残酷な描写あり
168.竜の末裔と神を目指す者4
「ワ、ワシの、最強の攻撃が……」
『聖光槍』はサピエル7世の最大の切り札で、最強の攻撃手段だった。
この世で最強の存在となって扱えるようになった最強の光魔術。神を崇拝し、次の神となるべき自分に相応しい技だと、サピエル7世は思っていた。
誰も、この神の御業に抗える者などいないと思えるほどの威力が『聖光槍』にはあったのだ。サピエル7世が確証も無しに手放しで心の底から確信してしまうのも無理はない。
……だからこそ、その技がこんなにも簡単に防がれてしまった事実を、サピエル7世は簡単に受け入れることが出来なかった。
顎が外れそうな程口を大きく開け、目玉が飛び出そうな程両目を見開く蛙のような情けない姿を晒しても、その事実だけは絶対に受け入れてはいけないと無意識下で感じていた。
「くっ……くそおおおおおお!!!!」
……だからこそ、サピエル7世はその事実から目を背けるように、忘れるようにムキになって、エヴァイアに向かって大量の魔術を連発して放った。
それは一心不乱という表現が相応しい程の激しい攻撃だった。
出し惜しみする事無く放たれたサピエル7世が扱える全ての魔術が混ざり合って組み合わさり、一つの巨大な力の奔流となる。
それはまさに魔術の濁流。無差別に全てを飲み込む破壊の波が次々と途切れることなくエヴァイアに襲い掛かった。
……だが虚しいことに、それでもエヴァイアに届くことはなかった。
魔術の濁流に飲み込まれても尚、エヴァイアの『竜の盾』はビクともしない。それを見たサピエル7世は、更に攻撃に力を込める。
だがそれはサピエル7世の首を絞める結果となった。
大量の魔術を放ったことで魔力を短時間で一気に消費したサピエル7世は、まるで貧血のような急激な脱力感に襲われ、その場で力無くドスンと地面に膝を付いた。
「ま、魔力が……!?」
当然そんな状態に陥って、魔術を放つのは不可能だ。
自身に起こった突然の身体の不調に、ただ混乱するしかない。
そこには先程まで強烈な圧を放っていた強者の面影など、どこにも残っていなかった。
「さて、今度は僕の番だ」
膝を付いて混乱状態になっているサピエル7世。そんな特大の隙を見逃すほどエヴァイアは甘くない。
エヴァイアはパチンッと指を一つ鳴らすと、エヴァイアを覆っていた『竜の盾』が一瞬で消失する。しかし次の瞬間には、今度はサピエル7世の周囲に『竜の盾』が出現して、サピエル7世を閉じ込めた。
あまりにも瞬間的な出来事に混乱状態のサピエル7世が反応できるわけがなく、気付いた時にはもう遅かった。
慌てて脱出しようと、サピエル7世は残った魔力を魔力弾に変えて『竜の盾』の攻撃する。
しかし結果は先程と変わらない。
「言っただろう? 壊すことは出来ないと」
それもそうだ。魔力弾は汎用性と応用性が高くて便利だが、決して威力の高い魔術ではない。
サピエル7世の切り札だった『聖光槍』でも壊せなかったものが、魔力切れ寸前の状態で放つ魔力弾で壊せるはずがなかった。
そもそも潤沢に魔力が残っていたとしても、閉じ込められた狭い空間では高威力の魔術は自爆の危険があって使えないので、この状態になった時点でサピエル7世は実質詰んだと言っても過言ではない。
サピエル7世も馬鹿ではなく、すぐに抵抗が無駄だと察して大人しくなる。
大人しくなったサピエル7世の姿を見て、エヴァイアはゆっくりとした足取りでサピエル7世に近付く。
堂々としているが、決して油断はしていない慎重な足取りだった。
そして、ついに二人が至近距離で対面した。
「「…………」」
見下すようなエヴァイアの視線に負けじと、サピエル7世も鋭く睨み返す。
二人の間を『竜の盾』が完全に隔てているが、二人の無言の睨み合いの前にはそんなものは関係ない。
国を治める統治者同士の、絶対に負けないというプライドがそこにはあった。
「……ワシを、どうするつもりじゃ!?」
そんな中、最初に口を開いたのは、サピエル7世の方だった。
この現状を打開する切っ掛けでも探すように、自分を閉じ込めたエヴァイアが何を考えているのかを知ろうとしているようだ。
「お前を、ここで殺す」
それに対してエヴァイアは、自らの考えを隠す様子もなく冷徹な口調でサピエル7世に突き付けた。
その言葉にサピエル7世は、然程驚いた様子を見せない。それはこの状態に陥った時、ある程度予測できていた答えだったからだ。
サピエル7世からすれば、予測の答え合わせをしただけの様なものだった。
……しかし、エヴァイアの次の言葉に、その予測は覆されることになった。
「……と、言いたいところだけど、残念ながらお前の死に場所はここじゃない。お前にはもっと相応しい場所で死んでもらう予定だ。それまではその中で大人しくしていてもらおうか」
「なんじゃと……?」
「『竜の盾』の中にいるお前なんていつでも殺せる。だったら、お前の死を最も活かせる場所で殺したほうが良いだろう?」
「簡単に言ってくれるな……。このワシを簡単に殺せると、本気でそう思っておるのか!?」
「逆に聞くが、出来ないとでも思っているのか? 『竜の盾』に閉じ込めたお前を殺す方法なんていくらでもある。例えば――」
そう言ってエヴァイアは腰に携えていた剣を鞘から抜くと、サピエル7世目掛けて突き出した。
すると、エヴァイアの剣先は壊せないはずの『竜の盾』をいとも簡単に貫通して、サピエル7世の右足を貫いた。
「ぐおおおおおお!?!?」
予想外の出来事と足から伝わる激痛に、サピエル7世は堪え切れずに大きな呻き声を上げる。
その様子を見たエヴァイアは、突き刺した剣をあっさりと引き抜く。
サピエル7世は突き刺された痛みを堪えるように唇を嚙みながら、流れ出る血を止めるように右足を強く押さえつけている。
サピエル7世のその様をエヴァイアは冷たい目で見下ろしながら、静かに剣を鞘に収めた。
「これで分かったか? 『竜の盾』は僕の意思ひとつでこういう芸当もできる。誰の攻撃を通し、誰の攻撃を通さないか、それを決めれるのは僕だ。理解できたなら、最期の時までその中で無駄な抵抗をせずに大人しくしていることだ」
エヴァイアの言っていることは、決してハッタリではないと、サピエル7世はこの時にようやく確信した。
どれほど抵抗しようとも『竜の盾』を破壊できない以上、生殺与奪の権利はエヴァイアの手の中にある。
それこそ先程のようにエヴァイアが安全圏から一方的に攻撃したり、サピエル7世が衰弱死するまでずっと閉じ込めておくことすら可能なのだ。
エヴァイアの本気の目には、そう確信させる程の説得力と気迫が込められていた。
刺された脚を回復魔術で癒しながら、サピエル7世はその事実を苦虫を噛み潰すようにゴクリと飲み込んだ。
「だけどさっきも言ったように、今はお前を殺さない。お前を封じた今、残りの兵は脅威にもならない。あそこにいる残りを片付けたら、僕達連合軍はサピエル法国を征服する。そこで、サピエル法国がこれまで犯してきた罪の全てを全世界に公表する」
「なっ!?」
「どうやら察したようだな。当然そんなことをしたらサピエル教は確実に失墜するだろう。宗教国家の根幹となっていた宗教が失墜すれば、その国は文字通り終わりだ。お前の首はその時に斬り落とす。……わかるか? お前の首は、サピエル法国の消滅の象徴となるんだ」
「そんな簡単に――」
「いかないと思うか? 僕がどうやってブロキュオン帝国を繁栄させたと思う? 敵対してきた数多の国、街、村、部族の全てをこの手で征服して傘下に加えてきたからだ。相手の国の全てを征服するのに、為政者の首ほど適した道具はない」
「ぐっ……!?」
淡々と落ち着いた様子で語るエヴァイアだが、その目は怒りに満ちた鋭さを持つ本気の目だった。まるで強大な覇気でも放っているかのような雰囲気さえある。
あまりの覇気に圧し付けられたサピエル7世は思わずたじろいでしまって、反論の言葉を出す事が出来なかった。
エヴァイアがこれほどの怒りを露にしているのは、もちろん今回の戦争が原因だ。
この戦争はブロキュオン帝国とプアボム公国が、サピエル法国に対して宣戦布告をしたのが発端だ。
サピエル法国がこれまで他国に対してしてきた罪を考えれば、宣戦布告無しに即開戦もありえる状況だった。
しかしパンドラの懇願もあり、ブロキュオン帝国とプアボム公国はパンドラを帰国させて2週間の猶予を与え、平和的解決の選択肢を残す譲歩までしていたのだ。
だが、サピエル法国は自らその選択肢を蹴り飛ばし、猶予期間を待たずに戦端を切った。しかも予め戦争の準備を整えていたかのような手際の良さでだ。
つまりサピエル法国がしたのは、『4ヵ国協力平和条約』だけではなく、そうしたあらゆる信頼関係の輪を踏み躙る行為に他ならない。
そうしたサピエル法国が犯してきた数々の罪にエヴァイアは心の底から怒っていた。
だからエヴァイアは今回の戦争でサピエル法国の罪を断罪し、全てに決着を付けるつもりでいるのだ。
「さてと……」
反論できずに大人しくなったサピエル7世の姿を確認したエヴァイアは、クルリと踵を返して歩きだす。
敵に無防備な背中を晒しているが、サピエル法国軍は一向に動く気配がない。
教皇であるサピエル7世が囚われているからなのか、それともサピエル7世からの命令を待っているのか……。
いずれにしても、エヴァイアにとって都合がいいことに変わりはない。
エヴァイアは余裕を持った足取りでゆっくりと歩いて、セレスティアの所へ戻ってきた。
『聖光槍』はサピエル7世の最大の切り札で、最強の攻撃手段だった。
この世で最強の存在となって扱えるようになった最強の光魔術。神を崇拝し、次の神となるべき自分に相応しい技だと、サピエル7世は思っていた。
誰も、この神の御業に抗える者などいないと思えるほどの威力が『聖光槍』にはあったのだ。サピエル7世が確証も無しに手放しで心の底から確信してしまうのも無理はない。
……だからこそ、その技がこんなにも簡単に防がれてしまった事実を、サピエル7世は簡単に受け入れることが出来なかった。
顎が外れそうな程口を大きく開け、目玉が飛び出そうな程両目を見開く蛙のような情けない姿を晒しても、その事実だけは絶対に受け入れてはいけないと無意識下で感じていた。
「くっ……くそおおおおおお!!!!」
……だからこそ、サピエル7世はその事実から目を背けるように、忘れるようにムキになって、エヴァイアに向かって大量の魔術を連発して放った。
それは一心不乱という表現が相応しい程の激しい攻撃だった。
出し惜しみする事無く放たれたサピエル7世が扱える全ての魔術が混ざり合って組み合わさり、一つの巨大な力の奔流となる。
それはまさに魔術の濁流。無差別に全てを飲み込む破壊の波が次々と途切れることなくエヴァイアに襲い掛かった。
……だが虚しいことに、それでもエヴァイアに届くことはなかった。
魔術の濁流に飲み込まれても尚、エヴァイアの『竜の盾』はビクともしない。それを見たサピエル7世は、更に攻撃に力を込める。
だがそれはサピエル7世の首を絞める結果となった。
大量の魔術を放ったことで魔力を短時間で一気に消費したサピエル7世は、まるで貧血のような急激な脱力感に襲われ、その場で力無くドスンと地面に膝を付いた。
「ま、魔力が……!?」
当然そんな状態に陥って、魔術を放つのは不可能だ。
自身に起こった突然の身体の不調に、ただ混乱するしかない。
そこには先程まで強烈な圧を放っていた強者の面影など、どこにも残っていなかった。
「さて、今度は僕の番だ」
膝を付いて混乱状態になっているサピエル7世。そんな特大の隙を見逃すほどエヴァイアは甘くない。
エヴァイアはパチンッと指を一つ鳴らすと、エヴァイアを覆っていた『竜の盾』が一瞬で消失する。しかし次の瞬間には、今度はサピエル7世の周囲に『竜の盾』が出現して、サピエル7世を閉じ込めた。
あまりにも瞬間的な出来事に混乱状態のサピエル7世が反応できるわけがなく、気付いた時にはもう遅かった。
慌てて脱出しようと、サピエル7世は残った魔力を魔力弾に変えて『竜の盾』の攻撃する。
しかし結果は先程と変わらない。
「言っただろう? 壊すことは出来ないと」
それもそうだ。魔力弾は汎用性と応用性が高くて便利だが、決して威力の高い魔術ではない。
サピエル7世の切り札だった『聖光槍』でも壊せなかったものが、魔力切れ寸前の状態で放つ魔力弾で壊せるはずがなかった。
そもそも潤沢に魔力が残っていたとしても、閉じ込められた狭い空間では高威力の魔術は自爆の危険があって使えないので、この状態になった時点でサピエル7世は実質詰んだと言っても過言ではない。
サピエル7世も馬鹿ではなく、すぐに抵抗が無駄だと察して大人しくなる。
大人しくなったサピエル7世の姿を見て、エヴァイアはゆっくりとした足取りでサピエル7世に近付く。
堂々としているが、決して油断はしていない慎重な足取りだった。
そして、ついに二人が至近距離で対面した。
「「…………」」
見下すようなエヴァイアの視線に負けじと、サピエル7世も鋭く睨み返す。
二人の間を『竜の盾』が完全に隔てているが、二人の無言の睨み合いの前にはそんなものは関係ない。
国を治める統治者同士の、絶対に負けないというプライドがそこにはあった。
「……ワシを、どうするつもりじゃ!?」
そんな中、最初に口を開いたのは、サピエル7世の方だった。
この現状を打開する切っ掛けでも探すように、自分を閉じ込めたエヴァイアが何を考えているのかを知ろうとしているようだ。
「お前を、ここで殺す」
それに対してエヴァイアは、自らの考えを隠す様子もなく冷徹な口調でサピエル7世に突き付けた。
その言葉にサピエル7世は、然程驚いた様子を見せない。それはこの状態に陥った時、ある程度予測できていた答えだったからだ。
サピエル7世からすれば、予測の答え合わせをしただけの様なものだった。
……しかし、エヴァイアの次の言葉に、その予測は覆されることになった。
「……と、言いたいところだけど、残念ながらお前の死に場所はここじゃない。お前にはもっと相応しい場所で死んでもらう予定だ。それまではその中で大人しくしていてもらおうか」
「なんじゃと……?」
「『竜の盾』の中にいるお前なんていつでも殺せる。だったら、お前の死を最も活かせる場所で殺したほうが良いだろう?」
「簡単に言ってくれるな……。このワシを簡単に殺せると、本気でそう思っておるのか!?」
「逆に聞くが、出来ないとでも思っているのか? 『竜の盾』に閉じ込めたお前を殺す方法なんていくらでもある。例えば――」
そう言ってエヴァイアは腰に携えていた剣を鞘から抜くと、サピエル7世目掛けて突き出した。
すると、エヴァイアの剣先は壊せないはずの『竜の盾』をいとも簡単に貫通して、サピエル7世の右足を貫いた。
「ぐおおおおおお!?!?」
予想外の出来事と足から伝わる激痛に、サピエル7世は堪え切れずに大きな呻き声を上げる。
その様子を見たエヴァイアは、突き刺した剣をあっさりと引き抜く。
サピエル7世は突き刺された痛みを堪えるように唇を嚙みながら、流れ出る血を止めるように右足を強く押さえつけている。
サピエル7世のその様をエヴァイアは冷たい目で見下ろしながら、静かに剣を鞘に収めた。
「これで分かったか? 『竜の盾』は僕の意思ひとつでこういう芸当もできる。誰の攻撃を通し、誰の攻撃を通さないか、それを決めれるのは僕だ。理解できたなら、最期の時までその中で無駄な抵抗をせずに大人しくしていることだ」
エヴァイアの言っていることは、決してハッタリではないと、サピエル7世はこの時にようやく確信した。
どれほど抵抗しようとも『竜の盾』を破壊できない以上、生殺与奪の権利はエヴァイアの手の中にある。
それこそ先程のようにエヴァイアが安全圏から一方的に攻撃したり、サピエル7世が衰弱死するまでずっと閉じ込めておくことすら可能なのだ。
エヴァイアの本気の目には、そう確信させる程の説得力と気迫が込められていた。
刺された脚を回復魔術で癒しながら、サピエル7世はその事実を苦虫を噛み潰すようにゴクリと飲み込んだ。
「だけどさっきも言ったように、今はお前を殺さない。お前を封じた今、残りの兵は脅威にもならない。あそこにいる残りを片付けたら、僕達連合軍はサピエル法国を征服する。そこで、サピエル法国がこれまで犯してきた罪の全てを全世界に公表する」
「なっ!?」
「どうやら察したようだな。当然そんなことをしたらサピエル教は確実に失墜するだろう。宗教国家の根幹となっていた宗教が失墜すれば、その国は文字通り終わりだ。お前の首はその時に斬り落とす。……わかるか? お前の首は、サピエル法国の消滅の象徴となるんだ」
「そんな簡単に――」
「いかないと思うか? 僕がどうやってブロキュオン帝国を繁栄させたと思う? 敵対してきた数多の国、街、村、部族の全てをこの手で征服して傘下に加えてきたからだ。相手の国の全てを征服するのに、為政者の首ほど適した道具はない」
「ぐっ……!?」
淡々と落ち着いた様子で語るエヴァイアだが、その目は怒りに満ちた鋭さを持つ本気の目だった。まるで強大な覇気でも放っているかのような雰囲気さえある。
あまりの覇気に圧し付けられたサピエル7世は思わずたじろいでしまって、反論の言葉を出す事が出来なかった。
エヴァイアがこれほどの怒りを露にしているのは、もちろん今回の戦争が原因だ。
この戦争はブロキュオン帝国とプアボム公国が、サピエル法国に対して宣戦布告をしたのが発端だ。
サピエル法国がこれまで他国に対してしてきた罪を考えれば、宣戦布告無しに即開戦もありえる状況だった。
しかしパンドラの懇願もあり、ブロキュオン帝国とプアボム公国はパンドラを帰国させて2週間の猶予を与え、平和的解決の選択肢を残す譲歩までしていたのだ。
だが、サピエル法国は自らその選択肢を蹴り飛ばし、猶予期間を待たずに戦端を切った。しかも予め戦争の準備を整えていたかのような手際の良さでだ。
つまりサピエル法国がしたのは、『4ヵ国協力平和条約』だけではなく、そうしたあらゆる信頼関係の輪を踏み躙る行為に他ならない。
そうしたサピエル法国が犯してきた数々の罪にエヴァイアは心の底から怒っていた。
だからエヴァイアは今回の戦争でサピエル法国の罪を断罪し、全てに決着を付けるつもりでいるのだ。
「さてと……」
反論できずに大人しくなったサピエル7世の姿を確認したエヴァイアは、クルリと踵を返して歩きだす。
敵に無防備な背中を晒しているが、サピエル法国軍は一向に動く気配がない。
教皇であるサピエル7世が囚われているからなのか、それともサピエル7世からの命令を待っているのか……。
いずれにしても、エヴァイアにとって都合がいいことに変わりはない。
エヴァイアは余裕を持った足取りでゆっくりと歩いて、セレスティアの所へ戻ってきた。