残酷な描写あり
45.商人組合組合長
世界大戦が終結してすぐ、4ヵ国によって4ヵ国の何処にも属さない完全中立の流通拠点として貿易都市は作られた。
そしてその流通を管理するために立ち上げられた組織が『商人組合』なのだ。
商人組合は組合に所属する商人達を管理する存在で、商人による市場の独占や寡占が起きないように流通をコントロールしている。商人達は商人組合にコントロールされるので独占や寡占で利益を上げたりすることはできないが、その代わり組合から様々なサービスを受けることができる。
そしてそのサービスは市場を独占するよりも遥かに長期的な商売維持につながるため、地方や一部地域でしか活動しない限定的な商人を除いて、ほとんどの商人は商人組合に所属している。
そんな商人組合を纏めているのが、第5代商人組合組合長の“ゼウェン”だ。いかにも裕福な商人らしい小太り体型と、人中に生えるちょび髭が彼のトレンドマークである。
ゼウェンは根っからの仕事人間で、商人組合の重要な仕事は誰にも頼らず全て一人で片付けている。ただしどうしても手が回らない時は、ゼウェンが一番の信頼を寄せている秘書に手伝ってもらうことはあるが、それ以外の人に仕事を任せることは決してしない。自分の仕事に責任を持って取り組む男、それがゼウェンという人物なのだ。
そんな彼は今日も今日とて執務室の椅子に根を張って、目の前に積み上げられた大量の書類の山を黙々と処理していた。
コンコン――。
「入りなさい」
「……失礼します」
執務室のドアをノックする音に答えると、商人組合の受付で働いている女性職員の一人がドアを開けて執務室に入ってきた。
ゼウェンは一瞬だけ女性に目をやるが、また直ぐに書類に目を落として手を動かす。
「それで、用件は?」
仕事人間であるゼウェンは、昔から少しでも効率良く仕事をこなそうと努力してきた。その結果、ゼウェンは仕事の手を止めることなく人の話を聞くという、両方同時に処理できる効率の良い器用な特技を習得していた。
受付の女性に対して一見冷たくも見えるゼウェンのこの態度は、まさにその特技をフル活用している状態であり、ゼウェン自身は冷たくしているつもりなど毛頭無い。
そして、商人組合で働く職員でその事を知らない者は一人もいない。そう、これはいつものことなのだ。
この女性職員もそれはもちろん理解しているので、ゼウェンの態度を気にする様子もなくここに来た用件をいつも通り簡潔に伝えた。
「はい。先程一人の商人が契約書の作成を申請してきたのですが、その商人が、なんと言うか……色々と謎な人物で、とりあえずどう対処すればいいのかゼウェンさんの助力を頂きたいのです」
「謎だと……、謎とはどういう事だ?」
女性職員のあまりにも的を得ない報告に、流石のゼウェンも手を止めて彼女に視線を向ける。
「商人は初めて見る若い女性なのですが、その商人が一緒に連れて来た人達が、貿易都市警備隊・総隊長イワンさんと、最近噂の新人ハンターパーティー『ドラゴンテール』の二人、そして貿易都市に住んでいる唯一の鬼人族ということで有名なカグヅチさんなんです」
(……なんだ、その組み合わせは? イワンとカグヅチの二人は旧友の間柄らしいので、一緒にいてもなんら不思議はない。実際イワンは何度もカグヅチの店を訪れているし、イワンが身に着けている装備はカグヅチが作った物という証拠からも二人の関係は明らかだ。ドラゴンテールの二人はハンターだから、鍛冶師であるカグヅチと何らかの接点があったところで不思議じゃない。……しかし、イワンとドラゴンテールの二人に接点があるという情報は今まで聞いたことが無い。だがそれよりも、その四人と一緒に来たという初めて見る顔の商人……なるほど、確かに謎だ。職員が初めて見る顔と言っていることから、おそらくその商人は貿易都市以外の商人組合で組合に登録した商人だろう。つまりまだ貿易都市に来たばかりだと推測できる。……しかし、だからこそ、その商人が何故その四人を一緒に連れているのかが分からない)
「その上さらに驚いたのが、契約書を作成するとの事だったのでその商人の商人証明書を預かったのですが……見て下さい」
そう言って女性職員は預かって来たと言う商人証明書をゼウェンに手渡した。ゼウェンはそれを受け取るとすぐに目を通す。
「…………なんだ、これは!?」
商人証明書には、登録された商人の名前と、「商人組合に所属する正式な商人である事を証明する」という文面と、それを承認した商人組合組合長、又は商人組合支部長のサインが記されているのだ。
しかしこの商人証明書にはもう一つ、別のサインが記されていた。
「なぜ、オリヴィエ・マイン公爵のサインがあるのだ!?」
オリヴィエ・マイン公爵。プアボム公国を統治する、通称『四大公』と呼ばれている4つの大貴族家の一つ、『マイン公爵家』の現当主である超大物人物だ。
サインの横に本物のマイン公爵家の印が押されていることから、このサインが偽造じゃないとゼウェンは確信していた。……しかし、だからこそゼウェンには分からない。この商人証明書の持ち主であるミーティアという人物が何者なのか……。
「……会ってみる、しかないか。……おい、今すぐここにお連れしろ。全員だ!」
「は、はい!」
ゼウェンの強い口調で、女性職員は急いで執務室を飛び出して行った。ゼウェンは椅子に生えた根を剥がすと、執務室にあるもう一つの机の前に移動する。
「ウェンドリンガー、これがいつ発行されたのか今すぐ調べてくれ」
そう言ってゼウェンは商人証明書を、その机で仕事をしていた人物に渡す。
実はこの執務室で仕事をしていたのはゼウェンだけではない。女性職員がやってくる前から、ずっとゼウェンと違う机で存在感を隠すように黙々と仕事に従事していた人物がいた。それが今ゼウェンに名前を呼ばれた、“ウェンドリンガー”というゼウェンの秘書を務める男だ。
仮面を顔に張り付けたかのように眉一つ動かない表情。細い眼差しと整った顔立ちからは冷徹さが漂い、背の高いスラリとした体形と合わさることで、その姿は見る者を怖気させる悪魔的な容姿と変貌してしまっている奇妙な男だ。
「……わかりました」
淡白な口調でそう返事をしたウェンドリンガーは、セレスティアの商人証明書を持ってスタスタと執務室を後にした。
それを見送ったゼウェンは執務室の隅に置いてある姿見の前に立って急いで身だしなみを整えると、来客用のテーブルの上に乗ったままになっていた資料を棚に投げ込むように豪快に片付けて、ソファーに腰掛けた。
コンコン――。
「組合長、お連れしました」
ソファーに腰掛けてすぐ、再び扉がノックされ先程の女性職員の声が扉の向こうから聞こえてきた。
「さて、ミーティアなる人物、一体いかほどの者か……。――入りなさい!」
ゼウェンの返事に反応して、執務室の扉がゆっくりと開かれる。
◆ ◆
受付の女性に案内されて、私達は商人組合の二階にある一室にやって来た。
商人組合の組合長が会いたがっていると言っていたので、この部屋がその組合長の部屋なのだろう。
「失礼します」
私達は受付の女性の後に続いて部屋に入る。部屋の奥とその左手前に机があり、どちらの机も書類が山積みになって置かれていた。多分あれは仕事用の机だろう。
その机から離れた入り口近くの位置には、テーブルとそれを挟むように二つのソファーが置かれている。そしてそのソファーの片方に一人の人物が腰かけていた。
上品で裕福そうな衣装を下から押し上げる小太りな身体と、鼻の下に生えるちょび髭が特徴的な男だった。
男は私達を見るや否や立ち上がると、両手を大きく広げて私達を歓迎した。
「ようこそ、いらっしゃいました! ささっ、どうぞ座ってください」
私達は男に促され、男と向かい合うように対面のソファーに腰掛けた。
ソファーはかなり横幅が広い物で、5人全員が十分座れるスペースがあった。私は真ん中に座り、カグヅチさんが私の右隣、その隣にはイワンが座る。クワトルとティンクは私の左隣にそれぞれ座った。
「初めまして、私が商人組合第5代組合長のゼウェンです。どうぞお見知りおきを」
「初めましてゼウェンさん、ミーティアといいます。こちらこそよろしくお願いします」
お互いに自己紹介をして軽く握手を交わす。
「カグヅチさんとドラゴンテールのお二人に会うのも初めてでしたね。どうぞお見知りおきを」
ゼウェンはそう言って、カグヅチとクワトルとティンクに一礼する。
「おじさん、どうしてティンク達のこと知ってるの?」
自己紹介もしてないのにはずなのに自分達の名前を知っていたゼウェンに、ティンクが素直な疑問を投げ掛けた。
「はは、商人とは情報が命! 常に最新の情報を収集する事に余念がないものです。ここ最近メキメキと頭角を表し噂になっている『ドラゴンテール』の名を知らない者なんて、商人組合の中にはいませんよ」
どうやらクワトル達は、名前を売ることに成功しているようだ。Aランクハンターに昇格して商人達にも名前が広まっているなら、これから二人には通常依頼より割高の『指名依頼』が増えることになるだろう。そうなれば屋敷の資金も、もっと早く、より多く稼げることになる! ……ふふふ、このままいけば計画はかなり早い段階で達成できるかもね。
私が内心で計画の順調具合にほくそ笑んでいると、カグヅチさんが本題を切り出した。
「それで、契約書を作成するのにどうして組合長さんが出てきたんだ? たしか契約書の作成は受付で簡単に出来ると以前聞いた記憶がある。そこに組合長の許可がいるとは聞いたことがないぜ?」
えっ、そうなの? ここに連れて来られた流れから、私はてっきり契約書の作成には組合長の許可がいるものだと思っていた。
カグヅチさんのまさかの発言で、さっきまでほくそ笑んでいた思考が私の頭から飛び出してしまった間に、ゼウェンさんがカグヅチさんの質問に答えていた。
「カグヅチさんの言う通り、契約書の作成に私の許可は必要ありません。今回はただ単に、私がミーティアさんに会ってみたかっただけですよ」
「えっ、私に?」
「ええ、貿易都市警備隊・総隊長イワンと今話題沸騰のハンターパーティー『ドラゴンテール』、そして貿易都市で有名な鬼人を引き連れている新顔の商人が現れた! なんて聞いたら、直接会ってみたいと思うじゃないですか!」
ニコニコした顔で当然だろ? と言うように、ハッキリとそう言い放つゼウェンさん。
……どうやら呼ばれた理由は、ただの野次馬根性だったらしい。
そしてその流通を管理するために立ち上げられた組織が『商人組合』なのだ。
商人組合は組合に所属する商人達を管理する存在で、商人による市場の独占や寡占が起きないように流通をコントロールしている。商人達は商人組合にコントロールされるので独占や寡占で利益を上げたりすることはできないが、その代わり組合から様々なサービスを受けることができる。
そしてそのサービスは市場を独占するよりも遥かに長期的な商売維持につながるため、地方や一部地域でしか活動しない限定的な商人を除いて、ほとんどの商人は商人組合に所属している。
そんな商人組合を纏めているのが、第5代商人組合組合長の“ゼウェン”だ。いかにも裕福な商人らしい小太り体型と、人中に生えるちょび髭が彼のトレンドマークである。
ゼウェンは根っからの仕事人間で、商人組合の重要な仕事は誰にも頼らず全て一人で片付けている。ただしどうしても手が回らない時は、ゼウェンが一番の信頼を寄せている秘書に手伝ってもらうことはあるが、それ以外の人に仕事を任せることは決してしない。自分の仕事に責任を持って取り組む男、それがゼウェンという人物なのだ。
そんな彼は今日も今日とて執務室の椅子に根を張って、目の前に積み上げられた大量の書類の山を黙々と処理していた。
コンコン――。
「入りなさい」
「……失礼します」
執務室のドアをノックする音に答えると、商人組合の受付で働いている女性職員の一人がドアを開けて執務室に入ってきた。
ゼウェンは一瞬だけ女性に目をやるが、また直ぐに書類に目を落として手を動かす。
「それで、用件は?」
仕事人間であるゼウェンは、昔から少しでも効率良く仕事をこなそうと努力してきた。その結果、ゼウェンは仕事の手を止めることなく人の話を聞くという、両方同時に処理できる効率の良い器用な特技を習得していた。
受付の女性に対して一見冷たくも見えるゼウェンのこの態度は、まさにその特技をフル活用している状態であり、ゼウェン自身は冷たくしているつもりなど毛頭無い。
そして、商人組合で働く職員でその事を知らない者は一人もいない。そう、これはいつものことなのだ。
この女性職員もそれはもちろん理解しているので、ゼウェンの態度を気にする様子もなくここに来た用件をいつも通り簡潔に伝えた。
「はい。先程一人の商人が契約書の作成を申請してきたのですが、その商人が、なんと言うか……色々と謎な人物で、とりあえずどう対処すればいいのかゼウェンさんの助力を頂きたいのです」
「謎だと……、謎とはどういう事だ?」
女性職員のあまりにも的を得ない報告に、流石のゼウェンも手を止めて彼女に視線を向ける。
「商人は初めて見る若い女性なのですが、その商人が一緒に連れて来た人達が、貿易都市警備隊・総隊長イワンさんと、最近噂の新人ハンターパーティー『ドラゴンテール』の二人、そして貿易都市に住んでいる唯一の鬼人族ということで有名なカグヅチさんなんです」
(……なんだ、その組み合わせは? イワンとカグヅチの二人は旧友の間柄らしいので、一緒にいてもなんら不思議はない。実際イワンは何度もカグヅチの店を訪れているし、イワンが身に着けている装備はカグヅチが作った物という証拠からも二人の関係は明らかだ。ドラゴンテールの二人はハンターだから、鍛冶師であるカグヅチと何らかの接点があったところで不思議じゃない。……しかし、イワンとドラゴンテールの二人に接点があるという情報は今まで聞いたことが無い。だがそれよりも、その四人と一緒に来たという初めて見る顔の商人……なるほど、確かに謎だ。職員が初めて見る顔と言っていることから、おそらくその商人は貿易都市以外の商人組合で組合に登録した商人だろう。つまりまだ貿易都市に来たばかりだと推測できる。……しかし、だからこそ、その商人が何故その四人を一緒に連れているのかが分からない)
「その上さらに驚いたのが、契約書を作成するとの事だったのでその商人の商人証明書を預かったのですが……見て下さい」
そう言って女性職員は預かって来たと言う商人証明書をゼウェンに手渡した。ゼウェンはそれを受け取るとすぐに目を通す。
「…………なんだ、これは!?」
商人証明書には、登録された商人の名前と、「商人組合に所属する正式な商人である事を証明する」という文面と、それを承認した商人組合組合長、又は商人組合支部長のサインが記されているのだ。
しかしこの商人証明書にはもう一つ、別のサインが記されていた。
「なぜ、オリヴィエ・マイン公爵のサインがあるのだ!?」
オリヴィエ・マイン公爵。プアボム公国を統治する、通称『四大公』と呼ばれている4つの大貴族家の一つ、『マイン公爵家』の現当主である超大物人物だ。
サインの横に本物のマイン公爵家の印が押されていることから、このサインが偽造じゃないとゼウェンは確信していた。……しかし、だからこそゼウェンには分からない。この商人証明書の持ち主であるミーティアという人物が何者なのか……。
「……会ってみる、しかないか。……おい、今すぐここにお連れしろ。全員だ!」
「は、はい!」
ゼウェンの強い口調で、女性職員は急いで執務室を飛び出して行った。ゼウェンは椅子に生えた根を剥がすと、執務室にあるもう一つの机の前に移動する。
「ウェンドリンガー、これがいつ発行されたのか今すぐ調べてくれ」
そう言ってゼウェンは商人証明書を、その机で仕事をしていた人物に渡す。
実はこの執務室で仕事をしていたのはゼウェンだけではない。女性職員がやってくる前から、ずっとゼウェンと違う机で存在感を隠すように黙々と仕事に従事していた人物がいた。それが今ゼウェンに名前を呼ばれた、“ウェンドリンガー”というゼウェンの秘書を務める男だ。
仮面を顔に張り付けたかのように眉一つ動かない表情。細い眼差しと整った顔立ちからは冷徹さが漂い、背の高いスラリとした体形と合わさることで、その姿は見る者を怖気させる悪魔的な容姿と変貌してしまっている奇妙な男だ。
「……わかりました」
淡白な口調でそう返事をしたウェンドリンガーは、セレスティアの商人証明書を持ってスタスタと執務室を後にした。
それを見送ったゼウェンは執務室の隅に置いてある姿見の前に立って急いで身だしなみを整えると、来客用のテーブルの上に乗ったままになっていた資料を棚に投げ込むように豪快に片付けて、ソファーに腰掛けた。
コンコン――。
「組合長、お連れしました」
ソファーに腰掛けてすぐ、再び扉がノックされ先程の女性職員の声が扉の向こうから聞こえてきた。
「さて、ミーティアなる人物、一体いかほどの者か……。――入りなさい!」
ゼウェンの返事に反応して、執務室の扉がゆっくりと開かれる。
◆ ◆
受付の女性に案内されて、私達は商人組合の二階にある一室にやって来た。
商人組合の組合長が会いたがっていると言っていたので、この部屋がその組合長の部屋なのだろう。
「失礼します」
私達は受付の女性の後に続いて部屋に入る。部屋の奥とその左手前に机があり、どちらの机も書類が山積みになって置かれていた。多分あれは仕事用の机だろう。
その机から離れた入り口近くの位置には、テーブルとそれを挟むように二つのソファーが置かれている。そしてそのソファーの片方に一人の人物が腰かけていた。
上品で裕福そうな衣装を下から押し上げる小太りな身体と、鼻の下に生えるちょび髭が特徴的な男だった。
男は私達を見るや否や立ち上がると、両手を大きく広げて私達を歓迎した。
「ようこそ、いらっしゃいました! ささっ、どうぞ座ってください」
私達は男に促され、男と向かい合うように対面のソファーに腰掛けた。
ソファーはかなり横幅が広い物で、5人全員が十分座れるスペースがあった。私は真ん中に座り、カグヅチさんが私の右隣、その隣にはイワンが座る。クワトルとティンクは私の左隣にそれぞれ座った。
「初めまして、私が商人組合第5代組合長のゼウェンです。どうぞお見知りおきを」
「初めましてゼウェンさん、ミーティアといいます。こちらこそよろしくお願いします」
お互いに自己紹介をして軽く握手を交わす。
「カグヅチさんとドラゴンテールのお二人に会うのも初めてでしたね。どうぞお見知りおきを」
ゼウェンはそう言って、カグヅチとクワトルとティンクに一礼する。
「おじさん、どうしてティンク達のこと知ってるの?」
自己紹介もしてないのにはずなのに自分達の名前を知っていたゼウェンに、ティンクが素直な疑問を投げ掛けた。
「はは、商人とは情報が命! 常に最新の情報を収集する事に余念がないものです。ここ最近メキメキと頭角を表し噂になっている『ドラゴンテール』の名を知らない者なんて、商人組合の中にはいませんよ」
どうやらクワトル達は、名前を売ることに成功しているようだ。Aランクハンターに昇格して商人達にも名前が広まっているなら、これから二人には通常依頼より割高の『指名依頼』が増えることになるだろう。そうなれば屋敷の資金も、もっと早く、より多く稼げることになる! ……ふふふ、このままいけば計画はかなり早い段階で達成できるかもね。
私が内心で計画の順調具合にほくそ笑んでいると、カグヅチさんが本題を切り出した。
「それで、契約書を作成するのにどうして組合長さんが出てきたんだ? たしか契約書の作成は受付で簡単に出来ると以前聞いた記憶がある。そこに組合長の許可がいるとは聞いたことがないぜ?」
えっ、そうなの? ここに連れて来られた流れから、私はてっきり契約書の作成には組合長の許可がいるものだと思っていた。
カグヅチさんのまさかの発言で、さっきまでほくそ笑んでいた思考が私の頭から飛び出してしまった間に、ゼウェンさんがカグヅチさんの質問に答えていた。
「カグヅチさんの言う通り、契約書の作成に私の許可は必要ありません。今回はただ単に、私がミーティアさんに会ってみたかっただけですよ」
「えっ、私に?」
「ええ、貿易都市警備隊・総隊長イワンと今話題沸騰のハンターパーティー『ドラゴンテール』、そして貿易都市で有名な鬼人を引き連れている新顔の商人が現れた! なんて聞いたら、直接会ってみたいと思うじゃないですか!」
ニコニコした顔で当然だろ? と言うように、ハッキリとそう言い放つゼウェンさん。
……どうやら呼ばれた理由は、ただの野次馬根性だったらしい。