉は女風呂に別れている。
扉の先は広い脱衣所になっていて、左右の壁際には3段構造の大きな棚が設置されており、その棚には脱いだ服を入れる為の篭が沢山並べられてあった。
因みに男風呂にも同じ棚と篭が置かれているが、どちらにしても屋敷に住んでいる人数に対して、大きすぎる棚と明らかに過剰とも言える個数の篭が並んでいる。
これには勿論理由があった。それは、この棚や篭を作ったニーナが原因だ。
本来の棚はもっと小さく、篭も人数の倍の個数になる予定だった。しかしニーナが製作作業にちょっとばかり気合を入れてしまい、気付いた時には棚は大きく、篭の個数も多くなってしまった。
折角作ったものをもう一度作り直すのは勿体ないということで、そのまま再利用されているのだ。
セレスティアは適当な篭に、脱いだ服を入れると浴室に入る。
浴室は大浴場になっていて、10人ほどが同時に入れる大きさの浴槽と、洗い場が5つあった。
大浴場の全面は花崗岩を使った石造りで、壁や天井には何度も磨きあげられ平滑で艶のある淡灰色の岩を使い、床には表面を高温で熱処理することで自然な岩肌に近く、滑り止め効果を高くした黒色を基調とした岩を使っている。
洗い場でセレスティアは頭や体をしっかり洗って汚れを落としてから、浴槽に肩まで浸かり、足を爪先まで伸ばして疲れを吐き出すようにゆっくりと息を吐いた。
吐いた息が浴槽から立ち上る白い湯気を乱す。壁に取り付けられた光石のオレンジ色の光が、乱れた湯気でゆらゆらと揺れるように動く。その光景はまるで自然に揺れる蝋燭の炎の様で、光を見つめていたセレスティアは、蝋燭の炎をボーッと見る事で心が落ち着くような感覚を味わっていた。
「お風呂はシャワーだけで済ませるようにしていたけど……たまには、こうしてお湯に浸かるのもいいわね~」
基本的にセレスティアにとって風呂とはシャワーで体を洗うだけで、湯に浸かるという行為は殆どしない。
何故なら、その方が簡単で手っ取り早いからだ。
しかし、湯に浸かる気持ち良さを知らないのかといえばそうではない。湯に浸かる事でリラックス出来るということはセレスティアも理解している。
だが、普段屋敷から出ることなく研究に明け暮れているセレスティアにとっては汚れを落とす事が優先で、リラックスしたいと思うことは滅多にない。なので、毎回湯に浸かる必要性を感じなかっただけなのだ。
それにこういうものはたまにやってこそ効果があると、セレスティアが思っているからというのもある。
「……やっぱり、この数日はかなり精神的に疲れてたようね」
そう呟いて、セレスティアはこの数日間の出来事を思い出す。
貿易都市に行き、そこでモランを雇った。
屋敷に戻った翌日には、オリヴィエ・マイン公爵に呼ばれ、ストール鉱山都市に出向いて魔獣を討伐。
魔獣討伐後は、ティンクが目撃した怪しい二人組の男についてオリヴィエと相談。
そして屋敷に戻れば、スペチオさんとモランのゴタゴタの収拾。
最後に、『森の通路』のゴーレム167体の修復。
思い返してみれば、ここ数日は本当に休むこと暇無く動き回った数日間だった。
これにはセレスティアも、「疲れて当然ね……」と思う他なかった。
昨日アインと一緒に確認した結果、4つの道それぞれで修復が必要なゴーレムの数は『第1ルート』で125体、『第2ルート』で22体、『第3ルート』で7体、『第4ルート』で13体の合計167体だった。
セレスティアは屋敷の正面に設置された石碑を起動させて、まず最初に『第1ルート』のゴーレムの修復に取りかかる。
『第1ルート』で修復が必要なゴーレムは125体で、他の道に比べて圧倒的に数が多い。何故そんな事になっているかだが、これにはちゃんと理由がある。
『第1ルート』は森の最北に出る道なのだが、実はこの道、作ったのはいいもののセレスティア達がこの道を利用すること事体が滅多になかったのだ。そのため『第1ルート』は他の道に比べて放置気味になっており、ゴーレム達のメンテナンスが疎かになっていた。
その結果、100体を超えるゴーレムが激しく劣化してしまっていたのだった。
セレスティアは『第1ルート』を歩きながら、今までほったらかしにしていたツケを払うように、黙々とゴーレム達を修復していく。
因みに、今日アインは付いて来ておらず、セレスティアが一人で修復作業をしている。
というのも、錬金術で作ったゴーレムの修復が出来るのは、錬金術を使えるセレスティアとティンクしかいない。つまりアインは例え付いて来たとしても手伝える事が全くないのだ。だからアインは屋敷に残って自分の仕事をしている。そしてティンクは今日もスペチオと特訓をしているので、当然手が空いていない。
セレスティアは昨日赤い紐を結びつけた修復が必要なゴーレムに、石碑を起動させる純白の指輪に反応する特別な術式を刻んだ新しい魔石を、ゴーレムに埋め込んでいた古い魔石と交換する作業を一人寂しく進めていく。
本来ゴーレムは術者の命令で動かすのだが、この魔石を組み込むことによって術者ではなく石碑を起動させる純白の指輪に反応するようにしてある。つまり、石碑を起動させる指輪を持っていれば誰でもゴーレムを動かすことが可能なのだ。
この純白の指輪はセレスティアが作った魔道具で、セレスティア以外の屋敷にいる全員(モラン以外)が所持している。
モランの分の指輪はまだ作られておらず、魔獣事件の時にモランが街から屋敷に戻る時はティンクの指輪を使っていた。
因みに屋敷の住人以外で他に指輪を持っているのは、セレスティアの友人のオリヴィエ・マイン公爵とティンクの父親のスペチオの二人だけだ。
ただスペチオに関しては空を飛べるので、指輪を使う機会があるかと言われれば無いに等しいと言わざるを得ない。
魔石の交換を終えると、セレスティアは次にゴーレムの劣化した箇所の修復に取り掛かる。
そうして一体ずつ順番に修復していき、昼頃には『第1ルート』のゴーレム125体全てを修復し終えた。
セレスティアはそのまま森の外周に沿って東側に移動すると、『第2ルート』、『第3ルート』、『第4ルート』と、昨日とは逆の順番で道を進んでゴーレムを修復していく。
そして全てのゴーレムを修復した頃には、太陽は既に森の地平線の下へ姿を隠そうとしていた。
「予想以上に時間が掛かったわね……」
そう呟くセレスティアの言葉には、疲れの色が窺えた。
それもそのはずだ。いくらセレスティアの魔力量が多いといっても、167体ものゴーレムを修復するのにはそれ相応の魔力を消費する。
それに、昨日に続いて二日連続で一日中外を歩けば、普段運動をしないセレスティアにとって疲れるのは当たり前であった。不老の身体だからといっても、疲れないという訳ではないのだ。
「ただいまー……」
セレスティアが力の抜けた声で玄関を開けると、その声を聞いたアインが飛んで来てセレスティアを出迎える。
「お疲れ様でした、セレスティア様。お食事とお風呂の用意は出来ていますが、どうしますか?」
セレスティアが疲れて帰ってくることを見越していたアインは、既に食事と風呂の準備を終わらせて、セレスティアが戻るのを待っていた。この辺りの気配りの良さは、流石使用人のリーダーというべきものだ。
アインの質問に「お風呂にするわ」と答えて、セレスティアは先に風呂に入って疲れを取る事にした。
風呂場は屋敷の地下にある。そこに向かう階段は、特別実験室に下りる階段がある扉から食堂を挟んだ反対側の廊下の角にあった。
特別実験室に下りる階段とは違って、風呂場に向かう階段には扉が設置されていない。
風呂場に向かう階段を下りると、そこは横幅が広く、奥行きの短い廊下になっていた。そして、廊下の左右には向かい合うように扉が2つあり、左の扉は男風呂、右の扉は女風呂に別れている。
扉の先は広い脱衣所になっていて、左右の壁際には3段構造の大きな棚が設置されており、その棚には脱いだ服を入れる為の篭が沢山並べられてあった。
因みに男風呂にも同じ棚と篭が置かれているが、どちらにしても屋敷に住んでいる人数に対して、大きすぎる棚と明らかに過剰とも言える個数の篭が並んでいる。
これには勿論理由があった。それは、この棚や篭を作ったニーナが原因だ。
本来の棚はもっと小さく、篭も人数の倍の個数になる予定だった。しかしニーナが製作作業にちょっとばかり気合を入れてしまい、気付いた時には棚は大きく、篭の個数も多くなってしまった。
折角作ったものをもう一度作り直すのは勿体ないということで、そのまま再利用されているのだ。
セレスティアは適当な篭に、脱いだ服を入れると浴室に入る。
浴室は大浴場になっていて、10人ほどが同時に入れる大きさの浴槽と、洗い場が5つあった。
大浴場の全面は花崗岩を使った石造りで、壁や天井には何度も磨きあげられ平滑で艶のある淡灰色の岩を使い、床には表面を高温で熱処理することで自然な岩肌に近く、滑り止め効果を高くした黒色を基調とした岩を使っている。
洗い場でセレスティアは頭や体をしっかり洗って汚れを落としてから、浴槽に肩まで浸かり、足を爪先まで伸ばして疲れを吐き出すようにゆっくりと息を吐いた。
吐いた息が浴槽から立ち上る白い湯気を乱す。壁に取り付けられた光石のオレンジ色の光が、乱れた湯気でゆらゆらと揺れるように動く。その光景はまるで自然に揺れる蝋燭の炎の様で、光を見つめていたセレスティアは、蝋燭の炎をボーッと見る事で心が落ち着くような感覚を味わっていた。
「お風呂はシャワーだけで済ませるようにしていたけど……たまには、こうしてお湯に浸かるのもいいわね~」
基本的にセレスティアにとって風呂とはシャワーで体を洗うだけで、湯に浸かるという行為は殆どしない。
何故なら、その方が簡単で手っ取り早いからだ。
しかし、湯に浸かる気持ち良さを知らないのかといえばそうではない。湯に浸かる事でリラックス出来るということはセレスティアも理解している。
だが、普段屋敷から出ることなく研究に明け暮れているセレスティアにとっては汚れを落とす事が優先で、リラックスしたいと思うことは滅多にない。なので、毎回湯に浸かる必要性を感じなかっただけなのだ。
それにこういうものはたまにやってこそ効果があると、セレスティアが思っているからというのもある。
「……やっぱり、この数日はかなり精神的に疲れてたようね」
そう呟いて、セレスティアはこの数日間の出来事を思い出す。
貿易都市に行き、そこでモランを雇った。
屋敷に戻った翌日には、オリヴィエ・マイン公爵に呼ばれ、ストール鉱山都市に出向いて魔獣を討伐。
魔獣討伐後は、ティンクが目撃した怪しい二人組の男についてオリヴィエと相談。
そして屋敷に戻れば、スペチオさんとモランのゴタゴタの収拾。
最後に、『森の通路』のゴーレム167体の修復。
思い返してみれば、ここ数日は本当に休むこと暇無く動き回った数日間だった。
これにはセレスティアも、「疲れて当然ね……」と思う他なかった。