残酷な描写あり
114.侵入者4
「……何あれ?」
屋敷の窓の影から隠れる様に外の状況を見ていた私の感想は、そんな素っ頓狂なものだった。
事は“緊急招集アラーム”を聞いたところまで遡る。
屋敷の危険を知らせる“緊急招集アラーム”が鳴り響いたのでアインに状況を確かめさせたところ、どうやら森に侵入者が現れたそうだ。
すぐに私達はこの侵入者をどう対処するか話し合いをした。その時にユノが、「新しい身体の慣らしをしたいから私に任せてほしい」と手を挙げた。ユノの気持ちは分かるのだけど、新しい身体を手に入れてすぐだったので、そんな危険をさせるべきではないと私は思った。
しかしミューダが「こいつなら何かあっても大丈夫だ」とユノの提案を後押ししたので、仕方なくユノに侵入者の対応を任せることにした。
それでも心配なものは心配だったので、ユノに何かあった時はすぐに助けに行けるようにと、こうして窓から様子を窺っていたのだ。
そして目の前で繰り広げられたのは、一方的な制圧だった。11人いた侵入者のうち10人を一瞬のうちに魔術で倒し、最後の一人は反撃されたものの呆気なく倒してしまった。
最後の一人から攻撃を受けた時は流石にヤバいと思ったけど、ユノは何事も無かったかのようにピンピンしていたのだ。
よく見ていたはずなのに、私はユノが何をしたのか最初から最後まで分からなかった……。さっきのような感想が自然に口から漏れてしまうのも納得していただけるだろう。
唯一分かっていたことは、ユノが使った魔術の魔法陣がミューダの魂を操る魔術の魔法陣にそっくりだったことぐらいだ。
私は一緒に様子を見ていたミューダに視線を向け、目の前で繰り広げられた状況の説明を求めた。ミューダは私の視線に気づいて言いたいことを理解してくれたようで、丁寧に説明を始めてくれた。
「さっきユノが使ったのは我が使うのと同じ魂を操る魔術、『魂操魔術』だ。しかし、正確に言うなら、あれは我のとは特性が正反対の物だ」
「どういうこと?」
「そもそも魂操魔術はユノが生み出した魔術でな、我のはそれの特徴を少し改良したものに過ぎんのだ。
ユノは『生物の魂の色を見る眼』を持っていると話したであろう。ユノは我と出会う以前にその眼の力を利用して、魂に直接影響を与える魔術を偶然にも独自に作り上げていたのだ。
ユノの魂操魔術は魂の“弱体化、変質、攻撃”に特化しておる。それはあまりにも危険すぎた力でな、我がそれを“強化、保護”する力に魔術を改良して教え返したのだ。そしてそれ以降、その力を人前で使うのを禁じたのだ」
「じゃあ、ユノが今さっき使ったのは……」
「我が禁じた魂操魔術だ。まあユノがその眼で相手を見て、外敵と判断したから使ったのであろう。
因みに、一発目の魂操魔術は魂への直接攻撃だ。あの一発で10人全員の魂を跡形もなく破壊していた。そして二発目は、魂の弱体化だな。魂を極限まで弱体化させ強制的に相手を昏睡状態にしたようだ」
……魂への直接攻撃? なにそれ怖い。いや、それよりも、気になることが一つあった。
「ちょっと待って、その『魂操魔術』はミューダじゃなくて、ユノが開祖だったの!?」
「そうだぞ?」
何を今更? みたいな顔をするミューダ。
「そんなこと今まで一言も言ってなかったじゃない!」
「そうだったか?」
「そうよ! だから私はてっきりミューダが作り上げたものだと思ってたのよ!?」
「そうだったか。すまんな」
軽く謝るミューダ。私は少し前に自分で語ったこと思い出していた。そう、ミューダは自分の過去を多くは語らない奴なのだ。
確かにミューダは今まで『魂操魔術』の名前も、自分が開発したとも一言も言っていなかった。ミューダしか使える人がいなかったから、私はミューダが開発した魔術だと思い込んでしまったようだった。
「はぁ、この話は止めましょう。それより、ユノを迎えに行くわよ」
これ以上ミューダに何か言っても意味がないと悟り、私達はユノを迎えに行くことにした。
「ユノ、ご苦労様」
「セレスティアさん、と師匠ー!」
ミューダの姿を見つけたユノは、ミューダに向かって駆け出した。
「『それ以上近づくな!』」
「うぐぅ!?」
“隷属の楔”の力によって、まるで透明な壁にぶつかったかのように、それ以上ミューダに近づけなくなる。
「師匠酷いですよ~。私頑張ったんですから抱き付くぐらい許してくれてもいいじゃないですかぁ~」
ユノは抗議の声を上げるが、ミューダに聞き入れる気はない。
「ふん、どうせお前の事だ。どさくさ紛れで変なことをするに決まっておる」
「やだなー師匠。それをしない私は私じゃないですよ~」
ユノはさも当然のように言い切った。それが原因でミューダに魂だけ封印されたというのに、ユノに懲りている様子はないようだった。
「二人とも、茶番はそこまでにして頂戴。ユノ、状況説明をお願い」
「はーい、分かりました」
しぶしぶといった様子でユノは倒した人に近づいて説明する。
「この人達は一見村人のようにしか見えないですが、全員それとは無縁の手練れの殺人鬼でした」
ユノは死んでる人達の腰回りや靴の内側に仕込んで隠していた暗器を取り出してそう言った。
確かに、ただの村人が武器をそんな周到な隠し方をして持ち歩いているはずがない。そんなことをするのは、武器を持っていることを悟られては困る人種の人だけだ。
「まあ私は魂の色が見えるので、外見を偽装したところで誤魔化されません」
「成る程ね。それで、こいつらの出どころは分かった?」
「いえ、それはこれから確かめます。その為にリーダーらしき人は殺さずに無力化したんですから」
ユノは目線でその人物を指す。そこには最後にユノに一矢報いようとして失敗した男が倒れていた。
死んでいるのかと思うくらいピクリとも動かないが、小さく息はしているので生きてはいた。
「でも、どうやって情報を聞き出すの? 起こしたら確実に暴れると思うけど?」
「安心しろセレスティア。ユノに任せておけばいい」
「師匠の言う通り、私に任せてください!」
二人とも自信満々にこう言ってきたので、私は一歩引いて見守ることにした。
「では、始めますね」
そう言ってユノは、男に再び魂操魔術を施す。
「ミューダ、あれは何をしているの?」
「魂の変質、要するに“洗脳”だ」
「変質ってそう言う事なのね……」
改めてユノの魂操魔術の凶悪ぶりに身震いした。
そうこうしていると、ユノの洗脳が完了した。
「終わりました。これから目覚めさせます。……起きなさい!」
「――かはっ!?」
ユノは男を思いっきり蹴り上げた。ユノの体格から想像もできない力で蹴り上げられた男は、数メートル程吹き飛んだ。
……ずいぶん乱暴な起こし方だったが、衝撃で男はしっかりと目を覚まして、蹴られた腹を抱えてながら起き上がった。
「ううっ、ここは……?」
「気分はどうかしら?」
「あ、あなたは……!?」
男はユノの顔を見ると、体をワナワナと震わせる。……そして、歓喜の声を上げた。
「ああ、僕の主様! こんな下僕の体調を気遣って下さるなんて、なんとお優しい!!
けれど、そのような心配はこの下僕めには不要でございます! どうか私の事は使い捨ての駒、いえ、それ以下の道具として扱ってください!!」
まるで神を前にした狂信者の様な言動で、ユノを崇拝し始めた男。
その滑稽な男の姿を見てユノは、「……イイッ!」と口走っていた。
「……ねぇ、ミューダ?」
「言うなセレスティア」
「ユノって昔からあんな感じなの?」
「言うなと言っておろう! ……拾った時は、もっと純粋な子供だったのだ。……色々あったのだ。色々とな……」
そう呟いて遠い目をするミューダに、私は何も声を掛けれなかった。
そんなこんなしている間に、ユノは男から情報を聞き出す準備を完了させていた。
「セレスティアさん、準備出来ました」
「ええ。それじゃあ、頼むわねユノ」
「お任せください!」
そしてユノは男から様々な情報を聞き出した。その内容は、私達が驚愕するものばかりだった。
「……セレスティアよ、どうする?」
「どうするも何も、これは私達じゃ手に負えないわ……。彼女に任せましょう」
私の提案にミューダも頷いて同意する。私はその場の処理をミューダとユノに任せて部屋に戻ると、急いで手紙を書いて伝書鳥に持たせ、目的の人物の元へと送った。
屋敷の窓の影から隠れる様に外の状況を見ていた私の感想は、そんな素っ頓狂なものだった。
事は“緊急招集アラーム”を聞いたところまで遡る。
屋敷の危険を知らせる“緊急招集アラーム”が鳴り響いたのでアインに状況を確かめさせたところ、どうやら森に侵入者が現れたそうだ。
すぐに私達はこの侵入者をどう対処するか話し合いをした。その時にユノが、「新しい身体の慣らしをしたいから私に任せてほしい」と手を挙げた。ユノの気持ちは分かるのだけど、新しい身体を手に入れてすぐだったので、そんな危険をさせるべきではないと私は思った。
しかしミューダが「こいつなら何かあっても大丈夫だ」とユノの提案を後押ししたので、仕方なくユノに侵入者の対応を任せることにした。
それでも心配なものは心配だったので、ユノに何かあった時はすぐに助けに行けるようにと、こうして窓から様子を窺っていたのだ。
そして目の前で繰り広げられたのは、一方的な制圧だった。11人いた侵入者のうち10人を一瞬のうちに魔術で倒し、最後の一人は反撃されたものの呆気なく倒してしまった。
最後の一人から攻撃を受けた時は流石にヤバいと思ったけど、ユノは何事も無かったかのようにピンピンしていたのだ。
よく見ていたはずなのに、私はユノが何をしたのか最初から最後まで分からなかった……。さっきのような感想が自然に口から漏れてしまうのも納得していただけるだろう。
唯一分かっていたことは、ユノが使った魔術の魔法陣がミューダの魂を操る魔術の魔法陣にそっくりだったことぐらいだ。
私は一緒に様子を見ていたミューダに視線を向け、目の前で繰り広げられた状況の説明を求めた。ミューダは私の視線に気づいて言いたいことを理解してくれたようで、丁寧に説明を始めてくれた。
「さっきユノが使ったのは我が使うのと同じ魂を操る魔術、『魂操魔術』だ。しかし、正確に言うなら、あれは我のとは特性が正反対の物だ」
「どういうこと?」
「そもそも魂操魔術はユノが生み出した魔術でな、我のはそれの特徴を少し改良したものに過ぎんのだ。
ユノは『生物の魂の色を見る眼』を持っていると話したであろう。ユノは我と出会う以前にその眼の力を利用して、魂に直接影響を与える魔術を偶然にも独自に作り上げていたのだ。
ユノの魂操魔術は魂の“弱体化、変質、攻撃”に特化しておる。それはあまりにも危険すぎた力でな、我がそれを“強化、保護”する力に魔術を改良して教え返したのだ。そしてそれ以降、その力を人前で使うのを禁じたのだ」
「じゃあ、ユノが今さっき使ったのは……」
「我が禁じた魂操魔術だ。まあユノがその眼で相手を見て、外敵と判断したから使ったのであろう。
因みに、一発目の魂操魔術は魂への直接攻撃だ。あの一発で10人全員の魂を跡形もなく破壊していた。そして二発目は、魂の弱体化だな。魂を極限まで弱体化させ強制的に相手を昏睡状態にしたようだ」
……魂への直接攻撃? なにそれ怖い。いや、それよりも、気になることが一つあった。
「ちょっと待って、その『魂操魔術』はミューダじゃなくて、ユノが開祖だったの!?」
「そうだぞ?」
何を今更? みたいな顔をするミューダ。
「そんなこと今まで一言も言ってなかったじゃない!」
「そうだったか?」
「そうよ! だから私はてっきりミューダが作り上げたものだと思ってたのよ!?」
「そうだったか。すまんな」
軽く謝るミューダ。私は少し前に自分で語ったこと思い出していた。そう、ミューダは自分の過去を多くは語らない奴なのだ。
確かにミューダは今まで『魂操魔術』の名前も、自分が開発したとも一言も言っていなかった。ミューダしか使える人がいなかったから、私はミューダが開発した魔術だと思い込んでしまったようだった。
「はぁ、この話は止めましょう。それより、ユノを迎えに行くわよ」
これ以上ミューダに何か言っても意味がないと悟り、私達はユノを迎えに行くことにした。
「ユノ、ご苦労様」
「セレスティアさん、と師匠ー!」
ミューダの姿を見つけたユノは、ミューダに向かって駆け出した。
「『それ以上近づくな!』」
「うぐぅ!?」
“隷属の楔”の力によって、まるで透明な壁にぶつかったかのように、それ以上ミューダに近づけなくなる。
「師匠酷いですよ~。私頑張ったんですから抱き付くぐらい許してくれてもいいじゃないですかぁ~」
ユノは抗議の声を上げるが、ミューダに聞き入れる気はない。
「ふん、どうせお前の事だ。どさくさ紛れで変なことをするに決まっておる」
「やだなー師匠。それをしない私は私じゃないですよ~」
ユノはさも当然のように言い切った。それが原因でミューダに魂だけ封印されたというのに、ユノに懲りている様子はないようだった。
「二人とも、茶番はそこまでにして頂戴。ユノ、状況説明をお願い」
「はーい、分かりました」
しぶしぶといった様子でユノは倒した人に近づいて説明する。
「この人達は一見村人のようにしか見えないですが、全員それとは無縁の手練れの殺人鬼でした」
ユノは死んでる人達の腰回りや靴の内側に仕込んで隠していた暗器を取り出してそう言った。
確かに、ただの村人が武器をそんな周到な隠し方をして持ち歩いているはずがない。そんなことをするのは、武器を持っていることを悟られては困る人種の人だけだ。
「まあ私は魂の色が見えるので、外見を偽装したところで誤魔化されません」
「成る程ね。それで、こいつらの出どころは分かった?」
「いえ、それはこれから確かめます。その為にリーダーらしき人は殺さずに無力化したんですから」
ユノは目線でその人物を指す。そこには最後にユノに一矢報いようとして失敗した男が倒れていた。
死んでいるのかと思うくらいピクリとも動かないが、小さく息はしているので生きてはいた。
「でも、どうやって情報を聞き出すの? 起こしたら確実に暴れると思うけど?」
「安心しろセレスティア。ユノに任せておけばいい」
「師匠の言う通り、私に任せてください!」
二人とも自信満々にこう言ってきたので、私は一歩引いて見守ることにした。
「では、始めますね」
そう言ってユノは、男に再び魂操魔術を施す。
「ミューダ、あれは何をしているの?」
「魂の変質、要するに“洗脳”だ」
「変質ってそう言う事なのね……」
改めてユノの魂操魔術の凶悪ぶりに身震いした。
そうこうしていると、ユノの洗脳が完了した。
「終わりました。これから目覚めさせます。……起きなさい!」
「――かはっ!?」
ユノは男を思いっきり蹴り上げた。ユノの体格から想像もできない力で蹴り上げられた男は、数メートル程吹き飛んだ。
……ずいぶん乱暴な起こし方だったが、衝撃で男はしっかりと目を覚まして、蹴られた腹を抱えてながら起き上がった。
「ううっ、ここは……?」
「気分はどうかしら?」
「あ、あなたは……!?」
男はユノの顔を見ると、体をワナワナと震わせる。……そして、歓喜の声を上げた。
「ああ、僕の主様! こんな下僕の体調を気遣って下さるなんて、なんとお優しい!!
けれど、そのような心配はこの下僕めには不要でございます! どうか私の事は使い捨ての駒、いえ、それ以下の道具として扱ってください!!」
まるで神を前にした狂信者の様な言動で、ユノを崇拝し始めた男。
その滑稽な男の姿を見てユノは、「……イイッ!」と口走っていた。
「……ねぇ、ミューダ?」
「言うなセレスティア」
「ユノって昔からあんな感じなの?」
「言うなと言っておろう! ……拾った時は、もっと純粋な子供だったのだ。……色々あったのだ。色々とな……」
そう呟いて遠い目をするミューダに、私は何も声を掛けれなかった。
そんなこんなしている間に、ユノは男から情報を聞き出す準備を完了させていた。
「セレスティアさん、準備出来ました」
「ええ。それじゃあ、頼むわねユノ」
「お任せください!」
そしてユノは男から様々な情報を聞き出した。その内容は、私達が驚愕するものばかりだった。
「……セレスティアよ、どうする?」
「どうするも何も、これは私達じゃ手に負えないわ……。彼女に任せましょう」
私の提案にミューダも頷いて同意する。私はその場の処理をミューダとユノに任せて部屋に戻ると、急いで手紙を書いて伝書鳥に持たせ、目的の人物の元へと送った。